骨粗鬆症の予防における、運動による骨量増加作用のメカニズムの解明

文献情報

文献番号
199700180A
報告書区分
総括
研究課題名
骨粗鬆症の予防における、運動による骨量増加作用のメカニズムの解明
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
宮内 章光(国立療養所兵庫中央病院内科医長)
研究分担者(所属機関)
  • 高垣裕子(神奈川歯科大学口腔生化学講師)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨細胞(オステオサイト)が機械的負荷、運動刺激の受容細胞であることは、近年の研究で明らかにされてきたが、その受容体および情報伝達経路は未だ解明されていない。 最近、UMR106骨芽細胞株においては(A)電位依存性 Ca channel の一種としてのstretch activated Ca channel と想定される*1c subunit Ca channel(Duncan 1996)と(B)Degenerin/ENaC superfamilyに属する amiloridesensitive Na channel(潸NaC) (Guo 1996)の2種の陽イオン流入系の発現がみられ、共に細胞膜をsuction した伸展刺激時にstretch-activated non-selective cation channel(Na+ およびCa2+を通す)として活動することが示された。また特に ENaC は物理的な刺激を化学的な情報に変換する重要な膜タンパクと考えられている(Corey, Garcia-Anoveros 1996)。今回は骨細胞においてもこの2種の細胞伸展によりもたらされる陽イオン流入機構が機能していることを薬理学的に検討した。さらに分担者は骨細胞の伸展刺激に対する応答を検討した。各種イオンチャンネルブロッカーを使用し、骨形成に到るシグナル(オステオカルシンなどの発現)に対する修飾につき検討した。最後にこれらの主任研究者、分担研究者の実験結果より骨細胞(オステオサイト)の機械的負荷、運動刺激に対する反応、情報伝達機構につき総合的に考察した。
研究方法
骨細胞は既報(Mikuni-Takagaki1995)のラット頭蓋冠より分離培養した高純度のものを用いた。 細胞内カルシウム(Cai)測定は既報 (Endocrinology 137, 3544-3550,1996)の如く 細胞に蛍光色素Fura-2 AM(5μM)を負荷し(25C, 1h) 蛍光波長340nm, 360 nm、励起波長 500 nm にてカルシウムイメージングを行った。伸展(ストレッチ)には、コラーゲンコートしたシリコン膜(Flex I 培養皿)上にマトリゲルと細胞を移し、伸展強度が比較的一定になるように辺縁部にのみ細胞を配置し、コンピュータ制御のできる負荷装置Flexercell Strain Unitを用いて伸展刺激をかけた。刺激後回収したtotal
RNAの分離はISOGENを用い、分離した各total RNA(1μg)をSuperscript IIで逆転写反応させcDNA合成を行った後、各遺伝子のプライマーセットによりPCRを行った。
結果と考察
1)UMR106骨芽細胞株の*1c subunit (Duncan 1996) に対する2種のantisenseoligo-deoxynucleotide (24-mer, 20-mer)を導入した骨細胞では、低浸透圧負荷 (182mOSM) により細胞伸展させることにより生ずる細胞外よりのCa流入 による[Ca2+]i上昇が80%以上抑制されていたことより、骨細胞においてもUMR細胞でみられたと同様stretch activated Ca channel を介したCa流入系(A)が存在すると考えられた。さらに実際に*1c subunit mRNA の発現も確認した。2)RT-PCR法により骨細胞に* ENaCmRNA(B)発現が見られた。低浸透圧負荷 による[Ca2+]i上昇は(A)系の選択的阻害剤であるGadorinium(2x10-5M) で80%抑制された。また(B)系(ENaC)の選択的阻害剤であるBenzamil(10-6M)もGadoriniumと同程度の抑制をきたした。 さらにGadoriniumとBenzamil を同時に前処置した骨細胞においては低浸透圧負荷による[Ca2+]i上昇がほぼ完全に抑制された。またアミロライドアナログでENaCの阻害作用がないといわれるEIPA(10-5M)、Flunarizine(10-6M)は 低浸透圧負荷による[Ca2+]i上昇を抑制しなっかった。 次に分担者はオステオカルシンとcfosのmRNA発現に対する伸展刺激の効果につき検討した。伸展刺激前、刺激後15分、7時間、24時間後の細胞から全RNAを抽出し、RT-PCR 法にてGAPDH、cfos、オステオカルシンmRNAについて各遺伝子の発現の経時変化を見たところ、cfosは15分でのみ顕著に発現が昂進しており、オステオカルシンは、7時間から昂進していた。オステオカルシンmRNA発現の昂進について刺激時にイオンチャンネルブロッカーが存在した時にも発現の昂進が見られるかどうかを検討したところ、Gd3+(stretch-activated channels; SAチャンネルのブロッカー)、Benzamil(Naチャンネルのブロッカー)単独の条件では差の測定が困難であったが、両者が存在する条件では明らかに基礎値に近い値にまで戻っていることが判った。
これらの結果より骨細胞は明らかに伸展刺激を感知しており、その際Stretch-activated
Ca channel とENaCの一方あるいは両方を使った陽イオンの流入が骨形成に到る情報伝達経路の入り口であることが示された。低浸透圧負荷による[Ca2+]i上昇は特にPTH、PTHrpおよびビタミン D(1,25(OH)2D3,24,25(OH)2D3 )で促進されこれらの因子が、骨細胞の2種のメカニカルストレス伝達系の双方またはいずれかの感受性を上げるものと考えられた。またこれらのイオンチャンネルの動態につきパッチクランプ法をもちいて電気生理学的に検討している。
結論
骨細胞には少なくとも2種のイオンチャンネルを介したメカニカルストレス伝達系の存在が示され、伸展刺激の情報伝達機構の一部であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)