個人情報の医学・生物学研究利用を支える法的・倫理的・社会的基盤について

文献情報

文献番号
200607020A
報告書区分
総括
研究課題名
個人情報の医学・生物学研究利用を支える法的・倫理的・社会的基盤について
課題番号
H16-生命-一般-001
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
宇都木 伸(東海大学専門職大学院実務法学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 大村健太郎(診療情報管理士)
  • 奥本武城(株式会社荏原製作所 LS事業部)
  • 河原ノリエ(フリージャーナリスト)
  • 佐藤雄一郎(横浜市立大学医学部)
  • 菅野純夫(東京大学 大学院新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻・ゲノム制御医科学分野、分子生物学)
  • 恒松由記子(国立成育医療センター小児腫瘍科)
  • 増井徹(独立行政法人 医薬基盤研究所 生物資源研究部門 JCRB細胞バンク)
  • 松村外志張(株式会社ローマン工業細胞工学センター、細胞工学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
5,355,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
三年計画の最後の年の本研究班の狙いは、「医療情報法要綱案」を、充分な根拠を示して提示するところにあった。
研究方法
その主目標については、主として主任研究者の責任において過年度および本年度の諸研究に依存しつつ、原案を一部づつ作成して班会議に掛けて批判を受けてゆく方式をとった。同時に各班員は、それぞれが分担した研究項目の沿って内外の実地調査に、国際会議に、またある者は招聘者のヒアリングと様々な方法をとった。そしてその成果を、その時々の班会議に掛け全員へフィードバックをすると共に批判的検討を受けた。
結果と考察
これまでの検討で我々は、医療情報の研究利用の際に保護さるべき事柄を論ずる前に、医療情報の正確・充分な収集、整理、記録という基本作業が適正になされる体制を作り上げる必要があるという理解に至っており、そのための基盤作りの提案をした。個々の病院、地方、国までの各レベルでの対応策を要すること(自律的機関であってもよい)、その対応策は実は情報の研究利用のコントロールにも有効に働きうることなどが盛り込まれている。
 18年度報告においては、この要綱案を補う形で医療情報の研究利用における国民の積極的な篤志が基本であることが、科学者によって理論的立場から、また臨床医によって1コホート研究例の紹介を通して、説得的に語られている。前者は現代の生物医学研究が、ときに被験者にとって直接的に有益であるかのような感じを抱かせる説明の虚偽性を直視することを説き、研究倫理research integrityのきそがここにあることを暗示する。また後者はイギリス中都市の或る年に出生した14,000人の子供とその両親の20年間にわたる入念な追跡調査を紹介し、住民の参加・協力によってのみ得られる成果というものを、垣間見させてくれる。厖大な資金を世界中から受け、その成果を世界中に還元する、まさに健康情報の基盤研究というものの典型例というべきものであろう。そして、アジアにおけるがん情報の共有化という企画へ一歩踏出した、という他の報告はわが国の課題を指示す。
 その他、DPC導入を機に集積されつつある診療情報の問題点、地方行政の把握している情報の格差など、主報告を補う個別報告がなされている。
結論
過去二年度分の報告とあわせて、個人情報「保護」の呪縛にあっている観のある現在の医療情報の研究利用状況について、基本的な問題提起をなし得たと考えている。

公開日・更新日

公開日
2007-04-06
更新日
-

文献情報

文献番号
200607020B
報告書区分
総合
研究課題名
個人情報の医学・生物学研究利用を支える法的・倫理的・社会的基盤について
課題番号
H16-生命-一般-001
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
宇都木 伸(東海大学専門職大学院実務法学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 大村 健太郎(診療情報管理士)
  • 奥本 武城(株式会社荏原製作所ライフサイエンス事業部)
  • 河原 ノリエ(フリージャーナリスト)
  • 佐藤 雄一郎(横浜市立大学医学部)
  • 菅野 純夫(東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻・ゲノム制御医科学分野、分子生物学)
  • 恒松 由記子(国立成育医療センター小児腫瘍科)
  • 増井 徹(独立行政法人 医薬基盤研究所 生物資源研究部門 JCRB細胞バンク)
  • 松村 外志張(株式会社ローマン工業細胞工学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療情報が研究において適正に利用されるための条件を明示し、個人情報保護法第6条3項にいう特別法の制定の必要性と可能性を示すことを目的として出発した。ところが検討の過程で、(1)集積された情報を研究に利用するに際しての条件を論ずる前に、(2)正確かつ充分な診療情報が収集・整理・集積されていることが確保されていなければならないことを認識するようになり、現在のわが国においてはむしろ後者をこそ強調し、そのための制度の提示を目することとなった。ただ、後者のための制度システムは、前者である研究利用時の対策にも有効性を発揮するようである。
研究方法
1.わが国の実態を知るために、いくつかの国内現地調査をする一方、頻回に班会議を開催し、関係者を班会議に招へいして意見聴取、議論が活発に為された。
2.新しい制度へのヒントを得るべく比較制度的検討を行うため、文献調査を入口として、現地調査、あるいは来日者からの聞き取り調査などに進み、とりわけイギリスについて各方面からのアプローチが出来たが、その他アメリカ、カナダ、アイスランド等欧米諸国、シンガポール、タイ、中国、韓国等アジア諸国の最新情報を得られた。
結果と考察
診療情報は、患者が苦しみのうちに専門家を信頼して提供し、あるいはその身体・生活までもが検索されることを許して得られる貴重な情報である。これを適正に収集・整理し、のちの診療に充分に利用することは、医療の本質にかかわることであると共に、患者の尊厳と権利を重んずることである。この医療の基本作業が充分になされうるためには、情報の電子化とその先に見えている広範な情報の流通かを視野に収めつつ、この時期にしっかりとしたシステムを構築し、多くの資源を投入する必要性を指摘し、その要綱を提示した。
また、個々の診療は医学体系の支えられているものであるが、その医学は過去の診療情報の集大成に他ならず、個々の医療の成果を医学に還元することによって循環が成立する。ただし、過去の苦い経験から、現代社会はその還元を、決して強制という形ではなく、任意の協力という形でしか認めてはならないことを知っている。いま医学研究のために診療情報が還元されるためには、上述のシステムに基づきつつ示される医療者・研究者の倫理性integrityが信頼に値するものであることが立証され、これを信頼して患者がしめす研究への篤志的協力が求められている。 
結論
医療情報は人格を表象するものであり、その医学研究への利用には医療者および研究者への信頼に基づいた患者の積極的協力を必要とし、その確保のためのインフラ整備を惜しんではならず、その努力は充分に値するものである。

公開日・更新日

公開日
2007-04-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2007-10-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200607020C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 もともと医学研究に関する制度の設計を目的としていたが、検討の過程でより広範な医療の過程における制度の提案となったから、本研究班の成果は、一部の専門家がこれを直接的に利用できるといった性格のものではない。ただし、患者ケアに携わったことのない科学者が、しかし患者の診療過程でえられた情報を利用してゆくことになるこれからの生物医学研究においては、旧来と全く異なった倫理が求められていることは深く認識されるべきである。
臨床的観点からの成果
 診療情報の処理が、医療行為の本質的な部分を構成すること、同時にそれは患者の人格の尊重を意味することを論じて、現在の臨床過程における診療情報の取り扱い方に再考を求めるものである。
 電子化時代のなかで、診療情報を当該患者の向後の医療に効果的に用いるためには、医療機関の間での医療情報の取扱に関する共通のルールを早急に作り上げる必要があるが、流通の便宜は裏側に濫用・漏泄の危険を内在するものであるから、第三者利用を管理するシステムを同時に構築しなければならない。
ガイドライン等の開発
 多くのインフラストラクチャーを含む医療情報一般法の提言として、医療情報の研究利用に関する法律案を要綱という形で提示した。
その他行政的観点からの成果
当方が確知するもの特になし。
その他のインパクト
 社会全体に対して発言して行くことが肝要であると考えるので、書籍の出版という形で成果を世に問うことを計画中である。

発表件数

原著論文(和文)
49件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
19件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
28件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
30件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
宇都木伸・佐藤雄一郎
人由来物質の研究利用―イギリスの新しい「人組織法」―
東海大学法科大学院論集 ,  (1) , 55-103  (2006)
原著論文2
増井徹
Trust and Creation of Biobanks: biobanking in Japan and the UK.
M. Sleeboom-Falker, ed. In Biobanking.(In Press)  (2007)
原著論文3
増井徹
くすりと医療を支える社会基盤
平成17年度大阪大学大学院薬学研究科公開講座「くすりと医療」 , 59-71  (2005)
原著論文4
増井徹
個人情報の研究利用‐人体理解の一形態としてのゲノム研究は医療に関個人情報で成り立つ
人体の個人情報(書籍) , 151-181  (2004)
原著論文5
松村外志張
臓器提供に思う-直接本人の医療に関わらない人体組織等の取扱いルールにたたき台提案-
移植 , 40 , 129-142  (2005)
原著論文6
松村外志張
患者本人の治療以外の目的での人体ならびにその部分を対象とする取り扱いの在り方について-その基本原則たたき台(V1.1)の提案と古典的倫理原則との対比-
組織培養研究 , 23 , 91-114  (2004)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-