伊万里市黒川町における老化に関する長期縦断疫学研究

文献情報

文献番号
200619001A
報告書区分
総括
研究課題名
伊万里市黒川町における老化に関する長期縦断疫学研究
課題番号
H16-長寿-一般-002
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
山田 茂人(佐賀大学 医学部精神医学講座)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
2,205,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
頭部MRI画像の病変が将来の知的機能能低下に及ぼす影響を調べるために、65歳以上の地域在住の一般高齢者の頭部MRIを撮像し、その12年後のmini mental state examination (MMSE)を追跡調査した。
研究方法
平成6年から平成8年(Time A)にかけて、脳検診の希望者をつのり、応募してきた230名に対して頭部MRIの撮像とMMSEが施行された。その後、平成16年から平成18年 (Time B) にかけてこのグループに対してMMSE及び頭部MRI画像の追跡調査を行った。Time Aのリストを基に、精神科医によるMMSE検査を施行し、105名の追跡調査ができた。Time AのMRI画像については3名の精神科医により、白質病変を4段階に、ラクナ梗塞を3段階に、皮質萎縮を2段階に分類した。
結果と考察
白質病変は点在(+)55名、融合初期(2+)19名、巨大融合(3+)16名で、ラクナ梗塞は片側性(+)28名、両側性(2+)22名だった。灰白質の萎縮(+)15名、(-)90名だった。分散分析の結果、ラクナ梗塞(P=0.73)、皮質萎縮(P=0.77)、白質病変(P=0.13)のいずれもTime AにおけるMMSE評点に有意差は認められなかった。一方、Time BにおけるMMSE得点はTime Aのラクナ梗塞及び皮質萎縮の程度により有意差が認められた(ラクナ梗塞 F=5.44、P=0.0057;皮質萎縮 F=4.9、P=0.029)。すなわちラクナ梗塞及び皮質萎縮の程度が強いほど12年後のMMSEが低値を示した。しかし白質病変にはこのような有意差は認められなかった。また12年間のMMSEの変動を従属変数、ラクナ梗塞、皮質萎縮、白質病変を独立変数とすると、3つの病変の存在ととMMSEの減少に有意な関連が認められた。健常群と認知症群に分けて従属変数とし、ラクナ梗塞、白質病変、皮質萎縮の有無を独立変数として、logistic回帰分析を行うと、ラクナ梗塞の有無においてのみ係数1.89で有意な関連が認められた。
結論
Time Aで認められたラクナ梗塞、皮質萎縮及び白質病変の程度は12年後の時点のMMSEの低下を来たすことが示唆された。特にラクナ梗塞の存在は認知症の発症危険率を1.89倍に増加することが判明した。白質病変の認知機能に及ぼす影響については、肯定的な意見や否定的な意見があり統一的な見解に至っていないが今回の研究からは弱いながら知的機能の低下の要因になりうると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2007-04-17
更新日
-

文献情報

文献番号
200619001B
報告書区分
総合
研究課題名
伊万里市黒川町における老化に関する長期縦断疫学研究
課題番号
H16-長寿-一般-002
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
山田 茂人(佐賀大学 医学部精神医学講座)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
伊万里市黒川町では平成6-8年 (Time A)に「痴呆予防推進事業」として65歳以上の高齢者を対象にMRIによる脳検診、抗コリン薬の散瞳反応やmini-mental state examination(MMSE)が施行された。これらの情報が認知症の予見因子になるか検討するために、12年後のMMSEを追跡評価した。また生理的老化の推移を観察し、認知症の早期診断や予防に資するために、新たに240名の65歳以上の高齢者を対象に頭部MRIの撮像及び、MMSE等数種類の知的機能検査、や血中脂肪酸、アミン代謝産物の測定及び生活習慣調査を行った。
研究方法
1、Time AのMRI画像を白質病変、ラクナ梗塞、皮質萎縮の程度で分類した。Time BのMMSE23点/24点で健常群と認知症群に分けて従属変数とし、MRI病変の有無を独立変数として回帰分析を行った。また103名の抗コリン薬による瞳孔変化率とTime BのMMSEを調べ、抗コリン薬の散瞳効果と12年後の認知機能低下の関連を調べた。2、平成17年度より開始した群では海馬体積解析ソフト(VSRAD)を用いて得られた海馬傍回の萎縮度等の指標とMMSE, FAB評点との関連につい検討した。3、ノルアドレナリン代謝産物である唾液中MHPG濃度と血中脂肪酸濃度を測定した。
結果と考察
1、TimeAのMRI病変は12年後のMMSEに影響を与えた。特にラクナ梗塞は認知症の発症危険率を1.89倍にした。抗コリン薬による瞳孔変化率と12年間のMMSEに関連はなかった。2、海馬傍回内萎縮度(%)はMMSE及びFABと高い負の相関があった。海馬傍回萎縮のZスコアが2.0前後で萎縮群と正常群に分け、MMSE 23/24で認知症群、健常群に分割するとVSRADによる認知症の診断の感度は50.0%、特異度は 47.6%となった。
3、唾液中MHPG濃度は年齢と正の相関があり、女性の唾液中MHPG濃度はMMSEと高い負の相関あった。FAB得点13点以下の血中eicosapentaenoic acid濃度は14点以上に比べ有意に低値を示した。
結論
認知機能の低下にMRI画像所見上ラクナ梗塞がもっとも影響があることがわかった。瞳孔変化率による認知症の早期診断は有用ではなかった。VSRADによる海馬萎縮の検出はアルツハイマー型認知症の診断に有効であると思われた。5年間の「かなひろいテスト」得点上昇群において楽しみの数、生きがい満足度、積極満足度が有意に高い値を認めた。

公開日・更新日

公開日
2007-04-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200619001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
VSRADを用いて112名の高齢者で得られた海馬傍回の萎縮度ととMMSE, FABおよび BDI評点との関連についてSpearman順位相関を用いて検討した。海馬傍回内萎縮度(%)はMMSE(r=-0.380, P<0.001)及びFAB (r=-0.381, P<0.001)と最も高い負の相関が認められた。MMSEは教育暦と海馬傍回内萎縮度(%)に有意な相関が認めれたが、教育暦と海馬傍回内萎縮度(%)の間には相関は認めず互いに独立した因子である。
臨床的観点からの成果
頭部MRI画像の病変が将来の知的機能能低下に及ぼす影響を調べるために、65歳以上の地域在住の一般高齢者の頭部MRIを撮像し、105名について、その12年後のmini mental state examination (MMSE)を追跡調査した。その結果、ラクナ梗塞の存在はその後の認知症の危険率が1.89倍になることが判明した。
ガイドライン等の開発
VSRADにより得られたデータとMMSEなどの知的機能検査のデータの分割分析により、海馬傍回の萎縮による認知症の診断の感度は50.0 %、特異度は 47.6%となった。尚、脳血管性認知症の除外のためにラクナ梗塞(2+)群を除外すると、感度は71.5%となった。今後このような観点から認知症の診断のためのガイドラインつくりを進める予定である。
その他行政的観点からの成果
この研究は平成2年から住民活動として始まったものであり、今日までずっと継続されている。われわれも平成16年よりこの活動に参加し、研究を続ける中で、地域住民が自ら認知症予防活動を行うことの重要性を認識する手助けになったと確信している。
その他のインパクト
平成19年2月24日に伊万里市黒川町で 市民公開講座「認知症って何」-認知症の理解と予防についてー を開催し250名の参加があり、地域住民への啓蒙の機会となった。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
渡辺 至、 小島 直樹、 岩谷 トモ子、 et al
在宅高齢者の「かなひろいテスト」成績の経時変化
九州神経精神医学雑誌 印刷中  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-