疾患モデルを用いた発がんの分子機構及び感受性要因の解明とその臨床応用

文献情報

文献番号
200621002A
報告書区分
総括
研究課題名
疾患モデルを用いた発がんの分子機構及び感受性要因の解明とその臨床応用
課題番号
H16-3次がん-一般-002
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
中釜 斉(国立がんセンター研究所生化学部)
研究分担者(所属機関)
  • 木南 凌(新潟大学大学院医歯学総合研究科)
  • 山下 聡(国立がんセンター研究所発がん研究部)
  • 杉江 茂幸(金沢医科大学腫瘍病理学)
  • 庫本 高志(京都大学大学院医学研究科)
  • 中島 淳(横浜市立大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
58,792,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
動物発がんモデルを用いて、消化器がんを中心とした発がんの分子機構、環境及び遺伝的修飾要因の同定、更には個体レベルでの発がん感受性要因を明らかにする。得られた成果は、遺伝子情報に基づいた個人対応型のがん予防策の構築、新規化学予防剤或いは治療薬開発における標的候補分子の同定など、臨床への応用を目指す。
研究方法
PhIP誘発大腸発がんモデルを用いて初期段階の遺伝子変化や腫瘍のゲノム変化の網羅的解析を行い、がん発生の分子機構の解明を行う。DSS併用大腸がんモデルでは非大腸発がん物質の修飾作用や遺伝子のメチル化レベルについて解析し、炎症発がんの修飾要因を検討した。ヒトACFを下部消化管拡大内視鏡により観察し、各種臨床データとの相関を調べた。発がん感受性遺伝子に関しては、種々の系統のACF誘発性とハプロタイプ解析により候補領域を絞り込んだ。放射線リンパ腫の発症機構について解析した。また、ENUミュータジェネシスの手法により、ラットミュータントアーカイブの構築を行った。
結果と考察
大腸初期病変であるnon-dysplastic ACFで発現上昇しているSnd1は、細胞傷害性ストレスに対する応答反応への関与が示唆された。大腸発がん感受性遺伝子の局在候補領域の一つをラット16番染色体上の約2Mbに限定化した。大腸腫瘍のゲノム変化の網羅的解析から、系統特異的なcopy数の増加領域を新たに同定し、がん初期発生に寄与する可能性が示唆された。非大腸発がん物質NKKの前処理による炎症性大腸発がん促進作用を見出し、非大腸発がん物質の曝露が炎症発がんの修飾要因である可能性が示唆された。ヒト潰瘍性大腸炎でメチル化レベルが上昇するEsr1は、AOM誘発DSS併用大腸がんの大腸腺管でも同様に上昇していた。放射線照射後のマウス萎縮胸腺では、クローナル増殖する大型リンパ球が持続的に存在し、リンパ腫前駆体細胞の候補と考えられた。Mtf-1は、照射後の再生胸腺内での大型リンパ球の貯留の長短を介してリンパ腫発症に関与することが示唆された。ヒト下部大腸に認められるdysplastic ACFの個数は内臓脂肪型肥満と強く相関した。新規の変異ラットの作出においては、ラットミュータントアーカイブを作製し、Apc遺伝子に終止コドン変異を持つApc遺伝子ノックアウトラットを樹立した。
結論
発がん動物モデルの構築とモデル動物を用いた遺伝学的解析は、がん初期発生の分子機構や発がん感受性要因の解明において、ヒト発がん研究の補完的かつ不可欠な役割を担うものである。

公開日・更新日

公開日
2007-04-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200621002B
報告書区分
総合
研究課題名
疾患モデルを用いた発がんの分子機構及び感受性要因の解明とその臨床応用
課題番号
H16-3次がん-一般-002
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
中釜 斉(国立がんセンター研究所生化学部)
研究分担者(所属機関)
  • 木南 凌(新潟大学大学院医歯学総合研究科)
  • 山下 聡(国立がんセンター研究所発がん研究部)
  • 杉江 茂幸(金沢医科大学腫瘍病理学)
  • 庫本 高志(京都大学大学院医学研究科)
  • 中島 淳(横浜市立大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
動物発がんモデルを用いて、消化器がんを中心とした発がんの分子機構、環境及び遺伝的修飾要因の同定、更には個体レベルでの発がん感受性要因を明らかにする。得られた成果は、遺伝子情報に基づいた個人対応型のがん予防策の構築、新規化学予防剤或いは治療薬開発における標的候補分子の同定など、臨床への応用を目指す。
研究方法
化学発がん物質誘発大腸がんモデルを用いて、がん発生の分子機構の解明を行った。PPARγ阻害による大腸がんの抑制効果及び臨床応用への可能性を解析し、ヒトACFと各種臨床データとの相関を調べた。遺伝学的手法により、大腸、胃、リンパ腫発がんの感受性要因に関連する染色体座を決定した。更に、コンジェニック系統の作製により原因遺伝子の局在を限定化し、各系統の感受性と当該領域のハプロタイプを総合評価することにより候補遺伝子を絞り込んだ。PhIP誘発DSS併用マウス大腸がんモデルの系統差を検討した。又、ENUミュータジェネシスの手法によりラットミュータントアーカイブの構築を行った。
結果と考察
PhIPとAOMの併用により、浸潤性進展を示す大腸がんが誘発された。Snd1は大腸初期病変であるnon-dysplastic ACFで発現上昇し、ラット小腸上皮細胞におけるSnd1の過剰発現は、細胞極性の消失とApc mRNAの翻訳抑制を伴う細胞増殖の亢進を誘発した。PhIP活性化体でヒト大腸がん細胞株を処理するとSND1が発現誘導され、細胞傷害性ストレスに対する応答反応への関与が示唆された。下部消化管拡大内視鏡により、PPARγリガンド投与でヒト大腸ACF が消退・消失することを確認し、また内臓脂肪型肥満とdysplastic ACFの個数が強く相関することを見出した。大腸発がん感受性遺伝子の局在候補領域の一つをラット16番染色体上の約2Mbに限定化した。PhIP誘発DSS併用マウス大腸がんモデルでは系統間で発がん感受性の差が認められ、コンソミック系統を用いた抵抗性遺伝子の効率的な探索が可能となった。リンパ腫発がん感受性Mtf-1候補遺伝子に関しては、遺伝子多型による下流遺伝子制御の違いを見出し、照射後の再生胸腺での大型リンパ球の貯留の長短を介したリンパ腫発症への関与が示唆された。ラットミュータントアーカイブを作製し、Apc遺伝子ノックアウトラットを樹立した。
結論
発がん動物モデルの構築とモデル動物を用いた遺伝学的解析は、がん初期発生の分子機構や発がん感受性要因の解明において、ヒト発がん研究の補完的かつ不可欠な役割を担うものである。

公開日・更新日

公開日
2007-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200621002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
大腸発がん初期段階でのSnd1の過剰発現などの新たな遺伝子変化を見出し、がん初期発生の分子機構の解明への新しい知見を提供した。発がん感受性要因の探索では、PhIP誘発ラット大腸発がん感受性遺伝子の候補領域を2Mbまで絞り込んだ。PhIP誘発DSS併用マウス大腸がんモデルの系統による感受性の違いを示し、候補遺伝子探索での有用性を示した。リンパ腫発がん感受性候補遺伝子Mtf-1のリンパ腫発症機構への関与を明らかにした。ラットミュータントアーカイブを作製し、Apc遺伝子ノックアウトラットを樹立した。
臨床的観点からの成果
下部消化管拡大内視鏡による観察により、PPARγリガンド投与でヒト大腸ACF が消退・消失することを確認し、化学予防剤としての可能性を示唆した。また内臓脂肪型肥満とdysplastic ACFの個数が強く相関することを見出し、生活習慣の改善による内臓脂肪型肥満の抑制がヒト大腸がんの予防に有用であることが示唆された。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
ヒトdysplastic ACFと内臓脂肪型肥満との相関については、2006年秋に新聞記事で取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
86件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
92件
学会発表(国際学会等)
38件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
出願中
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
ヒトdysplastic ACFと内臓脂肪型肥満との相関については、2006年秋に新聞記事で取り上げられた。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
1. Uchida S, Nakagama H, Yamashita K, et al.
Amino acids C-terminal to the 14-3-3 binding motif in CDC25B affect the efficiency of 14-3-3 binding.
J Biochem , 139 , 761-769  (2006)
原著論文2
2. Takahashi H, Nakagama H, Nakajima A, et al.
Inhibition of PPARγ activity in esophageal carcinoma cells results in a drastic decrease of adhesive and invasive properties followed by an induction of apoptotic cell death.
Cancer Sci , 97 , 854-860  (2006)
原著論文3
3. Suzuki R, Sugie S, Nakagama H, et al.
Strain differences in the susceptibility to azoxymethane and dextran sodium sulfate-induced colon carcinogenesis in mice.
Carcinogenesis , 27 , 162-169  (2006)
原著論文4
4. Nakagama H, Nakanishi M, Ochiai M.
Modeling human colon cancer in rodents using a food-borne carcinogen, PhIP.
Cancer Sci , 96 , 627-636  (2005)
原著論文5
5. Ochiai M, Watanabe M, Nakagama H, et al.
Differential staining of dysplastic aberrant crypt foci in the colon facilitates prediction of carcinogenic potentials of chemicals in rats.
Cancer Lett , 220 , 67-74  (2005)
原著論文6
6. Ushigome M, Takatsuka J, Nakagama H, et al.
Up-regulation of the hnRNPA1 gene in human colorectal cancer.
Int J Oncol , 26 , 635-640  (2005)
原著論文7
7. Shibata A, Nakagama H, Masutani M, et al.
Parp-1 deficiency causes an increase of deletion mutations and insertions/rearrangements in vivo after treatment with an alkylating agent.
Oncogene , 24 , 1328-1337  (2005)
原著論文8
8. Fujiwara K, Ochiai M, Nakagama H, et al.
Global gene expression analysis of rat colon cancers induced by a food-borne carcinogen, 2-amino-1-methyl-6-phenylimidazo[4,5-b]pyridine.
Carcinogenesis , 25 , 1495-1505  (2004)
原著論文9
9. Maruyama M, Yamamoto T, , Kominami R, et al.
Mtf-1 lymphoma-susceptibility locus affects retention of large thymocytes with high ROS levels in mice after γ-irradiation.
Biochem Biophys Res Commun , 354 , 209-215  (2007)
原著論文10
10. Kubota T, Yoshikai Y, Kominami R, et al.
Comparison of properties of spontaneous and radiation-induced mouse thymic lymphomas: role of Trp53 and radiation.
Radiation Res , 163 , 159-164  (2005)
原著論文11
11. Tamura Y, Maruyama M, Kominami R, et al.
Predisposition to mouse thymic lymphomas in response to ionizing radiation depends on variant alleles encoding metal-responsive transcription factor-1 (Mtf-1).
Oncogene , 24 , 399-406  (2005)
原著論文12
12. Yamashita S, Shirai T, Ushijima T, et al.
Linkage and microarray analyses of susceptibility genes in ACI/Seg rats: a model for prostate cancers in the aged.
Cancer Res , 65 , 2610-2616  (2005)
原著論文13
13. Yamashita S, Kuramoto T, Ushijima T, et al.
Expression quantitative trait loci analysis of 13 genes in the rat prostate.
Genetics , 171 , 1231-1238  (2005)
原著論文14
14. Kohno H, Sugie S, Tanaka T, et al.
Dietary supplementation with silymarin inhibits 3,2'-dimethyl-4-aminobiphenyl- induced prostate carcinogenesis in male F344 rats.
Clin Cancer Res , 11 , 4962-4967  (2005)
原著論文15
15. Kohno H, Sugie S, Tanaka T, et al.
Suppression of colitis-related mouse colon carcinogene-sis by a COX-2 inhibitor and PPAR ligands.
BMC Cancer , 5 , 46-  (2005)
原著論文16
16. Sugie S, Tanaka T, Mori H, et al.
Effect of alpha-naphthyl isothiocyanate on 2-amino- 3-methylimidazo[4,5-b]pyridine (PhIP)- induced mammary carcinogenesis in rats.
Int J Cancer , 115 , 346-350  (2005)
原著論文17
17. Tanaka T, Suzuki R, Sugie S, et al.
Colonic adenocarcinomas rapidly induced by the combined treatment with PhIP and dextran sodium sulfate in male ICR mice possess beta-catenin gene mutations and increases immunoreactivity for beta-catenin, cyclooxygenase-2 and iNOS.
Carcinogenesis , 26 , 229-238  (2005)
原著論文18
18. Suzuki R, Sugie S, Tanaka T, et al.
Sequential observations on the occurrence of preneopla-stic and neoplastic lesions in mouse colon treated with azoxymethane and dextran sodium sulfate.
Cancer Sci , 95 , 721-727  (2004)
原著論文19
19. Kuramoto T, , Morimura K, Ushijima T, et al.
Sparse and wavy hair: a new model for hypoplasia of hair follicle and mammary glands on rat chromosome 17.
J Hered , 96 , 339-345  (2005)
原著論文20
20. Lu J, Imamura K, Nakajima A, et al.
Chemopreventive effect of peroxisome proliferator-activated receptor γ on gastric carcinogenesis in mice.
Cancer Res , 65 , 4769-4774  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-