年金改革の枠組みと条件に関する研究

文献情報

文献番号
199700200A
報告書区分
総括
研究課題名
年金改革の枠組みと条件に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
藤田 伍一(一橋大学社会学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障・人口問題政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これから21世紀にかけてわが国の公的年金(ここでは厚生年金を念頭におく)の財政需要はいよいよ逼迫してくると考えられている。そこで最も社会保障の中でリスクの安定している年金を自助的な制度に変換することで財政負担を抑制し、あらたな制度展開を図る必要がある。本研究ではイギリスで制度化されている「コントラクト・アウト(一定条件にある私的年金の加入者に対して公的年金の適用を除外すること)」制度に注目し、その日本向け応用型の開発を目的にして厚生年金基金を対象に実態面からの調査・研究をおこなったものである。
研究方法
本研究は公的年金の改革の枠組みを探ることを最終的な目的とすることから、報酬比例部分に積立型の自助的性格をもつ厚生年金基金を実態調査研究の対象とした。方法論的には 2つの部分から成っている。すなわち、1 つは約 300件の厚生年金基金を対象とする「アンケート調査」、もう1 つは重点的に全国から30件を選びだしておこなった「聞き取り調査」である。
アンケート調査では、全国の基金のうち北日本を中心に300 件(総合型100 件、連合型100 件、単独型100 件)を抽出して調査票を作成し、郵送による回答をお願いした。調査票の内容は、1.年金環境、2.公的年金の財政問題、3.厚生年金基金の現状と将来、4.企業年金の位置づけ、の4 つに絞っている。
質問項目の1.では、21世紀の社会変化のうち年金制度に大きな影響を与えるもののうち、まだ十分な対策が取られていないものについて質問した。2.では、昨年(97年)に厚生省から示された年金に関する5 つの選択肢について好ましい案とそれを選んだ理由について質問した。3.では、厚生年金基金の制度的問題(設立形態や加入員規模による格差など)や財政問題(運用利回りなど)および受給権の保全問題(年金のポータビリティなど)について質問した。4.では、企業年金の将来と展望について3 点ほど質問した。すなわち、退職一時金と年金の代替性の問題、年金基本法の制定議論、確定拠出型年金の導入問題、の3 つである。回答数は192 件で回答率は64%であった。
本調査研究のもう1 つの柱は「聞き取り調査」である。アンケート調査を補足すると同時に、個別的な問題点を併せて聴取する目的で実施した。調査は全国を6 つの地区、すなわち鹿児島・宮崎地区、山口地区、佐賀・久留米地区、福岡地区、大阪地区、北海道地区の30基金(2 基金は基金側の都合がつかず)を対象とした。ヒアリングには各基金とも好意的で、現場での貴重な意見を聴取することができた。
結果と考察
本研究はアンケート調査と聞き取り調査を柱に公的年金の改革の枠組みを考察するために実施したものであって、調査研究結果は次のとおりである。
アンケート調査の質問項目1.では、21世紀にかけて重要と思われる社会変化のうち「人口の高齢化」と「労働市場の変化」をあげて政策的対応を求める回答が多かった。一部には人口高齢化に関連して年金と介護保険との関係を明確にしてほしいとの要望も寄せられている。また「経済成長の鈍化」を前提として対策を立てるべきだとの指摘が見られる一方で、経済成長を高めないと有効な社会変化への有効な対策がとれないとの意見も出されている。
2.の「5 つの選択肢」についての質問では、報酬比例部分の全面的な廃止または民間移管について基本的に「賛成である」とする意見と「反対である」とする意見に割れているが、他方で「賛成とも反対ともいえない」とする意見も比較的多く見られる。その一因は給付計算における基礎率などが不明なことによると見られる。そのため自由解答のところで基礎率の情報公開を求める意見が出されている。また、公的年金の選択肢は必ずしも5 つに限らないとか、具体的な数字を挙げた選択肢よりも政策当局の政策理念を明示すべきだとの意見が提出されているのも注目される点である。
3.の運用利回り低下に関する設問は各基金がもっとも関心を寄せる問題であるが、将来についても「できるだけ厚年本体の利率に近いように努力する」との回答が予想以上に多かった。また、ここ数年はなんとか凌いでいきたいとする意見もいくつか見られた。しかし体力のない基金は限界に近いとの指摘もあって、多くの基金が困難な財政状況にあることを窺わせた。次に労働市場の流動化に関連した質問では、転職にともなうポータビリティの確保策のありかたについて中央機関で一元的に管理する考えと個人別勘定を金融機関に設けることで解決するとの考えが多かった。また構想の具体化の過程で判断したいとの意見もあり、今や具体的な試案づくりに進むべき段階にきているとの印象を受けた。
4.の企業年金の位置づけに関する質問で退職一時金と退職年金の関係については、両者を制度的に区分する考えと原資が同じであるために実質的に両者は代替可能なものとする考えがあるが、両者の税制上の扱いでは少なくとも同等化(中立化)すること、できれば年金に内容に照らして税制上の優遇策を講じるべきだとの意見が強いように思われた。同じく年金基本法の内容についても一時金を含めず、年金に限定すべきだとの意見が優っている。確定拠出型年金の導入問題では多くの基金の基本姿勢は固まっていないようであったが、コスト面から一部差し替える方法を考案すべきだとの意見が比較的多いように見受けられた。
結論
厚生年金基金は厚生年金の報酬比例部分を代行する企業年金の性格をもつが、その発足にあたってはイギリスのコントラクト・アウト(私的年金の代替による公的の適用除外)制度を一部モデルにしたと見られる。わが国の場合は法律によって厚生年金の完全代行を余儀なくされているが、この完全代行性について見直しをおこなう必要があるのではないかと考えられる。アンケート調査の2.の項目の自由記入方式による解答では、代行制度自体を否定する意見はないものの、改革方向として、もっと自由度のある制度設計を希望する意見が強かった。
報告者本人は完全代行型から条件クリア型への移行を仮説的課題としており、調査時にもこれに関する妥当性について意見を聴取した。その結果、完全代行型から条件代行型への移行について強い関心が寄せられたが、反対などの異論は見られなかった。条件代行型とは、厚生年金の業務内容を完全代行する制度ではなくて、一定の条件をクリアすれば厚生年金を代行したものと見なしうるというものである。こちらの方が基金に参加する企業の自由度とメリットは大きいと見られる。
またコントラクト・アウトにあたっては、複数の年金を合算するケースでも条件をクリアすれば認めるように規定を弾力化することも検討に値すると思われる。これらの条件については、年金基本法で規定することが望ましいかも知れない。
厚生省の「5 つの選択肢」では報酬比例部分の全面的廃止または民間移管が1 つの案として考えられていたが、コントラクト・アウトを導入すれば、代行の条件を満たす基金は希望によって民間に移管することができるのであって、民営化のメリットがないと判断すれば、これまで通り代行任務を継続すればよいのである。
このように、現在の代行制度を改善することで自由度の高い、しかもメリットの多い企業年金をつくることができるように思われる。今後はクリアすべき条件について検討を進める必要があろう。

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