適切な医療サービス提供のための指標に関する研究

文献情報

文献番号
199700169A
報告書区分
総括
研究課題名
適切な医療サービス提供のための指標に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
筒井 孝子(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 わが国では、1961年に国民皆保険が実現後、高い経済成長に支えられて、全国各地での医療機関の急速な整備と国民の健康水準の向上が実現されてきている。しかし、最近の受療率や1人あたりの受診日数の動向をみると、減少ないし横這い傾向が見られる一方、1人1日あたりの医療費は増加している。
厚生省では、医療保険制度の構造の見直しを検討しているということであるが、この見直しに際しては、1)人件費、施設関連コストの比重の増大に際して、適切な人件費および施設関連コスト算定のための評価方法の確立や2)適正化された場合においての医療の質の評価の手法という2点について、十分に論議する必要があると考える。
とりわけ、1)については、疾病カテゴリーや老人等の病態に応じた医療や介護サービスのあり方、そして、これらのサービス提供内容、量を客観的に評価するための手法の開発が必要であると考える。
そこで本研究では、患者1人あたりの1入院あたりの「直接経費」を検討する資料として「個々の患者の疾患や病態の違い」による医療サービスの量について測定する方法を検討することを目的とする。
まず本年度は、先行研究を収集し、医療、看護業務量、内容についての測定手法、測定のためのツールの開発について検討することを目的とする。
研究方法
 本年度は、1)医療、看護業務量、内容についての測定手法、測定のためのツールについて先行研究の収集を行なう。2)収集された資料をデータベース化する。3)業務量調査を行なった事があるエキスパートナースらに、ヒアリング調査を行なう。4)ヒアリング調査の結果とデータベース化された資料を勘案して、看護業務分類コードを作成する。5)コードを使用した調査方法や留意事項についてマニュアルを作成する。ということを本年度の研究目的としたが、看護業務分類コードが実際に使用できるかどうかを急性期病院の看護婦に対しての調査を行ない検討を行なった。
結果と考察
 医療サービスと総称される医師によるサービス、看護婦によるサービス、理学療法士、作業療法士、その他の技師等によるサービスの中で、調査を行なった結果を実証的なデータとして示しているサービスとしては、看護サービスがもっとも多い。
看護サービスは、看護業務調査として、わが国では、看護業務については、日本看護協会、虎ノ門病院、北里病院、東海病院などが看護業務のコード化を行い、これらのコードを用いて膨大な調査を行っている。本研究においても、医療サービスの中で本年度は、とくに看護サービスを中心に収集を行なうこととした。このため従来、作成された看護業務分類コードについて、エキスパートナースらからヒアリング調査を行なった。この結果、これらのコードが各病院独自のコード体系を持っており、他病院で用いるような一般化のためには、修正が必要であるとの見解を得た。
一方、諸外国では、先進国をはじめとし適切な医療サービスの投下量については、国家財政と密接な関連を持つことから重要な研究課題であるとの認識が高い。近年、いわゆる疾病分類による適切な投下量についての検討がはじめられているが、これまでの看護労働量測定の研究としては、たとえば看護量測定システムの開発、特に、分類という概念を用いるシステムにとして、ジョンズ・ホプキンス病院におけるConnorらの研究がよく引用される(Connor,19601),1961a2),1961b3);Connor,Flagle,Hseih,Preston&Singer,19614)。
Connorは、観察可能な患者の身体的・感情的ケア条件に基づく3カテゴリーの分類体系を開発している。連続的な直接ケアの観察による研究を通じ、各カテゴリー内の患者の看護ケア時間条件の推定を行っっている。コナーの研究からは、たとえば看護労働量は、ケアからみた状態分類による患者数との関連が見られること。看護労働量には日々大幅な変動があること。看護職員の需要の変動は病棟ごとに独立であること(Wolfe&Young,1965a5)、1965b6))などがこれまで発表されている。これらの研究は、いずれも患者の病態にあった看護量の投下を知るための基礎的研究といえよう。このように患者の状態別の投下量の研究が多く行われているのは、この投下量がわかれば、看護に要するコストを推計できると考えられているからであるが、いまだ十分な成果が示されているとはいえないようである。以上のような先行研究の結果等を基に、わが国の医療サービスにおける看護サービスの測定のためには、新たに看護業務分類コードの作成が必要との結論に達した。
作成に際して、基本としたのは、「看護業務を目的別に分類しない」ということである。これは、業務を看護婦の行為として客観的に記述することを目的とし、「患者の心理的な援助」とか「感染予防」とかといった抽象的な表現ではなく、「どの患者」に対して「どのような行為」を行なったかを示す事が可能なコードとした。すなわち、患者の心理的な援助とは、具体的には「患者への話し掛け」であったり、「見守り」だったりする。このように行なっている内容そのものを記録できるように工夫した。
看護業務分類コードは、調査時に用いるものではなく、調査時に記述された内容を調査
終了後、コーディングする際に用いる。記録内容は、コード化できるよう具体的な内容が記述されていなければならない。記入例を作成し、調査終了後、円滑にコード化できるようにした。この他の留意事項等を整理するために「調査の手引き」として調査員用の資料を作成した。
また、業務量調査にあたっては、他計式の1分間タイムスタディ方式を採用することを決定した。この調査は、一人の職員に対して一人の調査者が1分間毎に「どの患者に」、「どのような看護行為」を行なったかを記録する方式であり、いわゆる自計式調査に比較すると調査精度が高いことが示されている。しかし、調査者の能力に大きな影響を受けることも報告されている事から、調査を実施する際には、必ず調査者に対して、調査説明会を実施し、看護業務調査の内容とその趣旨を熟知させることを基本とすることにした。さらに、調査者は、看護婦には看護婦、理学療法士には理学療法士というように同じ職種が行なうように決定した。これは、調査者が、たとえば一般の大学生などでは、専門的な業務を記述することが困難であり、正確な記述ができないといった調査者の能力が記録の正確さに影響を及ぼすことが理由である。このように看護業務分類コードを利用する前段階にあたる調査実施に際してのマニュアルの整備と調査実施後のコーディングの際の留意事項についての資料を作成した。
結論
 本研究では、「個々の患者の疾患や病態の違い」による医療サービスの量について測定方法を開発するための基礎資料として、1)医療、看護業務量、内容についての測定手法、測定のためのツールについて先行研究の収集を行なう。2)収集された資料をデータベース化する。3)業務量調査を行なった事があるエキスパートナースらに、ヒアリング調査を行なう。4)ヒアリング調査の結果とデータベース化された資料を勘案して、看護業務分類コードを作成する。5)コードを使用した調査方法や留意事項についてマニュアルを作成することを目的に実施してきた。さらに作成したコードの適用について
これらの目的を達成するために先行研究についての分析とヒアリング調査の結果から、独自の看護業務分類コードを作成した。さらにコードを使用した調査を具体的に実施するための方法について検討を行ない調査や調査後のコーディングに関わるマニュアルを作成してきた。さらに、実際の調査が可能かどうかを検討するためにコード及びマニュアルを用して急性期病院で予備調査を行なった。この結果、看護業務分類コードは概ね、適用が可能であることがわかった。
今後の課題としては、作成した看護業務分類コードを使用して本格的に看護業務量調査を実施し、急性期病院の看護業務を詳細に検討することと他の医師や理学療法士、作業療法士等の業務について検討するための資料を得ることが必要であると考えている。

公開日・更新日

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