浸潤性膀胱がんの予後改善をめざした集学的治療の研究

文献情報

文献番号
200622014A
報告書区分
総括
研究課題名
浸潤性膀胱がんの予後改善をめざした集学的治療の研究
課題番号
H16-がん臨床-一般-036
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
塚本 泰司(札幌医科大学医学部泌尿器科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 篠原 信雄(北海道大学医学部付属病院泌尿器科)
  • 羽渕 友則(秋田大学医学部泌尿器科学教室)
  • 冨田 善彦(山形大学医学部泌尿器科学教室)
  • 藤元 博行(国立がんセンター中央病院泌尿器科)
  • 小川 修(京都大学大学院医学研究科器官外科学泌尿器病態学)
  • 平尾 佳彦(奈良医科大学泌尿器科学教室)
  • 筧 善行(香川大学医学部泌尿器科学教室)
  • 荒井 陽一(東北大学大学院医学系研究科泌尿器科)
  • 上田 昭一(熊本大学医学部泌尿器科学教室)
  • 馬場 志郎(北里大学医学部泌尿器科学教室)
  • 内藤 誠二(九州大学大学院医学研究科泌尿器科)
  • 小松原 秀一(新潟県立がんセンター新潟病院泌尿器科)
  • 武田 正之(山梨大学医学部泌尿器科学教室)
  • 庭川 要(静岡がんセンター泌尿器科)
  • 杉村 芳樹(三重大学医学部泌尿器科学教室)
  • 舛森 直哉(札幌医科大学医学部泌尿器科学教室)
  • 赤座 英之(筑波大学医学部泌尿器科学教室)
  • 西澤 理(信州大学医学部泌尿器科学教室)
  • 川島 清隆(栃木県立がんセンター泌尿器科)
  • 小野 佳成(名古屋大学大学院医学研究科泌尿器科)
  • 小野 豊(大阪府立成人病センター泌尿器科)
  • 公文 裕巳(岡山大学大学院医歯学総合研究科泌尿器病態学)
  • 住吉 義光(国立病院機構四国がんセンター統括診療部泌尿器科)
  • 松岡 啓(久留米大学医学部泌尿器科学教室)
  • 中川 昌之(鹿児島大学医学部泌尿器科学教室)
  • 頴川 晋(東京慈恵会医科大学泌尿器科学教室)
  • 堀江 重郎(帝京大学医学部泌尿器科学教室)
  • 長谷川 淑博(九州がんセンjンター泌尿器科)
  • 山口 秋人(原三信病院泌尿器科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
29,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
浸潤性膀胱癌に対する術前化学療法(MVAC療法)の生存率向上への寄与を明らかにする。
研究方法
上記の目的に沿い術前MVAC療法+根治的膀胱摘除(リンパ節郭清も含む)と根治的膀胱摘除のみの2つの治療群を設定した無作為化臨床試験(JCOG 0209)を継続した。さらに、本疾患の臨床経過を予測しうるような指標の特定
を試みた。
結果と考察
この1年間で22例の症例登録が得られ、2007年3月末現在82例の登録症例となっている。登録症例数の増加に向けた新たな取り組みを行ってきており、これが次第に定着してきていると思われる。これまでのところ、プロトコール治療による重篤な有害事象あるいは未知の有害事象は発生していない。
付随臨床研究のうち予後予測因子の検討では、あらたに樹立した抗体を用いて浸潤性膀胱癌組織で免疫組織染色を行い、HLA class I抗原の発現を検討した。その結果、HLA Class I抗原の発現程度が明らかに臨床経過に影響することを見出した。この結果は、この免疫組織の所見が予後因子となるばかりではなく、癌ペプチド療法における適切な症例選択などにも応用できるものであると考えられた。また、PTEN蛋白発現抑制が膀胱癌の進展と関連する結果であった。浸潤癌との関係では上皮内癌から浸潤癌への進展に関与している可能性がある。浸潤性膀胱癌に対する術前化学療法の効果が中期の臨床経過を予測する上でのsurrogate end pointとなることがわかった。
 晩期再発の検討では、晩期再発の危険因子として上皮内癌の既往、随伴が見いだされた。したがって、このような症例では長期経過の後も上部尿路以外の再発にも注意する必要があろう。尿路変向の検討では5年以上の長期経過においても、回腸新膀胱の機能は比較的良好に保持されることが示されていた。しかし、経過にともなう新たな排尿状態の変化が出現する可能性も示唆された。
結論
1) 臨床研究
 平成18年度は2007年3月末で24例の症例登録があり、これまでに82例の登録症例が得られた。
2) 付随研究
 HLA class I抗原の発現程度が明らかに浸潤性膀胱癌の臨床経過に影響した。浸潤性膀胱癌に対する術前化学療法の効果は臨床経過を予測する上で有用であった。PTEN蛋白の発現低下が膀胱癌の進展と関連していることが示唆された。上皮内癌の既往あるいは随伴は晩期再発のリスク要因である。回腸新膀胱は長期にわたる機能の保持がされるが、経過にともなう新たな排尿状態の変化も
出現する可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2007-04-05
更新日
-

文献情報

文献番号
200622014B
報告書区分
総合
研究課題名
浸潤性膀胱がんの予後改善をめざした集学的治療の研究
課題番号
H16-がん臨床-一般-036
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
塚本 泰司(札幌医科大学医学部泌尿器科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 敦(札幌医科大学医学部泌尿器科学教室)
  • 舛森 直哉(札幌医科大学医学部泌尿器科学教室)
  • 篠原 信雄(北海道大学大学院医学研究科泌尿器科)
  • 羽渕 友則(秋田大学医学部泌尿器科学教室)
  • 冨田 善彦(山形大学医学部泌尿器科学教室)
  • 小松原 秀一(新潟県立がんセンター新潟病院泌尿器科)
  • 赤座 英之(筑波大学医学部泌尿器科学教室)
  • 西沢 理(信州大学医学部泌尿器科学教室)
  • 五十嵐 辰男(千葉大学医学部泌尿器科学教室)
  • 川島 清隆(栃木県立がんセンター泌尿器科)
  • 藤元 博行(国立がんセンター中央病院泌尿器科)
  • 中澤 速和(東京女子医科大学泌尿器科学教室)
  • 馬場 志郎(北里大学医学部泌尿器科学教室)
  • 武田 正之(山梨大学医学部泌尿器科学教室)
  • 庭川 要(静岡がんセンター泌尿器科)
  • 杉村 芳樹(三重大学医学部泌尿器科学教室)
  • 小野 佳成(名古屋大学大学院医学研究科泌尿器科)
  • 小野 豊(大阪府立成人病センター泌尿器科)
  • 小川 修(京都大学大学院医学研究科泌尿器科)
  • 平尾 佳彦(奈良医科大学泌尿器科学教室)
  • 林 正(日赤和歌山医療センター泌尿器科)
  • 公文 裕巳(岡山大学大学院医歯学総合研究科泌尿器科)
  • 筧 善行(香川大学医学部泌尿器科学教室)
  • 住吉 義光(四国がんセンター泌尿器科)
  • 荒井 陽一(東北大学大学院医学系研究科泌尿器科)
  • 内藤 誠二(九州大学大学院医学系研究科泌尿器科)
  • 上田 昭一(熊本大学医学部泌尿器科学教室)
  • 松岡 啓(久留米大学医学部泌尿器科学教室)
  • 中川 昌之(鹿児島大学医学部泌尿器科学教室)
  • 頴川 晋(東京慈恵会医科大学泌尿器科学教室)
  • 堀江 重郎(帝京大学医学部泌尿器科学教室)
  • 長谷川 淑博(九州がんセンター泌尿器科)
  • 山口 秋人(原三信病院泌尿器科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
浸潤性膀胱癌に対する術前化学療法(MVAC療法)の生存率向上への寄与をエビデンスとして確立する。
研究方法
術前MVAC療法+根治的膀胱摘除(リンパ節郭清も含む)と根治的膀胱摘除のみの2つの治療群を設定した無作為化臨床試験と計画した。本臨床研究と並行して付随臨床研究も行った。
結果と考察
この臨床試験開始後、MVAC療法の保険適用、実際の臨床との整合性、などもありプロトコールの部分的な改訂も行った。現在登録症例は82例に達した(平成19年3月末)。臨床研究における症例登録を推進するために、これまでのところ、プロトコール治療による重篤な有害事象あるいは未知の有害事象は発生しなかった。
 UP II mRNAの発現が骨盤リンパ節転移を予測するマーカーになる可能性が示唆された。HLA class I抗原の発現程度が明らかに臨床経過に影響することを見出した。この結果は、さらに癌ペプチド療法における適切な症例選択などにも応用できるものであると考えられた。また、PTEN蛋白発現抑制が膀胱癌の進展と関連する結果も得られた。浸潤癌に対する術前化学療法を施行した症例では、その効果がその後の臨床効果をある程度予想することがわかった。
 浸潤癌の一部の症例における周術期化学療法の有効性が示唆された。膀胱癌組織に扁平上皮癌が混在するような症例では、局所再発のリスクが高いことが明らかとなった。また、晩期再発の危険因子として上皮内癌の既往、随伴が見いだされた。この場合には、上部尿路以外の再発にも注意する必要があろう。骨盤リンパ節郭清での摘出リンパ節個数が、その後の臨床経過に影響を与えるとする結果であった。リンパ節郭清の範囲、治療上の意義に関して再検討する必要があろう。回腸新膀胱の長期経過観察では、その機能の長期的保持が示されたと同時に、経過にともなう新たな排尿状態の変化が出現する可能性も示唆された。
結論
 本研究では、この3年間では年間20-30例の一定の登録があった。平成18年度は平成19年3月で24例の症例登録となり、これまでに82例の登録症例が得られた。
 臨床経過の予測因子として、uroplakin II、HLA Class I抗原の発現程度、PTEN蛋白の発現低下、浸潤性膀胱癌に対する術前化学療法の効果、などが有用ではないかと思われた。付随臨床研究でもCisplatinを中心とした多剤併用による周術期化学療法の有用性、骨盤リンパ節郭清における摘出リンパ節の個数の意義、などが明らかにされた。

公開日・更新日

公開日
2007-04-05
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200622014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 これまで、わが国では浸潤性膀胱癌の治療を対象に多施設共同無作為化臨床試験が行われことはなかった。その意味で、本試験の意義は大きいと考えられた。種々の改善策により元来適格症例が少ないにもかかわらず年間20-30例の登録を得たことは今後の研究の進展にもつながる結果と思われた。このような努力により、平成19年12月末現在で登録症例は106例に達した。本臨床試験に付随した臨床研究も行われ、これまでになかった予後予測因子が同定された。
臨床的観点からの成果
本臨床研究は継続中であり最終的な結論を得てはいないが、術前化学療法の効果を知るうえでは貴重な臨床試験といえる。付随研究においても、局所再発のリスク要因、晩期再発のリスク要因、骨盤リンパ節郭清における郭清リンパ節個数の意義など、新しい知見が得られた。また、MVAC療法の有害事象の検討も参加施設から報告されたが、術前の2コースでは臨床的に重篤な有害事象が発生する可能性は低いことが示された。
ガイドライン等の開発
現時点ではなし。
その他行政的観点からの成果
 膀胱癌に対するMVAC療法の保険適用が認められて以来、MVAC療法の有害事象の出現状況が取り沙汰されてきた。しかし、本試験では少なくともMVAC療法による未知の有害事象は報告されていないことから、抗がん剤による未知の有害事象に対する対処という行政的な観点からは現時点では問題がないことがわかった。
その他のインパクト
 第70回 日本泌尿器科学会東部総会(平成17年)のシンポジウム 「進行性膀胱癌の治療戦略:個別化治療に向けて」において、本臨床試験(JCOG 0209)の意義も含めて浸潤性膀胱癌に対する治療が討論された。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
26件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
18件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
第70回 日本泌尿器科学会東部総会シンポジウム 「進行性膀胱癌の治療戦略:個別化治療に向けて」において本臨床試験(JCOG 0209)の意義について説明した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Honma I, Masumori N, Sato E, et al.
Local recurrence after radical cystectomy for invasive bladder cancer: an analysis of predictive factors
Urology , 64 , 744-748  (2004)
原著論文2
Takahashi A, Tsukamoto T, Tobis K, et al.
Radical cystectomy for invasive bladder cancer: results of multi-institutional pooled analysis
Jpn J Clin Oncol , 34 , 14-19  (2004)
原著論文3
Honma I, Masumori N, Sato E, et al.
Removal of lymph nodes may porovide better outcome, as well as more accurate pathologic findings, in patients with bladder cancer-analysis of role of pelvic lymph node dissection
Urology , 68 , 543-548  (2006)
原著論文4
Maeda T, Takahashi A, Hirobe M, et al.
dverse events of MVAC chemotherapy in patients with advanced urothelial cancer of the bladder.
Act Urol Jpn , 53 , 213-219  (2007)
原著論文5
市原浩司、高橋 敦、広部恵美、他
高齢者に対する根治的膀胱摘除および尿路変向後の早期合併症
泌尿紀要 , 53 , 527-532  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-09-24
更新日
-