安全でおいしい新嚥下補助食を利用した家庭や介護施設における食事介助の在り方に関する研究

文献情報

文献番号
200619003A
報告書区分
総括
研究課題名
安全でおいしい新嚥下補助食を利用した家庭や介護施設における食事介助の在り方に関する研究
課題番号
H16-長寿-一般-005
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
山田 好秋(新潟大学 医歯学系)
研究分担者(所属機関)
  • 林 孝文(新潟大学 医歯学系)
  • 城 斗志夫(新潟大学 自然科学系)
  • 植田 耕一郎(日本大学 歯学部)
  • 新井 映子(静岡大学 教育学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
5,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
嚥下食の開発は前年度までにほぼ完成した。今年度はマニュアル作成を中心に実施した。昨年度に介護保険施設を対象に実施したアンケート結果から、専門家にも咀嚼・嚥下障害とその程度に応じた食提供のあり方に理解の不足が認められた。今年度はマニュアルに記述するために必要な「捕食から嚥下までの口腔運動と食塊動態」および「嗜好に及ぼす食品物性」について基礎研究を行い、その結果を基にパンフレット形式のマニュアルを作成することにした。
研究方法
①食物口腔内動態および口腔諸器官の運動を観察するため、5人の健常者の自然な摂食運動をVFにて記録し、解析した。②米菓の物性が食物摂取・咀嚼運動に及ぼす影響を健常成人と介護老人保健施設利用者を対象に定量的に計測し、嗜好性を若年者と高齢者群で調査した。③昨年実施したアンケート調査を基に在宅介護者の食事介助マニュアル-基礎編-を編集し、全国2,000の介護保険施設に配布し、内容、文字や図・写真、在宅での利用、について評価を依頼した。
結果と考察
食物摂取時の口腔運動と食塊動態は;①舌は食物摂取時にその物性認知と一口量の計測に重要;②摂取直後の舌と口蓋での食物圧縮は物性認知に重要;③自由咀嚼時には一口量の食塊でも2-3回の嚥下動作が必要;④嚥下口腔期の持続時間は食塊量に左右され、食塊量が少ないと持続時間が延長することから命令嚥下と咀嚼時の嚥下には異なる点があり、介護の場で注意が必要であることが示唆された。嗜好性については;①物性と咬筋総活動量平均値に高い相関;②硬い米菓ほど咀嚼回数が増加し、咀嚼時間と咬筋総活動量が増加;③硬い米菓はそのままの状態では摂取できないが分割すると可能な場合もある;④高齢被験者にとって米菓の硬さは主に捕食時に評価され、米菓の嗜好性で最も重要な項目であることがわかった。12項目にわたる図解マニュアルを編纂し、その評価を2月末で716施設より得た。編集にあたり専門用語には解説のページも設けた。その結果、「わかりやすい内容である」との評価が60%と、どちらでもない22%、難しい18%を大きく上回っていた。自由回答には是非完成版を送ってほしいとの要望が多く、目的通りのマニュアルが完成できた。
結論
今年度、主目的の一つである在宅介護者のハンドブック-基礎編-を編集した。介護の現場から高い評価を得ており、目的は十分達成できたと考える。

公開日・更新日

公開日
2007-03-29
更新日
-

文献情報

文献番号
200619003B
報告書区分
総合
研究課題名
安全でおいしい新嚥下補助食を利用した家庭や介護施設における食事介助の在り方に関する研究
課題番号
H16-長寿-一般-005
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
山田 好秋(新潟大学 医歯学系)
研究分担者(所属機関)
  • 林 孝文(新潟大学 医歯学系)
  • 城 斗志夫(新潟大学 自然科学系)
  • 植田 耕一郎(日本大学 歯学部)
  • 新井 映子(静岡大学 教育学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
要介護者が「安全」で「おいしく」食べられる嚥下食の開発と医学的知識を持たない介護者に配布する食事介助のマニュアル作成を目的とした。
研究方法
3つのテーマで実施した:1)嚥下補助食の開発:小麦のタンパク(グルテン)を構成する2種のタンパク(グリアジン・グルテニン)の配合比率を変えた調整食の物性(破断性や凝集性)を調べ、その変化と原理を検索した。これでクッキーやうどんを調製し官能検査にて至適配合比率を求めた:2)健常者に食品を自由に摂取・咀嚼・嚥下させ、口腔運動および食塊動態をVFにて記録・解析した:3)介護保険施設の栄養士などを対象にアンケートを配布し、食事提供の実態を調査した上で、医学的知識を持たない介護者用に医学の基礎知識や食事介助における注意事項を図示した冊子を作成し全国2000の介護保険施設に配布し評価を得た。
結果と考察
タンパクの配合比率を変えることで物性が変化し、食形態により至適配合比率が示された。タンパクを基材とした嚥下補助食開発の方向性を示せたことは、摂食・嚥下障害者に多様な食材が提供できる点で、社会的貢献は大きい。今後食品メーカーと共に実用的な摂食・嚥下障害食として提供したい。摂食・嚥下障害を診断する上で食物の捕捉から嚥下までの口腔運動と食塊動態を明らかにすることは重要である。そこで健常者に食品を自由に摂取・咀嚼・嚥下させ、口腔運動および食塊動態をVFにて記録・解析した。舌が一口量の決定および食物物性の認知に重要な役割をもつことなど、多くの知見を得た。詳細はPhysiol Behav. 2007; 90:172-9.に発表し、高い評価を得た。介護保険施設の栄養士等に実施したアンケートを基に在宅介護者のハンドブック-基礎編-を編集した。人はなぜ食べるのか/栄養のバランスはとれていますか?/食事の流れ/食べるための体のしくみ:口の中/食べるための体のしくみ:口の周り/食物の粉砕(咀嚼)/唾液の働き/嚥下(飲み込むこと)/嚥下の順序/上手に食べられない、飲み込めない/どうすればよいのでしょうか?/楽しい食事の場つくりをしましょう、という12項目の図解冊子を作成し、716施設から高い評価を得た。
結論
要介護者が「安全」で「おいしく」食べられる食材の開発と家庭での食事介助のマニュアル作成を目指し3つのプロジェクトを実施し、それぞれ目的を達成した。

公開日・更新日

公開日
2007-03-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200619003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
摂食・嚥下障害を診断する上で食物の捕捉から嚥下までの口腔運動と食塊動態を明らかにすることは重要である。そこで健常者に食品を自由に摂取・咀嚼・嚥下させ、口腔運動および食塊動態をVFにて記録・解析した。舌が一口量の決定および食物物性の認知に重要な役割をもつことなど、多くの知見を得た。詳細はOral behavior from food intake until terminal swallow. Physiol Behav. 2007; 90:172-9.に発表し、高い評価を得た。
臨床的観点からの成果
現状では嚥下困難者には多糖類を主とする増粘剤が多用される。脂質もその物性が嚥下に適しているがタンパクで構成される食材はない。本研究では小麦に含まれるタンパク(グルテン)を構成する2つのタンパク、グリアジンとグルテニンの配合比率を変えることでクッキーやうどんが嚥下に適した物性に調整可能であることを示した。この結果は、タンパクを基材とした増粘剤の開発の可能性を示しており、栄養学的にはもちろん、摂食・嚥下障害者に多様な食材が提供できる点で、専門学会で高い評価を得た。
ガイドライン等の開発
介護保険施設の栄養士等を対象に実施したアンケート調査を基に在宅介護者のハンドブック-基礎編-を編集した。「人はなぜ食べるのか」「栄養のバランスはとれていますか?」「食事の流れ」「食べるための体のしくみ:口の中」「食べるための体のしくみ:口の周り」「食物の粉砕(咀嚼)」「唾液の働き」「嚥下(飲み込むこと)」「嚥下の順序」「上手に食べられない、飲み込めない」「どうすればよいのでしょうか?」「楽しい食事の場つくりをしましょう」という12の項目を図解したパンフレットを作成した。
その他行政的観点からの成果
マニュアル作成の基礎調査として実施された介護保険施設での食事介助調査結果は、施設の専門職にも介護食に対する知識や用語に混乱があることを明らかにした。特に、認知症の患者に対する食介護の対応が大きく混乱していることが明らかとなった。今後、咀嚼障害・嚥下障害・認知症の程度に合った食形態のあり方を整理し、介護食に関する用語の標準化を行えば、施設間での食情報の交換が可能となるだけでなく、食品メーカーが摂食・嚥下障害食を開発する際に大いに役立つと考える。
その他のインパクト
高齢社会を反映し、介護食の開発を希望する食品メーカーおよび新潟県の食品研究者より共同研究の申し入れが多数あった。さらに、我々の指導の元で嚥下困難者用食品を開発し市販に至った例もある。新潟大学の中でも介護食に対する認識が高まり、「食と健康」といったキーワードで学際的な研究グループが出来つつある。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
新井映子、山村千絵、山田好秋 他
クッキーの咀嚼・嚥下特性に与えるグルテン構成たんぱく質組成の影響
日摂食嚥下リハ会誌 , 10 (2) , 142-151  (2006)
原著論文2
江川広子、黒瀬雅之、山田好秋 他
介護食の提供実態調査について ー新潟市の介護保険施設入所者の場合ー
日本咀嚼学会誌 (in Press)  (2007)
原著論文3
Okada A, Haishima K, Yamada Y et al.
Oral behavior from food intake until terminal swallow.
Physiology and Behaviour , 90 , 172-179  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-