老年期認知症における認知症病態の基盤の解明

文献情報

文献番号
200619018A
報告書区分
総括
研究課題名
老年期認知症における認知症病態の基盤の解明
課題番号
H17-長寿-一般-005
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
木下 彩栄(京都大学医学部保健学科)
研究分担者(所属機関)
  • 植村 健吾(京都大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
6,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
われわれは、アルツハイマー病で初期から見られるシナプス変性の原因を解明するために、原因遺伝子であるプレセニリンのシナプス蛋白制御機能に着目して細胞レベルで実験を進め、新しい視点からモデルマウスを作成することを目的として研究を立案した。
研究方法
分子生物学的手法を用いて、シナプス蛋白であるN-cadherinがPS1にどのような制御を受けているかを明らかにし、PS1の局在・機能を調節する因子としてリン酸化酵素であるGSK3βに着目して研究を進め、細胞分画法やビオチン化法にて、膜表面へのPS1の分布を調べた。その際のPS1の機能の目印として、異なる2種類の基質の切断能、およびcell survival pathwayへの影響を調べた。さらに、GSK3βによるリン酸化を受けた状態をmimicする変異PS1トランスジェニックマウス、PS1により切断を受けない変異N-cadherinを導入したノックインマウスを作成する。
結果と考察
細胞レベルの実験の結果、PS1はN-cadherinの切断を介して新規シグナル経路を制御していることが明らかになった。さらに、GSK3βによりリン酸化されることで、PS1の局在・機能が変化することが明らかになった。作成した変異PS1トランスジェニックマウスはすでに解析を開始しており、いくつかのシナプス蛋白の発現が変化していることを確認している。今後は、これをヒトアルツハイマー病脳の組織にて検証する予定である。変異N-cadherinノックインマウスは現在陽性のクローンをいくつか得ることができ、現在キメラマウスを作成中である。これらの結果、プレセニリンのシナプス蛋白の制御メカニズムの一端が初めて明らかにされた。さらに、リン酸化という要因を介してPS1の機能が制御されることより、環境要因を介してPS1の機能が変化している可能性が示唆された。これは、今後孤発性のアルツハイマー病の病態を考えていく上で極めて大きい意義があると考える。
結論
上記のように、当初予定していた以上の興味深い結果をだすことができた。モデルマウスを用いてアルツハイマー病脳のシナプス脱落の病態においてin vivoでも同様なメカニズムが働いているかを検証する意義は大きく、アルツハイマー病のシナプス脱落の病態の解明を目指すことが可能になると期待される。

公開日・更新日

公開日
2007-04-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
200619018B
報告書区分
総合
研究課題名
老年期認知症における認知症病態の基盤の解明
課題番号
H17-長寿-一般-005
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
木下 彩栄(京都大学医学部保健学科)
研究分担者(所属機関)
  • 植村 健吾(京都大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
われわれは、アルツハイマー病で初期から見られるシナプス変性の原因を解明するために、原因遺伝子であるプレセニリンPS1のシナプス蛋白制御機能に着目して細胞レベルで実験を進め、新しい視点からモデルマウスを作成することを目的に計画を立案した。
研究方法
実験手法としては、分子生物学的手法を用いて、シナプス蛋白であるN-cadherinがPS1にどのような制御を受けているかを明らかにする。さらに、PS1の局在・機能を調節する因子としてリン酸化酵素であるGSK3βに着目して研究を進め、細胞分画法やビオチン化法にて、膜表面へのPS1の分布を調べた。さらに、PS1の機能として、異なる基質の切断能、およびcell survival pathwayへの影響を調べた。さらに、GSK3βによるリン酸化を受けた状態をmimicする変異PS1トランスジェニックマウス、PS1により切断を受けない変異N-cadherinを導入したノックインマウスを作成する。
結果と考察
これらの実験の結果、PS1はN-cadherinの切断を介してこれまで知られていなかったWntシグナル経路を制御していることを明らかにした。さらに、GSK3βによりリン酸化されることで、PS1の局在・機能が変化することが明らかになった。変異PS1トランスジェニックマウスはすでに解析を開始しており、いくつかのシナプス蛋白の発現が変化していることをpreliminaryに確認している。今後は、これをヒトアルツハイマー病脳の組織にて検証する予定である。変異N-cadherinノックインマウスは現在キメラマウスを作成中である。これにより、PS1のシナプス蛋白N-cadherin, cateninの制御メカニズムの一端を明らかにし、PS1がシナプス蛋白の転写を制御することを示した。さらに、GSK3によるリン酸化を介してPS1の機能が制御されることより、虚血や酸化ストレス、脂質代謝といった環境要因を介してPS1の機能が変化し、シナプス蛋白の制御不全が起きている可能性を示唆した。これは、今後孤発性のアルツハイマー病の病態を考えていく上で極めて大きい意義があると考える。
結論
PS1のシナプス蛋白制御について興味深い基礎的な知見を得ることができた。現在解析中のモデルマウスの結果次第で、PS1がシナプス蛋白の制御に果たす生理的な役割や、その病的意義を確立し、さらにそれを治療戦略につなげていくことができると期待される。

公開日・更新日

公開日
2007-04-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200619018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アルツハイマー病の初期病変とされるシナプス変性のメカニズムについては現在までまだ研究が進んでいない。われわれは、原因タンパク質であるプレセニリンPS1がシナプス蛋白を制御していることを明らかにし、その詳細な機序について解明することで、アルツハイマー病の病態に迫ることを目的として研究を進めた。その結果、国際学会への発表、専門の国際学術誌への報告として成果を披露することができ、認知症の基盤研究として新しい方向性を示すことができた。
臨床的観点からの成果
現在作成しているノックインマウスおよびすでに作成し解析しているトランスジェニックマウスは、これまでのアルツハイマー病のモデルマウスとは異なる視点から作成されたものであり、PS1のシナプス蛋白への影響を調べることで、臨床的観点からも有意義な結果が期待できる。さらに、ここで得られた結果を、アルツハイマー病の脳において検証し、臨床に役立てる予定である。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
2007年3月6日先端領域融合医学研究機構シンポジウムにて発表し、同日、NHK京都にてニュース(6:00-6:30)放映された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Uemura K, Kuzuya A, Aoyagi N et al.
Amyloid beta inhibits ectodomain shedding of N-cadherin via down-regulation of cell-surface NMDA receptor.
Neuroscience , 145 (1) , 5-10  (2007)
原著論文2
Uemura K, Kuzuya A, Shimozono Y et al.
GSK3beta activity modifies the localization and function of Presenilin 1.
Journal of Biological Chemistry (in press)  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-