進行卵巣がんの集学的治療に関する研究

文献情報

文献番号
200622013A
報告書区分
総括
研究課題名
進行卵巣がんの集学的治療に関する研究
課題番号
H16-がん臨床-一般-035
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 裕之(筑波大学・大学院人間総合科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 勝俣 範之(国立がんセンター中央病院)
  • 恩田 貴志(国立がんセンター中央病院)
  • 嘉村 敏治(久留米大学医学部)
  • 八重樫 伸生(東北大学医学部)
  • 喜多 恒和(防衛医科大学校)
  • 中西 透(愛知県立がんセンター)
  • 小西 郁生(信州大学医学部)
  • 岩坂 剛(佐賀大学医学部)
  • 星合 昊(近畿大学医学部)
  • 齋藤 俊章(国立病院機構九州がんセンター)
  • 落合 和徳(東京慈恵会医科大学)
  • 小林 裕明(九州大学医学部)
  • 波多江 正紀(鹿児島市立病院)
  • 日浦 昌道(国立病院機構四国がんセンター)
  • 竹原 和宏(国立病院機構呉医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
31,320,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 III、IV期の卵巣がん、卵管がん、腹膜がんに対して、手術の前後に4コースずつ計8コースの化学療法を行う「化学療法先行治療」が、現在の標準治療である、手術後に計8コースの化学療法を行う「手術先行治療」よりも有用であるかどうかをランダム化比較試験にて検証する。Primary endpoint:全生存期間。Secondary endpoints:完全腫瘍消失割合、無増悪生存期間、奏効割合(B群のみ)、有害事象、手術侵襲指標など。
研究方法
研究形式は多施設共同の第III相ランダム化比較試験(非劣性試験)。対象症例は、開腹以外の手段で組織学的または細胞学的に診断され、CT/MRIで進行期分類された上皮性卵巣がん、卵管がん・腹膜がんIII/IV期の初回治療例で、20-75才、CA125>200 IU/ml, CEA<20 ng/ml、ECOG PS 0-3、適当な骨髄・肝・腎機能が保持され、初回腫瘍縮小手術の対象となりうる症例とする。ランダム化割付には、調整因子として施設、PS、臨床進行期、年齢を用いる。予定登録数:各群150例、両群計300例。
結果と考察
 III/IV期卵巣がん、卵管がん、腹膜がんの化学療法先行治療の第III相ランダム化比較試験の開始に先立ち、試験治療のNAC療法のfeasibility study(第II相試験;JCOG 0206)を行った。診断的腹腔鏡前の臨床診断の正診割合は53/56(94.6%)で、第III試験での診断的腹腔鏡の省略が決定された。完全腫瘍消失割合は18/53 (34.0%, 95%CI;21.5-48.3%)で、閾値割合20%を下回らないことが確認された。その結果を平成18年5月にASCOにおいて発表した。
 第III相試験(JCOG 0602)は平成18年11月に登録が開始された。平成19年3月12日現在のJCOG 0602のIRB承認は30施設中24施設、登録は7例である。IRB承認直後の施設が多いので、今後の登録が促進されることが期待される。
結論
我が国の卵巣がん年間死亡数は4200人以上であり、その80%以上がIII/IV期例である。生存率改善、手術回数減少、合併症・輸血減少が期待され、患者負担減少・医療経済改善に貢献するとともに、治療が定型化しやすく、均てん化にも貢献できる。手術数の減少はがん専門病院での治療数増加にも繋がり、急増する卵巣癌症例数に対応できる体制が整う。本試験では第II相試験の成果により、化学療法先行治療の特性を最大限に生かし、厳密な臨床試験とすることができた。

公開日・更新日

公開日
2007-04-05
更新日
-

文献情報

文献番号
200622013B
報告書区分
総合
研究課題名
進行卵巣がんの集学的治療に関する研究
課題番号
H16-がん臨床-一般-035
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 裕之(筑波大学・大学院人間総合科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 勝俣 範之(国立がんセンター中央病院 )
  • 恩田 貴志(国立がんセンター中央病院)
  • 嘉村 敏治(久留米大学 医学部)
  • 八重樫 伸生(東北大学 医学部)
  • 菊池 義公(防衛医科大学校(H16年度))
  • 喜多 恒和(防衛医科大学校(H17-18年度))
  • 葛谷 和夫(愛知県がんセンター(H16年度))
  • 中西 徹(愛知県がんセンター(H17-18年度))
  • 小西 郁生(信州大学 医学部)
  • 岩坂 剛(佐賀大学 医学部)
  • 星合 昊(近畿大学 医学部)
  • 齋藤 俊昭(国立病院九州がんセンター)
  • 落合 和徳(慈恵会医科大学)
  • 平川 俊夫(九州大学 医学部(H16-17年度))
  • 小林 裕明(九州大学 医学部(H18年度))
  • 波多江 正紀(鹿児島市立病院)
  • 日浦 正道(国立病院四国がんセンター)
  • 藤井 恒夫(国立病院呉医療センター(H16年度))
  • 竹原 和宏(国立病院呉医療センター(H17-18年度))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
III、IV期の卵巣がん、卵管がん、腹膜がんに対して、化学療法先行治療が、現在の標準治療である、手術先行治療よりも有用であるかどうかを第II相試験を経て、第III相試験にて検証する。
研究方法
 第II相試験に続いて、第III相ランダム化比較試験(非劣性試験)を行う。両試験の対象症例は共通で、細胞学的に診断され、CT/MRIで病期分類された卵巣がん、卵管がん・腹膜がんIII/IV期例で、20-75才、CA125>200 IU/ml, CEA<20 ng/ml、PS 0-3、初回腫瘍縮小手術の対象となりうる症例とする。第III相試験では調整因子として施設、PS、臨床進行期、年齢を用いる。
 第II相試験の予定登録数は56例、第III相試験は予定登録数:各群150例。
結果と考察
 第II相試験(JCOG 0206)での第一の確認点はこの新治療体系により高い完全腫瘍消失割合が得られることであり、第二の確認点は診断的開腹や腹腔鏡が省略できることである。JCOG 0206は56例の登録を完了し、平成19年3月に最終解析を行った。登録患者の平均年齢は55歳で、登録時の病期はIII期38名、IV期18名であった。PSは0-1が46名、2-3が10名であった。診断的腹腔鏡前の臨床診断の正診割合は53/56(94.6%)で、第III試験での診断的腹腔鏡の省略が決定された。完全腫瘍消失割合は18/53 (34.0%, 95%CI;21.5-48.3%)で、閾値割合20%を下回らないことが確認された。
 第III相試験(JCOG 0602)は平成18年11月に登録が開始され、平成19年3月12日現在、IRB承認は30施設中24施設、登録は7例である。IRB承認直後の施設が多いので、今後の登録が期待される。
 卵巣がんIII/IV期の 3年生存率25%であり、現在の標準治療は、診断優先で、難しい治療体系のため均てん化も遅れている。治療成績の向上、治療の低浸襲化、均てん化には化学療法先行治療の標準化を目指す本試験の実施が必要である。
結論
第III相試験として進行中のEORTC55971では第II相試験を省略したために、多くの問題が生じている。両群で診断的腹腔鏡を行うために、化学療法先行群では化学療法早期開始という利点を半減させ、手術先行群では標準治療以外のことを加えることが最大の欠点である。本試験では第II相試験の成果により、化学療法先行治療の特性を最大限に生かし、EORTC試験の欠点を克服した厳密な第III相試験を開始することができた。

公開日・更新日

公開日
2007-04-05
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200622013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
第II相試験で化学療法先行治療を手術不能症例以外のIII/IV期卵巣がんに導入したことで、手術先行治療に優る点と問題点が実体験され、第III相試験での手術先行治療との比較に対する積極的登録が可能になり、学問的にも倫理的のも質の高い評価が行われる態勢が整った。
臨床的観点からの成果
 第II相試験で術前化学療法に登録する条件を明確にしたが、この条件は実地臨床で手術先行が困難で術前化学療法を行う場合に役立てられている。つまり、細胞診で腺癌が確認され、腫瘍マーカーの条件を満たし、画像でIII/IV期が確認される場合、原発診断、病期分類が正確にできることが判明したことによる。第Ⅲ相試験(JCOG0602)は平成18年11月に登録が開始された。平成21年2月28日現在のJCOG0602のIRB承認は32施設中29施設、登録は161例である。
ガイドライン等の開発
 本邦での卵巣癌治療ガイドライン2007において、第II相試験、第III相試験が行われることが紹介された。第III相試験の結果が出るまでは標準治療ではないことも確認された。この研究の結果次第では、標準的治療体系が変わる可能性があることが認知されている。
その他行政的観点からの成果
 我が国の卵巣がん年間死亡数は4200人以上であり、その80%以上がIII/IV期例である。生存率改善に加え、手術回数減少、手術時のPS改善、合併症・輸血などの減少が期待され、患者負担減少・医療経済改善に貢献するとともに、治療が定型化しやすく、均てん化に貢献できる。手術数の減少はがん専門病院での治療数増加にも繋がり、急増する卵巣癌症例数に対応できる体制が整う。本試験では第II相試験の成果により、化学療法先行治療の特性を最大限に生かし、厳密な臨床試験とすることができた。
その他のインパクト
平成18年8月28日、TBS関連のBS-iにおいて、約1時間、「ドクターズ・アイ、医師がすすめる専門医:卵巣がん、専門医:吉川 裕之」として化学療法先行治療が紹介された。胸水大量貯留のあったIV期卵巣がんの方にご協力していただいた。化学療法および手術の説明現場や化学療法後に行った腫瘍減量手術ビデオが放映された。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
170件
その他論文(和文)
20件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
62件
学会発表(国際学会等)
22件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
13件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Onda T, Yoshikawa H, et al.
Feasibility study of neoadjuvant chemotherapy followed by interval cytoreductive surgery for stage III/IV ovarian, tubal and peritoneal cancers: Japan Clinical Oncology Group Study JCOG0206.
Jpn J Clin Oncol , 31 (1) , 43-45  (2004)
原著論文2
Onda T, Yoshikawa H, et al.
Cisplatin, paclitaxel and Escalating Doses of Doxorubicin (TAP) in Advanced Ovarian Cancer: a Phase I Trial.
Jpn J Clin Oncol , 34 (9) , 540-546  (2004)
原著論文3
Onda T, Yoshikawa H, et al.
Secondary cytoreductive surgery for recurrent epithelial ovarian carcinoma; proposal for patients selection.
Br J Cancer , 92 (6) , 1026-1032  (2005)
原著論文4
Yonemori K, Katsumata N, et al.
A phase I study and pharmacologic evaluation of irinotecan and carboplatin for patients with advanced ovarian carcinoma who previously received platinum- containing chemotherapy.
Cancer , 104 (6) , 1204-1212  (2005)
原著論文5
Sakuma M, Yaegashi N, et al.
Expression of estrogen-responsive finger protein (Efp) is associated with advanced disease in human epithelial ovarian cancer.
Gynecol Oncol , 99 (3) , 664-670  (2005)
原著論文6
Watanabe Y, Hoshiai H, et al.
Evaluation of weekly low-dose paclitaxel and carboplatin treatment for patients with platinum-sensitive relapsed ovarian cancer.
Gynecol Oncol , 96 (2) , 323-329  (2005)
原著論文7
Yagi H, Kobayashi H,et al.
Clinical significance of heparin- binding epidermal growth factor-like in peritoneal fluid of ovarian cancer.
Br J Cancer , 92 (9) , 1737-1745  (2005)
原著論文8
Onda T,Yoshikawa H, et al.
Feasibility study of neoadjuvant chemotherapy (NAC) followed by interval debulking surgery (IDS) for stage III/IV ovarian, tubal and peritoneal cancers: Japan Clinical Oncology Group study JCOG0206.
Journal of Clinical Oncology , 24 (18)  (2006)
原著論文9
恩田貴志
Adjuvant and Neoadjuvant Chemotherapy-Standardなもの、Standardになり得るものとは-卵巣癌
Mebio Oncology , 3 (4) , 58-65  (2006)
原著論文10
Takano M, Yaegashi N, et al.
Clear cell carcinoma of the ovary: a retrospective multicentre experience of 254 patients with complete surgical staging.
Br J Cancer , 94 (10) , 1369-1374  (2006)
原著論文11
Zhang Z-M, Iwasaka T, et al.
Comparative analyses of genomic imprinting and CpG island- methylation in mouse Murr1 and human MURR1 loci revealed a putative imprinting control region in mice.
Gene , 366 (1) , 77-86  (2006)
原著論文12
Ogura T, Kobayashi H, et al.
Adenovirus-mediated calponin h1 gene therapy directed against peritoneal dissemination of ovarian cancer: bifunctional therapeutic effects on peritoneal cell layer and cancer cells.
Clin Cancer Res , 12 (17) , 5216-5223  (2006)
原著論文13
恩田貴志
【Neoadjuvant Therapyの適応と効用・II】卵巣癌
癌と化学療法 , 34 (11) , 1735-1739  (2007)
原著論文14
Satoh T, Yoshikawa H,et al.
High incidence of silent venous thromboembolism before treatment in ovarian cancer.
Br J Cancer , 97 (8) , 1053-1057  (2007)
原著論文15
Uno K, Yoshikawa H, et al.
Tissue factor expression as a possible determinant of thromboembolism in ovarian cancer.
Br J Cancer , 96 (2) , 290-295  (2007)
原著論文16
吉川 裕之、佐藤 豊実
婦人科腫瘍に対する術前化学療法
医学のあゆみ , 221 (4) , 285-290  (2007)
原著論文17
恩田貴志
婦人科がん治療の臨床試験 新たなエビデンスを求めて
進行卵巣癌に対するNAC化学療法 NAC vs.術後 , 57 (13) , 2147-2155  (2008)
原著論文18
恩田貴志
進行卵巣癌に対するNAC化学療法-NAC vs 術後-
産婦人科の実際  (2008)
原著論文19
Onda T, Matsumoto K, Shibata T et al.
Phase III trial of upfront debulking surgery versus neoadjuvant chemotherapy for stage III/IV ovarian, tubal and peritoneal cancers
Jpn J Clin Oncol , 38 (1) , 74-77  (2008)
原著論文20
Onda T,Yoshikawa H, et al.
Feasibility study of neoadjuvant chemotherapy followed by interval debulking surgery for stage III/IV ovarian, tubal, and peritoneal cancers: Japan Clinical Oncology Group Study JCOG0206.
Gynecol Oncol  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-09-24
更新日
-