再生医療による脊髄の歩行パターン発生能力と脊髄損傷者の歩行再獲得可能性に関する研究

文献情報

文献番号
200626001A
報告書区分
総括
研究課題名
再生医療による脊髄の歩行パターン発生能力と脊髄損傷者の歩行再獲得可能性に関する研究
課題番号
H16-障害-一般-002
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
赤居 正美(国立身体障害者リハビリテーションセンター病院・研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 中澤 公孝(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
  • 山本 真一(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害保健福祉総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国における脊髄損傷の現状には、年間5000人に達する新たな患者発生があり、医学的、社会的、心理的に重大な障害が残存するという課題が存在している。本研究は近年の中枢神経系の再生能力に関する証明と残存脊髄機能の再活性に関する新知見より、脊髄損傷者の歩行再獲得を最終目的に、新たなリハビリテーション体系の開発を目指す。
研究方法
軸索再生の可能性を探る基礎的アプローチとしては、(1)神経栄養因子シグナル活性化による軸索伸長、(2)髄鞘形成細胞増殖、の分子機構を、初代培養系と脊髄損傷動物モデルの組織解析から検討した。
損傷脊髄以下の再組織化能力を明らかにする臨床的アプローチとしては、(1)下行性入力の有無と脊髄反射経路の再組織化、(2)歩行トレーニングによる皮質脊髄路興奮性変化と機能回復の関係を、臨床症例にて検証した。
結果と考察
(1)脊髄運動ニューロンの初代培養系を確立し、BDNFの軸索伸長効果を確認した。細胞内シグナルの各種阻害剤の効果および遺伝子導入実験から、MEK-ERK-CDK5/GSK3beta-MAP1b経路が主に関与していた。
(2)オリゴデンドロサイト前駆細胞の初代培養系を確立し、増殖因子下流のMAPキナーゼ経路の作用を確認した。DNAマイクロアレイを用いた網羅的解析から、いくつかの増殖関連候補遺伝子を同定した。
(3)ラット脊髄圧挫モデルにおいて、オリゴデンドロサイト前駆細胞の挙動を観察した。前駆細胞の増殖は脊髄損傷部近傍で顕著に見られるが、損傷後1週間の間にその6割が失われた。
(4)ロボット式下肢歩行補助装置であるLokomatを導入し、不全および完全対麻痺者を対象として歩行トレーニング中に経頭蓋磁気刺激(TMS)を行い、それに対する下肢麻痺領域の応答を計測した。不全対麻痺者において、トレーニング後の歩行能力の改善とTMSに対する応答の増大を確認した。
(5)トレーニングを継続すると、大脳運動野との結合が無い完全対麻痺では誘発される歩行様の筋活動が時間経過と共に減弱するが、不全対麻痺では減弱しないことを確認した。
結論
再生医学と臨床での神経生理分析との2つのアプローチは、現状では直ぐに結びつくものではない。しかし受動的トレーニングを行う動物実験を2つの中間に置くことにより、末梢感覚情報と下行性入力の相互作用および脊髄歩行中枢の可塑性との関係を解析する新たな枠組みを構築し、そこに軸索再生による脊髄回路の部分修復の可能性を取り入れることが出来そうである。

公開日・更新日

公開日
2007-04-09
更新日
-

文献情報

文献番号
200626001B
報告書区分
総合
研究課題名
再生医療による脊髄の歩行パターン発生能力と脊髄損傷者の歩行再獲得可能性に関する研究
課題番号
H16-障害-一般-002
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
赤居 正美(国立身体障害者リハビリテーションセンター病院・研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 中澤 公孝(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
  • 山本 真一(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害保健福祉総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は近年の中枢神経系の再生能力に関する証明と残存脊髄機能の再活性に関する新知見より、脊髄損傷者の歩行再獲得を最終目的に、新たなリハビリテーション体系の開発を目指す。目標としては、①人間の脊髄に基本的な歩行パターンを生み出す能力および学習能力がどの程度あるのかを探求し、②近年発達のめざましい再生医学による脊髄の軸索延長と組み合わせて、治療モデルを作る。③それを基に、対麻痺患者のための新たなリハビリテーションにつなげる。
研究方法
(1)神経生理学的研究により、信号の受け手側である損傷脊髄以下に残った機能回復能を定量的に把握する。
そのため、下行性入力の有無と脊髄反射経路の再組織化、歩行トレーニングによる皮質脊髄路興奮性変化と機能回復の関係、を臨床症例にて検証した。
(2)再生医学に基づく細胞工学的手法により、上位信号の送り手側である損傷部位での軸索再生を計る。
そのため、神経栄養因子シグナル活性化による神経軸索伸長、髄鞘形成細胞増殖、の分子機構に関して初代培養系と脊髄損傷動物モデルの組織解析から検討した。
結果と考察
平成18年度には6名の脊髄損傷者の歩行トレーニング実験を行った。不全麻痺者において皮質脊髄路機能の回復、伸張反射の低下など神経学的改善と歩行の回復が観察された。
脊髄運動ニューロンの初代培養系を確立し、BDNFの軸索伸長効果とその細胞内シグナルを検討した。またオリゴデンドロサイト前駆細胞の初代培養系を確立し、増殖に関わる細胞内シグナルを検討した。ラット脊髄圧挫モデルにおいて、Olig2/BrdU二重陽性オリゴデンドロサイト前駆細胞の挙動を観察した。最終目的である脊髄損傷者の歩行再獲得に直ぐにつながる治験を得るわけにはいかないが、受動的トレーニングを行う動物実験を導入することにより、ヒトでの脊髄可塑性に関する治験を反映させた実験系を組上げることが出来つつある。細胞レベルにおける再生医療実験の成果を臨床に結びつける方向性が出て来た。
結論
再生医学と臨床での神経生理分析との2つのアプローチは、現状では直ぐに結びつくものではない。しかし受動的トレーニングを行う動物実験を2つの中間に置くことにより、末梢感覚情報と下行性入力の相互作用および脊髄歩行中枢の可塑性との関係を解析する新たな枠組みを構築し、そこに軸索再生による脊髄回路の部分修復の可能性を取り入れることが出来そうである。

公開日・更新日

公開日
2007-04-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200626001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
再生医学の目覚ましい進歩をもってしても、人間を対象とした研究は端緒についたばかりであり、まだまだ検証すべき点が多い。脊髄神経細胞での知見と神経生理学的な脊髄の可塑性、学習能力を結びつけ、実際の患者における機能再建につながる一歩とする。軸索再生による脊髄回路の部分修復にリハビリテーションによるトレーニング効果を組み合わせ、完全脊髄損傷を不全損傷に変えることから、臨床応用への発展性を目指したい。
臨床的観点からの成果
最終目的である脊髄損傷者の歩行再獲得に直ぐにつながる治験を得るわけにはいかないが、細胞実験と臨床観察との中間に受動的ステッピングトレーニングを行う動物実験を導入することにより、ヒトでの脊髄可塑性に関する知見を反映させた実験系を組上げることが出来つつある。これまで平行線のまま進んでいた細胞レベルにおける再生医療実験の成果をヒトでの臨床に結びつける方向性が出て来た。
ガイドライン等の開発
該当しない
その他行政的観点からの成果
最終目的である脊髄損傷者の歩行再獲得には未だ道遠しである。しかし年間5000人に達する新たな脊髄損傷患者の発生に対し、国として研究を進めつつあるということは大切と考える。しかしながら一部の脊髄不全損傷者への立位歩行トレーニングはある程度の臨床的改善が期待され、さらに痙性制御といった直接の治療効果の検証が可能になろう。
その他のインパクト
読売新聞2007年3月20日「医療ルネサンス:脊髄損傷者の願い2」

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-