新しい日米科学技術に関する研究(実験動物(霊長類)科学)

文献情報

文献番号
199700186A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい日米科学技術に関する研究(実験動物(霊長類)科学)
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
山田 章雄(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 向井鐐三郎(国立感染症研究所)
  • 吉田高志(国立感染症研究所)
  • 山海直(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国立感染症研究所筑波医学実験用霊長類センターでは、医学研究用実験動物としてのカニクイザルの人工繁殖にいち早く成功し、これまでに感染症の制圧に関する研究、代謝疾患や老人病モデルの提供、さらに脳機能に関する研究等に貢献してきた。一方、昨今の科学技術の進展には目を見張るものがあり、遺伝子治療、DNAワクチンなど、新しい予防治療法の実用化も現実的なものとなってきている。こういった状況に対応してゆくためには特定の病原体に汚染されていないことが確実な所謂SPFサルを初めとし、ノックアウトサル、トランスジェニックサル等の質の高い実験用霊長類の開発が望まれている。これらの動物の開発研究には、この分野で先導的である米国の研究者と交流し最新情報を交換しあい、高い技術力を得ることが不可欠である。
研究方法
サルにエイズ様免疫不全を起こすことが知られているサルレトロウイルス(SRV/D)の血清学的、遺伝学的検出法を確立し、当センター繁殖・育成サルコロニーにおける浸淫度を把握する。次ぎに米国での経験をもとに、SRV/Dフリーのサルコロニーの構築を行う。一方、サルにおけるノックアウト動物の作出に向けサルES細胞株の樹立ならびにクローンサル作出技術の確立を目指す。これらの研究推進のために米国の研究者との情報の共有を中心とした交流を図る。
結果と考察
動物の繁殖の効率を向上させるための性周期の把握のためには、一般には採血によりステロイドホルモンの測定による方法が採用されている。しかし、人工的飼育下に有るとはいえ、採血のためには前もって捕獲・麻酔等の処置が必要でありこの事が動物にストレスとして作用し、その時の性周期を撹乱しがちである。そこで、外分泌型ステロイドホルモンとして汗や糞便・尿中に排泄されるホルモン濃度を指標とし、動物に無用なストレスを与えずにすむ方法の確立を検討した。その結果比較的簡便な2段階抽出法で糞便中のステロイドホルモンの測定が可能であることが判明し、非侵襲的にカニクイザルの性周期を的確に把握しうる事を明らかにした。一方、質の高い医学研究用サル類の開発を目指し、1)性周期を考慮しないで摘出した卵巣から採取した未成熟卵の成熟培養を試みたところ、カニクイザル未熟卵の体外での成熟が確認された。しかし、その成熟にかかる時間にはバラツキがあるという問題が残されている。2)実験殺されたサル類由来の精巣上体精子の凍結保存を行った。この中には疾患モデルザルの精子も含まれており、サル類遺伝子資源の保存法の一つとして精子の凍結保存が有効になるものと考えられた。3) カニクイザル精子および精子細胞を用いた顕微授精を試み、凍結保存されたカニクイザル精子および精子細胞の前核形成能が確認された。次ぎにサルレトロウイルス(SRV/D)を標的に当センターのサルのSPF化を進めるうえで重要な血清学的並びに分子生物学的にウイルス検出法を検討し、抗SRV/D抗体の検出にはウエスタンブロット法がIFA, ELISAと比較し再現性において最も優れていることが明らかになった。また、本法による検査の結果、当センターのカニクイザルコロニーはSRV/D感染による汚染が進んでいることが明らかになったので早急な対応が必要である。またPCRは当センターのカニクイザルのSRV/Dウイルス遺伝子の検出にも有効であることが明らかになったが、今後、検出感度の上昇を目指す必要があると考えられた。
結論
発生工学的手法を用いて医学研究に大きく貢献するサルを作出する技術の確立に向け、動物の繁殖生理学的状態を非観血的に検出する方法並びに未成熟卵の成熟培養法、精巣上体精子の凍結保存法、凍結精子
細胞による顕微受精の方法について検討した。その結果、糞便中からステロイドホルモンを簡便に抽出し検出する方法をかくりつできた。また、当センターのサルにおけるサルレトロウイルスの浸淫状況を把握するために血清学的、分子生物学的検査法の確立を目指し、ウエスタンブロットならびにPCRが有用であることが判明した。PCRの感度に若干問題があるものの、サルコロニーのSPF化に大きく貢献するものと期待される。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)