高齢者の耳鳴抑圧に関する研究

文献情報

文献番号
199700187A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の耳鳴抑圧に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小田 恂(東邦大学医学部第一耳鼻咽喉科学講座)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
耳鳴は聴覚障害のなかでも難聴ととも日常生活に重大な影響を及ぼす症状である。難聴者のうちでおよそ40%~50%は耳鳴を合併しているが、難聴の種類で検討してみ ると、伝音難聴にくらべ感音難聴の方が耳鳴を合併する頻度が高い。感音難聴の原因にはさまざまなものがあるが、難聴の原因となる部位は主として内耳であり、そのほか蝸牛神経のような神経系統および脳幹から大脳皮質にかけての聴覚中枢路の障害も難聴の原因となる。加齢に伴う難聴も代表的な感音難聴であり、今後20年間は高齢者人口が増え続けるので、老人性難聴の数も増加をつづけることが予想されている。このような理由から、高齢者のなかで耳鳴を合併する人も必然的に増加してくることになる。人間の加齢にともなう組織変化は比較的若いうちから始まるが、聴力の低下となって表れるのは40歳代以後である。ただし40歳代から50歳代では言語生活に影響がない高音域の聴力低下が主であり、主として500Hzから2000Hzまでの言語聴取のために必要な周波数領域の聴力は臨床的な観 点からは正常範囲内にある。したがって、この年齢の人々は自分の聴力が低下していることは意識しないままに日常生活を送る場合が多い。さらに年齢が進むと聴力低下の領域は低音方向に進み、65歳以上になると平均的な聴力レベルが臨床な難聴のレベルに突入する。この年齢以後では次第に聴覚の感度が低下して、難聴の程度が増してくる。前述のように、耳鳴は感音難聴のおよそ50%に合併してみられるので、高齢者の場合には耳鳴患者の 絶対数が次第に増大するものと予想される。聴覚の年齢変化については枚挙にいとまがない程の研究があるが、高齢者の耳鳴についての基礎的資料となる研究は非常に少ない。この研究の目的は、高齢者の耳鳴の実態を知ることと、非高齢者の耳鳴との差異を分析して、高齢者の耳鳴の特徴を明確にすること、ならびに耳鳴による日常生活の困窮度を軽減するような耳鳴音の抑圧法を開発することにある。
研究方法
 耳鳴・難聴を主訴に東邦大学医学部付属大森病院を受診し、難聴外来に登録された耳鳴患者を対象に検討した。対象とした症例は、?問診、?外来診察ののち、?耳鳴、難聴の検査を行なった。問診では耳鳴の発生の時期や耳鳴発生の原因や誘因となる出来事の有無、耳鳴発生時の疾病罹患や外傷などの全身状態、めまいや難聴など耳症状の合併の有無、耳鳴の性状、大きさ、持続、困窮度などについて詳細な聴取が行なわれた。外来診察は耳鏡検査による鼓膜、外耳道のチェックのほか、鼻鏡による鼻腔や上咽頭の検査、口腔咽頭の検査、喉頭鏡による声門周辺の検査が行なわれた。つぎに、聴覚機能の評価として、以下の項目について検討し、分析の資料とした。1)純音聴力検査:耳鳴を訴えて来院した患者すべてに聴力検査を施行し、耳鳴と難聴の程度の関連について研究の資料とした。2)耳鳴検査:耳鳴検査は耳鳴測定装置とオ-ジオメ-タにより、ピッチマッチ検査とラウドネスバランス検査を行い、耳鳴の周波数とおとの強さを同定した。また、詳細な問診により、耳鳴発現前後の身体的な状況と耳鳴の自己評価を行なった。3)閾値上聴力検査:内耳性難聴の有無について検討する目的で閾値上聴力検査を行なった。方法は主としてSISI法で行なったが、症例によってはABLB法やBekesy audiometryによるJerger分類も採用した。 4)聴性誘発反応(ABR):後迷路の障害が予想される症例が多いので、聴性誘発反応によっ てV波潜時の延長の有無について検討した。5)誘発耳音響放射:可能なかぎり耳音響放射 について検討した。6)その他:蝸牛障害だけではなく前庭障害の低下も推定されるので、眼振検査を赤外線CCDカメラを内蔵したFrenzel眼鏡下に行なった。 
結果と考察
 1)
65歳以上の高齢者で耳鳴を主訴に来院した例は27例で、内訳は男性例19例、女性例8 例であった。一般外来のなかから、65歳以上の高齢者を抽出して検査目的を説明し、同意のえられた症例について聴力検査を行い、問診をすると12例(男性4例、女性6例)で耳鳴りがあることが判明した。以上の38例(男性23例、女性14例)について検討を加えた。2)耳鳴検査の結果、ラウドネスバランス検査により耳鳴の大きさは閾値上15dB以上が1例、10dB 以上15dB未満が8例であり、5dB以上10dB未満の例が20例、5dB未満の例残り9例であった。耳鳴の大きさについては、従来から多くの研究報告があるが、今回の高齢者の耳鳴の大きさは、今まで報告されてきた一般の感音難聴の耳鳴と同様で多くの症例は最大15dBまでの大きさであった。3)閾値上聴力検査の結果、38例のうちで明らかな内耳障害を示した症例は24例であり、これは全体の63%に相当した。残りの14例は補充現象陰性であった。この 補充現象陰性の14例を、ただちに後迷路障害と短絡的に関連づけるのは無理がある。しかし、高齢者の聴覚障害が内耳だけではなく、後迷路の聴覚中枢路の神経核細胞の変性・萎縮など広く老人性難聴を特徴づける所見であることを考えあわせると、さらに多くの患者を対象にして後迷路障害の有無について検討すべきであると考える。4)聴性誘発反応による反応波形の検討は、前術の後迷路の障害と関連あるものと推定されるが、今回の症例ではV波潜時の延長例や、I-V波間潜時の延長例などはみられなかった。このことから、今回対象とした症例では後迷路の病変はなかったと考えられるが、さらに症例を増やしての検討が必要と思われる。5)誘発耳音響放射については5耳に行なったが、すべて反応が確認 された。耳鳴と関連すると思われるのは自発耳音響放射であり、次年度は積極的に耳発耳音響放射と歪成分耳音響放射の検査を行い、耳鳴との関連について検討したい。6)内耳障害は聴覚を中心とする蝸牛系の障害ばかりでなく、前庭系の障害も併発することを考え、赤外線CCDカメラを用いて眼振の記録を行なった。機器の購入が遅れ、対象例のうち 4例 に行なっただけであるが、病的な眼振を記録することができず、これも今後の課題と考える。以上のように、さまざまな検査成績は特別な成績を見いだすことができなかったが、研究の初期の目的は同様の耳鳴りがある場合でも、高齢者の場合は、非高齢者と異なった受容態度があるのではないかという考えから始まった研究であり、高齢者における耳鳴患者の頻度や耳鳴の困窮度などについて、非高齢者との対比を確実なものにしてゆきたいと考える。さらに、治療にともなうQOLにも一歩踏み込んだアプロ-チが必要であると考え る。
結論
 以上、今回の検討内容から、高齢者の耳鳴は一般の耳鳴と物理的性状に関して差異がないように思われた。ただし、高齢者耳鳴の実態調査(実際には予備検査)と耳鳴抑圧の方法についての検討をさらに症例を増やして検討する必要があると結論した。

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