高齢者特発性造血障害の大規模ゲノミクス解析による病態解明

文献情報

文献番号
200607006A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者特発性造血障害の大規模ゲノミクス解析による病態解明
課題番号
H16-ゲノム-一般-007
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
間野 博行(自治医科大学・ゲノム機能研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 寺村 正尚(東京女子医科大学 血液内科)
  • 湯尾 明(国立国際医療センター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
36,338,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨髄異形成症候群(MDS)は赤血球を含む各種血球の慢性減少を特徴とする疾患であり、白血球減少に伴う感染症に対する治療や、赤血球・血小板の減少に対する成分輸血をしばしば必要とする。MDSは造血幹細胞のクローン性異常に起因すると考えられているが、その具体的な分子メカニズムは未だ全く不明のままである。我々は本疾患群の純化造血幹細胞間でDNAチップ解析及びプロテオミクス解析を行うことによって、偽陽性の極めて少ない効率的なゲノミクス解析を目指した。
研究方法
(1)純化CD133陽性細胞よりトータルRNAを抽出し、ビオチン標識化したcomplementary RNA(cRNA)を作製した。このビオチン化cRNAをDNAチップとハイブリダイズさせ各スポットの蛍光強度を測定した。(2)不応性貧血(RA)患者および正常人の末梢血より好中球を分離しプロテオミクス解析を行った。(3)PPARγが、そのリンガンド依存性にその核内受容体としての転写活性を発揮しているかに関して特異的転写産物であるadipocyte fatty acid binding proteinの転写によって確認した。
結果と考察
(1)RA患者と正常者の末梢血好中球由来の蛋白の泳動パターンを解析ソフトで解析したところ,RAにおいて異CapGおよびThiol-specific antioxident protein (TSA)が以上発現していることを明らかにした。(2)PPARγ蛋白の生理的リガンドのPGJ2と合成リガンドのピオグリタゾンのいずれもNB4細胞の増殖を抑制し、低濃度のATRA(RAR/RXRリガンド)はこれらのPPARγリガンドによる増殖抑制を相加的に増強した。
結論
我々の大規模バンク検体を用いたプレテオミクス技術からMDS細胞を解析する事により蛋白質レベルでのMDSの異常を同定した。またこれら異常遺伝子・蛋白質を標的とした分子療法の開発に向けて基盤技術の開発に成功した。

公開日・更新日

公開日
2007-03-27
更新日
-

文献情報

文献番号
200607006B
報告書区分
総合
研究課題名
高齢者特発性造血障害の大規模ゲノミクス解析による病態解明
課題番号
H16-ゲノム-一般-007
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
間野 博行(自治医科大学・ゲノム機能研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 寺村 正尚(東京女子医科大学 血液内科)
  • 湯尾 明(国立国際医療センター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特発性造血障害は汎血球減少症を特徴とする症候群であり、多くの例で造血幹細胞のクローン性異常が発症機構であると予想されている。本症候群には無効造血と血球の形態異常を特徴とする骨髄異形成症候群(MDS)、骨髄の著明な血球減少を特徴とする再生不良性貧血、および溶血を主症状とする発作性夜間血色素尿症などがあるが、これらを鑑別する有効な分子診断マーカーは存在しない。我々は、特発性造血障害の多くが造血幹細胞に異常があることに着目し、本邦の同疾患患者骨髄よりCD133陽性造血幹細胞分画を純化保存する「Blast Bank」を設立し、本バンク細胞を用いた大規模DNAマイクロアレイ解析・プロテオミクス解析によって、特発性造血障害の病態を解明すると共に、信頼性の高い鑑別診断マーカーを同定することを目指した。
研究方法
患者骨髄・末梢血よりCD133陽性細胞を純化保存し、それを用いたマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行う一方、MALDI-TOF/TOF MS法による質量分析を行い、疾患特異的な遺伝子発現・タンパクの同定を目指した。
結果と考察
(1)我々は既に800例を越えるBlast Bankサンプルの収集に成功した。現在本バンク中に130例を超えるMDSおよび急性骨髄性白血病(AML)サンプルが保存されており、世界的にも極めて貴重なリソースとなっている。(2)MDSの各病期のBlast Bank細胞をマイクロアレイを用いて解析することで、新たながん抑制遺伝子であるPIASyが病期の進行に伴って発現低下することを明らかにした。さらにMDS由来の白血病と特発性白血病細胞をマイクロアレイで比較することにより、両社を鑑別する新たな分子診断マーカーを同定した。(3)Blast Bank検体をプロテオミクス解析することで、aneuploidy患者に特徴的なリン酸化蛋白pp230を同定し、それを純化・質量分析することで、同蛋白がNUMA1であることを解明した。また同蛋白を過剰発現すると実際に核型異常が生じることを明らかにした。
結論
Blast Bankは今後の様々なゲノミクス解析に対して極めて貴重なリソースとなる。今後はアレイによる発現解析だけでなく、遺伝子配列異常のスクリーニングやエピジェネティクス解析などと情報を統合して、病態の理解に迫りたい。

公開日・更新日

公開日
2007-03-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2007-10-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200607006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまで特発性造血障害の純化細胞におけるゲノミクス解析は殆ど報告されておらず、CD34陽性分画を純化して発現解析をした例が数例報告されているに過ぎない。CD34に比べてCD133は厳密に造血幹細胞近傍のみを純化しており、我々のアプローチは、疾患細胞の分化レベルなどに影響を受けない精度の高いアレイ解析が可能である。
臨床的観点からの成果
Blast Bank事業は極めて順調に進行しており、本邦の複数の施設との共同研究の結果既に800例をこえる造血幹細胞サンプルの収集・保存に成功した。このような大規模な純化細胞ゲノミクスプロジェクトは世界的にも他に例を見ない。またこれら検体を用いて、鑑別診断用の分子診断マーカーの同定、疾患の進展機構の解明、核型異常の原因蛋白の同定など、様々な成果を挙げることができた。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
52件
その他論文(和文)
25件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
49件
学会発表(国際学会等)
17件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Choi YL, Tsukasaki K, O'Neill M C, et al.
A genomic analysis of adult T-cell leukemia
Oncogene  (2007)
原著論文2
Choi YL, Kaneda R, Wada T, et al.
Identification of a constitutively active mutant of JAK3 by retroviral expression screening
Leuk Res  (2007)
原著論文3
Yamashita Y, Ohashi J, Hirai Y, et al.
Gene expression profiles of CD133-positive fractions predict the survival of individuals with acute myeloid leukemia
Cancer Genomics & Proteomics  (2006)
原著論文4
Yamada T, Katagiri H, Ishigaki Y, et al.
Signals from intra-abdominal fat modulate insulin and leptin sensitivity through different mechanisms: neuronal involvement in food-intake regulation
Cell Metab  (2006)
原著論文5
Takada S, Berezikov E, Yamashita Y, et al.
Mouse microRNA profiles determined with a new and sensitive cloning method
Nucleic Acids Res,  (2006)
原著論文6
Taguchi J, Miyazaki Y, Tsutsumi C, et al.
Expression of the myeloperoxidase gene in AC133 positive leukemia cells relates to the prognosis of acute myeloid leukemia
Leuk Res  (2006)
原著論文7
Mano H
DNA microarray analysis of myelodysplastic syndrome
Leuk Lymphoma  (2006)
原著論文8
Koinuma K, Yamashita Y, Liu W, et al.
Epigenetic silencing of AXIN2 in colorectal carcinoma with microsatellite instability
Oncogene  (2006)
原著論文9
Kano Y, Akutsu M, Tsunoda S, et al.
Schedule-dependent interactions between pemetrexed and cisplatin in human carcinoma cell lines in vitro
Oncol Res  (2006)
原著論文10
Berezikov E, van Tetering G, Verheul M, et al.
Many novel mammalian microRNA candidates identified by extensive cloning and RAKE analysis
Genome Res  (2006)
原著論文11
Koinuma K, Kaneda R, Toyota M, et al.
Screening for genomic fragments that are methylated specifically in colorectal carcinoma with a methylated MLH1 promoter
Carcinogenesis  (2005)
原著論文12
Kaneda R, Ueno S, Yamashita Y, et al.
Genome-wide screening for target regions of histone deacetylases in cardiomyocytes
Circ Res  (2005)
原著論文13
Fujiwara S, Yamashita Y, Choi YL, et al.
Transforming activity of the lymphotoxin-beta receptor revealed by expression screening
Biochem Biophys Res Commun  (2005)
原著論文14
Choi YL, Moriuchi R, Osawa M, et al.
Retroviral expression screening of oncogenes in natural killer cell leukemia
Leuk Res,  (2005)
原著論文15
Tsutsumi C, Ueda M, Miyazaki Y, et al.
DNA microarray analysis of dysplastic morphology associated with acute myeloid leukemia
Exp Hematol  (2004)
原著論文16
Mano H
Stratification of acute myeloid leukemia based on gene expression profiles
Int J Hematol  (2004)
原著論文17
Kano Y, Akutsu M, Tsunoda S, et al.
Schedule-dependent synergism and antagonism between pemetrexed and paclitaxel in human carcinoma cell lines in vitro
Cancer Chemother Pharmacol  (2004)
原著論文18
Kaneda R, Toyota M, Yamashita Y, et al.
High-throughput screening of genome fragments bound to differentially acetylated histones
Genes Cells  (2004)
原著論文19
Choi YL, Makishima H, Ohashi J, et al.
DNA microarray analysis of natural killer cell-type lymphoproliferative disease of granular lymphocytes with purified CD3(-)CD56(+) fractions
Leukemia  (2004)
原著論文20
Araki H, Katayama N, Yamashita Y, et al.
Reprogramming of human postmitotic neutrophils into macrophages by growth factors
Blood  (2004)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-