地域の保健・医療・福祉の連携を支援する情報システムに関する研究

文献情報

文献番号
199700211A
報告書区分
総括
研究課題名
地域の保健・医療・福祉の連携を支援する情報システムに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
稲田 紘(国立循環器病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 信川益明(杏林大学医学部)
  • 関田康慶(東北大学大学院経済学研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化の進展に伴い、必要性が増大している地域の保健・医療・福祉の連携(以下、単に連携と称する)の推進には、関係者の意識改革のみならず、各種技術の応用など連携支援のための手段が必要となる。種々の技術のなかでも情報技術の応用とくに情報システムによる支援が有用と考えられるが、このことを実証するとともに、連携に役立つ具体的な情報システムの構築が要請される。そこで本研究では、情報システムは連携支援に有用であるとの前提のもとに、?カスタマイズにより他地域でも適用可能となる連携支援情報システムのモデル地域における構築、?連携のあり方の検討と連携支援有用性の評価方法への反映、?モデル情報システムの連携支援の有用性検討のための評価方法の考察とそれに基づく評価など、地域連携支援情報システムに関して、多面的な研究を進めようとする。
研究方法
本研究では、昨年度までに実施した?モデル地域としての宮城県田尻町における連携支援モデル情報システムの設計・構築、?モデル情報システムの他地域へのカスタマイズのための要件の検討と宮城県栗駒町におけるカスタマイズの試行、?連携支援情報システムの有用性評価のための暫定的評価項目の検討と先駆的導入地域を対象とした評価の試み、などの研究成果を踏まえ、次のような研究を実施した(かっこ内は分担研究者名)。?これまでに設計・構築を進めてきた田尻町の連携支援モデル情報システムであるSKIP情報システムを完成し、新しく開設されたSKIPセンターに導入して、その運用をはかる(稲田)。?連携のあり方の検討と評価方法への反映に資するため、武蔵野市医療機能連携モデル事業を例として取り上げ、地域医療機能連携システムの構築・運用・評価と情報ネットワークについて検討する(信川)。?連携支援情報システムの有用性評価のための評価方法について検討するとともに、これに基づくSKIP情報システムの職員による評価を試みる(関田)。
結果と考察
(1)保健・医療・福祉連携支援モデル情報システムの構築:連携支援モデル情報システムであるSKIP情報システムは、一部未完成であった福祉情報サブシステムの構築を終了し、その開発を完了した(医療情報サブシステムについては一部のみ)。そして、昨年春に完工した田尻町のセンター型保健・医療・福祉施設であるSKIPセンターにシステムを搬入し、運用を開始した。その結果、本システムにより、?対象者の世帯ごとの情報の捕捉が可能となり、基本健康診査の受診状況などから、家族全体の健康管理・保健指導が容易化する。?保健指導を行う際も、その世帯の福祉情報を知ることにより、よりニーズに合った指導が展開できる。?情報の共有化が可能となったため、関係者が共通の問題意識や同一のイメージを持つことができ、サービスの実施がより容易になることが期待される。など、幾つかの効果が現れつつあり、保健・医療・福祉の関係職員による理解も深まっていることが窺われた。本システムはこのように、関係者間の連携支援に有用なことが窺われたが、その機能を発揮するには、関係者の連携意識および情報の共有化と交換により得られた情報を活用する意志が必要となる。しかし、システムの運用開始後日も浅いため、現時点では入手した情報を使い切れておらず、まだ試行錯誤の続く段階にあると考えられる。今後、本格的な運用とともに、システムの本格的な評価を実施し、他地域へのカスタマイズの容易化をふくめた改良をはかることが要請される。
(2)連携のあり方の検討と評価方法への反映:保健・医療・福祉の連携のあり方の検討と評価方法への反映に資するため、まず地域における医療機能の連携のあり方について検討した。地域の住民が近隣で適切な医療を受けることを可能にするには、地域の病院や診療所が各々の機能分担と連携、および専門医療技術や医療機器の相互利用をはかることにより、効率的な医療供給体制を確立することが重要である。そこで、地域医療機能連携システムの構築・運用・評価と情報ネットワークシステムについて、武蔵野市医療機能連携モデル事業を例に取って検討した。同市の地域医療機能連携と情報ネットワークは、患者の流れ、紹介、逆紹介の流れ、情報の流れから構成され、情報のシステム化の場所として、地域医療連携室を財団法人武蔵野健康開発事業団に設置した。地域医療連携室は、医療情報の収集・管理・提供を行うとともに、市内10病院から選定された中核病院である武蔵野赤十字病院内に設置した医療調整室との連絡調整を進めている。武蔵野市医療機能連携システムの評価として、武蔵野市医師会が実施し、とくに効果が上がったものは、紹介と逆紹介制度の充実、医療機関への情報提供、市民に対する医療情報の提供などであった。これらを保健・福祉のカテゴリーにまで拡張すれば、連携推進の容易化が期待されるが、これには、武蔵野市のように、連携の中核となる機能を有する組織が必要と考えられる。
(3)情報システムによる連携効果の評価方法の確立と評価の実施:情報システムの支援による保健・医療・福祉連携の効果を評価するため、システム全般に対する評価と連携によりもたらされる効果のそれぞれについて、評価方法を検討した。評価のアプローチとして、情報システムの基本設計、詳細設計を対象に、設計の妥当性について検討する視点と、面接調査に基づくユーザの評価を得る2つの視点から検討した。前者では、情報システムの具備すべき条件の有無をチェックしていく方法で評価方法を設定し、後者では8つの評価視点からユーザに評価してもらう面接調査法を考案した。調査対象は、SKIP情報システムで,評価者となるユーザは、SKIPセンターにおける診療部門、健康増進部門、デイサービス部門、在宅介護支援部門および情報管理部門の各部門で働いている職員である。情報システム設計に関する評価では、オープンアーキテクチャー、ユーザインターフェイス、プライバシー・セキュリティ管理などの視点からの評価の結果、システムとしての基礎的部分の評価については良好であったものの、診療部門の情報化の未整備やデータの集約と情報化などが不十分であった。ユーザ面接調査では、データベース、操作性、業務効率などがいずれの部門でも高い評価を得ており、逆にメンテナンスやリテラシーは低い評価になっていた。
結論
地域の保健・医療・福祉の連携支援に有用な情報システムをめざし、宮城県田尻町においてモデル情報システムであるSKIP情報システムの構築を完了し、昨年春に開設されたSKIPセンターへ導入して運用を開始する一方で、システムの評価に関する研究を進めた。その結果、職員間の情報の共有化と交換が容易になる環境がつくられ、職員による評価では、部門間連携に関して在宅介護支援センターのデータベースが必要度も高く比較的活用されるなど、それなりの効果が現れていることが窺われた。しかし、診療部門では情報提供を求められているにも拘わらず、活用されていなかったが、これは診療部門の情報化が未整備で、十分な情報提供が不可能なためと考えられ、医療情報サブシステムについても早急に完成をはかる必要性が痛感された。今後、SKIP情報システムの本格的運用に伴い、住民をはじめ他の視点からも本格的な評価の実施を要し、このためには連携支援情報システムの評価方法に関する研究をいっそう進める必要がある。また、評価結果に基づき、他地域へのカスタマイズの容易化を含めたSKIP情報システムの改良をはかるとともに、このシステムを2000年から開始される予定である介護保険制度の運用支援にも役立たせるようにすることも重要であり、このためには、引き続き保健・医療・福祉連携支援情報システムに関する研究を進めることが強く望まれる。

公開日・更新日

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