我が国におけるバンコマイシン低感受性MRSA等の実態に関する緊急調査

文献情報

文献番号
199700188A
報告書区分
総括
研究課題名
我が国におけるバンコマイシン低感受性MRSA等の実態に関する緊急調査
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
荒川 宜親(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
8,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症の治療薬として、1991年にバンコマイシン(VCM)の点滴注射剤が認可されているが、最近、これに低感受性を示すMRSA (VISA)がわが国で分離されたとの報告が出されたため、その分離率等を把握する事を目的として、全国の278施設からMRSAを分離しそのVCMに対する感受性試験などを実施した。
研究方法
性株の分離率、検体別分離率、医療施設の規模別分離状況などについて解析を行った。
B.研究方法
(社)日本臨床衛生検査技師会(日臨技、早田繁雄会長)の微生物検査研究班(長沢光章班長)により、1997年11月から12月にかけ、全国278の医療施設においてMRSAを分離した。菌株の重複分離を避けるため、1患者から1株のみ分離した。
分離されたMRSAは、移送培地に接種した後、各地区毎に11の試験施設に集中し、平松教授らにより発表された方法(1)に基づき共通の検査法を用いてVCMに対する感受性試験を実施した。感受性試験に用いたVCM含有BHI寒天培地は、日水製薬(株)に一括して作成を依頼し、予備調査において独自に分離したVCM低感受性株2株(平松教授から分譲されたMu3株に相当)を用いて精度チェックを実施した後、各試験担当施設(11施設)に送致し感受性試験に供した。
4μg/mlの濃度のVCMを含むBHI寒天培地に接種後、35℃で培養し48時間後までに1コロニーでも生育した株については、再現性や安定性を確認するため、VCMを含まない移送用培地から再度TS液体培地に菌を摂取し一晩37℃で前培養した後、同様の感受性試験を2回繰り返した。
一方、最初の感受性試験で4μg/mlの濃度のVCMを含むBHI寒天培地に生育しなかった株をランダムに300株選択し、再度感受性試験を実施している。
VCMを4 μg/ml含む培地に生育した125株については、そのコロニーを再度培養した後、日本化学療法学会標準法の寒天平板希釈法に基づきMICを測定した場合に、MIC値が4 μg/mlと判定された22株及び血液から分離された4株については、基礎疾患、病状経過や転帰について追加調査を行っている。
MRSAの分離に協力を頂いた施設は、総数で278施設であり、そのうち大学付属病院は57施設、その他の施設は221施設であった。
調査期間内に全国から収集した6,625株の内訳は、大学付属病院由来が1905株、非大学付属病院由来が4720株であった。これらの分離菌について、感受性試験を実施したところ、2、3、4 μg/ml のVCMを含むBIH寒天培地に生育するMRSAはそれぞれ3,688株(55.1 %)、1,181株(17.8 %)、248株(3.7 %)であった。4 μg/mlのVCMを含む培地に生育した248株の内、大学付属病院由来が88株、非大学付属病院由来が160株であり、総分離株数に占める割合は、各々4.62 %と3.39 %であった。248株の薬剤感受性の安定性を再検査する目的で、近畿地区から分離された株を除く187株について再現性を確認したところ、125株(66.8 %)においては発育が観察されたが、残りの53株は生育しなかった。さらに、生育した125株について再び、コロニーを培養して同様の検査を実施したところ、122株(97.6 %)においては生育が再度確認されたが、3株は発育しなかった。
248株中には平松教授らが報告しているMu50株に相当する「ホモ耐性株」は分離されなかった。さらに、日本化学療法学会標準法 寒天平板希釈法による感受性検査では、248株の全てにおいて、VCMのMICが4 μg/ml と判定された株は22株でその他は全てそれ以下と判定された。
4 μg/mlのVCMを含む培地に生育した248株の由来としては、血液が4株、尿が18株、喀痰が111株、膿が40株、IVHカテーテルが4株、糞便が14株、皮膚が4株、その他と不明が合わせて53株であった。
患者の臨床情報の調査と解析は続行中である。
結果と考察
 MRSAの分離に協力を頂いた施設は、総数で278施設であり、そのうち大学付属病院は57施設、その他の施設は221施設であった。
調査期間内に全国から収集した6,625株の内訳は、大学付属病院由来が1905株、非大学付属病院由来が4720株であった。これらの分離菌について、感受性試験を実施したところ、2、3、4 μg/ml のVCMを含むBIH寒天培地に生育するMRSAはそれぞれ3,688株(55.1 %)、1,181株(17.8 %)、248株(3.7 %)であった。4 μg/mlのVCMを含む培地に生育した248株の内、大学付属病院由来が88株、非大学付属病院由来が160株であり、総分離株数に占める割合は、各々4.62 %と3.39 %であった。248株の薬剤感受性の安定性を再検査する目的で、近畿地区から分離された株を除く187株について再現性を確認したところ、125株(66.8 %)においては発育が観察されたが、残りの53株は生育しなかった。さらに、生育した125株について再び、コロニーを培養して同様の検査を実施したところ、122株(97.6 %)においては生育が再度確認されたが、3株は発育しなかった。
248株中には平松教授らが報告しているMu50株に相当する「ホモ耐性株」は分離されなかった。さらに、日本化学療法学会標準法 寒天平板希釈法による感受性検査では、248株の全てにおいて、VCMのMICが4 μg/ml と判定された株は22株でその他は全てそれ以下と判定された。
4 μg/mlのVCMを含む培地に生育した248株の由来としては、血液が4株、尿が18株、喀痰が111株、膿が40株、IVHカテーテルが4株、糞便が14株、皮膚が4株、その他と不明が合わせて53株であった。
患者の臨床情報の調査と解析は続行中である。
我が国においてMRSA感染症に対し点滴静注によるVCMの使用が認可されるようになってから、7年が経過した。この間その使用量は着実に増加し、一部では「予防投薬」や退院前の「除菌目的」の投薬など不適切な使用例も指摘されていた。今回、順天堂大学医学部付属病院で分離された、VCM低感受性MRSAは、長期間VCMの投与を受けた患者から分離されており、VCMの長期投与がこのような低感受性株の出現の一因となっていることが示唆される。この関係を明らかにするため、各施設に対するVCMの納入実績と低感受性株の分離率の関連について、今後、比較検討を行う必要がある。
VCMはムレインモノマーに結合することにより抗菌活性を発揮するが、殺菌的に作用するβ-ラクタムなど他の抗菌薬と比べ同一菌株においても感受性試験結果にバラツキが生じ易く、しかも、いわゆる"inoculation effect"の影響も受け易い傾向が以前から指摘されている。平松教授の推薦する感受性試験法は、1/1,000,000程度の頻度で出現する低感受性変異株を検出するため、NCCLSや日本化学療法学会の定める感受性試験法で用いる菌量の1000倍程度濃い菌を接種し、しかも48時間培養後、結果を判定することになっている。そのため、"inoculation effect"の影響を無視できず、感受性試験結果の再現性が乏しいことが予想されたが、今回の調査により、再現性が66 % 程度と、他の殺菌的抗菌薬に比べ著しく低いことが再確認された。この種の低感受性菌の存在が臨床的に問題となるようであれば、簡便に低感受性菌を検出する方法を確立する必要があろう。
低感受性株は検査室における通常の感受性検査では、「感受性」と判定されており、その臨床的な危険度についての評価や特別な対策の必要性の有無、感受性試験の判定基準の変更の必要性の有無などに関して、感染症や化学療法の専門家の間でも意見が分かれている。今回の調査では、全国の278施設から分離された6625株について調査を行ったが、平松教授らの報告されているMu3株に相当する株が、3~4 %程度確認されたものの、Mu50 に相当する株は全く確認されなかった。これまでにもMRSAによる肺炎などの症例では、VCMによる治療が困難な例も多数報告され、治療の困難さがVCM低感受性とどのような関係にあるのか、臨床的な評価についての検討を急ぐ必要がある。順天堂大学付属病院では20%のMRSAが低感受性株であるとの報告が、最近平松教授らにより発表されており、この種の菌の臨床的危険度をはっきり評価するため、低感受性株の分離された患者の基礎疾患や臨床経過、転帰などについて臨床的な解析を行うことが求められていよう。
現在、VCM低感受性菌の分離された患者の病状経過や転帰について調査を進めており、近日中にその結果をまとめることができる予定である。また、MRSAの保存株における解析や、MRSA感染死亡例や難治感染例から分離されたMRSAのVCM感受性の分布についても並行して調査を行っている。
結論
MRSAのVCM感受性調査では全国から収集した6,625株の分離菌について、順天堂大学の平松教授の方法により感受性試験を実施し、2、3、4 μg/ml のVCMを含むBIH寒天培地に生育するMRSAをそれぞれ3,688株(55.1 %)、1,181株(17.8 %)、248株(3.7 %)確認した。248株の内訳は、大学附属病院由来が88株、非大学附属病院由来が160株であり、分離菌数に占める割合は、各々4.62 %と3.93 %であった。4 μg/mlのVCMを含む培地に1コロニーでも生育した248株の中で近畿地区から分離された株を除く187株について再現性を確認したところ、125株(66.8 %)において発育が再度観察された。さらに、これらの株に対し再度同様に検査を実施したところ、122株(97.6 %)において再現性が確認された。4 μg/mlのVCMを含むBHI寒天培地に生育した248株の由来は血液が4株、尿が18株、喀痰が111株、膿が40株、IVHカテーテルが4株、糞便が14株、皮膚が4株、その他と不明が合わせて53株であった。現在、再試験においてVCMを4 μg/ml含むBHI培地に生育した125株について、そのコロニーを培養し、日本化学療法学会標準法に基づきMICを測定した結果、4 μg/mlと判定された22株、及び血液から分離された4株の計26株について、菌が分離された患者の臨床経過や転帰に関する調査・研究を継続している。

公開日・更新日

公開日
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研究報告書(紙媒体)