サル等を用いたウイルスベクターの安全性・有効性の評価に関する研究

文献情報

文献番号
200607009A
報告書区分
総括
研究課題名
サル等を用いたウイルスベクターの安全性・有効性の評価に関する研究
課題番号
H16-遺伝子-一般-002
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
倉田 毅(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 神田 忠仁(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 俣野 哲朗(東京大学医科学研究所 感染症国際研究センター)
  • 西山 幸廣(名古屋大学 医学部)
  • 近藤 一博(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 佐多 徹太郎(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 寺尾 恵治(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
32,513,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今後の遺伝子治療臨床試験では、新たにアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、センダイウイルス(SeV)ベクター、単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターの使用が計画されている。ウイルスベクターの基本的な性質は、素材となったウイルスの性質に依存するので、これらのモデルベクターを作製し、動物実験及び小規模臨床試験で、ベクターの基本特性を調べ、ベクターの安全性、有効性を評価する基盤情報を得ることを目的とした。
研究方法
血清型の異なるAAVベクターは異なる臓器親和性を持つので、HeLa細胞に遺伝子導入する2型と導入できない10型のキメラベクターを作り、標的細胞特異性を担うキャプシドの機能を調べた。AAV2型ベクターにヒト細胞から分離したインシュレーターを搭載し、導入遺伝子の発現に与える効果を調べた。SeVベクターをアカゲサルに繰り返し投与し、ベクター粒子に対する免疫応答と導入遺伝子の発現を調べた。HSVの欠損免変異株(HF10)は癌細胞で選択的に増殖することから、3例の頭頸部癌患者の腫瘍部にHF10を接種する臨床試験を行った。
結果と考察
AAVの感染では、ウイルス粒子が細胞表面の特定分子(結合レセプター)に結合し、さらに別の細胞分子(侵入レセプター)と複合体を形成して核内に運ばれ、核内で脱殻、発現する。AAV2型が標的とするレセプター群と結合するキャプシドの領域を同定した。インシュレーター搭載AAV2型ベクターをマウス筋肉に接種したところ、長期の高発現が見られた。SeVべクターは、抗SeV抗体存在下で接種しても、効率よい導入遺伝子発現がみられ、異常な免疫応答も無かった。HF10は、明らかな有害事象を示すことなく頭頸部腫瘍を破壊することがわかった。
結論
AAVが感染に利用するレセプター分子群とそれらと結合するキャプシドの領域がわかれば、キャプシドに変異を導入する等の方法で、標的臓器特異性を増したり、変更することが可能となろう。インシュレーターはAAVベクターからの治療用遺伝子の高発現を維持する効果がある。SeVベクターは一過性の高発現が必要なワクチン抗原の発現などに実用性がある。HSV欠損変異株による癌治療の安全性と有効性が強く示唆され、実用的な癌治療法の一つに発展することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2007-04-09
更新日
-

文献情報

文献番号
200607009B
報告書区分
総合
研究課題名
サル等を用いたウイルスベクターの安全性・有効性の評価に関する研究
課題番号
H16-遺伝子-一般-002
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
倉田 毅(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 神田 忠仁(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 俣野 哲朗(東京大学医科学研究所 感染症国際研究センター)
  • 西山 幸廣(名古屋大学 医学部)
  • 近藤 一博(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 佐多 徹太郎(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 寺尾 恵治(医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今後の遺伝子治療臨床試験では、新たにアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、センダイウイルス(SeV)ベクター、単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターを患者に直接接種する治療戦略が計画されている。これらのモデルベクターを作製し、動物実験及び小規模臨床試験で、ベクターの基本特性を調べ、ベクターの安全性、有効性を評価する基盤情報を得ることを目的とした。
研究方法
臨床試験で血流に漏出すると想定し、AAVベクターをサルに経静脈接種し、7ヶ月後に各臓器のベクターDNAを調べた。血清型の異なるAAVのキメラベクターを作り、感染に利用する細胞レセプター群と、そこに結合するキャプシドの領域を調べた。AAVベクターにインシュレーターを搭載し、導入遺伝子の発現に与える効果を調べた。SeVベクターをアカゲサルに経鼻接種し、ベクターの消長と導入遺伝子の発現を調べた。HSVの欠損免変異株(HF10)は癌細胞で選択的に増殖することから、6例の皮膚転移再発性乳癌患者と3例の頭頸部癌患者の腫瘍部にHF10を接種する臨床試験を行った。
結果と考察
AAVベクターDNAは、リンパ系組織を中心に、種々の臓器で検出された。AAVベクターが細胞レセプター群と結合するキャプシドの領域を同定した。インシュレーター搭載AAVベクターをマウス筋肉に接種すると、導入遺伝子の長期発現が見られた。SeVべクターの感染は鼻腔に限局し、速やかに体から排除された。導入遺伝子は高発現し、CTLメモリーが長期間維持された。抗SeV抗体存在下で接種しても、導入遺伝子は効率よく発現し、異常な免疫応答は無かった。HF10は、明らかな有害事象を示すことなく腫瘍を破壊した。
結論
静脈に侵入したAAVベクターは、リンパ系組織を中心に、体内に長期間留まる。感染細胞種の同定と導入遺伝子の発現の有無を検討する必要がある。AAVが感染に利用するレセプター分子群とそれらと結合するキャプシドの領域がわかれば、標的臓器特異性を持つAAVベクターの作製に役立つ。インシュレーターはAAVベクターからの導入遺伝子の発現を維持する効果がある。SeVベクターは安全で、ワクチン抗原の一過性高発現などに実用性が高い。HF10を利用する癌治療は、腫瘍免疫を増強するアンプリコンとの併用で、実用的な治療法の一つに発展することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2007-04-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200607009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
AVベクターにインシュレーターを搭載すると、導入遺伝子の発現を維持する効果があった。外来遺伝子の不活化機構の解析、遺伝子欠損症の治療ベクターに応用できる。
 センダイウイルス(SeV)ベクターをアカゲサルに経鼻接種すると、鼻腔に限局して感染し、速やかに排除された。導入遺伝子は高発現し、長期間CTLメモリーが維持されていた。抗SeV抗体存在下で接種しても、導入遺伝子は発現し、異常な免疫応答も無かった。これらの成果は、ウイルス学専門誌等に発表され、高い評価を得た。
臨床的観点からの成果
HSVの欠損免変異株(HF10)は癌細胞で選択的に増殖することから、6例の皮膚転移再発性乳癌患者と3例の頭頸部癌患者の腫瘍部にHF10を接種する臨床試験を行った。HF10は、明らかな有害事象を示すことなく腫瘍を破壊することがわかり、今後、腫瘍免疫を増強するアンプリコンとの併用等で有効性を高め、実用的な治療法の一つに発展することが期待される。
ガイドライン等の開発
特記事項無し
その他行政的観点からの成果
パーキンソン病に対する遺伝子治療(自治医大、平成18年申請)に使われるAAVベクターの安全性・有効性の評価において、当研究班のAAVベクターの特性に関する知見が役立った。
その他のインパクト
「HHV-6またはHHV-7由来の組み換えウイルスベクター、その製造方法、それを用いた宿主細胞の形質転換方法、それにより形質転換された宿主細胞およびそれを用いた遺伝子治療方法」を申請し、「HF10を使う癌のウイルス療法に関する特許」申請を準備している。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
92件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
90件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mori S, Wang L, Takeuchi T, et al.
Two novel adeno-associated viruses from cynomolgus monkey pseudotyping characterization of capsid protein.
Virology , 330 , 375-383  (2004)
原著論文2
Mori S, Takeuchi T, Enomoto Y, et al.
Biodistribution of Intravenously Administered AAV-2, 10, and 11 Vectors in a Low Dose to Cynomolgus Monkeys.
Jap J Inf Dis , 59 , 285-293  (2006)
原著論文3
Kato M, Igarashi H, Takeda A, et al.
Induction of Gag-specific T-cell responses by therapeutic immunization with a Gag-expressing Sendai virus vector in macaques chronically infected with simian-human immunodeficiency virus.
Vaccine , 23 , 3166-3173  (2005)
原著論文4
Yamamoto H, Kawada M, Tsukamoto T, et al.
Vaccine-based, long-term, stable control of simian/human immunodeficiency virus 89.6PD replication in rhesus macaques.
J Gen Virol , 88 , 652-659  (2007)
原著論文5
Teshigahara O, Goshima F, Takao K, et al.
Oncolytic viral therapy for breast cancer with herpes simplex virus type 1 mutant HF 10.
J Surg Oncol , 85 , 42-47  (2004)
原著論文6
Kimata H, Imai T, Kikumori T, et al.
Pilot study of oncolytic viral therapy using mutant herpes simplex virus (HF10) against recurrent metastatic breast cancer.
Ann Surg Oncol , 13 , 1078-1084  (2006)
原著論文7
Ushijima Y, Luo C, Goshima F, et al.
Determination and analysis of the DNA sequence of highly attenuated herpes simplex virus type 1 mutant HF10, a potential oncolytic virus.
Microbes Infect , 9 , 142-149  (2007)
原著論文8
Zhang L, Daikoku T, Ohtake K, et al.
Establishment of a novel foreign gene delivery system combining an HSV amplicon with an attenuated replication-competent virus, HSV-1 HF10.
J Virol Methods , 137 , 177-183  (2006)
原著論文9
Fujimoto Y, Mizuno T, Sugiura S, et al.
Intratumoral injection of herpes simplex virus HF10 in recurrent head and neck squamous cell carcinoma.
Acta Oto-Laryngol , 126 , 1115-1117  (2006)
原著論文10
Kawada M, Igarashi H, Takeda A, et al.
Involvement of multiple epitope-specific cytotoxic T-lymphocyte responses in vaccine-based control of simian immunodeficiency virus replication in rhesus macaques.
J Virol , 80 , 1949-1958  (2006)
原著論文11
Mori I, Liu B, Goshima F, et al.
HF10, an attenuated herpes simplex virus (HSV) type 1 clone, lacks neuroinvasiveness and protects mice against lethal challenge with HSV types 1 and 2.
Microbes Infect , 7 , 1492-1500  (2005)
原著論文12
Sugiura S, Goshima F, Takakuwa H, et al.
Treatment of solid sarcomas in immunocompetent mice with novel, oncolytic herpes simplex viruses.
Otolaryngol Head Neck Surg , 130 , 470-478  (2004)
原著論文13
Kohno S, Luo C, Goshima F, et al.
Herpes simplex virus type 1 mutant HF10 oncolytic viral therapy for bladder cancer.
Urology , 66 , 1116-1121  (2005)
原著論文14
Kato M, Igarashi H, Takeda A, et al.
Stimulation of virus-specific T cell responses by dendritic cell vaccination in the chronic phase of simian AIDS models.
Jpn J Infect Dis , 57 , 220-223  (2004)
原著論文15
Lun WH, Takeda A, Nakamura H, et al.
Loss of virus-specific CD4(+) T cells with increases in viral loads in the chronic phase after vaccine-based partial control of primary simian immunodeficiency virus replication in macaques.
J Gen Virol , 85 , 1955-1963  (2004)
原著論文16
Matano T, Kobayashi M, Igarashi H, et al.
Cytotoxic T lymphocyte-based control of simian immunodeficiency virus replication in a preclinical AIDS vaccine trial.
J Exp Med , 199 , 1709-1718  (2004)
原著論文17
Nakao A, Kimata H, Imai T, et al.
Intratumoral injection of herpes simplex virus HF10 in recurrent breast cancer.
Ann Oncol , 15 , 988-989  (2004)
原著論文18
Mori I, Goshima F, Watanabe D, et al.
Herpes simplex virus US3 protein kinase regulates virus-induced apoptosis in olfactory and vomeronasal chemosensory neurons in vivo.
Microbes Infect , 8 , 1806-1812  (2006)
原著論文19
Koshizuka T, Kawaguchi Y, Goshima F, et al.
Association of two membrane proteins encoded by herpes simplex virus type 2, UL11 and UL56.
Virus Genes , 32 , 153-163  (2006)
原著論文20
Kobayashi M, Igarashi H, Takeda A, et al.
Reversion in vivo after inoculation of a molecular proviral DNA clone of simian immunodeficiency virus with a cytotoxic-T-lymphocyte escape mutation.
J Virol , 79 , 11529-11532  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-