異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針の実効性の向上に関する研究

文献情報

文献番号
200607021A
報告書区分
総括
研究課題名
異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針の実効性の向上に関する研究
課題番号
H16-生命-一般-002
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
吉倉 廣(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 神田 忠仁(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 宮沢 孝幸(京都大学 ウイルス研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
4,275,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
異種移植ではドナー動物由来感染症の発生が危惧される。いったん発生すると、患者の近親者や医療従事者を経て、他の人々へ感染が拡大する懸念があり、国境を超えて拡大する可能性があることから国際的な対応が求められている。異種移植の実施に伴う公衆衛生上の懸念に適切に対応するための基盤情報を集め、厚生行政に提供することを目的とした。
研究方法
国内における異種移植の研究や臨床試験の準備状況、国際的な規制の状況や適切なインフォームドコンセントのあり方等に関する情報を収集した。ドナー用に我が国で開発されている遺伝子改変ブタの卵巣を譲り受け、内在性レトロウイルス(PERV)の有無、ヒト細胞への感染性について調べた。
結果と考察
OECD加盟国は異種移植に伴う公衆衛生上の懸念を共有しており、共通の定義、インフォームドコンセント、感染症の報告の義務等において協調する必要性を報告している。患者やその近親者の積極的な協力が必要であり、インフォームドコンセントの役割が極めて大きい。異種移植に関する指針を周知するとともに、我が国の指針に、インフォームドコンセントのフォーマットの追加を考慮する必要がある。
 遺伝子改変ブタには、欧米で報告されたPERV-A, B, Cにそれぞれ近縁のプロウイルスが存在し、ヒトHeLa細胞と共培養するとPERV-Aに近縁なウイルスがHeLa細胞に感染することがわかった。
結論
異種移植に伴う公衆衛生上の懸念には、国際的な枠組みに沿って対応しなければならない。我が国の厚生行政においても、各国の動向を的確に把握しながら、ガイドラインの適切な運用や見直しを行う必要がある。また、我が国の指針に、インフォームドコンセントのフォーマットを追加する必要がある。
 ドナーブタには補体による超急性拒絶反応を回避するよう遺伝子改変が加えられているので、このブタ由来PERVも補体の攻撃を回避できる。ヒトへの感染性が高まっており、PERVの病原性に関する研究を継続する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2007-03-27
更新日
-

文献情報

文献番号
200607021B
報告書区分
総合
研究課題名
異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針の実効性の向上に関する研究
課題番号
H16-生命-一般-002
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
吉倉 廣(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 神田 忠仁(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 宮沢 孝幸(京都大学 ウイルス研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 異種移植ではドナー動物由来感染症の発生が危惧される。いったん発生すると、患者の濃厚接触者を経て、他の人々へ感染が拡大する懸念があり、国境を超えて拡大する可能性があることから国際的な対応が求められている。異種移植の実施に伴う公衆衛生上の懸念に適切に対応するための基盤情報を集め、厚生行政に提供することを目的とした。
研究方法
 OECDやWHO主催の異種移植に関する会議に参加し、国際的な規制の状況や適切なインフォームドコンセントのあり方等に関する情報を収集した。国内における異種移植の研究や臨床試験の準備状況を調べた。ドナー動物として開発されている遺伝子改変ブタの内在性レトロウイルス(PERV)についてウイルス学的な研究を行った。
結果と考察
 OECD加盟国は異種移植に伴う公衆衛生上の懸念を共有しており、共通の定義、インフォームドコンセント、感染症の報告の義務等において協調する必要性を報告している。一方では、政府による規制無しに臨床応用を進めている国もあり、国際的に共通な枠組みの構築が求められる。我が国も、内外の状況をみながら、異種移植ガイドラインの適切な運用や見直しを進める必要がある。
 重度の火傷等に用いられる培養皮膚は、マウス3T3細胞をフィーダー細胞として使うため、異種移植に該当する。平成15年度に皮膚移植を実施した医療機関を調査したが、医師や患者が異種移植に該当することを認識せず、多くの治療例でインフォームドコンセントの取得も無い実態が明らかにされた。異種移植に基づく公衆衛生上の懸念に対応するには、患者やその近親者の積極的な協力が必要であり、インフォームドコンセントの役割が極めて大きい。異種移植に関する指針を周知するとともに、我が国の指針に、インフォームドコンセントのフォーマットの追加を考慮する必要がある。
 ドナー用のブタには複数のPERVプロウイルスが存在した。ブタの卵巣細胞とヒト細胞を共培養すると、ヒト細胞にPERVが感染した。
結論
 異種移植に伴う公衆衛生上の懸念は国際的に共有されるべきものであり、我が国も国際的な枠組みに沿って異種移植を実施しなければならない。各国の動向を的確に把握しながら、ガイドラインの適切な運用や見直しを行う必要がある。我が国の指針に、インフォームドコンセントのフォーマットを追加する必要がある。
 PERVの病原性に関する研究を継続する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2007-03-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200607021C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 我が国で異種移植のドナー用に開発されている遺伝子改変ブタには、欧米で報告されたブタ内在性レトロウイルス(PERV)-A, B, Cにそれぞれ近縁のプロウイルスが存在し、PERV-Aに近縁なウイルスがヒトHeLa細胞に感染することがわかった。重要な知見であり、学術論文を準備している。

臨床的観点からの成果
PERVがヒト細胞に感染することは、ブタ臓器を使う異種移植医療の安全性に関わる情報である
ガイドライン等の開発
特記事項無し
その他行政的観点からの成果
 異種移植に伴う公衆衛生上の懸念は国際的な課題であり、我が国の異種移植ガイドラインをOECDやWHOで説明した。ガイドラインの適切な運用や見直しに必要な各国の規制状況やインフォームドコンセントに関する情報を収集し、厚生行政へ提供した。効果的な対応には、患者やその近親者の積極的な協力が必要であり、インフォームドコンセントの役割が極めて大きい。異種移植に関する指針を周知するとともに、我が国の指針に、インフォームドコンセントのフォーマットの追加を考慮する必要があることを示した。
その他のインパクト
特記事項無し

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
12件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Watanabe R, Miyazawa T, Matsuura Y
Comparison of serum sensitivity of pseudotype retroviruses produced from newly established packaging cell lines of human and feline origins.
Virus Res. , 99 , 89-93  (2004)
原著論文2
Ikeda Y, Miyazawa T, Nishimura Y, et al.
High genetic stability of TM1 and TM2 strains of subtype B feline immunodeficiency virus in long-term infection.
J. Vet. Med. Sci. , 66 , 287-289  (2004)
原著論文3
Sakurai Y, Shimojima M, Miyazawa T, et al
Identification of the feline CD63 homologue using retrovirus-mediated expression cloning.
Vet. Immunol. Immunopathol. , 98 , 185-191  (2004)
原著論文4
Shimojima M, Nishimura Y, Miyazawa T, et al.
T cell subpopulations mediating inhibition of feline immunodeficiency virus replication in mucosally infected cats.
Microbes Infect. , 6 , 265-271  (2004)
原著論文5
Shimojima M, Miyazawa T , Ikeda Y, et al.
Use of CD134 as a primary receptor by the feline immunodeficiency virus.
Science , 303 , 1192-1195  (2004)
原著論文6
Nishimura Y ,Shimojima M, Sato E, et al.
Down-modulation of CD3e expression of CD8alpha+beta- T cells of feline immunodeficiency virus-infected cats.
J. Gen. Virol. , 85 , 2585-2589  (2004)
原著論文7
Nakamura M, Tohya Y, Miyazawa T, et al.
A novel antigenic variant of Canine parvovirus from a Vietnamese dog.
Arch. Virol. , 149 , 2261-2269  (2004)
原著論文8
Nagashima N, Hisasue M, Nishigaki K, et al.
In vitro selective suppression of feline myeloid colony formation by a molecularly cloned strain of feline leukemia virus with unique long terminal repeat.
Res. Vet. Sci. , 78 , 151-154  (2005)
原著論文9
Wanabate R, Miyazawa T, Matsuura Y
Cell-binging properties of the envelope proteins of porcine endogenous retroviruses.
Microbes Infect. , 7 , 658-665  (2005)
原著論文10
Miyagawa S, Yamada J, Hazama K, et al.
Prevention of PERV infections in pig to human xenotransplantation by the RNA interference silences gene.
J. Biochem. , 137 , 503-508  (2005)
原著論文11
Hazama K, Miyagawa S, Yamamoto A, et al.
The effect of complement regulatory protein expression on pig endothelial cells to porcine endogenous retrovirus lyses by human sera.
Transplant Proc. , 37 , 503-505  (2005)
原著論文12
Miyagawa S, Nakatsu S, Hazama K, et al.
A novel strategy for preventing PERV transmission to human cells by remodeling the viral envelope glycoprotein.
Xenotransplantation , 13 , 258-263  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-