社会保障の法理論に関する研究

文献情報

文献番号
199700193A
報告書区分
総括
研究課題名
社会保障の法理論に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
堀 勝洋(上智大学)
研究分担者(所属機関)
  • 小島晴洋(川崎医療福祉大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障・人口問題政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の社会保障法制は、歴史的に時代のニーズや実現可能性に対応して形成されてきており、不断の努力にもかかわらず、現代の社会保障ニーズに必ずしも対応しきれない面があるとともに、法理論的にも必ずしも整合的でない面も見られる。
このような現状を考えるとき、社会保障の法理論を研究し、明確にすることは、行政の遂行や立法政策上、?現場における社会保障各行政の円滑な実施、?行政争訟(審査請求等)への対応、訴訟の遂行、?行政解釈における法理論的整合性の確保、?社会保障各制度における随時の制度改正の際の法理論的整合性の確保、?社会保障制度改革における体系的な立法政策の確立などの諸点において有意義かつ不可欠である。
そこで、本研究においては、社会保障法に係る判例を体系的に収集、整理、分析することを通じて、社会保障法理論の体系化を試みる。
研究方法
本研究は、判例研究を通じて社会保障の法理論を明らかにしようとするものであるので、その主眼は、判例の蓄積から理論を抽出することにある。そのため、判例の収集、整理、分析は体系的に行うことが必要であり、さらに、収集した判例はデータベース化し、必要に応じてすぐに検索できるようにすることが重要である。
そこで、本研究においては、社会保障法の専門家による社会保障法判例研究委員会を組織し、研究の方針、手法等を検討するとともに、判例の体系的な収集・整理・分析を行う。次いで、判例の蓄積をもとに、社会保障の法理論の研究を行う。具体的には、現行社会保障法制の整合性の検討や問題点の解明、社会保障法の総則規定の検討等を通じて、社会保障の法理論を明らかにしようとするものである。
結果と考察
平成9年度は、国民年金法および児童福祉法について、判例検索、分析検討作業を行った。以下、各法ごとの結果をまとめる。
?.国民年金法関係判例
検索作業の結果、国民年金関係の判例で確認できたものは、事件数51、存在を確認できた判決数79(うち判決文入手71)であった。そのうち、最高裁判所の判決数は7である。その他、存在が推測されるが確認できなかったもの(たとえば、上級審判決が確認できたがその下級審判決が確認できなかったもの等)が6判決である。
主な争点別では、?併給調整に関するもの、?国籍条項に関するもの、?訴訟承継に関するもの、?損害賠償との調整に関するもの、?裁定に関するものなどとなっている。
?併給調整に関するもの
リーディングケースとなっているのは堀木訴訟であり、併給調整を行うかどうかは「立法府の裁量の範囲」に属する問題であり、また、給付額の決定は「立法政策上の裁量事項」と判示している。
?国籍条項に関するもの
最高裁判所は、合理的な差別は憲法§14に違反しないとしており、国籍要件は憲法に違反しない有効なものとする判例は確立しているとみてよい。
?訴訟承継に関するもの
最高裁は、訴訟上の地位の承継は認められないとの判断を示した。
?損害賠償との調整に関するもの
最高裁は、年金受給者が交通事故等で死亡した場合、その受給していた老齢年金等の給付が遺族の逸失利益に含まれるかどうかについて、積極説の判断を示した。また、不法行為の被害者またはその遺族が被害者の死亡等を原因として年金受給権を取得した場合に、加害者の賠償すべき損害額の算定に当たり、当該年金の額を控除する必要があるか否か、については、既給付年金分の控除につき、積極説が確立した判例と考えられる。
?裁定に関するもの
年金受給権の「裁定」の性質については、「確認的行政処分」とする解釈は固まっているものと考えられる。
?.児童福祉法関係判例
検索作業の結果、児童福祉法関係の判例で確認できたものは、事件数45、存在を確認できた判決数72(うち判決文入手65)であった。そのうち、最高裁判所の判決数は9である。その他、存在が推測されるが確認できなかったもの(たとえば、上級審判決が確認できたがその下級審判決が確認できなかったもの等)が19判決である。
主な争点別では、?児童福祉施設の入所措置に関するもの、?入所措置等に関連した国家賠償請求に関するもの、?保育料に関するもの、?施設における処遇に関するもの、?施設における事故に係る損害賠償請求に関するもの、?措置費等に関するものなどとなっている。
?児童福祉施設の入所措置に関するもの
「措置」の性格について、これらの判決は、いずれも行政処分としているか、あるいは行政処分であることを前提としている。
?入所措置等に関連した国家賠償請求に関するもの
判例は入所措置処分における行政の裁量を広く認める傾向にある。
?保育料に関するもの
最高裁判所は、「保育料は租税ではなく」租税法律主義は問題とならないとの判断を示した。
?施設における処遇に関するもの
判例によれば、憲法§25によって保障される「健康で文化的な最低限度の生活」とは、保育所においては、「最低基準」によって具体化されており、それが国民の権利として保障されているということになる。
?施設等における事故に係る損害賠償請求に関するもの
判例は、施設内事故の損害賠償請求事件につき、「措置」を契機として行政当局の国家賠償責任を認めることには消極的な傾向がある。
?措置費等に関するもの
地方自治体によるいわゆる「超過負担」に関連した事案について、児童福祉法上の国庫負担については、補助金等適正化法の交付決定を経て初めて具体的な国庫負担金請求権が発生するものとされている。
結論
国民年金法については、?併給調整、?国籍条項、?訴訟承継、?損害賠償との調整、?裁定などの問題に関して判例理論がほぼ確立していることが明らかになった。また、児童福祉法については、?入所措置、?保育料、?処遇などの問題に関して判例理論がほぼ確立していることが明らかになった。

公開日・更新日

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