死亡診断書による乳児死亡原因の解析

文献情報

文献番号
199700198A
報告書区分
総括
研究課題名
死亡診断書による乳児死亡原因の解析
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
多田 裕(東邦大学医学部新生児学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 日暮眞(東京都母子保健サ-ビスセンタ-)
  • 中村敬(日本こども家庭総合研究所)
  • 長坂典子(母子愛育会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障・人口問題政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
乳幼児の死亡の原因の多くは、周産期の異常に起因したり、出生直後に診断がつくものと推定されている。しかし、これまでは全国的な統計がなく、これらの点は明らかになっていなかった。
今回の死亡診断書の改定により、生後1年以内の乳児期に死亡した場合には出生時の状況などの新たな項目が記載されるようになった。この結果、死亡診断書の集計結果を分析することにより、乳児死亡の減少に向けての今後の周産期や小児期の医療や母子保健の対策に役立つ貴重な資料が得られることが期待されている。本研究の目的は、今回の改定により得られた情報を、臨床面より検討するとともに、乳児死亡の背景を検討することにある。
研究方法
死亡診断書の記載項目と出生時の項目との関連を検討すると共に、厚生省大臣官房統計情報部人口動態課との協議を行い、統計情報部の1995年の関連デ-タの磁気テ-プのコピ-を申請しその解析を行い、乳児死亡原因と出生体重、在胎期間、出生時の異常等の関連につき検討した。
結果と考察
1)出生体重500グラム未満では、出生児の88.5%が1歳未満に死亡し、このうちの87.6%は新生児期に死亡している。出生体重500~1000グラム未満では、出生児の30.9%が1歳未満で死亡し、このうちの79.4%は新生児期に死亡している。出生体重1000~1500グラムでは、出生児の約8%が1歳未満で死亡し、このうちの約75%は新生児期に死亡している。出生体重1500~2000グラム未満では、乳児期に死亡するものは3.9%と減少し、新生児期の死亡は死亡の中の62.3%に減少する。出生体重が2000グラムを超すと、乳児期に死亡するものはわずか0.24%であり、新生児期の死亡が46%となり、生後1カ月以降の乳児期の死亡の割合が増加する。
2)出生体重および妊娠週数ごとの乳児死亡率を出生体重100グラムステップ、妊娠週数1週ステップでみてみると、出生体重ではおよそ850グラムを超すと死亡率は20%以下になり、1100グラムを超すと死亡率は10%以下になる。一方、妊娠週数でみると、26~27週を超すと死亡率は20%以下に低下し、28~29週を超すと10%以下に低下する。
3)死亡場所別にみると、早期新生児期の死亡でも病院以外の場所での死亡が、9%に認められ、生後1カ月以降の死亡では、約18%が自宅またはその他の場所での死亡であり、死因は外因死が約40%、乳児突然死症候群が34%を占めていた。
4)出生体重1000グラム未満では約7割が周産期に発生した病態で死亡していた。この内訳は呼吸障害が23.5%、胎児および新生児の出血が14.1%、新生児の敗血症12.1%、その他の周産期に発症した病態が11.3%であった。先天異常による死亡は、14.2%を占め、周産期に発生した病態に次いで、この体重群における死亡の第2位を占めていた。  
5)乳児死因分類別に死亡の時期をみると、先天異常による乳児死亡は、出生10万人のうち151人であり、このうち55.6%は新生児期に死亡し、44.3%が生後1カ月以降の乳児期に死亡していた。乳児死亡全体に対する割合は約35%であった。周産期に発生した病態群による乳児死亡は、出生10万人のうち127人であり、このうち90.6%は新生児期に死亡していたが、9.4%は生後1カ月以降の乳児期に死亡していた。乳児死亡全体に対する割合は約30%であった。乳児突然死症候群では、出生10万人のうち44人がこの疾患で死亡していた。死亡時期をみると新生児期の死亡は10.2%であるが、1カ月以降の乳児期の死亡は89.8%であり、中でも乳児期前半が多く、70%が生後1~6カ月の時期に死亡していた。乳児死亡全体に占める割合は、10.4%であった。
6)出生体重1000グラム未満では、死因の第一位は呼吸障害を主にした周産期に特異な疾患で死亡しているが、出生体重1000グラム以上になると、死因の一位は先天異常になる。先天異常のうちでも、体重が1000~1500ぐらいまでは染色体異常がもっとも多いが、1500グラムを超すと、心・循環器系奇形の占める割合が高くなった。
これらのことから、わが国の周産期医療の水準が極めて高いことがわかった。周産期に特異な疾患で死亡するものが減少し、出生体重が1000グラムを超せば、死亡することを避けがたい先天異常がない限り、救命される確率が極めて高くなることが実証された。
今後、改訂された死亡統計を用いることによって、現在整備が進められている地域の周産期医療の評価に利用することが可能であると考えられる。また、乳児死亡が著しく改善された今日、死亡の1件1件を臨床的に分析することにより、更に乳児死亡を減少させることが可能である。このために、死亡診断書の改訂により周産期に関する詳細な疫学情報が得られるようになったことは極めて価値が大きいものと考えられる。
結論
出生体重が500グラムを割ると死亡率は約90%であり、それも約9割が新生児期に死亡している。しかし、500~1000グラム未満になると、乳児期に死亡する率は30.9%と低下し、新生児期に死亡するものは約8割になり、残りの2割は生後1カ月以上の乳児期に死亡している。出生体重が1000~1500グラム未満になると、1歳までに死亡するものは8%に過ぎなくなる。出生体重1000グラム未満の死因の第一位は呼吸障害を主にした周産期に特異な疾患であるが、出生体重1000グラムを超すと、死因の第一位は先天異常になる。先天異常の内訳をみると、体重が1000~1500ぐらいまでは染色体異常がもっとも多いが、1500グラムを超すと、心・循環器系奇形の占める割合が高くなる。
これらのことから、わが国の周産期医療の水準は極めて高いと思われる。周産期に特異な疾患で死亡するものが減少し、出生体重が1000グラムを超せば、死亡することを避けがたい先天異常がない限り、救命される確率が極めて高くなることが実証された。出生体重ごとの1歳未満の死亡率をみても出生体重が1000グラムを超せば90%以上が1歳を超して生存している。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)