家庭内暴力被害者の自立とその支援に関する研究

文献情報

文献番号
200620019A
報告書区分
総括
研究課題名
家庭内暴力被害者の自立とその支援に関する研究
課題番号
H16-子ども-020
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
石井 朝子(社会福祉法人礼拝会ミカエラ寮)
研究分担者(所属機関)
  • 奥山 眞紀子(国立生育医療センター こころの診療部)
  • 加茂 登志子(東京女子医科大学付属女性生涯健康センター)
  • 村井 美紀(東京国際大学 人間社会学部)
  • 町野 朔(上智大学 法学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
3,969,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、家庭内暴力(以下DVとする)被害母子の社会への自立に向けた具体的支援策を講じるための実証的データを提供することを目的とする。
研究方法
民間シェルター、母子生活支援施設及び病院などのDV被害者の自立を支援するための各種関連機関における被害母子の受けた暴力の実態及び精神健康について調査研究を実施した。また、被害母子の健康を回復するための認知行動療法的アプローチを用いた個人精神療法と集団精神療法のケア技法を開発し実施した。一方、被害者へ具体的支援を提供する民間シェルターの職員の役割とシェルターの実態も調査しそのあり方について検討した。自立支援の観点からの具体的な法的援助について欧米などの諸外国の施策をもとに提言した。
結果と考察
民間シェルターにおけるDV被害母子の抑うつ及び外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder:PTSD)の症状は深刻であった。抑うつやPTSD症状を有した被害女性とトラウマ反応や注意欠陥などの問題をもつ被害児童を対象にした認知行動療法的アプローチを取り入れたプログラムを開発し実施した。その結果、抑うつやPTSD症状は軽減し、問題行動にも改善が見られた。一方、母子生活支援施設に入寮している被害女性を対象に精神健康の実態調査を実施したところ、解離傾向、うつ傾向、トラウマ反応が著明であり、それら全ての精神症状がその児童にも影響を及ぼしていた。特に母親の過去の被虐待経験がより児童の精神健康を悪化させていた。病院に精神健康障害のために受診した被害女性の精神医学的臨床経過においては、初診時の症状の重篤度がより軽症であり、転帰判定時に就労していることが良好な転帰となっていた。就労には集団精神療法が寄与していた。民間シェルターにおける支援者は、社会資源と被害者の適切な連携を促せるマネジメントスキルが重要であり、また各支援施設においては、一定の施設基準を定める公的保障が急務の課題であることが示唆された。またDV被害者の自立支援は、①被害者の住居及び就労、②児童同伴の被害者における子どもの保護の2つの観点からの法的支援が必須であると示唆された。
結論
DV被害は、長期にわたりその被害母子の身体・精神健康に影響を及ぼしていることが明らかになった。DV被害者の自立に向けた具体的な支援策としては、各種援助機関が連携し、各専門家による切れ目のない包括的支援が提供されることが必須である。また健康回復するためのケア技法は、母親のみならずその児童も視野にいれた母子ユニットを対象とした介入が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2007-04-18
更新日
-

文献情報

文献番号
200620019B
報告書区分
総合
研究課題名
家庭内暴力被害者の自立とその支援に関する研究
課題番号
H16-子ども-020
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
石井 朝子(社会福祉法人礼拝会ミカエラ寮)
研究分担者(所属機関)
  • 奥山 眞紀子(国立成育医療センター こころの診療部)
  • 加茂 登志子(東京女子医科大学付属女性生涯健康センター)
  • 村井 美紀(東京国際大学 人間社会学部)
  • 町野 朔(上智大学 法学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、家庭内暴力(以下DVとする)被害母子の生活再建に向けた自立のための具体的支援策を講じるための基礎的データを提供することを目的とする。
研究方法
本研究は、以下の7つの研究から構成されている。①民間シェルターにおけるDV被害母子の暴力と精神健康の実態:面接及び自記式質問紙により実施、②全国母子生活支援施設に入寮しているDV被害母子の暴力と精神健康の実態:郵送による自記式質問紙により実施、③全国配偶者暴力相談支援センターに来所した被害女性の暴力と精神健康の実態:面接及び自記式質問紙により実施、④病院に受診したDV被害女性の暴力と精神健康の実態及び精神医学的臨床経過についての縦断的調査:面接及び自記式質問紙により実施、⑤抑うつ及びPTSDを有した被害母子への認知行動療法的アプローチを取り入れた健康を回復するための介入プログラムの開発と実施、⑥民間シェルターにおける支援者と施設としてあり方についての検討:シェルター職員への面接、⑦自立支援の観点からの法的支援のあり方:諸外国を視察し、そこでの施策を分析し、わが国におけるDV法について検討していく。
結果と考察
①民間シェルターに入所している被害母子は、抑うつ、PTSD症状が深刻であった。②母子寮に入寮している被害母子は、解離・うつ傾向、トラウマ反応が見られた。特に母親において過去の被虐待経験がその児童の精神健康に影響を及ぼしていた。③DVセンターに相談に来所した被害女性は、多様な暴力を長期にわたり受けており、抑うつ症状が重篤であった。④病院に受診したDV被害女性は、多様な暴力を受けており、被害の重篤度と精神症状には密接な関連があった。縦断的な治療経過においては、就労していることが良好な転帰となっていた。⑤被害母子への認知行動療法的アプローチを取り入れた個人療法、集団精神療法は有用であることが示唆された。⑥DV被害者を支援する職員は、ソーシャルワーカーとしての専門性が求められる。また各種支援施設においては、安全対策などの環境整備において一定の基準を定める公的保障が必須である。⑦被害者の住居及び就労、また児童同伴の被害者における児童の保護の観点からの法的支援が急務の課題である。
結論
DV被害は、長期にわたり被害者の身体精神健康に深刻な影響を及ぼしていることから、専門家及び各種支援機関による時系列別でかつ切れ目のない包括的な支援システムの構築が必要であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2007-04-19
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200620019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
DV被害母子の精神健康状態を時系列的に把握した上で、自立のための早期介入の方法論やケア技法の確立が必須であるとの見地から認知行動療法的アプローチを試みた。その結果抑うつやトラウマ症状が軽減した事を報告した。本成果は、学会や支援センターから反響を呼びDV被害者の支援マニュアル作成につながった。また、社会福祉の観点から民間のDV支援施設と支援者について調査した結果、支援施設としての設備充実のための基準を公的保障のもと設定する事や支援者への研修体制や雇用条件等が急務の課題であると示唆した。
臨床的観点からの成果
DV被害母子の暴力及び精神健康の実態について時系列別での被害母子の状態を明らかにした。これらの結果により、DV被害母子への介入法は多様であることを示唆し、各支援施設における支援のあり方について言及した。また総合的かつ実効性あるDV被害母子へのケアや自立とその援助に関する研究として、DV被害母子への早期介入技法の開発への着目、DV被害母子向け認知行動療法の開発に取り組んだ。
ガイドライン等の開発
民間シェルターの職員を対象に構造化面接を実施し、収集されたデータを下に質的分析を実施した。その結果をDV被害者の支援者のためのマニュアルとしてまとめた。本マニュアルやこれまでの研究で得られた知見をもとに次年度のDV支援者のためのガイドライン作成につながった。
その他行政的観点からの成果
本研究は、精神医学、心理学、社会福祉学、法学などの多様な観点からDV被害母子の自立とその支援に関する包括的な研究を実施した。その結果、認知行動療法的アプローチの有効性などを指摘し、DV被害母子への具体的でかつ適切な総合的支援策が提示された。本研究の成果は、学会や支援センターから反響を呼び、DV被害者への援助マニュアル作成及びガイドライン作成につながり、DV被害者の自立支援の一助となった。
その他のインパクト
2005年6月「DV被害女性PTSD7割超す」読売新聞朝刊、「Most domestic violence victims suffer PTSD」Chicago Tribune Perspective、において本研究成果がマスコミに取り上げられた。また、日本ストレス学会・日本産業精神保健学会国際合同セミナーにて「心的外傷体験としてのドメスティックバイオレンスが被害母子に与える精神的影響と自立支援のための介入技法」をテーマに公開シンポジウムを開催した。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
20件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
その他成果(普及・啓発活動)
35件
DV被害者の心理やその援助法などについての講義・講演会などの実施

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
石井朝子、木村弓子、永末貴子他
シェルター入所者におけるドメスティックバイレンス被害の実態と精神健康に及ぼす影響 精神科治療学
精神科治療学 , 20 (2) , 183-191  (2005)
原著論文2
永末貴子、石井朝子、木村弓子他
ドメスティックバイレンス被害児童の暴力の実態と精神健康
ストレス科学 , 21 (4) , 233-242  (2007)
原著論文3
榛葉俊一、石井朝子、大西涼子他
外傷後ストレス障害(PTSD)の長時間暴露法における心拍変動指標の利用:ドメスティックバイオレンス(DV)被害の一症例
診療内科 , 11 (3) , 218-223  (2007)
原著論文4
藤沢大介、石井朝子、岸本淳司
日本語版PTSD症状評価尺度(PSSI-J)の信頼性と妥当性の検証
臨床精神医学 , 36 (11) , 11-20  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-06-11
更新日
-