褥瘡発生予防に関する研究

文献情報

文献番号
199700189A
報告書区分
総括
研究課題名
褥瘡発生予防に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
大浦 武彦(褥瘡創傷治癒研究所所長)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、褥瘡発生の大きな原因の一つである荷重分布とその変動について、体型別、各種マット別に測定し検討を行うことを目的とする。まず健常人をBMIによる体型別、すなわち肥満型、標準型、痩身型に分け、次いで、現在市販されている褥瘡予防マットレスを構造別・機能別に分類した上で、同一人物で接触体圧分布を測定する。これにより各種マットレスの性能・機能を客観的、総合的に評価すると共に体型別の変動を調べ、広く褥瘡の治療・予防に応用可能とする。
研究方法
1)体型別接触圧分布の測定。(1)対象:健常人を、BMIを用いて肥満、標準、痩身の体型別に分ける(各グループ4人)。(2)褥瘡予防マットレス:現在、病院においてよく用いられている市販の硬いマットレスとして(?グループ)パラケア(P)、オムニマット(OM)を使用。クッションの素材を用いた?グループとして、ソフトナース(SN)、アイリス(I)、マキシフロート(M)。?グループとして、静止型エアマットとしてソフケア1(SC(1))(空気を一杯に充満する)、ソフケア2(SC(2))(空気を適切に充満する)とウレタンフォームとエアマットを組み合わせてあるローテック(L)を用いた。
2)測定方法。(1)測定器:ドイツABW社製、体圧分布計測分析システム(Ergo Check)を用いる。(2)体位:仰臥位ならびに90°側臥位。(3)測定・分析:18mmHg以上の数、25mmHg以上、32mmHg以上のポイント数について比較・検討を行った。
結果と考察
1.仰臥位における体型と各種マットレスによる違い。
測定結果の詳細、測定値の統計学処理、接触圧分布の中で18mmHg以上のデータは割愛する。褥瘡の発生に最も問題となる25mmHg以上の接触圧の分布の検討では、痩身型、標準型、肥満型毎に、マットレスの除圧効果の順位が若干異なることが明らかとなった。これは今後、マットレスの使用を薦める際、このデータの活用が必要なことを示唆している。ここでは各体型間で共通した各マットレスの除圧効果についてのみ述べる。M、I、L、SC(1)、SC(2)はP、OM、SNに比較してポイント数が共に有意に減少している。これは25mmHg~32mmHgの中等度の圧がかかっていた部位では、ウレタンフォーム(二層構造)や静止型エアマットレスを使うことにより分圧や除圧が十分に行われていることを示している。32mmHg以上の高い圧がかかっている部位を示すポイント数でもP、OM、SNの順に多く、他のマットレスとの差が大であることから、これらのマットレスは褥瘡発生の危険が大であると言える。従って、予防の効果を出すためには他のマットレス、M、I、L、SC(1)とSC(2)の使用がすすめられる。
体型別に分けて各種マットレスの除圧効果の違いをみたところ、P、OM、SNにおいて25mmHg以上と32mmHg以上の荷圧のかかるポイント数が、肥満型と痩身型の間には有意に差があった。これは、これらのマットレスを使用する際、痩身型の人より肥満型の体型の方が褥瘡発生の危険性が大であり、注意する必要がある。
2.側臥位(肩・側胸部)における体型とマットレスの違い。
対象者を90度側臥位としたときの接触圧分布を測定した。25mmHg以上の荷圧についてみると、痩身、標準、肥満の各体型共にP、OM、SN間はお互いに有意差がなく、同程度の効果と言える。しかし、MとSC(2)ではこれらと比較して、有意にポイント数が少なく、除圧効果が大きいことを示している。32mmHg以上のポイント数においても、P、OM、SNはポイント数が多いので、M、SC(2)に比して褥瘡発生の危険性が大と言える。
体型別の各種マットレスの違いは、25mmHg以上の荷圧のかかっているポイント数の比較では、P、OM、SC(1)、SN、Iにおいて痩身型の方が肥満型に比して有意に少なかった。このことは、これらのマットレスを使った場合、痩身型の方が肥満型の人に比較して褥瘡発生の危険性は少ないと言える。
3.側臥位(腸骨・大転子・膝上部)における体型とマットレスの違い。
25mmHg以上の荷圧について、各体型に共通な結果について述べる。OMとPはお互いに有意差なく、同じ効果をもつグループに属する。これらとSC(2)、SC(1)、Lを比較してみると有意の差をもってポイント数が多かった。このことは、各体型に共通な結果としては、OM、Pの方が褥瘡発生の危険度が高いことを示している。32mmHg以上のポイント数もOM、Pに多く、次いでSNとなっている。従って、側臥位における除圧効果としては、SC(2)、SC(1)、Lの方がOM、Pのマットレスより大であることが明らかである。
体型別に分けて各種マットレスの機能を比較した。25mmHg以上の荷圧のあるポイント数はP、OM、SN、Lにおいて、肥満型と痩身型に有意の差があり、これらのマットを使用している人々にとって、痩身型の方が肥満型の人より予防効果が大きいことを示している。
総合的にみると、側臥位では、肩・側胸部ならびに腸骨・大転子・膝上部において、仰臥位に比して荷圧が高く、分圧効果が出にくいことが明らかとなった。これは側臥位の場合には、肩の骨や腸骨などの骨の突出度が大きく、また荷圧を受ける幅も狭く且つ丸くなっていることから、仰臥位と異なり骨突出部の圧を分散させることができにくく、底付の状態となって荷圧も高くなり、かつポイントも多くなっていることが推定される。このことは臨床的に90度側臥位に体位交換を行う際に注意しなければならない点と言える。
以上、除圧の観点から得られた測定値について考案を行ったが、臨床においては患者の状況、例えばADL、栄養、骨突出度などの違いなども影響を及ぼしているので、これらのデータのみで単純に臨床的結論を出すことは難しい。しかしマットレスの違いや体型の違いによって荷圧の状況が有意に大きく変動しており、褥瘡の発生予防の中で最も大きな要因である除圧効果にも有意の差が認められたことは、褥瘡治療のマットレスの選択の際に、比較的公平な基準を提供できることが明らかとなった。 
結論
現在市販されている8種のマットレスについて、接触体圧分布の測定を行い、これを体型別に分け、Duncan's M.R.testで統計的に分析した結果、次のことが認められた。
1.仰臥位:各体型毎に除圧効果が異なることが明らかとなったが、ここでは割愛する。  各体型共通の除圧効果について述べると、まずパラケア、オムニマット、ソフトナースは、マキシフロート、アイリス、ローテック、ソフケア(1)、ソフケア(2)に比較してポイント数が有意に多く、除圧効果は低い。
パラケア、オムニマット、ソフトナースを使用し体型別に分けて分析した結果、25mmHg以上と32mmHg以上のポイント数は、肥満型の方が痩身型に比して有意に多く、同じマットレスを使用した場合、肥満型の方が褥瘡発生の危険性が大であると推定される。
2.側臥位(肩・側胸部および腸骨・大転子・膝上部):側臥位においては、仰臥位に比較して荷圧が高く、分圧効果も出にくいことが判明した。これは、側臥位となった場合、肩や腸骨など骨の突出度が大きくなり、また荷圧を受ける体圧の幅も狭いことから、圧分散ができにくいためと推定される。
各体型に共通なマットレスの効果について述べると、パラケア、オムニマット、ソフトナースは、他のマキシフロート、ローテック、ソフケア(1)、ソフケア(2)に比較して、25mmHg以上ならびに32mmHg以上のポイント数において有意に多い。このことは、パラケア、オムニマット、ソフトナースは褥瘡発生の危険が大で、他のマットレスの方が、褥瘡発生予防効果が大きいことを示している。
体型別では、オムニマット、ソフトナース、ローテック、アイリスにおいて、肥満型の方が痩身型より褥瘡の発生の危険度が高いと言える。

公開日・更新日

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