脳内移行性アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤投与によるアルツハイマー病の新規治療法の確立

文献情報

文献番号
200619055A
報告書区分
総括
研究課題名
脳内移行性アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤投与によるアルツハイマー病の新規治療法の確立
課題番号
H17-長寿-一般-045
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
大類 孝(東北大学病院)
研究分担者(所属機関)
  • 岩崎 鋼(東北大学医学部先進漢方治療医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
3,780,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最近の諸外国の研究によると、アルツハイマー病(AD)の患者では脳内のアンジオテンシン変換酵素(ACE)活性が亢進しており、結果として過剰産生されるアンジオテンシンIIが脳神経細胞からのアセチルコリンの遊離を抑制し、その結果認知機能の低下が生じると報告された。私は本研究で、わが国で使用されている降圧剤の中で、脳移行性が確認されているACE阻害剤(ペリンドプリル)の投与が、高血圧合併AD患者において脳内のACE活性を抑制することにより病勢の進行を抑える事を明らかにし、ADの新たな治療法を確立する事を目的にする。
研究方法
東北大学病院およびその関連病院に通院中の高血圧を合併したAD患者230名(男性49名、平均年齢76歳)を、無作為に脳移行性ACE阻害剤(ペリンドプリル)投与群(n=75、男性17名、平均年齢76歳)、脳非移行性ACE阻害剤(エナラプリル)投与群(n=64、男性13名、平均年齢77歳)およびカルシウム拮抗剤(二フェジピン)投与群(n=91、男性19名、平均年齢76歳)の3群に分け、1年間にわたって認知機能(Mini Mental State Examination=MMSE)を追跡調査した。
研究においては、プライバシーの保護などの倫理面での配慮を行った。
結果と考察
1年間のMMSEスコアの平均変化率は、ペリンドプリル群:-0.9±0.2、エナラプリル群:-4.8±0.9、ニフェジピン群:-5.2±1.2と、ペリンドプリル群では、その他の降圧剤に比してAD患者の認知機能の低下を有意に抑制する事が明らかにされた(p<0.01)。また、各群間の血圧値に有意差を認めなかった。
 私は本研究で、わが国で使用されている降圧剤の中で、脳移行性が確認されているACE阻害剤の投与が、AD患者において脳内のACE活性を抑制することにより病勢の進行を抑える事を明らかにした。このような視点でのADの治療法はこれまで全く提唱されておらず、世界的にみて極めて独創的かつ画期的な方法と考えられる。
結論
高血圧を合併したAD患者において、脳移行性ACE阻害剤はその他の降圧剤に比して、AD患者の認知機能の低下を有意に抑制する事およびその効果は降圧作用以外の機序でもたらされる可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2007-03-20
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2007-11-27
更新日
-

文献情報

文献番号
200619055B
報告書区分
総合
研究課題名
脳内移行性アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤投与によるアルツハイマー病の新規治療法の確立
課題番号
H17-長寿-一般-045
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
大類 孝(東北大学病院)
研究分担者(所属機関)
  • 岩崎 鋼(東北大学医学部先進漢方治療医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化がますます加速するわが国において、認知症疾患の中でアルツハイマー病(AD)の増加は顕著で、その克服は最重要課題である。本研究では、脳内移行性が確認されているアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤の投与が、高血圧合併AD患者において病勢の進行を抑える事を明らかにし、さらに代表的なコリンエステラーゼ阻害剤である塩酸ドネペジルと加味温胆湯の併用効果について検討し、ADの有効な治療法を確立する事を目的にする。


研究方法
高血圧を合併したAD患者230名(男性49名、平均年齢76歳)を、無作為に脳移行性ACE阻害剤(ペリンドプリル)投与群、脳非移行性ACE阻害剤(エナラプリル)投与群およびカルシウム拮抗剤(二フェジピン)投与群の3群に分け、1年間にわたって認知機能(Mini Mental State Examination=MMSE)を追跡調査した。
 また、臨床的に診断基準を充たす38名のAD患者をランダムに2群に分け、一方にドネペジル単独治療を、もう一方にはドネペジルと加味温胆湯併用治療を各々12週間行った。2群間で、治療前後の認知機能をMMSE及びAlzheimer’s Disease Assessment Scale-cognitive subscale (ADAS-cog)で評価し、また脳血流を123I-IMP-ARG single photon emission computed tomography (123I-IMP-SPECT)で観察した。
結果と考察
1年間のMMSEスコアの平均変化率は、ペリンドプリル群:-0.9±0.2、エナラプリル群:-4.8±0.9、ニフェジピン群:-5.2±1.2と、ペリンドプリル群では、その他の降圧剤に比してAD患者の認知機能の低下を有意に抑制する事が明らかにされた(p<0.01)。しかし、各群間の血圧値に有意差を認めなかった。
 また、12週間の治療の前後で、MMSEおよびADAS-cogともに併用治療群のみで有意な改善を示し、また局所脳血流評価でも併用治療群のみ前頭葉で有意な上昇を示していた。
結論
以上の結果から、脳移行性ACE阻害剤投与は、高血圧合併AD患者の新しい進行抑制法の一つになる可能性が示唆された。また、加味温胆湯には塩酸ドネペジルに対する相補的効果があるものと考えられ、統合医療は認知症の治療に有益であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2007-03-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200619055C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまで、認知機能における脳内レ二ンーアンジオテンシン系の関与が指摘されていた。本研究では、脳内移行性が確認されているアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤の投与が、高血圧合併AD患者において病勢の進行を抑える事を明らかにし、さらに代表的なコリンエステラーゼ阻害剤である塩酸ドネペジルと加味温胆湯の併用療法がADの有効な治療法になりうる事を明らかにした。このような脳移行性ACE阻害剤の効果を実際の疾患で確認できた事は重要と考えられる。
臨床的観点からの成果
高齢化がますます加速するわが国において、認知症疾患の中でアルツハイマー病(AD)の増加は顕著で、その克服は最重要課題である。本研究では、脳内移行性が確認されているアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤の投与が、高血圧合併AD患者において病勢の進行を抑える事を明らかにし、さらに代表的なコリンエステラーゼ阻害剤である塩酸ドネペジルと加味温胆湯の併用療法がADの有効な治療法になりうる事を明らかにした。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
1件
大類 孝. ACE阻害薬は認知能力を保持する.呼と循54:369-374, 2006.
原著論文(英文等)
2件
He M, et al.Neurology 67:1309-1310, 2006. 他
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-