文献情報
文献番号
200621003A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトがんで高頻度に変異の見られるがん関連遺伝子の発がんにおける意義の解明とその臨床応用に関する研究
課題番号
H16-3次がん-一般-003
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
田矢 洋一(国立がんセンター研究所放射線研究部)
研究分担者(所属機関)
- 荒川 博文(国立がんセンター研究所生物物理部)
- 北林 一生(国立がんセンター研究所分子腫瘍学部)
- 原 英二(徳島大学ゲノム機能研究センター)
- 北川 雅敏(浜松医科大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
69,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
非常に多くのヒトがんにおいて、p53とRB蛋白質を中心とした細胞周期、チェックポイント関連蛋白質に変異が起きていることがわかってきた。したがって、これらの蛋白質の生理機能を集中的に解析することによって、多くのヒトがんに共通した発がん機構を明らかにでき、新しいがん治療法開発への応用の道も開けると期待できる。本研究はそれを目指す。
研究方法
細胞にDNAダメージを与え、リン酸化部位特異的な抗体でRB蛋白質のリン酸化状態を解析した。さらに、その際のE2F-1とRB蛋白質との結合を解析した。また、細胞膜周辺でのp53やアクチンファイバーやクラスリン重鎖などを蛍光顕微鏡や免疫電子顕微鏡で観察した。一方、 マウスの生体内におけるp16遺伝子及びp21Waf1の発現をバイオルミネッセンスにより可視化した。そして、パピローマができる時期を解析した。
結果と考察
RB蛋白質に関しては、 DNAダメージを細胞に与えると、E2F種のうちE2F1のみがRB蛋白質と強く結合するようになることを見出した。この時、RB蛋白質のSer612のリン酸化がこの複合体形成を促進することも発見した。しかも、このリン酸化はChk1とChk2によってなされることも明らかにした。また、EGFを加えるとp53は細胞膜付近のアクチンファイバー周辺に集まることや、p53をノックダウンするとアクチンファイバーのメッシュ状構造が形成されなくなることも見いだした。さらにp53をノックダウンすると細胞運動が亢進し、そこに正常なp53を戻してやると再び細胞運動が抑制されることもわかった。これは、p53が変異して失活すると癌細胞の浸潤や転移が起き易くなることをも示唆している。さらに、生体内におけるp16INK4a及びp21Waf1遺伝子の発現動態をリアルタイムに解析出来るインビボ・イメージングシステムの構築に成功した。
結論
RB蛋白質がサイクリン依存性キナーゼ以外の酵素でリン酸化され、しかもこれが細胞増殖時ではなくてDNAダメージの際に起きるということは誰も予想していなかった新発見である。p53が細胞膜周辺でエンドサイトーシスや細胞運動を制御しているということも全く予想されていなかった新発見である。これはがん転移を防ぐ方法の開発に応用できるのではないかと期待できる。
公開日・更新日
公開日
2007-04-10
更新日
-