人口問題に関する政策的研究「アジア諸国の人口政策に関する比較研究」

文献情報

文献番号
199700195A
報告書区分
総括
研究課題名
人口問題に関する政策的研究「アジア諸国の人口政策に関する比較研究」
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
黒田 俊夫(財団法人アジア人口・開発協会)
研究分担者(所属機関)
  • 井上俊一(財団法人アジア人口・開発協会)
  • 楠本修(財団法人アジア人口・開発協会)
  • 北畑晴代(財団法人アジア人口・開発協会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障・人口問題政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人口問題の解決において、国家レベルの人口政策が与える影響力は非常に大きい。また人口政策の方針と方法は、各国の政治・経済並びに文化・宗教の背景と深く関連しているため、国によってそれぞれ差異がみられる。同時に問題の性質上、外部からの研究が容易でなく、十分な詳しい情報が得られにくい。そこで、当研究では、アジアの8ヶ国について、各国の専門家との共同研究を通して直接に情報を収集し、比較研究を行うことを目的とする。人口政策は国内のみならず国外にも大きな影響を及ぼすことから、比較研究である当研究の重要性は非常に大きい。また、その研究成果を諸外国と共有し合いながら、今後各国が国内レベルでより効果的な人口政策を採用していくことは、地球規模レベルの人口問題解決への近道となり、研究成果の活用度は非常に大きい。
研究方法
アジア地域における8ヶ国(中国、韓国、フィリピン、タイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、ヴィエトナム)の人口政策について研究。国別研究に関しては、当該国の専門家に研究協力者として同研究に参加してもらい、当研究グループが設定した分析項目:1)人口問題の概要(現状とその特徴、基本的方針、歴史とその特徴)、2)人口政策、(出生、死亡、人口移動、年齢構造、女性問題、その他)について情報を提供してもらった。人口政策の項目別比較・分析については、分担研究者3名(井上、楠本、北畑)が各項目ごとに8ヶ国について比較・分析を行った。全体の総括については、国別研究と項目別比較・分析の結果を基に、主任研究者(黒田)がまとめ、研究全体について比較と分析を行った。
結果と考察
アジアの人口は1997年35憶5000万と推計されており、同年の世界人口58億4000万の60.8%を占めている。世界人口の地球における持続的生存が、人口の規模、増加の観点から極めて困難視されるに至ったが、その問題の焦点はアジアにあるといっても過言ではない。60%を占めるアジア人口の問題解決は、世界人口の問題解決に大きく接近したことを意味するからである。
しかし、アジアの人口は極めて複雑多岐にわたり、問題の所在を明らかにすることは容易ではない。世界で最大の人口を持つ中国、インドはそれぞれ12億、10億の巨大人口に達しているかと思えば、ブルネイのように30万しかない国もある。貧富の差も著しく、また多宗教、多民族、多言語の多文化地域である。
経済、社会、政治、文化のすべての側面において異なった国家、地域で構成されているアジアを共通の1つの座標軸で比較検討することは、不可能に近い。
私共の研究視点は、人口学的行動とよばれる出生、死亡、人口移動を共通の座標軸として捉えられるとの仮説の下に比較分析することである。どのような文化の社会においても、この3つの行動は共通に見られる現象であり、それは異なった文化を吸収した結果としての行動であるとの前提にもとづいている。さらに、人口静態としての年齢構造、性別構造、特にこれに関連して女性問題についての分析を行った。
しかし、アジアのすべての国の人口現象を比較分析することは容易ではなく、資料集となってしまう。その場合においても何らかの方法で、傾向と特徴を抽出しなければならない。ここでは2つの方法をとった。第1は、アジアを4つの地理的区分によって人口現象を比較分析してアジア的特徴を考察してみることである。第2は主観的ではあるが、人口
現象の際立った国々について、当該国の専門家に分析を依頼し、その結果を総合的に考察することである。更に、本調査研究では人口現象に対する国の政策としての人口政策に焦点をしぼったことが特徴である。
第二次大戦後における人口増加は、特に途上国において歴史的に異例な高水準に達し、経済、社会の発展を阻害する要因として認識されるに至り、政府の重大な政策として人口政策が定着するに至っている。先進諸国では日本を含めて、置換水準を割る少子化傾向、そしてその結果としての高齢化問題が政府の重大関心事となってきた。他方、開発途上国においては著しい人口増加、その要因としての高出生力が中心課題であった。先進国と途上国とでは全く相反する人口問題を抱えている。
しかし、アジアの多くの諸国では出生力抑制に成功し始めており、一部の国ではTFRが先進国と同様な置換水準以下の低出生力を実現し、同時に高齢化問題に関心を高め始めている。
先進国と途上国は人口転換においても全く異なった過程によって解決されてきたのが、社会経済発展の連続性という共通の論理で解決される可能性も現れ始めたと思われる。人口転換という社会発展の理論上の問題としてのみならず、現実の政策論としても重大な意義と影響を持っている。
各国の専門家による人口政策分析は、私共の予想した以上の新事実を明らかにした優れた論文となっている。
結論
人口政策と経済的、社会的発展との関係について各国とも極めて深い理解と関心を持っていることが明らかになった。しかも、途上国における人口政策の効果が顕著に現れていることから、国の人口政策の欠如ないしは人口コントロールに対し批判的関心を持っていた先進諸国のケースとは全く違った、新しい変化が生じていることも明らかになった。
特に注目すべき傾向は、家族計画政策の成果に対応して人口政策の新しい方向を模索し始めたという点である。例えば、シンガポールでは1987年にTFRは置換水準をはるかに下回る1.4という先進国でも著しく低いグループの水準に低下し、1987年に出生力回復のための積極的な新人口政策に転換した。韓国では1985年以降、置換え水準以下の出生力となり、1990年代に家族計画への支援を廃止した。マレーシアでは家族計画の焦点を人間開発中心の方向へ転換した。フィリピンにおいても、出生力水準がアセアン諸国の中で依然として高水準ではあるものの、単なる人口コントロールとしての家族計画ではなく、資源、経済とのバランスの中で管理していけるような「新しい人口政策」を模索している。
死亡率の改善は、それ自体人間の保健、福祉政策の対象ではあるが、同時に人口転換や人口増加率の決定要因として人口政策の対象課題である。それぞれの研究対象国においても著しい成果が見られる。シンガポールの乳児死亡率では日本と同水準の4(出生千に対し)という顕著な成果を示している。
人口移動についても各国とも関心を示している。国内移動では農村から都市への移動、また国によっては海外への移出民や外国からの移入民に重大な関心を示している。
しかし、特に人口政策の観点から最も厳しい領域は出生力であり、かつ国際的動向の中でのアジアの出生力の傾向と政策は、人口の地球規模的課題の焦点であるだけに今後も各国と共同研究を進めていく必要がある。日本の少子化の動向や対策との関連においても注目を要する重要な人口情報である。

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