細胞内動態制御機能を有する新規細胞選択型ナノ遺伝子キャリアの開発と遺伝子治療への応用

文献情報

文献番号
200609012A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞内動態制御機能を有する新規細胞選択型ナノ遺伝子キャリアの開発と遺伝子治療への応用
課題番号
H16-ナノ-若手-008
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
川上 茂(京都大学大学院 薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究【ナノメディシン分野】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
In vivo遺伝子治療の実現には効率的に標的細胞に遺伝子を送達する技術の開発が不可欠であり、世界中で独自のベクター開発研究の推進・振興が強く望まれている。各肝臓構成細胞が有する固有で比較的厳密な基質認識性を示す糖鎖認識機構を利用できるよう分子設計した各種糖修飾カチオン性リポソームを開発した。平成18年度は、本システムの核酸医薬品への遺伝子治療への応用を試みるため、炎症関連遺伝子群の発現を誘導する転写因子NFkBを阻害するデコイ型2本鎖オリゴヌクレオチド (NFkBデコイ) を用いた新規抗炎症療法に関する評価をおこなった。
研究方法
動物:5週齢のddY雄性マウスを用いた。複合体調製:電荷比(-:+)1.0:2.3、5%デキストロース中で調製したフコース修飾カチオン性リポソーム/NFkBデコイ複合体を調製した。物理化学的性質の測定:ゼータ電位および平均粒子径は動的光散乱法により測定した。体内動態解析:[32P]を用いてNFkBデコイの放射標識を行い、マウスへ静脈内投与後の体内動態挙動に関して放射活性を指標に解析した。肝臓内分布に関しては、コラゲナーゼ灌流法により肝臓実質細胞と非実質細胞を分離し、放射活性により評価を行った。薬理効果評価:LPS誘発性肝炎モデルを作成し、血清中TNFα濃度、ALT・AST濃度、肝臓における細胞核中NFkB濃度を測定した。
結果と考察
調製したフコース修飾リポソーム/NFkBデコイ複合体の平均粒子径は約70 nmでありナノ粒子化に成功した。静脈内投与後、フコース修飾リポソーム/[32P]NFkBデコイ複合体では、NFkBデコイの高い肝臓に取り込みが認められた。また、フコース修飾リポソーム/[32P]NFkBデコイ複合体の肝臓内分布に関して、Kupffer細胞が存在する肝臓非実質細胞への高い取り込みが認められた。LPS誘発性肝炎マウスにより薬理効果を評価したところ、フコース修飾リポソーム/NFkBデコイ複合体では、対照のnaked NFkBデコイ、カチオン性リポソーム/NFkBデコイ複合体に比べ、肝臓中NFkB活性化ならびに血清サイトカイン濃度の抑制が認められ、肝炎に対する治療効果が認められた。
結論
ナノキャリア・核酸複合体によるNFkBを標的とした炎症性疾患や免疫疾患に対する新規治療法の開発に成功した。

公開日・更新日

公開日
2007-04-03
更新日
-

文献情報

文献番号
200609012B
報告書区分
総合
研究課題名
細胞内動態制御機能を有する新規細胞選択型ナノ遺伝子キャリアの開発と遺伝子治療への応用
課題番号
H16-ナノ-若手-008
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
川上 茂(京都大学大学院 薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究【ナノメディシン分野】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、生体内で細胞特異的デリバリーなど高度な機能を発揮する多機能性標的指向型ナノ・遺伝子キャリアの創製を行うため、細胞特異的認識素子の表面導入、あるいは細胞内動態制御の指針となる総合的な設計戦略を確立し、同時に実用性の高いin vivoレベル遺伝子発現制御技術の開発を目指す。具体的には、i)新規細胞内動態制御型遺伝子導入キャリアの開発、ii) in vivo細胞特異的遺伝子導入のための製剤設計を通じて、iii) 齧歯類での遺伝子治療への応用を目指す。
研究方法
物理化学的性質の測定:ゼータ電位および平均粒子径は動的光散乱法により測定した。体内動態の評価:蛍光あるいは[32P]標識プラスミドDNAあるいはNFkBデコイを調製した。5週齢雌性マウスの静脈内へ各種複合体を投与した。マウスを安楽死させ、臓器への移行を組織切片あるいは放射活性により評価した。In vivo遺伝子導入の評価: 肝臓、肺、あるいは腹腔滲出細胞、大網、リンパ節を回収し、それぞれの細胞における遺伝子発現レベルを測定した。細胞障害性T細胞(CTL)誘導の評価: 腹腔内または筋肉内投与投与後、脾臓細胞をB16BL6細胞と共存下にて培養し、B16BL6細胞に対してCTLの評価をおこなった。抗炎症効果の評価:LPS誘発性肝炎モデルを作成し、血清中TNFα濃度、ALT・AST濃度、肝臓における細胞核中NFkB濃度を測定した。
結果と考察
各肝臓構成細胞が有する固有で比較的厳密な基質認識性を示す糖鎖認識機構を利用できるよう分子設計した各種糖修飾カチオン性リポソームを開発した。物理化学的性質、体内動態、遺伝子導入、毒性に関する評価を通じて基本的な細胞選択的in vivo遺伝子ターゲティングシステムの確立に成功した。また、樹状細胞への遺伝子ターゲティングをDNAワクチン療法へ応用し、遺伝子を用いて導入したがん抗原特異的細胞障害性T細胞の誘導による新規がん遺伝子治療法開発に成功した。さらに、本システムの核酸医薬品への遺伝子治療への応用を試みるため、炎症関連遺伝子群の発現を誘導する転写因子NFkBを阻害するNFkBデコイを用い、LPS誘発性肝疾患マウスにおける肝炎抑制効果を得ることに成功した。
結論
生体内で細胞特異的デリバリーなど高度な機能を発揮する多機能性標的指向型ナノ・遺伝子キャリアシステムの開発に成功した。

公開日・更新日

公開日
2007-04-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200609012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
In vivo遺伝子治療の実現には効率的に標的細胞に遺伝子を送達する技術の開発が不可欠であり、世界中で独自のベクター開発研究の推進・振興が強く望まれている。本研究では、in vivoにおいて糖鎖認識機構による基質認識性を利用して、遺伝子・核酸医薬品を投与部位から標的細胞内まで送達させることができる高度な機能を発揮する多機能性標的指向型ナノ・遺伝子キャリアの開発に成功した。また、遺伝子・核酸ターゲティングに必要な安定性、レセプター認識、エンドソーム脱出等を改善させる為の製剤設計の最適化に成功した。
臨床的観点からの成果
難治性疾患に対する遺伝子治療技術の開発が強く望まれている。本研究では、遺伝子治療を実現する上で必須な技術基盤となる高度な機能を発揮する多機能性標的指向型ナノ・遺伝子キャリアの開発を行い、新規遺伝子・核酸ターゲティングシステムにより癌や炎症疾患に対する画期的な遺伝子治療法が可能であることを動物レベルで証明することに成功した。これらの知見は、今後の難治性疾患に対する遺伝子治療法の開発において重要な基礎的情報となり得ると考える。
ガイドライン等の開発
無し
その他行政的観点からの成果
通常の簡便な投与法で遺伝子治療効果を期待する本技術は、外科的手術を伴う侵襲的な医療を最小限に留め、患者にとって安全かつ安心な医療を提供し、quality of lifeの改善に繋がることから、本研究の社会的貢献度は大きい。また間接的に期待される社会的成果として、遺伝子治療における治療効果の改善や副作用の回避を実現できるため、医薬品候補化合物の損失を防ぐと共に、遺伝子医薬品の投与量を最小限に抑えることで国民の医療の質を大きく改善できるだけでなく医療経済への貢献も期待できる。
その他のインパクト
2006年10月6日、日経産業新聞<遺伝子研究先端情報>において、DNAワクチン療法に基づく新規癌遺伝子治療法が取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
37件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yan Lu, Shigeru Kawakami, Fumiyoshi Yamashita et al.
Development of antigen presenting cells-targeted DNA vaccine against melanoma by mannosylated liposomes
Biomaterials  (2007)
原著論文2
Takeshi Terada, Miki Mizobata, Shigeru Kawakami et al.
Optimization of tumor-selective targeting by basic fibroblast growth factor-binding peptide grafted PEGylated liposomes
Journal of Controlled Release  (2007)
原著論文3
Kosuke Shigeta, Shigeru Kawakami, Yuriko Higuchi et al.
Novel histidine-conjugated galactosylated cationic liposomes for efficient hepatocyte-selective gene transfer in human hepatoma HepG2 cells
Journal of Controlled Release , 118 (2) , 262-270  (2007)
原著論文4
Ayumi Sato, Motoki Takagi, Akira Shimamoto et al.
Small interfering RNA delivery to the liver by intravenous administration with galactosylated cationic liposomes
Biomaterials , 28 (7) , 1434-1442  (2007)
原著論文5
Yuriko Higuchi, Shigeru Kawakami, Fumiyoshi Yamashita et al.
The potential role of fucosylated cationic liposome/NFkB decoy complexes in the treatment of cytokine-related liver disease
Biomaterials , 28 (3) , 532-539  (2007)
原著論文6
Tatsuya Okuda, Shigeru Kawakami, Naomi Akimoto et al.
PEGylated dendritic poly(L-lysine)s for tumor-selective targeting following the intravenous injection in mice
Journal of Controlled Release , 116 (3) , 330-336  (2006)
原著論文7
Yasunori Saito, Shigeru Kawakami, Yoshiyuki Yabe et al.
Intracellular trafficking is the important process that determines the optimal charge ratio on transfection by galactosylated lipoplex in HepG2 cells
Biological & Pharmaceutical Bulletin , 29 (9) , 1986-1990  (2006)
原著論文8
Wassana Yeeprae, Shigeru Kawakami, Fumiyoshi Yamashita et al.
Effect of mannose density on mannose receptor-mediated cellular uptake of mannosylated O/W emulsions by macrophages
Journal of Controlled Release , 114 (2) , 193-201  (2006)
原著論文9
Yoshiyuki Hattori, Shigeru Kawakami, Kazumi Nakamura et al.
Efficient gene transfer into macrophages and dendritic cells by in vivo gene delivery with mannosylated lipoplex via intraperitoneal route
Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics , 318 (2) , 828-834  (2006)
原著論文10
Tatsuya Okuda, Shigeru Kawakami, Tadahiro Maeie et al.
Biodistribution characteristics of amino acid dendrimers and its PEGylated derivative after intravenous administration
Journal of Controlled Release , 114 (1) , 69-77  (2006)
原著論文11
Yuriko Higuchi, Shigeru Kawakami, Shintaro Fumoto et al.
Effect of particle size of galactosylated lipoplex on hepatocyte-selective gene transfection after intraportal administration
Biological & Pharmaceutical Bulletin , 29 (7) , 1521-1523  (2006)
原著論文12
Yuriko Higuchi, Shigeru Kawakami, Machiko Oka et al.
Intravenous administration of mannosylated cationic liposome/NFkB decoy complexes effectively prevent LPS-induced cytokine production in a murine liver failure model
FEBS Letters , 580 (15) , 3707-3714  (2006)
原著論文13
Yoshiyuki Hattori, Shigeru Kawakami, Yan Lu et al.
Enhanced DNA vaccine potency by mannosylated lipoplex after intraperitoneal administration
Journal of Gene Medicine , 8 (7) , 824-834  (2006)
原著論文14
Shigeru Kawakami, Yoshitaka Ito, Pensri Charoensit et al.
Evaluation of proinflammatory cytokine production induced by linear and branched polyethylenimine/plasmid DNA complexes in mice
Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics , 317 (3) , 1382-1390  (2006)
原著論文15
Yuriko Higuchi, Shigeru Kawakami, Machiko Oka et al.
Suppression of TNFα production in LPS induced liver failure mice after intravenous injection of cationic liposomes/NFkB decoy complex
Pharmazie , 61 (2) , 144-147  (2006)
原著論文16
Shigeru Kawakami, Yoshitaka Ito, Shintaro Fumoto et al.
Enhanced gene expression in lung by a stabilized lipoplex using sodium chloride for complex formation
Journal of Gene Medicine , 7 (12) , 1526-1533  (2005)
原著論文17
Chittima Managit, Shigeru Kawakami, Fumiyoshi Yamashita et al.
Effect of galactose density on asialoglycoprotein receptor-mediated uptake of galactosylated liposomes
Journal of Pharmaceutical Sciences , 94 (10) , 2266-2275  (2005)
原著論文18
Yoshiyuki Hattori, Sachiko Suzuki, Shigeru Kawakami et al.
The role of dioleoylphosphatidylethanolamine (DOPE) for targeted in vivo gene transfer to liver non-parenchymal cells following intravenous administration of mannosylated cationic liposomes
Journal of Controlled Release , 108 (2) , 484-495  (2005)
原著論文19
Wassana Yeeprae, Shigeru Kawakami, Yuriko Higuchi et al.
Biodistribution characteristics of mannosylated and fucosylated O/W emulsions in mice
Journal of Drug Targeting , 13 (6) , 1-9  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-