医療費削減と患者負担軽減をめざした癌の新しい分子遺伝学的診断法の開発

文献情報

文献番号
200621014A
報告書区分
総括
研究課題名
医療費削減と患者負担軽減をめざした癌の新しい分子遺伝学的診断法の開発
課題番号
H16-3次がん-一般-022
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
森 正樹(九州大学・生体防御医学研究所・臨床腫瘍学部門)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
19,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は(1)乳癌・消化器癌における末梢血・骨髄の微量癌検出および解析(2)末梢血液・骨髄液中に含まれる癌細胞と非癌細胞(宿主の骨髄由来細胞や循環内皮細胞など)の両方に着目し、転移・再発に強く関与する遺伝子マーカーを同定することで、再発予測の精度をあげることを目的とする。
研究方法
1)宿主を含めた転移マーカーの同定:術前stage IIより3年以内に再発した乳癌患者3例と無再発癌患者3例の術前骨髄液よりmicroarray を実施。転移陽性患者のみに発現する遺伝子を同定。
2)これまで集積した乳癌症例のうち臨床病理学的因子や再発転移・予後が明らかになった約600症例について解析を行う。胃癌約900例についても候補遺伝子の発現の臨床病理学的意義について解析。
結果と考察
最終目標2000例を超え合計2478例 (乳癌1214例 食道癌17例、胃癌1035例 大腸癌167例、その他16例 健常コントロール29例)の乳癌・消化器癌における末梢血・骨髄の微量癌検出および解析を終えた。
1) microarray解析の結果、S100A9, CA2, EEF1A1, FTH1、 HA-1、HIF3A、HMOX1、LYZ、MMP1、 MMP14、PRG1、QRSL1、TIMP-1、U-PAR、 UQCRH、VEGFR等が転移陽性乳癌症例において過剰発現。
2) (1)u-PAR:骨髄液においてu-PAR(+)140例はu-PAR(-)512例に比べ、統計学的有意差をもちDFS、OSともに予後が悪かった。一方、末梢血液ではu-PAR陽性例が陰性例に比しDFSが有意に低値を示した。
(2)VEGFR-1:末梢血液および骨髄液ともに、VEGFR-1陽性例は陰性例に比べてDFSが低値を示した。(3)MMP-14:骨髄については術後再発について有意差は認めなかった。一 方、末梢血液においては、術後再発が高発現群で有意に多かった(P<0.001)が、他の因子についての有意差は認めなかった。また、末梢血液において、無再発生存曲線を2群間で比較しても、log-rank testにて有意差を確認した(P<0.001)。
結論
胃癌については従来汎用してきた血中ITCの存在が転移・再発に直接関係しないことを明らかにした。また、乳癌・大腸癌ではCK7,CEAが転移・再発マーカーとして有用で臨床応用の可能性は十分にある。
u-PAR、VEGFR-1、MMP-14が末梢血液においてこれらの遺伝子が乳癌の再発を予測しうるマーカーとして有用となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2007-04-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2008-02-28
更新日
-

文献情報

文献番号
200621014B
報告書区分
総合
研究課題名
医療費削減と患者負担軽減をめざした癌の新しい分子遺伝学的診断法の開発
課題番号
H16-3次がん-一般-022
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
森 正樹(九州大学・生体防御医学研究所・臨床腫瘍学部門)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は(1)乳癌・消化器癌における末梢血・骨髄の微量癌検出および解析(2)末梢血液・骨髄液中に含まれる癌細胞と非癌細胞(宿主の骨髄由来細胞や循環内皮細胞など)の両方に着目し、転移・再発に強く関与する遺伝子マーカーを同定することで、再発予測の精度をあげることを目的とする。

研究方法
1)宿主を含めた転移マーカーの同定:術前stage IIより3年以内に再発した乳癌患者3例と無再発癌患者3例の術前骨髄液よりmicroarray を実施。転移陽性患者のみに発現する遺伝子を同定。
2)これまで集積した乳癌症例のうち臨床病理学的因子や再発転移・予後が明らかになった約600症例について解析を行う。胃癌約900例についても候補遺伝子の発現の臨床病理学的意義について解析。

結果と考察
最終目標2000例を超え合計2478例 (乳癌1214例 食道癌17例、胃癌1035例 大腸癌167例、その他16例 健常コントロール29例)の乳癌・消化器癌における末梢血・骨髄の微量癌検出および解析を終えた。
1) microarray解析の結果、S100A9, CA2, EEF1A1, FTH1、、HIF3A、HMOX1、MMP1、 MMP14、PRG1、TIMP-1、U-PAR、 UQCRH、VEGFR等が転移陽性乳癌症例において過剰発現。
2) (1)u-PAR:骨髄液においてu-PAR(+)140例はu-PAR(-)512例に比べ、統計学的有意差をもちDFS、OSともに予後が悪かった。一方、末梢血液ではu-PAR陽性例が陰性例に比しDFSが有意に低値を示した。(2)VEGFR-1:末梢血液および骨髄液ともに、VEGFR-1陽性例は陰性例に比べてDFSが低値を示した。(3)MMP-14:骨髄については術後再発について有意差は認めなかった。一 方、末梢血液においては、術後再発が高発現群で有意に多かった(P<0.001)が、他の因子についての有意差は認めなかった。また、末梢血液において、無再発生存曲線を2群間で比較しても、log-rank testにて有意差を確認した(P<0.001)。
結論
乳癌・大腸癌ではCK7,CEAが転移・再発マーカーとして有用で臨床応用の可能性は十分にある。
u-PAR、VEGFR-1、MMP-14が末梢血液においてこれらの遺伝子が乳癌の再発を予測しうるマーカーとして有用となることが期待される。
1、MMP-14が末梢血液において過剰発現を示した症例は高い再発率を示したことから、これらの遺伝子が乳癌の再発を予測しうるマーカーとして有用となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2007-04-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2008-02-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200621014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
目的は、現在の臨床診断より前のsubclinical levelで確実に再発を診断するために真の転移・再発マーカーを開発することである。平成16年度の多施設共同研究による解析の結果、「真の転移能」を有する遊離癌細胞を検出する必然性を明らかにした。平成17年度には癌幹細胞、骨髄中培養能力(+)癌細胞など転移のための特別な能力を有する癌細胞に着目し、18年度は宿主側因子の重要性を臨床検体で明らかにするなど、今後の転移・再発研究の方向性を数年で確立したこと。
臨床的観点からの成果
現在外科根治手術後の再発や臨床病理学的因子のみでは予測し得ない再発・転移例が臨床的に重要な問題である。この原因として、「遊離癌細胞」の存在が示唆されていたが、本研究の成果により臨床的有用なマーカーをみつけるのに、単なる癌細胞を検出するマーカーではなく、転移を来す宿主側の要因そのものが重要であることを示すことができた。従って、存在するpopulationの少ない癌細胞を検出するより遙かに高率に循環血液中において転移予測因子を検出しえる可能性を示した。
ガイドライン等の開発
特にありません
その他行政的観点からの成果
本研究の究極の目標は「医療費および患者負担軽減をめざした新しい分子遺伝学的診断・治療法の開発」にある。たとえば大腸癌では試算により年間400億円の抗癌剤治療の年間費用を投じているが、このうち70%が無効例であるとすると、実に280億円の損失が生じていることになる。このようなわが国における浪費解消のためには、鋭敏な転移・再発マーカーを同定し、抗癌剤投与を本当に必要とする患者を正確に選択しえるようなシステムを構築する必要がある。本研究によりその礎を完成することに成功した。
その他のインパクト
厳重に管理された臨床的情報とともに乳癌・消化器癌より合計2500例もの症例を対象に骨髄および末梢血液を(3回ずつ)解析するなど、従来の報告にない圧倒的な症例数にインパクトがある。また、抗癌剤耐性や放射線耐性と関連のある癌幹細胞について着目した点や、宿主側因子のいくつかの分子は治療標的としても応用可能な点など、単なる診断ツールの開発研究にとどまらず治療応用研究の可能な点が、がん治療に携わる多くの研究者・臨床家に少しずつ多岐にわたりインパクトを与えうるものと自負している。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
62件
その他論文(和文)
43件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
106件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mimori K, Mori M et al
Coexpression of MMP-7 and EGF receptor in colorectal cancer; an EGF receptor tyrosine kinase inhibitor is effective against MMP-7 expressing cancer cells
Clin Cancer Res , 10 , 8243-8249  (2004)
原著論文2
Masuda TA, Mori M, et al
Detection of Occult Cancer Cells in Peripheral Blood and Bone Marrow by Quantitative RT-PCR Assay for Cytokeratin-7 in Breast Cancer Patients with Curative Operation
Int J Oncol , 26 , 721-730  (2005)
原著論文3
Nishida K, Mori M, et al
Global analysis of altered gene expressions during the process of esophageal squamous cell carcinogenesis in the rat: a study combined with a laser microdissection and a cDNA microarray
Cancer Res , 65 , 401-409  (2005)
原著論文4
Nagahara H, Mimori K, Mori M.et al
Clinicopathologic and biological significance of kallikrein 6 overexpression in human gastric cancer
Clin Cancer Res , 11 , 6800-6806  (2005)
原著論文5
Mimori K, Kataoka A,Ohno S, Mori M.et al
Identification of molecular markers for metastasis-related genes in primary breast cancer cells
Metastasis , 22 , 59-67  (2005)
原著論文6
Iinuma H, Mimori K, Mori M et al
Usefulness and clinical significance of quantitative real-time RT-PCR to detect isolated tumor cells in the peripheral blood and tumor drainage blood of patients with colorectal cancer
Int J Oncol , 28 (2) , 297-306  (2006)
原著論文7
Haraguchi N, Mimori K, Mori M et al
Characterization of a side population of cancer cells from human gastrointestinal system
Stem Cell , 24 , 506-513  (2006)
原著論文8
Yamashita K, Mori M,et al
PGP9.5 methylation in diffuse-type gastric cancer
Cancer Res , 66 , 3921-3927  (2006)
原著論文9
Mimori K, Inoue H, Mori M.et al
FHIT is up-regulated by inflammatory stimuli and inhibits prostaglandin E2-mediated cancer progression
Cancer Res , 66 , 2683-2690  (2006)
原著論文10
Tanaka S, Mori M et al
Specific peptide ligand for Grb7 signal transduction protein and pancreatic cancer metastasis
J Natl Cancer Ins , 98 , 491-498  (2006)
原著論文11
Haraguchi N, Inoue H, Tanaka F, et al
Cancer stem cells in human gastrointestinal cancers
Hum Cell , 19 (1) , 24-29  (2006)
原著論文12
Masuda T, Mimori K, Mori M, et al
Occult micrometastasis
Nippon Rinsho , 64 (3) , 442-449  (2006)
原著論文13
Mimori K, Nishida K, Nakamura Y, et al
Loss of MAL Expression in Precancerous Lesions of the Esophagus
Ann Surg Oncl  (2007)
原著論文14
Nakamura Y, Tanaka F, Nagahara H, et al
Opa Interacting Protein 5 (OIP5) Is a Novel Cancer-testis Specific Gene in Gastric Cancer
Ann Surg Oncol , 14 (2) , 885-892  (2007)
原著論文15
Ieta K, Ojima E, Tanaka F, et al
. Identification of overexpressed genes in hepatocellular carcinoma, with special reference to ubiquitin-conjugating enzyme E2C gene expression
Int J Cancer , 121 , 2787-2792  (2007)
原著論文16
Mimori K, Kosaka Y, Hirasaki S, et al
Disseminated isolated tumor cells in bone marrow of esophageal cancer cases
Esophagus , 4 , 29-33  (2007)
原著論文17
Hirasaki S, Noguchi T, Mimori K, et al
BAC Clones Related to Prognosis in Patients with Esophageal Squamous Carcinoma: An Array Comparative Genomic Hybridization Study.
Oncologist , 12 , 406-417  (2007)
原著論文18
Kosaka Y, Mimori K, Fukagawa T, et al
Identification of the high-risk group for metastasis of gastric cancer cases by vascular endothelial growth factor receptor-1 overexpression in peripheral blood.
Br J Cancer , 96 , 1723-1728  (2007)
原著論文19
Mimori K, Fukagawa T Kosaka Y,et al
Hematogenous Metastasis in Gastric Cancer Requires Isolated Tumor Cells and Expression of Vascular Endothelial Growth Factor Receptor-1
Clin Cancer Res  (2007)
原著論文20
Mimori K, Fukagawa T, Kosaka M, etal
A large-scale study of MT1-MMP as a marker for isolated tumor cells in peripheral blood and bone marrow in gastric cancer cases.
Ann Surg Oncol  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-09-18
更新日
-