少子社会における総合的な子どもの健康づくり施策の確立に関する研究

文献情報

文献番号
199700196A
報告書区分
総括
研究課題名
少子社会における総合的な子どもの健康づくり施策の確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
平山 宗宏(日本総合愛育研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障・人口問題政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の子どもを取り巻く環境は、少子化、核家族化の進展により、育児不安や親性の不足、子どもの体力の低下や心の不健康など、親の側にも子どもの側にも憂慮すべき問題が提起され、とくに最近では児童・生徒による殺傷事件までが発生し、子どもの心の健康・心の教育が重要、緊急な問題として社会の要望を集めるに至っている。このような状況の下で、次代を担う子どもの健康を支援する健全な社会基盤を形成していくためには、これら諸問題に的確に対応し、併せて学校保健との連携を密にする必要がある。
このため健康な家庭・社会環境の確立と、少子社会における子どもの健康づくり施策を策定し、子どもの健康の基盤づくりを行うために必要な資料を得る目的で研究を実施した。
研究方法
 本年度の研究実施期間を考慮し、子どもの心身の健康に関わる有識者に対するアンケートによって意見を求める調査を実施した。
有識者調査としては、日本小児保健協会(学会)、日本学校保健学会、日本児童学会、日本児童育成学会の評議員・理事、および日本保健福祉学会の会員であり、わが国における小児保健あるいは児童福祉の代表的専門家と考えられる。
アンケートの内容は子どもの健康づくりについて、考察・結果に示した6テーマとした。
アンケートは、フェースシート項目として、年齢、性別、職業と専門領域、主たる勤務先、勤務先の都道府県名を訊ねた。またアンケート内容は、選択枝を用意し、その中から自分の意見に合うものを選んでもらう形式で、選択枝は1テーマにつき8から10項目とし、「そう思う」項目に○を(複数回答可)、「非常ににそう思う・とくに重要」な項目に◎をつけるように依頼した。
結果と考察
 厚生省では母子保健課を中心に、平成9年度から市町村補助事業として心の健康づくり推進事業を開始しているが、文部省も中央教育審議会の中に幼児期からの心の教育小委員会を設けて検討を行っている。本調査は、こうした世相の中で、小児科医をはじめとする医師、保健婦等看護職、福祉・保育・心理・栄養・教育等に関する職種で、小児に関わる学会で活躍中の有識者を対象に行ったものである。調査はアンケート方式であったが、集計の便宜上、考えられる事項を整理して提示し、それぞれの項目に賛成かの意見を問い、かつ特に重要な項目を挙げて貰う方式(選択肢)をとった。併せて自由記載の意見も含めて報告する。
1)いじめ等の心の健康上の問題について
子どもの心の荒れの原因・背景として、家庭と地域の育児機能の低下を挙げる意見は強いものがあった。具体的には、「家庭で親が自然に教えてきたしつけがなされていない、という躾機能の低下」、「異年齢の子どもたち同士が群れて遊ぶ中で社会性を自然に身につけてきたのに、そうした遊びやふれ合いの機会がなくなった」、「核家族が増え、老人と交わることで身につけてきた知恵や思いやりを得る機会がなくなった」ことを意識して挙げた意見である。
また、「テレビやコンピューター相手の遊びが増えて交友が少ない」ことを憂える意見も多く、一方学校や教師に対する不信感がかなり強いことも注目された。教育制度そのものを問い直す意見が保健福祉関係者にも強い、ということができる。
2)母子保健・医療・福祉の体制や施策について
「妊産婦や乳幼児の健診、健康相談の充実(機会を増やす、受けやすくする)」という要望はなお強く、一方保育事業の多様化の要望も強く感じられた。多様化の内容としては、「障害児の統合保育」「乳幼児健康支援デイサービス事業や一歩進めた病児保育」等の充実である。「母子健康手帳と学童健康手帳の連携」への要望も強い。
3)思春期保健・健全育成について
「テレビ、ビデオ、出版物等のメディアのあり方・内容」についての要望が最も強く寄せられた。またここでも「異年齢・異世代の交流の重要性」が指摘され、「ボランティア体験の重要性」も指摘された。そしてこれらの実現のためには、学校における意識の改変、地域における協力、民間団体・ボランティア活動の活用などが挙げられた。また、「心の相談窓口の配備・相談事業の充実」も要望されている。
4)学校・教育の場における対応について
「心の健康を重視した人間教育」「ゆとりのある学校教育の推進、そのために自然とのふれ合いやスポーツ・文化活動などの学校外の体験学習の充実」を求める意見が強く見られた。「保健福祉体験学習の充実」の要望も大きく、これらの要望は学校教育や進学制度の抜本的改善がないと困難であろう。こうした点では、保健福祉関係者の文部省・学校への不信感が大きいと感じられた。
5)少子化の背景要因
少子化の進行要因については、「女性の高学歴化・就労増加による生き方の考えの変化」「束縛されず自由にしていたい」「親になるイメージができていない、親性育成の不足」「独身の経済的余裕、生活レベルを維持したい」などが挙げられ、この点では従来考えられてきた要因が同意されており、新しい意見の提示はなかったといえる。
6)雇用環境・保育環境等
育児と仕事との両立困難な現状指摘の意見がいろいろな視点から示された。「保育サービスが多様な育児ニーズに応じきれていない」「育児休業制度の未定着」「子育てコストが高く子どもを持つ意識に影響」などに集約される。
7)保育サービス・育児支援について
保育サービスに対する要望は、ニーズの多様化に対応しきれていないという前述と同様なもので、具体的には「延長保育」「乳児保育の充実」「親の病気や都合に応じる一時的保育」などが挙げられた。一方、「育児サービスへの費用助成」「親の育児グループへの支援」も要望が大きかった。
8)仕事と育児の両立支援
この点も前述の雇用環境の項の内容と軌を一にしており、「育児休業制度の定着」「休業後の職場への円滑な復帰の保障」「フレックスタイム制の導入」「子どもの健康管理のため(健診受診や予防接種等)の休暇制度」「事業所内保育所整備」「子どもの病気時の保育や介護休暇制度」などが挙げられた。まだ実現していない制度で要望されるのは、「フレックスタイム利用による育児時間の捻出」「子どもの健康管理休暇制度」「病児介護休暇制度」であろう。
9)職種別に見た要望内容の傾向
保健・医療関係者は保育や教育に強い関心と要望を示したが、福祉等の関係者は保育に関しては要望事項の提出率が低い傾向を認めた。保育・福祉の関係者の方が現状に満足しているのか、改変の困難なことを知っているためなのかは判断できない。
結論
 心の健康上の問題の発生要因としては、家庭・地域の育児力の低下、教育上の問題、子どもの遊びの変化などが指摘され、その総合的な子どもの健康づくり対策としては、小児期の一貫した保健対策の確立、異年齢交流・異世代交流の実践の確立と、そのための学校や地域社会の努力・協力が強く要望された。
現在未実施、ないし未定着な事業としては、「地域や学校における異年齢の子どもたちの遊びや集団生活体験」「自然やスポーツ・文化へのふれ合い学習」「異世代の交流機会の拡大」などが学校の意識改革と地域社会の協力の下で充実されるべきこと、育児支援のために「勤務体制のフレックスタイム制度の導入」「病児保育ないし病児介護休暇の実現」「子どもの健康管理のための休暇制度」などが提案された。

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