残留農薬分析のGLP対応に関わるクロマトグラフィー手法の研究

文献情報

文献番号
199700170A
報告書区分
総括
研究課題名
残留農薬分析のGLP対応に関わるクロマトグラフィー手法の研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
津村 ゆかり(国立医薬品食品衛生研究所大阪支所)
研究分担者(所属機関)
  • 中川照眞(京都大学薬学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、食品輸入の急激な増加や消費者の安全志向を背景に残留農薬分析の必要性が高まり、厚生省は規制項目の拡大及び公定分析法の設定を進めているが、分析データの信頼性を確保するためには分析法の設定だけでは十分でなく、GLP (Good Laboratory Practice)の整備が不可欠である。しかし食品中の残留農薬分析には特有の問題があり、この分野での支援研究が必要である。特有の問題とは、食品が多成分の混合物であり、種類が非常に多い事による試料マトリックスの複雑さ、残留分析が対象とする低濃度領域で起こる農薬のクロマトグラフィー系への吸着、検量線の非直線性、我が国独自の農薬も含め多種にわたる標準品の管理技術、等である。特に、食品成分がガスクロマトグラフィーにおいて定量値を不正確にする「マトリックス効果」は、その存在自体がまだ十分に認識されておらず、情報の蓄積と解明が不十分である。本研究は、マトリックス効果を始めとして、これまで見過ごされてきたクロマトグラフィーの信頼性確保に関わる問題を解明して対処法を確立し、その成果を諸分析機関での食品検査に有効活用するために行った。
研究方法
有機リン系殺虫剤エトリムホスの代謝物であるエトリムホスオキソン、殺菌剤ビテルタノール及びトリシクラゾール、殺菌剤テクロフタラムの代謝物であるテクロフタラムイミドのガスクロマトグラフィー(GC)による分析法について検討し、マトリックス効果の出現機構と対処法を究明した。また、文献調査によって、マトリックス効果の起こりやすい農薬を検索し、現時点での最良な解決法を探った。これらの結果をホームページ化した。
結果と考察
(1)「マトリックス効果」の具体例について、詳細と対処法を示した。エトリムホスオキソンは、いちご抽出液と同時に注入するとGCにおけるレスポンスが酢酸エチル溶液の場合の0.236相当であるため、正常な添加回収率が得られなかった。そこでいちご中の エトリムホスオキソンは、農薬不検出のいちご抽出液に標準溶液を加えたものを対照とすることで70.5%の回収率を得た。ビテルタノールは平成2年の厚生省告示の方法で分析した場合、きゅうり等への添加回収率が129~141%になった。その原因はn-ヘキサン溶液とアセトン溶液とでGCへのレスポンスが大きく異なるためであり、標準溶液をアセトン溶液とすることで65.9~98.1%の回収率が得られた。テクロフタラムを厚生省告示の分析法で分析する際には、GCにおけるテクロフタラムイミドのピーク面積の変動が非常に大きく、玄米の抽出液を注入した直後にレスポンスが高くなる傾向があった。これはテクロフタラムイミドがガラスインサートに吸着するためと考えられた。シラン処理したガラスインサートを用い、玄米抽出液を注入して安定化した後に良好に定量することができた。トリシクラゾール分析において試料液中にリノール酸が共存すると、トリシクラゾールのピークがブロードになりピーク高さが減少した。Sep-Pak silicaで精製してリノール酸を除去した結果、ピーク形状は良好になり2ppm添加で90.5±9.4%、0.1ppm添加で81.3±10.6%の回収率が得られた。以上の結果より、マトリックス効果は農薬の定量値を実際よりも小さくする場合も大きくする場合もあることが言える。また、マトリックス効果を避けるためには、試料の精製や最終試験液の調製方法において工夫が必要である。
(2)テクロフタラムイミドの分析においてマトリックス効果を表す物質を究明するため、玄米中の含有量が最も多い脂肪酸であるリノール酸について検討した。繰り返し注入の結果、リノール酸にはマトリックス効果が見られたものの、玄米抽出液のマトリックス効果すべてを説明できる程度ではなかった。また、マトリックス効果には蓄積性があり、用いるカラムの履歴によって得られる結果が異なることが明らかになった。
(3)これまでに報告されているマトリックス効果の実例を表にまとめた。また、原因と対策について総説化した。マトリックス効果はガスクロマトグラフィーによって有機リン系等の極性の高い農薬を脂質の多い食品から分析する場合に多く観察される。マトリックス効果が頻繁に見られる農薬には、スルホン、オキソン、オキシム等の吸着性の基を持つものが多い。その原因は、クロマトグラフィー系による農薬の吸着、注入口における農薬の熱分解、スプリット比の変動等が考えられる。解決策として試料の徹底的なクリーンアップ、安定同位体希釈法、クロマトグラフィー系への吸着防止措置、試料に分析対象化合物を添加して標準溶液とする方法、標準溶液に極性物質を添加する方法、内部標準法の6つが提案されている。この中である程度成果を上げているのは、試料に分析対象化合物を添加して標準溶液とする方法であるが、未だ根本的な解決には至っていない。マトリックス効果は分析対象化合物のピーク形状をシャープにして100%を超える添加回収率を与える場合もあり(プラスの現れ方)、逆にピーク形状をブロードにしピーク面積を減少させる場合もある(マイナスの現れ方)。その効果には蓄積性があるため、再現性が得にくく、系統だった研究が遅れている。
(4)上記の研究結果及び前年度の研究結果を基にマトリックス効果について解説するホームページを作成し、インターネット上で公開した。公開先は国立医薬品食品衛生研究所のWWWサーバーであり、URLアドレスはhttp://fbsdo.nihs.go.jp/osaka/shokuhin/dfcindex.htmである。
結論
マトリックス効果は未だ分析担当者に広く認識されていないため、系統的な情報収集と提供が必要である。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)