がんの臨床的特性に関する分子情報に基づくがん診療法の開拓的研究

文献情報

文献番号
200621007A
報告書区分
総括
研究課題名
がんの臨床的特性に関する分子情報に基づくがん診療法の開拓的研究
課題番号
H16-3次がん-一般-008
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 輝彦(国立がんセンター研究所 腫瘍ゲノム解析・情報研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 落合 淳志(国立がんセンター東病院臨床開発センター 臨床腫瘍病理部)
  • 市川 仁(国立がんセンター研究所 腫瘍発現解析プロジェクト)
  • 菅野 康吉(栃木県立がんセンター研究所 がん遺伝子研究室・がん予防研究室)
  • 青木 一教(国立がんセンター研究所 がん宿主免疫研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
61,875,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臨床的特性を規定する分子情報の解析に基づきがん診療の標的を同定し、新たな診療法を開拓する事を目的に以下の研究を行った。(1)治療前生検組織による治療感受性の予知、(2)白血病(AML)発症に働く分子経路の解明と悪性度診断法の開発、(3)マイクロサテライト不安定性を示す散発性大腸がんのメチル異常に相関する遺伝素因の解析、(4)固形がんに対する同種主要組織適合抗原(MHC)遺伝子導入と造血幹細胞移植の複合療法の開発。
研究方法
(1)化学放射線治療施行前の食道がん生検組織発現プロファイルを解析する臨床試験を立ち上げた。腫瘍内血管画像解析により放射線感受性を予知する方法を、複数施設の頭頸部がん治療前生検組織に適用した。(2)AML臨床検体の発現解析データから発症・悪性化に関わる分子経路の探索を行うとともに、小児単球系AMLの予後不良群を探索した。(3)MLH1遺伝子上流の多型とメチル化異常との相関を解析した。(4)自家骨髄移植モデルマウスの大腸がん移植腫瘍に同種MHC class I抗原遺伝子を導入し、全身性の抗腫瘍効果を評価した。
結果と考察
(1)食道がんの新規臨床研究の症例登録1年目時点での予備的解析では、奏効性を指標とした優れた性能の判別器が得られることを示唆した。腫瘍内血管密度の客観的評価法を多施設症例で検討し、放射線治療感受性予知の可能性が示された。(2)白血病キメラ転写因子AML1-MTG8、CBFβ-MYH11が自己複製促進能を有するHOXB2の転写を直接制御していること、小児単球系AMLの遺伝子発現プロファイルの高年齢型においてMLL遺伝子転座を有する症例の予後が極めて不良であることを見出した。(3)MLH1遺伝子プロモーター領域のメチル化と相関を示すハプロタイプを見出した。(4)自家造血幹細胞移植マウスモデルにおいて、移植腫瘍に対する同種MHC遺伝子導入が明らかな有害事象を示すことなく全身性の腫瘍特異的免疫反応を誘導することを示した。
結論
前向き臨床研究により、食道がん・頭頚部がん等の治療前生検組織の遺伝子発現解析や血管画像解析に基づく予知医療の可能性が示唆された。AML発症に関わる重要な分子経路が明らかになり、リスク分類に資する分子情報が同定された。散発性大腸がんのメチル化異常と相関する多型を見出した。自家造血幹細胞移植と同種MHC遺伝子導入の複合治療の有用性を示した。

公開日・更新日

公開日
2007-04-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200621007B
報告書区分
総合
研究課題名
がんの臨床的特性に関する分子情報に基づくがん診療法の開拓的研究
課題番号
H16-3次がん-一般-008
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 輝彦(国立がんセンター研究所 腫瘍ゲノム解析・情報研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 落合 淳志(落合 淳志 国立がんセンター東病院臨床開発センター 臨床腫瘍病理部 )
  • 市川 仁(国立がんセンター研究所 腫瘍発現解析プロジェクト )
  • 菅野 康吉(栃木県立がんセンター研究所 がん遺伝子研究室・がん予防研究室 )
  • 青木 一教(国立がんセンター研究所 がん宿主免疫研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新たながん診療標的を同定し、診療法開拓に貢献する事を目的として以下の研究を行った:(1)生検組織による治療感受性の予知、(2)白血病(AML)発症に働く分子経路の解明と悪性度診断法の開発、(3)各種固形腫瘍の発症・進展の遺伝子診断に役立つ技術の開発、(4)固形がんに対する同種主要組織適合抗原(MHC)遺伝子導入と造血幹細胞移植の複合療法の開発。
研究方法
(1)化学放射線治療前食道がん生検組織の遺伝子発現プロファイルから、奏効性を予知する判別器を構築した。生検組織腫瘍内血管画像解析システムを開発し、多施設の頭頸部がんで放射線感受性予知について検証した。(2)AML臨床検体の発現解析プロファイルと各種診断情報等の関連を解析した。(3)膀胱がんのLOHと再発リスクとの相関を解析した。遺伝性非ポリポーシス大腸がん(HNPCC)の病的変異検出率を規定する因子を探索した。MLH1遺伝子上流のメチル化異常と多型を解析した。(4)造血幹細胞移植モデルマウスの大腸がん移植腫瘍に同種MHC抗原遺伝子を局注し、全身性の抗腫瘍効果を評価した。
結果と考察
(1)新規に立ち上げた食道がん臨床研究の症例登録1年目時点での解析から、優れた性能の判別器導出が示唆された。腫瘍内血管密度指標が、治療感受性予知に有用であった。(2)造血幹細胞様の遺伝子発現誘導による自己複製の促進がt(8;21)-AMLとinv(16)-AMLの共通分子経路であった。小児単球系AML治療の層別化に有用な予後不良サブタイプを同定した。(3)LOHが表在性膀胱がんの再発リスク推定に有用な指標であった。第一度近親内のがん罹患数と、発端者のがん初発年齢の組み合わせが、HNPCC病的変異検出確率推定の良い指標となった。MSI陽性の散発性大腸がんにおいてMLH1遺伝子のプロモーター領域のメチル化と相関する多型を見出した。(4)免疫遺伝子細胞複合治療が、有害事象を増悪することなく全身性の腫瘍特異的免疫反応を誘導した。
結論
治療前生検組織の解析に基づくがんの予知医療の可能性を示した。AML発症の分子経路を解明し、リスク分類に資する分子情報を同定した。膀胱がん再発リスクやHNPCCの病的遺伝子変異検出確率を推定する指標を開発した。散発性大腸がんのメチル化異常と相関する多型を見出した。同種あるいは自家造血幹細胞移植と同種MHC遺伝子導入の複合治療の有用性を示した。

公開日・更新日

公開日
2007-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200621007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1)食道がん・頭頚部がん治療前生検組織の遺伝子発現解析・血管画像解析に基づく予知医療の可能性を示した。(2)AML発症の分子経路を解明し、リスク分類に資する分子情報を同定した。(3)膀胱がん再発リスクやHNPCCの病的遺伝子変異検出確率を推定する指標を開発した。(4)散発性大腸がんのメチル化異常と相関する多型を見出した。(5)動物モデルにおいて、同種あるいは自家造血幹細胞移植と、同種主要組織抗原遺伝子導入の複合治療の効果・安全性を示した。
臨床的観点からの成果
(1)治療前生検組織を用いた分子・画像解析による客観的指標による均てん可能な予知医療法の開発が進んだ。(2)小児白血病の層別化治療において、高危険群に分類すべきと思われる予後不良なサブタイプを単球系AMLの中に見出した。(3,4)高齢女性等の大腸がん罹患に関する高リスクグループを捕捉し、大腸がんの予防戦略を立てるために有用な指標となることが期待された。(5)標準的治療に抵抗性を示す固形がんに対する新たな治療選択肢の提案ができ、段階的な臨床試験への移行の準備ができた。
ガイドライン等の開発
(3)既往歴と家族歴からHNPCCの遺伝子検査で異常が認められるリスクを推定するための診断基準案を作成した。
その他行政的観点からの成果
(1、2)最新の分子情報等を用いたがん医療のさらなる個別化を推進することにより、がんの治療効果とQOLを高める技術の開発とその普及への道筋を明らかにした。(3,4)がん罹患や多重がん発生のリスクの評価法を開発し、がん予防においても分子情報等を用いた個別化による適確な早期発見の実現の可能性を示した。(5)新しい強力な免疫治療の提案により、難治がん・進行がん対策に貢献した。
その他のインパクト
新しいがん診療法の開拓のための、がんの臨床的特性に関する分子情報解析を通して、がんの発生・進展・治療応答性に関する分子経路の一端を明らかにし、国際協力・競争の中で進められているがんの本態解明の研究にも貢献した。

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
115件
その他論文(和文)
21件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
95件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計11件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
6件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Lim, S., Zhang, S., Ishii, G., et al.
Predictive markers late cervical metastasis in stage I and II invasive squamouse cell carcinoma of the oral tongue.
Clinical Cancer Research , 10 , 166-172  (2004)
原著論文2
Yoh, K., Ishii, T., Ochiai, A. et al.
Breast cancer resistance protein impacts clinical outcome in platinum-based chemotherapy for advanced non-small cell lung cancer.
Clinical Cancer Research , 10 , 1691-1697  (2004)
原著論文3
Zhang SC, Hironaka S., Ochiai A. et al.
Computer-assisted analysis of biopsy specimen microvessels predicts the outcome of esophageal cancers treated with chemoradiotherapy.
Clinical Cancer Research , 12 , 1735-1742  (2006)
原著論文4
H. Ichikawa, K. Tanabe, H. Mizushima, et al.
Common gene expression signatures in t(8;21)- and inv(16)-acute myeloid leukaemia.
British Journal of Haematology , 135 (3) , 336-347  (2006)
原著論文5
Miyakura Y, Sugano K, Akasu T et al.
Extensive but hemiallelic methylation of the hMLH1 promoter region in early-onset sporadic colon cancers with microsatellite instability.
Clinical Gastroenterology & Hepatology , 2 (2) , 147-156  (2004)
原著論文6
Murakami Y, Okamura H, Sugano K et al.
Psychologic distress after disclosure of genetic test results regarding hereditary nonpolyposis colorectal carcinoma.
Cancer , 101 (2) , 395-403  (2004)
原著論文7
Maekawa M, Nagaoka T, Sugano K et al.
Three-dimensional microarray compared with PCR single-strand conformation polymorphism analysis / DNA sequencing for mutation analysis of K-ras codons 12 and 13.
Clinical Chemistry , 50 (8) , 1322-1327  (2004)
原著論文8
Tomita N, Fukunaga M, Sugano K et al.
The novel germline mutation of the hMLH1 gene in a case of suspected hereditary non-polyposis colorectal cancer(HNPCC) in a patient with family history of cancer.
Japanese Journal of Clinical Oncologyl , 34 (9) , 556-560  (2004)
原著論文9
Iwata T, Fujita T, Sugano K, et al.
Frequent immune responses to a cancer/testis antigen, CAGE, in patients with microsatellite instability-positive endometrial cancer.
Clinical Cancer Research , 11 (10) , 3949-3957  (2005)
原著論文10
Chihara Y, Sugano K, Kobayashi A et al.
Loss of blood group A antigen expression in bladder cancer caused by allelic loss and/or methylation of the ABO gene.
Laboratory Investigation , 85 (7) , 895-907  (2005)
原著論文11
Takahashi M, Kikuchi M, Sugano K et al.
Detection of APC gene deletion by double competitive polymerase chain reaction in patients with familial adnomatous polyposis.
International Journal of Oncology , 29 (2) , 413-421  (2006)
原著論文12
Fujita S, Baba H, Sugano K et al.
Allelic status of chromosomes 17p, 18q, 22p, 3p and their clinical usefulness in colorectal Cancer.
Anticancer Research , 26 (4) , 2833-2840  (2006)
原著論文13
Maekawa M, Taniguchi T, Sugano K et al.
Methylation of mitochondrial DNA is not a useful marker for cancer detection.
Clinical Chemistry , 50 (8) , 1480-1481  (2004)
原著論文14
K. Hatanaka, T. Yoshida, K. Aoki et al.
Interferon a and antisense K-ras combination gene therapy against pancreatic cancer.
Journal of Gene Medicine , 6 , 1139-1148  (2004)
原著論文15
A. Yamane, K. Aoki, J. Yokota, et al.
Differential ability of polymorphic OGG1 proteins to suppress mutagensis induced by 8-hydroxyguanine in human cell in vivo.
Carcinogenesis , 25 , 1689-1694  (2004)
原著論文16
Y. Miura, T Yoshida, K. Aoki et al.
Intraperitoneal injection of adenovirus expressing antisense K-ras RNA suppresses peritoneal dissemination of hamster syngeneic pancreatic cancer without systemic toxicity.
Cancer Letters , 218 , 53-62  (2005)
原著論文17
M. Ohashi, T Yoshida, K. Aoki et al.
Adenovirus-mediated interferon a gene transfer induces regional direct cytotoxicity and possible systemic immunity against pancreatic cancer.
Britisha Journal of Cancer , 93 , 441-449  (2005)
原著論文18
H. Hara, T Yoshida, K. Aoki et al.
Local interferon a gene therapy elicits a systemic immunity in a syngeneic pancreatic cancer model in hamster.
Cancer Science , 98 , 455-463  (2007)
原著論文19
S. Furuhata, K. Aoki, S. Ohnami et al.
Gene expression profiles of endothelial progenitor cells by oligonucleotide microarray analysis.
Molecular Cellular Biochemistry , 298 (1) , 125-138  (2007)
原著論文20
N. Saeki, K. Aoki, H. Sasaki, et al.
GASDERMIN, suppressed frequently in gastric cancer, is a target of LMO1 in TGF-b-dependent apoptotic signaling.
Oncogene , 26 (45) , 6488-6498  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-09-18
更新日
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