広域を対象とした薬物依存治療・援助体制に関する研究

文献情報

文献番号
199700176A
報告書区分
総括
研究課題名
広域を対象とした薬物依存治療・援助体制に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
西村 直之(国立肥前療養所)
研究分担者(所属機関)
  • 中村興睿(福岡県精神保健福祉センター)
  • 八尋光秀(西新共同法律事務所)
  • 近藤恒夫(日本ダルク本部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、?精神科医療機関における薬物依存の相談・治療の実態?精神保健福祉センターにおける薬物依存に関連した相談および活動の実態?民間薬物依存回復施設ダルクの活動実態?司法統計による薬物依存の現状を調査し、広域的かつ包括的な薬物依存の治療・援助システムのあり方についての検討を行うことにある。
研究方法
平成9年度は4つ班を組織し調査を行った。(1)精神科医療機関における薬物依存の相談・治療の実態調査研究班(医療調査班)平成9年4月1日より平成10年2月28日までの期間に、国立肥前療養所における薬物依存に関する電話相談、外来新患、入院について実数、相談内容、受診経路等に関する調査を行った。(2)行政・保健機関における薬物依存対策に関する調査研究班(行政・保健調査班)平成9年4月1日より平成10年2月28日までの期間に福岡県精神保健福祉センターに寄せられた薬物依存に関する相談業務の実施状況と活動についての基礎的な情報収集と調査を行った。(3)民間福祉における薬物依存対策の実態調査研究班(民間福祉調査班)平成9年4月1日より平成10年2月28日までの期間に、九州で活動するダルク(九州ダルク、北九州ダルク、大分ダルク、宮崎ダルク)の電話相談、入所者数、薬物依存に関連する活動現状について調査を行った。(4)司法における薬物依存の実態調査研究
班(司法調査班)法務省発行平成8年第122検察統計年報を基に、薬物関連事犯等の実態について調査を行った。
結果と考察
(1)精神科医療機関における薬物依存の相談・治療の実態調査?外来電話相談は、全相談件数480件のうち薬物関連問題の相談は62件(12.9%)であった。有機溶剤に関する相談が最も多く、ついで覚せい剤、向精神薬の順であった。受診率は43.5%であった。県別の相談件数は福岡県が最も多く、ついで佐賀県であった。?総新患895名のうち薬物依存症および中毒性精神障害は10.6%であった。有機溶剤44.2%、覚せい剤42.1%と両薬物で全体の86.3%を占めた。新患受診のうち38.9%が入院治療を受けた。ダルクの通所・入所またはダルクへの相談後の受診は、26名(27.4%)であった。新患受診
者の平均年齢は25.4歳(男性26.1歳、女性23.2歳)であった。受診数では、19歳以下が33.7%と最も多く、うち90.6%が有機溶剤であった。県別の受診数では、福岡県58.9%、ついで佐賀県25.3%であった。?薬物依存症および中毒性精神障害による入院件数はのべ71件(59名)で、男性55件(47名)、女性16件(12名)であった。、覚せい剤34件(29名)、有機溶剤18件(15名)、向精神薬7件(6名)の順であった。ダルクの通所・入所中またはその経験があるものは、35.6%であった。入院数では、25歳~29歳が21件(15名)で最も多かった。県別の入院数では、福岡県64.4%、佐賀県10.2%であった。精神鑑定のための入院2名、措置入院2名、家庭裁判所の試験観察入院2名があった。(2)行政・保健機関における薬物依存対策に関する調査?薬物依存に関する相談件数は22件であった。相談者別件数では、本人36.4%、家族54.5%であった。相談件数の総数では前年度より減少しているものの、相談者別件数で平成8年度1件であった本人からの相談が増加していた。形態別件数としては、電話相談が77.3%、面接相談は22.7%であった。薬物別件数では、覚せい剤が40.9%、有機溶剤36.4%であった。?平成9年6月から平成10年1月の期間に、遠賀保健所と国立肥前療養所の協力により計6回の薬物依存講座が開催され、行政機関関係者を中心に73名の受講があった。?毎月1回九州ダルクの支援を行う有志の集まりである「九州ダルクを支援する会」に会場の提供などの協力を行い、薬物依存に関心を持つ人たちの情報交換と学習の場を提供していた。また九州アディクションフォーラムの開催の支援を行い、それまで個別に活動していた九州の薬物を含む嗜癖問題の自助組織の連携が図られた。(3)民間福祉における薬物依存対策の実態調査?九州で活動する4ヶ所のダルクにおいて、期間中に受けた電話相談は384件であった。北九州ダルクが135件、大分ダルク85件、宮崎ダルク80件、九州ダルク52件であった。来所による相談は123件であった。相談の内容は、覚せい剤に関連したものが最も多く全体の55.8%であった。?新規の入所者は、52名であり、覚せい剤依存が最も多く、全体の50%を占めた。ついで有機溶剤依存、咳止め依存の順であった。?施設利用者の出身地は、九州の全県に加え、秋田、茨城、東京、横浜、静岡、大阪など広域に渡っていた。?九州ダルクでは、月に1回のダルクの家族会を開催し、のべ136名の参加者があった。家族会の参加者の有志により薬物依存の家族の自助グループであるナラノンが、現在月2回のミーティングを行っている。?学校や保健所などからの薬物乱用防止の講演依頼は、九州ダルクだけで45件あった。(4)司法における薬物依存の実態調査?薬物に関連した被疑者の通常受理人員の総数は、ほぼ横ばいであった。覚せい剤取締法73.8%毒劇物取締法20.8%、大麻取締法4.2%、麻薬および向精神薬取締法1%、あへん法0.3%であった。前年比で覚せい剤取締法違反は14.5%増加していたが、他は減少していた。?薬物に関連した少年被疑事件の受理人員は6,321人であり、毒劇物取締法が最も多く68.1%、覚せい剤取締法29.1%、大麻取締法2.3%、麻薬および向精神薬取締法0.4%であった。前年比で覚せい剤取締法違反は38.1%増加していたが、他は減少していた。?起訴および起訴猶予処分の被疑者のうち、前科者の占める割合は、覚せい剤取締法62.8%、毒劇物取締法50.0%であった。?福岡地検管内および佐賀地検管内での薬物に関連した被疑者の通常受理人員は、覚せい剤取締法1,594人、毒劇物取締法717人、大麻取締法61人であった。覚せい剤取締法違反の対10万人あたりの被疑者通常受理人員では、福岡県27.9、佐賀県26.7(全国平均30.0)であった。薬物依存の低年齢化・広域化が急速に進んでいると報告されており、本研究でも医療、民間福祉の実態調査から早期介入の窓口が求めらていることが分かった。薬物依存の治療システムをもつ医療機関やダルクのニーズが高まっている背景には、薬物依存の治療や援助のシステムの未整備による問題の集中化が生じている可能性が考えられる。司法統計からは、覚せい剤乱用・依存のみが増加しているという
結果が得られたが、医療機関においては有機溶剤依存の受診数が最も多く、その数も増加しており、司法統計との乖離が生じている。少数ながら、家庭裁判所と医療機関の連携も始まっており今後のネットワークのあり方に示唆を与えるものと思われる。民間福祉では、ダルクの発足が九州の薬物依存のネットワークをリードしてきたこともあり、広域的な活動と初期介入の窓口として大きな役割を果たしていることが分かった。薬物依存者の唯一の回復施設であると同時に、ほとんど整備されていない家族支援に大きな役割を果たしていた。また、予防教育において教育機関よりのニーズが高まっていることも分かった。行政機関は、薬物依存の相談窓口であると同時に、地域で活動する嗜癖問題の自助組織の支援やネットワーク化など社会資源の整備や充実に果たす役割が多きことが示唆された。薬物依存の対策の問題点として、多くの分野に広がり、それぞれの機関で取り扱う範囲や視点に共通点が少ないことが挙げられる。各事例の追跡調査や検討を重ねながら、包括的かつ有機的な連携をおこなう必要があると考えられた。
結論
急速に広がる青少年の薬物依存や社会復帰の困難な薬物依存に対して、従来の保護モデルのみでは対応が困難となってきている。専門医療機関おいて広い地域により受診が認められ、その診療圏の広域性が特徴である。これはダルクにも同様のことが言える。薬物依存の広域性と深刻化に対応できるネットワークの組織化が急務であると思われる。今回の調査から、専門医療機関、民間福祉、行政機関など薬物依存の関連機関へのニーズが高まっているものの、個々の機関の機能だけでは対応が困難であると考えられる。今後の課題として、各機関の機能整備と充実は図りながら、各機関のあり方についてさらに検討を続ける必要があると考えられた。現状では、治療・援助システムそのものが絶対的に不足しており、薬物依存者本人や家族など利用者側の評価はほとんど省みられていない。利用者のニーズに合わせたネットワークを考えていく必要があると思われる。

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