高分子ポリマー型フラーレン誘導体の合成および殺菌活性に関する研究

文献情報

文献番号
199700173A
報告書区分
総括
研究課題名
高分子ポリマー型フラーレン誘導体の合成および殺菌活性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
中島 葉子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年 MRSA などの新種の薬剤耐性微生物や O-157 などのまれな食中毒菌などによる感染症の報告が多くなされている。これらの微生物は、既存の作用機作を有する抗菌剤では予防が困難である事が特徴であり、新規な活性メカニズムを有する抗菌剤の開発が保健衛生上早急に必要とされている。申請者等のこれまでの研究の結果、C60, C70 などのフラーレン類は種々の生物活性を有し、新規な有用素材の構築における母核となり得ることが示されてきた。特に、可視光照射下という条件において、弱いながらも、DNA 切断活性、溶血性があることが分かっている。これらの事象から、C60 は光照射下において活性酸素を発生し、抗菌活性を発現することが期待され、これまでの抗菌剤とは異なる種類の抗菌剤となる可能性が示された。本研究においては、分子中に C60 部分を有する新規な高分子ポリマーを設計、合成し、殺菌作用について検討することとする。ポリマーへの C60 の結合は C60 の高い化学反応性を利用し、付加反応により活性の高い残基を導入した活性型 C60 にリンカーを結合後、ポリマーと反応させて C60 結合型ポリマーを合成し、この殺菌性ポリマーをフィルム状にし、液体を包み、外部から可視光を当てることにより中の液体を殺菌し、食品の容器保存や、人工透析膜への応用を考える。
研究方法
ポリマーを合成する前駆体として、 C60 誘導体を数種合成した。すなわち、C60 の多様な反応性を利用し、付加反応を用いて活性型 C60 を合成した。オキサゾリジノン誘導体から生成させたイリドと C60 とを 1,3-dipolar 環化付加により反応させることにより、C60 にピロリジン環を導入し、4種のフレロピロリジン類を合成した。また、枯草菌(Bacillus subtilis PCI 株)を用いた液体希釈法による予備的な坑菌検定の実験を次に示すように行った。すなわち、C60 のトルエン溶液と界面活性剤であるポリビニルピロリドンのクロロホルム溶液をナス型フラスコ中にて混合し、ロータリーエバポレーターおよび真空ポンプを用いて減圧乾固し、得られた残渣に滅菌した培地(Nutrient Broth または YPD 培地)を加え溶解し、C60 の培地溶液を調製した。ここに対数増殖期にある枯草菌の菌液を接種し、300 W の可視光ランプで照射下 37 oC にて8時間振とう培養を行った。対照として、ポリビニルピロリドンの培地溶液を用いた実験と光をあてない暗所での実験を行った。
結果と考察
合成したフレロピロリジン類は、1,3- 双極子付加反応により収率よく合成できることが分かった。また、このフレロピロリジン類の反応性を調べるために、スルホン酸クロライド誘導体やカルボン酸クロライド誘導体との反応を行ったところ、高い収率で、位置選択的に反応が進むことが明かとなった。この結果から、これらの活性型 C60 誘導体として合成したフレロピロリジン類は、無置換の C60 そのものよりも反応性が高く、また、位置選択的に次の官能基の導入が可能であることが明かとなり、活性型 C60 としてポリマーの合成に有用であると思われた。さらには、合成において収率高く得られることも、次段階での合成原料として利用しやすいと思われた。また、界面活性剤で可溶化した C60 水溶液を用いて無置換の C60 の光照射下における抗菌活性を検討したところ、ポリビニルピロリドンのみを溶解した培地では培地のみの場合と同様の増殖曲線が得られたが、 C60 を溶解した培地では,有意に菌の増殖が抑制された。また、対照として行った光非照射下での実験の結果、光非照射下ではいずれの培地溶液を用いた場合でも増殖に差が見られなかった。以上の結果、可視光照射下でのみ C60 に抗菌活性があることが明らかとなり、この結
果は、フラーレンが抗菌ポリマーの母核構造として適していることを示していると思われた。
結論
本研究の予備的試験により、光照射下でのみ抗菌活性を有する事が明かとなった C60 は、新規な抗菌ポリマーの母核として有用であることが示された。また、本研究において合成したフレロピロリジン類は合成における収率、酸クロライド等との反応性、位置選択性、溶解性等から、活性型 C60 誘導体として充分に利用可能であることが分かった。以上の二点から、今後この C60 の抗菌活性の作用メカニズムを分光学的に解明するとともに,活性型 C60 誘導体を合成中間体として利用し,素材として有用な抗菌性ポリマーの合成へ導かれることが期待される.

公開日・更新日

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