脊髄損傷後の身体機能低下を抑止する立位トレーニング方法の開発

文献情報

文献番号
200626006A
報告書区分
総括
研究課題名
脊髄損傷後の身体機能低下を抑止する立位トレーニング方法の開発
課題番号
H16-障害-一般-008
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
中澤 公孝(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 赤居 正美(国立身体障害者リハビリテーションセンター病院)
  • 水越 美奈((財)日本盲導犬協会神奈川訓練センター)
  • 樋口 幸治(国立身体障害者リハビリテーションセンター病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害保健福祉総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
7,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は脊髄損傷後の麻痺領域の機能低下抑止と二次障害の発現リスク減少の観点から、麻痺領域の筋活動を誘発し、全身の代謝・循環を賦括する新たな立位トレーニング方法を提案することを最終目的とする。本年度は、実際に脊髄損傷者を対象とし、立位歩行様トレーニングが身体諸機能に与える効果を評価することを目標とする。
研究方法
本年度は、脊髄損傷者における受動的歩行様運動中の呼吸循環応答に関する実験(実験A)と、トレーニング機を用いた歩行様運動トレーニングに対する脊損者の身体適応に関する実験(実験B)、を行った。
実験A:実験者がトレーニング機のレバーを周期的に動かすことで、被検者の下肢を交互にスウィングさせた。呼吸循環系変量の測定を、5分間の静止座位と3分間の静止立位、15分間の受動運動、および運動後3分間の静止立位のそれぞれの期間中行った。
実験B:被検者は外傷性脊髄損傷者7名であった。そのうち3名は立位式トレーニング機を用いた立位歩行様運動でのトレーニングを行った。残りの4名は動力型歩行トレーニング機を用いた受動歩行トレーニングを行った。トレーニング前後に血液検査を行い諸種血液成分を比較した。
結果と考察
実験Aの結果、全ての呼吸循環系変量は、座位から立位へ移行すると有意な増加を示した。運動開始後、毎分換気量と酸素摂取量は静止立位時のレベルを維持した。心拍数は、運動3分目には座位のレベルに戻った。平均血圧は、運動により安静立位時のレベルよりも高くなり、この高値を運動終了まで維持した。以上の結果から、立位歩行様運動の効果は、立位姿勢効果と運動効果の2つに区分でき、運動効果は血圧に顕著に現れると考えられた。
実験Bの結果、立位式トレーニングに参加した3名の被検者全員でトレーニング後に体重、ウエスト周囲径、体脂肪量、それぞれの減少が認められた。またコレステロールも3名中2名で改善した。一方、受動歩行トレーニングでは同様な効果が認められなかった。立位式トレーニングでは腕の運動など下肢の受動運動に加えて多くの筋活動が動員される。これに対し、受動歩行トレーニングは運動強度的にはかなり低くトレーニング効果を得るのに十分でなかったと推察される。
結論
立位歩行様トレーニングの効果を得るためには、下肢の受動的運動に加えて、上肢など残余機能をできるだけ動員し、高い運動強度を得ることが必要なことが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2007-04-23
更新日
-

文献情報

文献番号
200626006B
報告書区分
総合
研究課題名
脊髄損傷後の身体機能低下を抑止する立位トレーニング方法の開発
課題番号
H16-障害-一般-008
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
中澤 公孝(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 赤居 正美(国立身体障害者リハビリテーションセンター病院)
  • 樋口 幸治(国立身体障害者リハビリテーションセンター病院)
  • 水越 美奈((財)日本盲導犬協会神奈川訓練センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害保健福祉総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は脊髄損傷後の麻痺領域の機能低下抑止と二次障害の発現リスク減少の観点から、麻痺領域の筋活動を誘発し、全身の代謝・循環を賦括する新たな立位トレーニング方法を提案することを最終目的とする。
研究方法
3年間の研究期間のうち前半では、①立位姿勢下での下肢交互運動によって麻痺領域に筋活動を誘発する神経機序に関する基礎的実験、②誘発された反射性筋活動が麻痺筋群の循環を活性化するのかを検証する実験、③日常的に立位・歩行トレーニングを行うための補助犬の利用可能性に関する調査研究、を行った。後半では、立位歩行様運動による数ヶ月のトレーニングを脊髄損傷者を対象として実施し、トレーニング経過に伴う身体機能の変化を評価した。
結果と考察
前半の研究から、立位姿勢で膝関節を固定した股関節の屈曲伸展運動でも下肢麻痺領域に運動に同期した筋活動を誘発できること、誘発される筋活動は対側下肢、および両側上肢の運動によって修飾されることが明らかとなった。さらに麻痺領域に誘発される筋活動によって筋の酸素化レベルが変化していることから、その部位の末梢循環が亢進することも確認された。これらの結果は、受動的運動によって麻痺筋群に誘発される筋活動は、その組織の末梢循環を活性化し、ひいては全身の循環機能にも好影響を及ぼしえることを示唆する。後半のトレーニング実験の結果、上肢の運動をともなう立位式の下肢受動運動トレーニングによって体重の減少や体脂肪量の減少、血中コレステロール値の改善など良好な効果を得られることが示された。これに対し、下肢の受動運動のみのトレーニングでは同様な効果が得られなかった。上肢の運動をともなう立位式トレーニングは下肢の受動運動のみのトレーニングに比べて運動強度が高いことから、トレーニング効果を得るためには受動運動のみでは不十分なことが示唆された。
結論
本研究の結果、①立位での下肢受動運動によって麻痺筋群に誘発される筋活動は末梢循環を賦括すること、②下肢受動運動に上肢の運動を加えたトレーニングによって実際にトレーニング効果が得られること、が明らかとなった。以上の結果は、運動障害者の健康体力を維持し、QOLを良好に保つために、立位での下肢受動運動に上肢の運動を加えた全身運動が有効であることを示唆するものである。

公開日・更新日

公開日
2007-04-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200626006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の結果から、立位姿勢で膝関節を固定した股関節の屈曲伸展運動でも下肢麻痺領域に運動に同期した筋活動を誘発できること、誘発される筋活動は対側下肢、および両側上肢の運動によって修飾されることが明らかとなった。さらに麻痺領域に誘発される筋活動によって筋の酸素化レベルが変化していることから、その部位の末梢循環が亢進することも確認された。これらはいずれも関連学術領域において新たな知見と評価され、国際誌に掲載された。
臨床的観点からの成果
実際のトレーニング実験の結果、上肢の運動をともなう立位式の下肢受動運動トレーニングによって体重の減少や体脂肪量の減少、血中コレステロール値の改善など良好な効果が得られた。これらは今後、運動麻痺者の二次障害や生活習慣病を予防し、良好な健康状態を保つことを目的としたトレーニングを処方する上の科学的根拠となる。
ガイドライン等の開発
特記事項無し
その他行政的観点からの成果
特記事項無し
その他のインパクト
特記事項無し

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
11件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kawashima, N., Nakazawa, K., Akai, M.
Muscle oxygenation of the paralyzed lower limb in spinal cord injured persons
Medicine and science in sports and exercise , 37 , 915-921  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-