臨床応用のためのlong-acting HVJ-E(ヒト型)の開発

文献情報

文献番号
200607008A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床応用のためのlong-acting HVJ-E(ヒト型)の開発
課題番号
H16-遺伝子-一般-001
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
金田 安史(大阪大学大学院 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 田畑 泰彦(京都大学 再生医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
34,425,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HVJ envelope vector (HVJ-E)の血液中での安定性を増強させ、かつ標的細胞へのターゲティング能を賦与し、生体組織での遺伝子導入効率を増強させる。
研究方法
1)HVJの融合蛋白に標的分子を付加する遺伝子工学的手法に基づき一本鎖抗体やトランスフェリンを結合したHVJを作成した。またHN特異的なsiRNAを用いてウイルス本来のレセプター(シアル酸)を認識するHN蛋白を欠失させたHVJを構築した。 2)カチオン化ゼラチン(CG)にポリエチレングリコール(PEG)を導入したPEG化カチオン化ゼラチン(PEG-CG)とHVJの複合体を作成し、尾静脈投与後の主要臓器での体内動態を調べた。3)カチオン化ゼラチンハイドロゲルにHVJを包埋し遺伝子の徐放化について検討した。4)種々の癌モデルでの治療効果を検討した。
結果と考察
1)表皮基底層のdesmogrein3に対する一本鎖抗体をもつ標的化HVJ-E(GFP遺伝子封入)をマウス水疱内に導入するとGFPの発現が基底膜細胞に限局してみられた。皮膚組織でのGFPのRT-PCRを行うと、標的化HVJ-EによるGFPの発現はwild HVJ-Eの約5倍であった。HNのsiRNAを用いHNを完全になくしたHVJが構築され赤血球凝集活性を完全になくすことに成功した。このことからHN欠損の標的化HVJ-Eの構築が可能になり、より標的導入の選択性を高めることができた。2)PEG-CG-HVJ-EにQ-dotを封入してマウス尾静脈より導入すると肝臓に集積した。このときHVJ-E単独ではほとんど肝臓への集積は見られなかった。PEG付加により静脈内投与による許容量は約2倍に増えた。CG、HVJ-Eの臨床応用用の生産が完了していることから、臨床応用も近いと思われる。4)カチオン化ゼラチンハイドロゲルにより培養細胞ではHVJ-Eの徐放化による遺伝子発現が見られた。皮下組織ではカチオンの程度を軽減することにより炎症を抑えて、遺伝子発現を起こすことに成功した。今後更なる最適化を進める。 5)HVJ-E自身に多彩な抗腫瘍活性があることが解明され、このベクターのがん治療への応用の期待が高まった。
結論
血液中でのHVJ-Eの安定化が実現でき、標的導入や徐放化も可能になった。臨床応用のターゲットとベクター調整のめども立った。

公開日・更新日

公開日
2007-03-27
更新日
-

文献情報

文献番号
200607008B
報告書区分
総合
研究課題名
臨床応用のためのlong-acting HVJ-E(ヒト型)の開発
課題番号
H16-遺伝子-一般-001
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
金田 安史(大阪大学大学院 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 田畑 泰彦(京都大学 再生医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HVJ envelope vector (HVJ-E)の血液中での安定性を増強させ、かつ標的細胞へのターゲティング能を賦与し、生体組織での遺伝子導入効率を増強させる。
研究方法
1)HVJの融合蛋白に標的分子を付加する遺伝子工学的手法を開発し一本鎖抗体や腫瘍に対するリガンド分子を結合したHVJを作成した。またsiRNAを用いてHN蛋白を欠失させたHVJも構築した。 2)カチオン化ゼラチン(CG)やCGにポリエチレングリコール(PEG)修飾したPEG化カチオン化ゼラチン(PEG-CG)などとHVJの複合体を形成し、マウスに投与後の主要臓器での体内動態、治療効果を調べた。 3)カチオン化ゼラチンハイドロゲルにHVJを包埋し遺伝子の徐放化について検討した。4)種々の癌モデルでの治療効果を検討した。
結果と考察
1)表皮基底層蛋白に対する一本鎖抗体をもつ標的化HVJ-E(GFP遺伝子封入)をマウス水疱内に導入するとGFPの発現が基底膜細胞に限局してみられ、その発現量はwild HVJ-Eの約5倍であった。HNのsiRNAを用いHNを完全になくしたHVJが構築され赤血球凝集活性を完全になくすことに成功した。このことからHN欠損の標的化HVJ-Eの構築が可能になり、より標的導入の選択性を高めることができた。2)CG-HVJ-Eにより血液中でのHVJ-Eの分解が抑制された。腹腔内投与により腹腔内腫瘍結節特異的な遺伝子導入がおこった。この方法により抗癌剤封入CG-HVJ-E投与により40%のマウスに完全寛解をおこし、再接種による腫瘍拒絶も起こった。PEG-CG-HVJ-Eは尾静脈投与後肝臓に集積したが、PEG付加により静脈内投与による許容量は約2倍に増えた。4)カチオン化ゼラチンハイドロゲルにより培養細胞ではHVJ-Eの徐放化による遺伝子発現が見られた。皮下組織ではカチオンの程度を軽減することにより炎症を抑えて、遺伝子発現を起こすことに成功した。今後更なる最適化を進める。5)HVJ-E自身に腫瘍免疫活性化による多彩な抗腫瘍活性があることが解明され、膀胱癌、大腸癌、腎癌などは効果的に治療が可能になり、このベクターの臨床応用のめどが立った。
結論
血液中でのHVJ-Eの安定化が実現でき、標的導入や徐放化も可能になった。臨床応用のターゲットとベクター調整のめども立った。

公開日・更新日

公開日
2007-03-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200607008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
当研究の成果の1つは、生体適合性ポリマーによるエンベロープベクターの血液中での安定性の増強である。多くのウイルスベクターは同様の問題を抱えており、この成果は遺伝子治療ベクター全般に応用でき、遺伝子治療効果の増強につながる。もう1つは遺伝子工学的手法を駆使して標的化可能な薬物送達系を開発したことで、この方法自体が斬新で学術的な価値が高い。標的分子とウイルス蛋白とのキメラ蛋白の細胞内動態、ウイルス遺伝子のsiRNAによる制御などウイルスの構築分子の機能の解明につながる知見も提供できた。
臨床的観点からの成果
当研究を進める中で、開発されたベクターにより特に癌治療への新しい可能性が開かれた点は臨床応用の観点から価値が高い。遠隔転移巣や播種癌への効果も期待できる。HVJ-Eベクター自体は既に臨床応用用のサンプルが提供できる状況にあり、カチオン化ゼラチンはすでに臨床研究に用いられている。したがって当研究の成果をもとにした臨床応用のターゲットやベクター製造も道筋がついたと考えられる。最初は固形癌への局所投与から始め、転移癌を対象にした治療へと進めることが妥当であろう。
ガイドライン等の開発
このベクターが目指す臨床応用は癌治療であることは明らかであるが、必ずしも遺伝子治療には限定されない。抗癌剤やsiRNAの薬物送達系として用いられる可能性は大きく、施行施設のIRBの判断に委ねられる。一方、用いるベクターはウイルスを不活性化して治療分子を封入したもので現在の基準からではウイルス製剤と位置づけて評価されることになろう。しかし完全に複製能やウイルス蛋白生産能は喪失しているのでこのようなベクター系の評価と普及のためには新たなガイドラインの開発が必要で複数の学会による作成を計画中である。
その他行政的観点からの成果
HVJ-Eは新しい癌治療製剤となりうる可能性が高く、特にがん免疫の活性化によるがんの予防と治療に大きく貢献できる。競合品となるBCGや免疫治療剤よりも優位性がありメカニズムも異なる。当研究プロジェクトにより標的化も可能になった。したがって第3期科学技術基本計画における「標的治療等の革新的がん医療技術」を支える根幹技術の1つであり、基本的政策の “がん予防の推進”に対しても有効な手段になりうる。独自の製法も確立し、臨床用製剤としての供給が可能な状況であり、臨床への橋渡し研究を実現することができる。
その他のインパクト
HVJ-Eベクターの開発と応用について、平成18年7月14日朝日新聞夕刊、平成19年1月3日読売新聞朝刊により全国に報道。毎年2月に大阪で遺伝子治療公開シンポジウムを一般人を対象に無料(近畿バイオインダストリー主催)で開催し、HVJ-Eベクターを中心とした開発・応用状況を紹介。研究室のホームページ(http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/gts/index.htm)でその最新の研究成果を公開中。HVJ-Eの特許の一部は米国で成立(US6,913,923 B2)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
32件
その他論文(和文)
11件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
33件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計6件
その他成果(特許の取得)
0件
取得2件、出願4件(うちPCT出願1件)
その他成果(施策への反映)
0件
今後、「標的治療等の革新的がん医療技術」を支える根幹技術の1つとなりうる
その他成果(普及・啓発活動)
3件
新聞報道、公開シンポジウムの開催、研究室のホームページでの研究成果の普及・啓発活動

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Otsuru, S., Tamai, K., Yamazaki, T., et al.
Bulk but pulse mobilization of bone marrow undifferentiated mesenchymal cells to the peripheral blood circulation is essential for BMP-2-induced osteogenesis.
Biochem. Biophys. Res. Comm. , 354 , 453-458  (2007)
原著論文2
Kurooka, M. and Kaneda, Y.
Inactivated Sendai virus particles eradicate tumors by inducing immune responses through blocking regulatory T cells.
Cancer Research , 67 , 227-236  (2007)
原著論文3
Yasuoka, E., Oshima, K., Tamai, K.,et al.
Needleless intranasal administration of HVJ-E containing allergen attenuates experimental allergic rhinitis.
J. Mol. Medicine  (2007)
原著論文4
Tomita, T., Kunugiza, Y., Tomita, N.,et al.
E2F decoy oligodeoxynucleotide ameliorates cartilage invasion by infiltrating synovium derived rheumatoid arthritis.
Int. J. Mol. Med. , 18 , 257-265  (2006)
原著論文5
Shiraya, S., Miwa, K., Aoki, M.,et al.
Hypertension accelerated experimental abdominal aortic aneurysm through upregulation of nuclear factor kB and ets.
Hypertension , 48 , 628-636  (2006)
原著論文6
Saito, Y., Nakagami, H., Morishita, R.,et al.
Transfection of human hepatocyte growth factor gene ameliorates secondary lymphedema via promotion of lymphangiogenesis.
Circulation , 114 , 1177-1184  (2006)
原著論文7
Kunugiza, Y., Tomita, N., Taniyama, Y., et al.
Acceleration of wound healing by combined gene transfer of hepatocyte growth factor and prostacyclin synthase with Shima Jet.
Gene Ther. , 13 , 1143-1152  (2006)
原著論文8
Mima, H., Yamamoto, S., Ito, M., et al.
Targeted chemotherapy against intraperitoneally disseminated colon carcinoma using a cationized gelatin-conjugated HVJ envelope vector.
Mol. Cancer Ther. , 5 , 1021-1028  (2006)
原著論文9
Shimamura, M., Sato, N., Waguri, S., et al.
Gene Transfer of HGF Gene improves Learning and Memory in the Chronic Stage of Cerebral Infarction.
Hypertension , 47 , 742-751  (2006)
原著論文10
Shimizu, H., Nakagami, H., Tsukamoto, I.,et al.
NFkB decoy oligodeoxynucleoyides ameriorate osteoporosis through inhibition of activation and differentiation.
Gene Ther. , 13 , 933-941  (2006)
原著論文11
Shimamura, M., Sato, N., Taniyama, Y., et al.
Gene transfer into adult rat spinal cord using naked plasmid DNA and ultrasound microbubbles.
J. Gene Medicine , 7 , 1468-1474  (2005)
原著論文12
Tashiro, H., Aoki, M., Isobe, M., et al.
Development of novel method of non-viral efficient gene transfer into neonatal cardiac myocytes.
J. Mol. Cell Cardiol. , 39 , 503-509  (2005)
原著論文13
Morishita, N., Nakagami, H., Morishita, R, et al.
Magnetic nanoparticles with surface modification enhanced gene delivery of HVJ-E vector.
Biochem. Biophys. Res. Comm. , 334 , 1121-1126  (2005)
原著論文14
Miwa, K., Nakashima, H., Aoki, M.,et al.
Inhibition of ets, an essential transcription factor for angiogenesis, to prevent the development of abdominal aortic aneurysm in a rat model.
Gene Ther. , 12 , 1109-1118  (2005)
原著論文15
Shimamura, M., Sato, N., Taniyama, Y., et al.
Development of efficient plasmid DNA transfer into adult rat central nervous system using microbubble-enhanced ultrasound.
Gene Ther. , 11 , 1532-1539  (2004)
原著論文16
Katsuragi N, Morishita R, Nakamura N,, et al.
Periostin as a novel factor responsible for ventricular dilation.
Circulation , 110 , 1806-1813  (2004)
原著論文17
Takeda, S., Shiosaki, K., Kaneda, Y., et al.
Hemagglutinating virus of Japan protein is efficient for induction of CD4+ T-cell response by a hepatitis B core particle-based HIV vaccine.
Clinical Immunology , 112 , 92-105  (2004)
原著論文18
Oshima, K., Shimamura, M., Mizuno, S., et al.
Intrathecal injection of HVJ-E containing HGF gene to cerebrospinal fluid can prevent and ameliorate hearing impairment in rats.
The FASEB J. , 18 , 212-214  (2004)
原著論文19
Shimamura, M., Sato, N., Oshima, K., et al.
Novel therapeutic strategy to treat brain ischemia: Over-expression of hepatocyte growth factor gene reduced ischemic injury without cerebral edema in rat model.
Circulation , 109 , 424-431  (2004)
原著論文20
Morishita, R., Aoki, M., Hashiya, N., et al.
Safety evaluation of clinical gene therapy using hepatocyte growth factor to treat peripheral arterial disease.
Hypertension , 44 , 203-209  (2004)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-