生体の持つストレス応答機能を利用した老化制御、予防研究

文献情報

文献番号
200619002A
報告書区分
総括
研究課題名
生体の持つストレス応答機能を利用した老化制御、予防研究
課題番号
H16-長寿-一般-004
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
磯部 健一(名古屋大学大学院医学研究科 分子細胞免疫)
研究分担者(所属機関)
  • 祖父江元(名古屋大学大学院医学研究科 神経内科)
  • 長谷川忠男(名古屋市立大学大学院医学研究科 感染防御・制御学分野)
  • 高橋雅英(名古屋大学大学院医学研究科、病理)
  • 木内 一壽(岐阜大学工学部 生命工学科 生命情報工学講座)
  • 林 登志雄(名古屋大学 医学部、付属病院、老年科)
  • 丸山光生(国立長寿医療センター、老化機構)
  • 長瀬文彦(名古屋大学医学部保健学科検査技術科学)
  • 赤津裕康(福祉村病院長寿医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
12,022,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老化促進ストレス刺激により生体の蛋白をはじめとする様々な変異分子に対し、生体が反応する仕組みを明らかにするため、この研究班を立ち上げた。本年度は最終年度であり、これまでの研究をさらに発展させるとともに、生体本来の防御能を利用した老化制御、予防への可能性を探った。
研究方法
(1) 動物モデルによる実験
人の老化、老化様疾患のモデルとして同じ哺乳類であり、遺伝的背景がしっかりと確立しているマウスを使用した。マウスには遺伝子を導入したり、特定の遺伝子をノックアウトして使用した。
(2) 細胞培養による実験
マウス、あるいは人の細胞株をin vitroで培養して実験に供した。また、神経細胞、グリア細胞をマウスより分離培養した。 免疫系細胞をマウス骨髄、脾臓より分離し培養した。

結果と考察
生体防御系とアルツハイマー病;マウス初代培養ミクログリアとミクログリア株を使用し、マクロファージ系細胞のアルツハイマー病における役割を検討した。老化にともなって産生が上昇するペプチドA-betaはMMP3, MMP12, MMP13を強く産生すること、このシグナル伝達系路はPI3/Aktを介することを示した。変異蛋白のユビキチン化と神経変性疾患; 異常蛋白がユビキチン化し、プロテアゾームにより分解されることが異常蛋白の蓄積を防御する可能性を異常蛋白SOD1の蓄積するALSをモデルに異常SOD1に結合するdorfinとCHIPの働きを調べた。その結果これらの融合蛋白は異常SOD1 をユビキチン化し、プロテアゾームにより分解することを明らかにした。ストレスと動脈硬化 高脂肪食により動脈硬化を発症させるウサギモデルでNOの動脈硬化病変への関与を検索した。ウサギ血管内皮細胞の老化がhTERT活性及び、SA-βgalて検出されることを示し、この活性は17βエストラジオール(E2)によって低下すること、すなわち女性ホルモンは血管内皮細胞の老化を抑制することを示した。NO阻害剤でブロックすることから血管内皮細胞の老化にはNOが抑制的に働くことを示した。
結論
1)A-beta_刺激で、ミクログリアがMMPsを発現することを見いだした。
2)ALSの発症に関与する変異SOD1はDorfin、CHIPあるいはその融合蛋白でユビキチン化され、プロテアゾームにより分解される。 
3)女性ホルモン、NOラジカルは活性酸素とは逆に血管の老化抑制作用を持つ。

公開日・更新日

公開日
2007-03-12
更新日
-

文献情報

文献番号
200619002B
報告書区分
総合
研究課題名
生体の持つストレス応答機能を利用した老化制御、予防研究
課題番号
H16-長寿-一般-004
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
磯部 健一(名古屋大学大学院医学研究科 分子細胞免疫)
研究分担者(所属機関)
  • 祖父江元(名古屋大学大学院医学研究科 神経内科)
  • 長谷川忠男(名古屋市立大学大学院医学研究科 感染防御・制御学分野)
  • 高橋雅英(名古屋市立大学大学院医学研究科 感染防御・制御学分野)
  • 木内 一壽(岐阜大学工学部 生命工学科 生命情報工学)
  • 林 登志雄(名古屋大学 医学部、付属病院、老年科)
  • 赤津裕康(福祉村病院長寿医学研究所)
  • 丸山光生(国立長寿医療センター、老化機構)
  • 長瀬文彦(名古屋大学医学部保健学科検査技術科学)
  • 中島日出夫(国立長寿医療センター、老化機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
私達は老化のメカニズムの基礎的研究を通し、老化を促進するストレス刺激によって老化が蓄積されること、生体は老化を防御する仕組みをあらかじめ持っていることを明らかにして来た。本研究は生体が本来備えている老化防御機能を効果的に引き出すことにより、老化制御 .老化予防策を明らかにすることにある。
研究方法
動物モデルによる実験:人の老化、老化様疾患のモデルとしてマウスを使用した。また、動脈硬化モデル実験ではウサギに高脂質食を与えた。また遺伝子改変マウスを使用した。神経細胞、ミクログリア、アストログリアの分離培養細胞、細胞培養株を使用し、生化学実験を行った。アルツハイマー病脳の凍結組織を保存し、それらを使用して、遺伝子発現の網羅的解析、蛋白発現解析を行った。(倫理面への配慮)動物実験はそれぞれの施設の実験動物委員会の倫理指針に従った。また、ひと材料は遺伝子組み換えひと倫理委員会を通してある。
結果と考察
アルツハイマー病の中心的役割を担うAb1-42は M-CSFを産生させ、ミクログリアをより分化増殖させること、活性化されたミクログリアはマクロファージ系のケモカイン(CCL2,CCL3,CCL4 ,CCL7)を産生し、さらにミクログリアを呼び寄せることが明らかになった。さらにAb1-42はMMP3, MMP12, MMP13を強く産生することを明らかにした。97CAGリピートを有する全長のヒトARを発現するトランスジェニックマウス(Tg)を作成し、Hsp70の高発現によりマウスの運動機能が改善すること、SBMAモデルマウスへ生後5週齢よりHsp90 調整剤17-AAGを投与すると、治療群は非治療群に対して、有意に運動機能障害の改善を認めることを示した。高脂肪食により動脈硬化を発症させるウサギモデルでNOをNOS経路で産生させる、L-アルギニンとL-シトルニンを投与されたものは血管の動脈硬化病変が抑制され、抗酸化剤同時に投与されたものはさらに抑制を受けた。
結論
1)アルツハイマー病の病態形成にマクロファージ系細胞ミクログリアが関与することが想像されていた。A-beta刺激で、ミクログリアがサイトカイン、ケモカイン、MMPsを発現することを見いだした。
2)CAGリピート病にHsp70やHsp40といった抗ストレス分子シャペロンが関与する。 
3)NOラジカルは活性酸素とは逆に動脈硬化抑制作用を持つ。

公開日・更新日

公開日
2007-03-12
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200619002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1、アルツハイマーの病変形成に免疫系のミクログリアが関与する。また、免疫系はアルツハイマーの防御をしている可能性がある。
2、CAGリピート病の発症にストレス応答蛋白HSPは関与する。
3、NO ラジカルは動脈硬化を防御している。
臨床的観点からの成果
アルツハイマー、 CAG リピート病、動脈硬化の病態形成に細胞のストレス応答、個体の免疫系と深く結びついていることを動物モデル、細胞培養、分子レベルの解析で明らかにした。これらの研究の発展は病気の予防、治療に重要であると思われる。残念ながらこれらの研究を発展させる分野がないため、一旦研究を停止せざるをえないが、今後、厚生科学研究費にこれらの研究を発展させる項目ができることを強く希望している。


ガイドライン等の開発
とくになし
その他行政的観点からの成果
とくになし
その他のインパクト
平成17年12月1日 長寿科学総合研究事業成果発表公開講座 人の老化のメカニズムと健康長寿の方策 ウイル愛知
これの開催は中日新聞に取り上げられている。
1、沖縄の食生活と長寿文化に学ぶ  鈴木信
2、健康長寿達成のためにー百寿者調査から超百寿者調査へー  広瀬信義
3、高齢者の認知症とうつ病    小阪憲司
4、老化と免疫    磯部健一

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
30件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
平成17年12月1日 長寿科学総合研究事業成果発表公開講座 人の老化のメカニズムと健康長寿の方策 ウイル愛知

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishida Y, Okawa Y, Ito S, et al.,
Age-dependent changes in dopaminergic projections from the substantia nigra pars compacta to the neostriatum.
Neurosci Lett. , 18 (418) , 257-261  (2007)
原著論文2
Ishigaki S, Niwa J, Yamada S, et al.,
Dorfin-CHIP chimeric proteins potently ubiquitylate and degrade familial ALS-related mutant SOD1 proteins and reduce their cellular toxicity.
Neurobiol Dis. , 25 (2) , 331-341  (2007)
原著論文3
Yamada S, Niwa J, Ishigaki S, et al.,
Archaeal proteasomes effectively degrade aggregation-prone proteins and reduce cellular toxicities in mammalian cells.
J Biol Chem. , 18 (281) , 23842-23851  (2006)
原著論文4
Katsuno M, Sang C, Adachi Het al.,
Pharmacological induction of heat shock proteins alleviates polyglutamine-mediated motor neuron disease.
Proc Natl Acad Sci U S A ,  (102) , 16801-16806  (2005)
原著論文5
Waza M,Adachi H, Katsuno M, et al.,
17-AAG, an Hsp90 inhibitor,ameliorates polyglutamine-mediated motor neuron degeneration-.
Nat Med , 11 , 1088-1095  (2005)
原著論文6
Hayashi T, Matsui-Hirai H, Miyazaki-Akita A et al.,
Endothelial cellular senescence is inhibited by nitric oxide: implications in atherosclerosis associated with menopause and diabetes.
Proc Natl Acad Sci U S A. , 7 (103) , 17018-17023  (2006)
原著論文7
Hayashi T, Juliet PA, Matsui-Hirai H,
Citrulline and l-arginine supplementation retards the progression of high-cholesterol-diet-induced atherosclerosis in rabbits.
Proc Natl Acad Sci U S A. ,  (102) , 13681-13686  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-