地域における環境保全と防災に資する医療施設敷地利用の推進方策に関する研究

文献情報

文献番号
199700212A
報告書区分
総括
研究課題名
地域における環境保全と防災に資する医療施設敷地利用の推進方策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
圓藤 吟史(大阪市立大学医学部教授)
研究分担者(所属機関)
  • 傘木宏夫((財)公害地域再生センター研究主任)
  • 松元隆平((株)関西総合研究所主任研究員)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、都市立地型の病院に着目して、オープンスペースの確保の実態を明らかにし、環境保全と防災の視点からその確保を今後促進するための要件を検討することを目的とする。
研究方法
?大阪府下の全病院のデータベースの作成とその分析。?大阪市内のモデルとなる3行政区における実地調査(病院毎の評価カルテと区域での位置づけ図を作成)。?京阪神地域における阪神・淡路大震災被災病院及び先進事例に対するヒアリング調査。?設計・計画者を対象とした病院オープンスペースに対する考え方と評価についてのアンケート調査。
結果と考察
1.都市立地型病院におけるオープンスペースの現状調査(1)既設病院の建蔽率分布の分析大阪府下の全病院(590施設)につき、立地別に建蔽率の分布状況をみると、府下全体に比べ大阪市地域での病院建蔽率は高く、特に都心6区では建蔽率60%以上の病院が全体の5割以上を占めている。市街化度が最も低い泉南地域では、そのような病院は全体の1割に満たない。設置主体別にみると、公的病院と民間病院では明らかな違いがある。公的病院では建蔽率60%以上の病院は全体の1割程度だが、民間病院では3割を占めている。(2)実地調査にみる病院敷地利用等の状況大阪市内の異なる地域環境を各々代表するものとして選んだ3行政区の全病院(24件・全て民間)を対象に実地調査し、評価を試みた。その結果、都市立地型病院の多くは、大気汚染や騒音等が激しい幹線道路沿いや住工混在地域に立地するケースが多く、しかも自らは十分な敷地や緑地等を確保して都市環境等に貢献しうるような状況にはない。また、区域のオープンスペース体系とは全く無関係な状態にあることがわかった。(3)被災病院等へのヒアリング調査被災病院の事例からは、災害時、病院は地域を救護するとともに、救護される対象ともなること、その際にオープンスペースの有無が大きな意義を持つこと、しかし再建時においては経営上の問題からそれを十分に確保できないこと等がわかった。先進事例では、自治体等の施策や立地条件を生かす施主や設計者の努力がなされているが、自前で相当規模の緑地を確保した場合は維持管理にかかわる費用等が負担となっている。2.病院計画・設計者へのアンケート調査

(1)設計者の基本的考え方と実績(社)日本医療福祉建築協会会員等の221設計事務所に所属する設計・計画者を対象に、病院オープンスペースに対する考え方・評価についてアンケート調査を実施した(回答数145、有効回答率65.6%)。設計者が病院の計画にあたる際にオープンスペースの効果としても大きく考慮するのは、患者の治療・療養上の効果で最も大きく考慮されている。続いて、経営・運営上の効果や防災上の効果・地域貢献度向上効果についても重視していることがわかった。これまでの病院設計実績の中で、オープンスペースを防災面・環境面でどの程度十分にとることが出来たかについては、半数以上の事務所が不十分な病院が多かったと答えている。(2)事例からみたオープンスペース確保手法の動向病院の計画・設計で大きな効果又は一定の効果が期待できるオープンスペースを確保することが出来た(うまくいった)事例の有無については、全体の60.7%が「ある」と答えている一方、設計上の工夫をしたり施主の説得を試みたがうまくいかなかった事例についても、69.0%が「ある」と答えている。うまくいった理由としては、施主の賛同が最も多い。都市型病院でうまくいった事例について、そのアピールポイントを設置主体と病院規模別に見てみると、次のような特徴がある。?民間の小規模病院(200床未満)では、アプローチや建物前面など敷地の一部の緑化や修景程度に留まっている例が多い。?200床以上の病院になると建物周辺の敷地内に公園・庭園と名付けたまとまったオープンスペースを確保している例が多い。?500床以上の病院では複数のオープンスペースを敷地の随所に整備しているケースが多い。?総合設計制度を活用しているケース(200床以上の病院に限られる)は単に公開空地をとるだけでなく、リハビリ・防災や地域開放等の観点から積極的位置づけのもとに駐車場の地下化や屋上庭園確保等さまざまな工夫をこらしてオープンスペース整備を行っている。
結論
今後の施策展開方向
アンケート・ヒアリング結果から、病院の計画・設計においてオープンスペースを確保するためには、補助金など経済的な面での支援策がやはり最も実効性が高いということが示された。
一方総合設計制度の条件緩和や公園・学校との併設など広くいえば都市計画・建築基準法などの法規制の面での緩和措置や支援制度も設計者からはかなり期待されている。
アンケートから設計者は限られた条件の中でオープンスペース確保のためにある程度努力はしているが、敷地規模や予算など施主側の条件のために頓挫することが(特に都市型の場合)かなりあることが推察された。
このような状況においては、施主の意識を変えていくために、オープンスペース整備の意義や計画ノウハウの普及・啓発のためのガイドラインやモデルづくり、あるいはオープンスペース整備に努めた病院を高く評価するための診療報酬加算項目への追加や病院評価システムへの組み入れなどの医療制度面でのオープンスペース整備へのインセンティブが重要となることも示されたといえる。また、実地調査・ヒアリング調査の結果でも重要性を述べた民間の小規模病院に対して、まちづくり全体の中でその役割を位置づけて上記施策を展開することも重要である。
なお、オープンスペース整備のガイドラインを設けていくにあたっては病院の規模・機能や地域(自治体)の特性によって、目標とすべき水準やモデルを区別していく必要がある。本研究では、その参考となる「オープンスペース整備の視点」(案)を調査成果に基づいてとりまとめた。
今後の課題としては、施主(病院の設置・運営主体)側の課題とニーズを把握し、都市型病院のオープンスペース確保に関する総合的な施策展開の方向性を明らかにしていく必要がある。

公開日・更新日

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