化学物質過敏症に関する研究

文献情報

文献番号
199700190A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質過敏症に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
石川 哲(北里大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 相澤好治(北里大学医学部)
  • 久保木冨房(東京大学医学部)
  • 西岡清(東京医科歯科大学医学部)
  • 野本亀久雄(九州大学生体防御医学研究所)
  • 柳沢幸雄(東京大学工学部)
  • 和田攻(埼玉医科大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
一般的には身体に影響が顕在化しない非常に低濃度の化学物質に生体が暴露されたとき、自律神経失調やアレルギー症状に類似した激しい反応を示す症例が最近増加してきている。これを化学物質過敏症と呼ばれ、その定義はCullenによりなされた。米国で行った疫学調査によると、本症は米国人の約10%に存在するとされており、国民がほぼ同様な環境の中で生活している本邦においても同程度の割合で患者が存在すると推察される。しかし、本邦での本疾患の概念認識は欧米に比べて遅れており、また本疾患の原因物質である有害環境物質の取り扱い基準に関しても、古典的な中毒症のみを念頭に置いている。そこで、本研究では既に発表されている文献を整理し、化学物質過敏症の概要を掴み、臨床の場での患者調査から診断基準の制定、予防・治療法の確立を目的とする。さらに有害環境物質のcrisis managementについて適切なガイドラインの作成を目指す。
研究方法
各自、専門分野から化学物質過敏症に関する文献を選択し、内容を検討した。これにより掴んだ化学物質過敏症の概念を軸に化学物質過敏症患者の選択基準を制定し、臨床の場で患者を選択、調査を行った。
結果と考察
化学物質過敏症の概念が未だ明確でないことから、医療従事者や一般での本症概念の浸透が進まない、このため広範囲の疫学調査が実行できず、概念明確化、診断基準の確立ができない、というジレンマに陥っている。まず、簡単に簡潔に本症を表現し、一般医家に概念を浸透させる必要がある。一方概念確立のためには、本症に類似する疾患も数多く存在し、中には化学物質過敏症をもすでに包含している疾患群もあると思われることから、オーソドックスな中毒学の立場から見た研究の中毒、過敏、アレルギー、自律神経異常、神経内分泌異常、心因性反応という点を検討し直す必要性もある。さらに、免疫面から見ると、本症は従来型の毒性、従来型のアレルゲンとは異なるものと考えられ、血管内皮系の反応も含め初期防御系を構成する要素の機能発現の定量的把握が必要とされ、過敏症の診断という視点から、再構築を必要と考える。しかしながら、病態生理学、診断学、治療学についての検討の中で、いくつかの最近の見解が簡単には組織化されないことも判明し、科学的論理と臨床的真実の関係を無理に付きつけることなく平行して考えていく必要性もあると考える。また、原因物質による曝露の視点からは、過敏症に係る因果関係の類型化と迅速で適切な対策のためには患者を取り巻く環境条件を明らかにる必要がある。暴露量と臨床症状の重症度を比較検定することにより疫学、環境工学的な検討がなされなければならない。臨床の場ではCullenの化学物質過敏症の診断基準を基礎に、文献およびわれわれのダラス環境医学センターでの調査結果を加え、患者選定基準を決定し、北里大学病院を受診した患者で調査を行った。患者の性別、年齢分布は欧米の報告によく一致し、症状なども大きな差異なく、本邦における調査なども既出の欧米での報告を参考にできると考える。ただ、本邦では発症原因として新築・改築など住宅関連の占める割合が多く、シック・ハウス症候群など室内環境検討の重要性を改めて認識した。実験的研究は、北里大学医学部に建設した実験動物用ウルトラ・クリーンルームを使用して、曝露実験を開始しており、結果については次年度にまとまる予定である。
結論
本研究より今後以下のような事項が重要である。診断のための医師やパラメディカルの教育を行い、カウンセラーの養成等が必要であり、保健所なら
びに地方公的機関の病院との密接な情報交換、治療や予防の連携、特に化学物質の測定に関して協力が必要である。患者さんや健診での血液、尿、毛髪など体液成分からの化学物質の簡略な測定法の開発およびルーチン化を推進し、また、本症発生と関係の深いホルムアルデヒド、トルエン、防蟻剤、毒性の強い揮発性芳香族化合物の規制に関するガイドラインの作成および測定法の確立が急務である。また、このような調査に掛かる費用について資金の援助が必要になると考える。臨床調査と平行して実験的研究も必要であり、化学物質過敏症の実験動物モデルの開発が急がれる。このようにして得られた情報を正しく広く迅速に公開するために、本症の文献に関するデータベースの作成を行い、インターネットのホームページなどでのオープンを考える。徒に不安を与えるのではなく、正しく本症を認識してもらうために、一般市民に対する正しいピーアールをする必要がある。また、原因物質の製造元である化学会社に対しても、化学物質過敏症に対する正しい情報の伝達を行い、購入・使用者への適切な指導を行わせなければならない。さらに、今後の研究課題としては、本症に対する教育、どこまで判っていて、どこまで判らないかを明確にし、直りうる症状と直らない症状を明確にする。さらに遺伝的な特徴を過敏症患者の血液を中心に分析し、分子生物学的に明らかにする。診断法の確立、特に人体の障害部位の特徴を中心とした検査方法の確立を行う必要がある。また、化学物質の環境、室内人体よりの正確な検出法の開発が急がれる。本症と診断された患者は極度に不安を持ち精神神経的な問題を抱えていることが多いので、患者のサポートとして、悩みを理解する社会的背景が必要であり、また工場などで特定化学物質などに暴露され本症に悩む患者は温かい保護と配置転換なども必要である。さらに、環境問題、シックハウス症候群の場合原因となる物質を早く確認する組織が必要である。また、改善までに要する期間は隔離も必要で、場合によってはクリーンルームを備えた病院に入院させ治療することも考えねばならない。従来から原因となる化学物質に対して無視する態度が日本では多かった。その点は根本的に改めて、医療面、行政面から患者救済のため手を差し伸べてやる態度が必要である。本症に対する特殊施設の建設、そこに従事する職員の専門的な教育施設を作り、治療に関しても、抗酸化剤、ビタミン大量療法、脱感作療法、体内脂肪正常化療法、栄養療法、精神機能改善療法、その他社会学的医療の適用を要す。

公開日・更新日

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