文献情報
文献番号
199700208A
報告書区分
総括
研究課題名
家族政策および労働政策が出生率および人口に及ぼす影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
阿藤 誠(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
- 浅見泰司(東京大学)
- 大淵寛(中央大学)
- 麻生良文(日本大学)
- 樋口美雄(慶應大学)
- 目黒依子(上智大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障・人口問題政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
1973年以来すでに20年以上続く出生率の低下と出生数の減少が今後もなお継続するのか否か全く予断を許さない。平成9年(1997年)1月に発表された国立社会保障・人口問題研究所の日本の将来推計人口は、出生率が今日の状況のまま低迷するならば、日本は21世紀の半ばには国民の3人に1人が65歳以上の高齢者という超高齢社会となり、1年間に現在の千葉市の人口に匹敵する人口を消失させる人口急減社会となることを示してみせた。このような超高齢・人口急減社会の到来は、労働力、経済成長、生活水準、高齢者扶養負担、地域社会の存立など日本社会のあらゆる側面に甚大な影響を及ぼすと考えられる。今日、各方面で、この出生率低下にどのように対処すべきか政策的論議が高まっているが、この問題については、(1)出生率低下の要因、そのうち政策的に操作可能な変数、(2)政府による政策介入の是非、(3)出生・家族・労働政策の出生率向上効果、など検討すべき課題は多い。本研究は、今日の出率低下の主要な要因と考えられる四つの要因、すなわち、居住コスト、育児コスト、女子労働、ジェンダー関係をとりあげ、それについて理論的、実証的検討を加えるとともに、出生力の総合化モデルを構築することによって、出生率に対する政策変数の効果を測定することを目的とする。
研究方法
本年度は、初年度の各研究分野別委員会、すなわち、居住コスト委員会、育児コスト委員会、女子労働委員会、ジェンダー委員会、総合化モデル委員会の文献サーベイに基づく理論的検討と仮説の構築、実証研究のための準備作業を踏まえて、各研究課題にとって必要不可欠な官庁統計の個票データの再集計案を作成し、所管官庁へ申請する準備を進めた。その結果、入手可能となったデータを用いて各分野ごとに実証分析を行った。
結果と考察
1.本年度は、低出生率の4つの要因について、入手可能なデータを用いて統計的分析を行い以下のような分析結果を得た。
2.居住コストと結婚・出生力の関係:(1)親との同居が結婚促進要因になっており、結婚により住宅水準が悪化することが結婚を阻害している可能性がある,(2)夫婦の子ども数については、家賃負担率と必ずしも線形な関係をもたない,(3)子どもが1人から2人へ移行する際に生ずる、住宅水準上昇にともなう居住コストの上昇が出生を抑制している可能性がある,などが明らかになった。
3.女子労働と結婚・出生力の関係:日本・英国・米国の比較分析から、(1)英米と比べると、女性の出産前退職は多いものの、育児プログラムがある場合には英米並の継続就業率をもつこと,(2)育児休業の有無による女性の継続就業率の差は英米よりも大きいこと,(3)育児休業制度により継続就業が促進されれば、賃金の低下を阻止する効果が英米以上に大きいことが明らかになった。また出生動向基本調査の分析から、(1)就業中断コストの高い大卒者ほど結婚確率が低いこと,(2)出産前後の妻の就職に影響するのは本人の学歴ではなく夫の学歴であること(夫の所得が高いと妻は離職しやすい),などが明らかになった。
4.ジェンダー意識と結婚・出産意識の関係:(1)未婚女性や子どものない既婚者では、「結婚したら子供をもつのは当然」という従来規範には抵抗感が強いこと,(2)子ども1人をもつ女性では、出産関連の医療のあり方や就労と子育ての両立の困難さ、夫の家事・育児への参加度の低さが、次子出産の意欲を阻害する重要な要因となっていることがあきらかとなった。
2.居住コストと結婚・出生力の関係:(1)親との同居が結婚促進要因になっており、結婚により住宅水準が悪化することが結婚を阻害している可能性がある,(2)夫婦の子ども数については、家賃負担率と必ずしも線形な関係をもたない,(3)子どもが1人から2人へ移行する際に生ずる、住宅水準上昇にともなう居住コストの上昇が出生を抑制している可能性がある,などが明らかになった。
3.女子労働と結婚・出生力の関係:日本・英国・米国の比較分析から、(1)英米と比べると、女性の出産前退職は多いものの、育児プログラムがある場合には英米並の継続就業率をもつこと,(2)育児休業の有無による女性の継続就業率の差は英米よりも大きいこと,(3)育児休業制度により継続就業が促進されれば、賃金の低下を阻止する効果が英米以上に大きいことが明らかになった。また出生動向基本調査の分析から、(1)就業中断コストの高い大卒者ほど結婚確率が低いこと,(2)出産前後の妻の就職に影響するのは本人の学歴ではなく夫の学歴であること(夫の所得が高いと妻は離職しやすい),などが明らかになった。
4.ジェンダー意識と結婚・出産意識の関係:(1)未婚女性や子どものない既婚者では、「結婚したら子供をもつのは当然」という従来規範には抵抗感が強いこと,(2)子ども1人をもつ女性では、出産関連の医療のあり方や就労と子育ての両立の困難さ、夫の家事・育児への参加度の低さが、次子出産の意欲を阻害する重要な要因となっていることがあきらかとなった。
結論
本研究は3年間のプロジェクトであり、2年目までの実証研究をふまえて出生力に関する総合化モデルを構築し、それに基づいて家族政策・労働政策の出生力に対する効果測定を検証することを目指している。したがって本年度の研究から本プロジェクトの結論を引き出すことはできないが、実証分析の結果からは住宅事情の改善、育児休業制度の充実などによる就労と子育ての両立、夫の家事・育児への参加促進などが出生力に対してプラスに働くことが示唆されている。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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