育児休業制度の人口政策的有効性の限界に関する基礎的研究

文献情報

文献番号
199700192A
報告書区分
総括
研究課題名
育児休業制度の人口政策的有効性の限界に関する基礎的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
原田 克己(静岡産業大学)
研究分担者(所属機関)
  • 大和田猛(愛知県立大学)
  • 川島貴美江(静岡県立大学短期大学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障・人口問題政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
育児休業制度については、これまで人口政策的見地から、吟味されるということは全くなかったと言って良い。ただもっぱら感覚的に育児休業は、制度的に少子化対策の戦略的手段と成うるという行政評価のみが先行してしまっている状況にある。これまで若干育児問題も研究対象としてきた我々からは、育児休業を強化しようとすればするほど“一人っ子政策"に傾斜してしまうのではないかということを危惧してきた。新聞等の投書欄をみても、毎月確実に掲載されるのが、いわゆる“育休ハラスメント"と言うべき、育児休業後の企業の対応についての批判が圧倒的である。こうした状況を前提としてみれば、育児休業の充実強化が、多産化に多少なりとも貢献し得るよう制度運用とはなっていないことが明らかであろう。かかる視点から、人口政策としての運用面を育児休業に期待するというのは、殆ど不可能であり、反対に“一人っ子政策"への貢献にあることを明らかにしようとするものである。
研究方法
公務労働及び教育労働領域における育児休業の普及と徹底は殆ど問題がない。それでも一般行政職には、復職後の配置問題は多少は存在する。そこで民間企業における育児休業の制度的導入と普及状況の把握につとめようとした。方法的に企業を個別に訪問して具体的な取得状況を把握しようとした。しかし残念ながら民間企業では、育児休業の取得者数を公表はするが、それが女子労働者の何名にあたるというような問題に対しては一切回答を出さない。
結果と考察
育児休業制度の社内制度として大企業の殆ど100%に近い導入が行われていると見てよう。これまで実際の育児休業取得状況は、例えば日本アイ・ビーエム、従業員20,652人の中で 1年間の利用者が92人である。女性従業員数が明らかにされていないので対従業員比でみる以外にない。その取得比率0.4%である。同じように東レの場合も、従業員9,964人の中で43人である。0.43%にしかすぎない。中小企業といってよい日本コンベアの場合、従業員 247人中、わずか 1人である。民間企業における育児休業の取得状況の平均は、わずか0.4%である。これでは育児休業が人口増の戦略手段となりうるなどと評価しようもないのが現実である。同じ手法で沼津市の育児休業の取得状況をみてみると、さすがに民間より高いが、それでも 1.06%にしか過ぎない。最近民間企業においては、本採用からパートに切り替える状況が女性雇用面ではきわめて顕著になってきている。こうしたパート労働者は育児休業の制度対象に全くならないわけであるから、育児休業制度に多産化の政策効用を期待することは全く無理だというほかはない。そこで我々は少子化社会の克服のために、これから卒業就職する若い学生諸君が将来的にどのような施策を必要とすると考えているのかアンケート調査を試みたが、多くが福祉系の職場を希望する学生であるので、当然といえば当然であるが、保育施設の充実強化を求める声が高く、育児休業制度への期待は我々が予想した程の水準にはなりえなかったことが特徴的であったと言ってよい。
結論
少子化克服のために、育児休業がそれ程政策的有効性をもち得ないとすれば保育制度の充実強化以外にない。特に全国に存在する公立保育所が育児の制度的障害になっていると言っても過言ではない。延長保育、開所延長、夜間保育、さらには病児保育など様々なニーズに対応して少子化克服の戦略的機関となるためには、こうした公立保育所を早急に民間委託に切り替える以外にはない。全国に圧倒的に多い女性パート労働者のニーズに応えるためにも保育所の公設民営化の進捗が必要となろう。また病児保育については、保育所自身病児保
育の実施可能な条件を整備すると共に、現在高齢者在宅ケアサービス機関に位置づけられている訪問看護ステーションの機能を保育所にも向けることを考えるべきであろう。保育所が、市町村首長にとっては、一種のポリティカルマネ-化(人気取り)してしまっているために通達によってこれを民間委託に進めていくことは困難であろう。社会福祉サービスそのものは基本的には公私を問わず同じサービスが提供されうる。むしろ民間の方がはるかに柔軟に対応できる。さらにコスト的にみても公立の 70%程度で民間法人は受託可能である。ただし民間といっても社会福祉協議会や福祉公社のような外部団体では、その委託効果はコストおよび保育内容面からは全く期待できない。公設民営化を進めた静岡県豊田町では、 0歳児 9名の入所が若干ではあるが浜松市内からの育休移住によって入所難を解決している。
我々は、育児休業制度の制度有意性そのものを否定するつもりはない。多様な育児システムの一つとして存在意義は充分にある。ただグロ-バルスタンダ-ドの競争システムにさらされる民間企業にとっては、きわめて厳しい状況があることはこれまでにもふれたとおりである。
ただ育児休業をある程度制度的に定着させるためには、育児休業10か月目から職場復帰のためのトレ-ニングが行われることが必要である。育児休業によって身についてしまった家庭の主婦意識を克服して職業人としての意識を回復するためにも適切な復帰トレ-ニングは欠くことができない。各地に存在する職業訓練校など既設の教育訓練資源を有効に活用する方法なども検討されてしかるべきであろう。また、小中学校教員の育休後の復帰訓練は、県の教育研修所あるいは放送大学の地域学習センタ-を活用したり、あるいは本務校以外の学校で教授技術の指導訓練を受けるなどの方法もとれるとすれば、職場復帰はよりスム-ズおこなわれるであろう。育休後の復帰職場で発生するトラブルの多くが、本人の職場復帰への明確な意識形成がなされないまま職場復帰がなされることによることが多い。

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