カルパイン10関連分子を用いた2型糖尿病遺伝子診断法と新規治療法の開発

文献情報

文献番号
200607005A
報告書区分
総括
研究課題名
カルパイン10関連分子を用いた2型糖尿病遺伝子診断法と新規治療法の開発
課題番号
H16-ゲノム-一般-006
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
堀川 幸男(岐阜大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 夏目 徹(独立行政法人 産業技術総合研究所 プロテインネットワーク解析)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
27,961,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
カルパイン10との相互作用を制御する薬剤が2型糖尿病のより精度の高い治療剤である可能性を考え、今年度はID3424を過剰発現させ糖尿病治療に有効であることを糖尿病肥満モデルマウスの治療により検討する。
研究方法
カルパイン10、ID3424過剰発現・ノックアウト個体での作用
ID3424アデノウィルスを感染させたマウス、ラットを用いて、全身での耐糖能、および周辺臓器のインスリン抵抗性の評価を行う。また肥満糖尿病モデル動物ob/ob マウスを用いて、カルパイン10、ID3424過剰発現による高インスリン血症の改善が耐糖能の改善にむすびつく可能性も、アデノウイルスの実験系を用いて解析する。また既に作成済みのID3424ノックアウトマウスを用いて、糖尿病関連の解析を進めていく。
iSNPマーカーと表現型の関連解析
カルパイン10関連病態の危険度を判定する高感度iSNPハプロタイプ診断ツールの開発を試みる。多遺伝子型疾患である糖尿病のような生活習慣病では遺伝子-遺伝子、さらに遺伝子-環境相互作用の数理統計学的解析が必要不可欠となる。これらの解析には同時に多数の遺伝子多型を簡便にかつ正確にハンドリングできるソフトウェアが要求されるのでこれを予め開発する
結果と考察
糖尿病モデル動物の治療
既に作成したID3424のノックアウトマウスでは高インスリン血症、肝、筋肉でのインスリン抵抗性が主たる糖尿病病態要因であることを明らかにした。反対に、糖尿病肥満モデル動物ob/ob マウスにID3424を過剰発現させ、高インスリン血症や耐糖能が改善することを実証した。同時に不活化ID3424では糖関連データが改善しないことも明らかにした。
結論
ID3424の過剰発現が糖尿病治療に有効であることを糖尿病肥満モデルマウスの治療により実証できた。さらにこのレポーターシステムを用いて獲得した15-20個の薬物候補化合物を精製し、化合物構造を決定し各種細胞株や糖尿病モデル動物に投与することにより2型糖尿病の新規予防剤・治療剤としての検証を進める。また本研究で開発した遺伝統計解析ソフトウェア(HERMES 1.5)を用いてカルパイン10関連分子の遺伝子多型を用いたタンパク質レベルで証明されている相互作用を遺伝子レベルに還元した高感度糖尿病感受性診断ツールの開発が可能となった。

公開日・更新日

公開日
2007-04-06
更新日
-

文献情報

文献番号
200607005B
報告書区分
総合
研究課題名
カルパイン10関連分子を用いた2型糖尿病遺伝子診断法と新規治療法の開発
課題番号
H16-ゲノム-一般-006
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
堀川 幸男(岐阜大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 夏目 徹(独立行政法人 産業技術総合研究所 プロテインネットワーク解析)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2型糖尿病の責任遺伝子を同定し分子レベルで成因解明に取り組むことは、新規糖尿病治療剤、予防剤の開発に繋がるため、高齢化社会を迎えつつある我が国において医療行政の観点からも重要である。主任研究者は、世界で初めて2型糖尿病遺伝子カルパイン10(NIDDM1)を発見することに成功した後、カルパイン10関連分子を包括的に網羅し有力関連候補分子ID3424を獲得した。ID3424などカルパイン10関連分子がさらに2型糖尿病治療精度を上げたり新薬開発のための貴重な分子標的になると考え本研究を立ち上げた。
研究方法
先ずID3424の周辺分子を網羅するためのカタログ作成やマイクロアレイ解析を施行し、幾つかの候補関連分子を獲得した。既にカルパイン発現調節薬が糖尿病治療に有効である可能性を細胞レベルで示していたので、ID3424の発現レベルやカルパイン10との相互作用を制御する薬剤が、2型糖尿病のより精度の高い治療剤である可能性を考え検討した。
結果と考察
このID3424のプロモーター部位を精査し、若年発症型糖尿病の原因遺伝子である転写因子が特異的にID3424の発現レベルをあげており、糖尿病治療における分子標的であることを明らかにし、レポーターシステムを立ち上げ約15個の薬物候補化合物を獲得した。またID3424を過剰発現させ、糖尿病治療に有効であることを糖尿病肥満モデルマウスの治療により実証した。さらに本研究で開発した遺伝統計解析ソフトウェアを用いてカルパイン10関連分子の遺伝子多型を用いたタンパク質レベルで証明されている相互作用を遺伝子レベルに還元した高感度糖尿病感受性診断ツールの開発が可能となった。
結論
カルパインはこれまでアルツハイマー病、筋萎縮症などとの関連などが示され、その詳細な機能解析に世界中の研究施設がしのぎを削ってきた。しかし、カルパインファミリーはタンパク質として非常に取り扱いにくく、基質特異性、制御メカニズムなどのタンパク質レベルでの研究ははかばかしくない。しかし、今回の蛋白質ネットワーク解析の結果、世界に先駆け、カルパイン10が糖代謝に関わるシグナル伝達と、その核内移行に関わる分子群の複合体として働いていることを明らかするとともに、その制御はインスリンの代謝にも依存しており、カルパイン10は糖代謝とインスリン代謝を通して、血糖値の恒常性に関与する重要分子であることを明らかにできた。

公開日・更新日

公開日
2007-04-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200607005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
世界で初めて2型糖尿病遺伝子カルパイン10(NIDDM1)を発見し、次にカルパイン10関連分子を包括的に網羅し有力関連候補分子ID3424を獲得した。そしてプロモーター部位を精査し、若年発症成人型糖尿病の原因遺伝子である転写因子が特異的にID3424の発現レベルをあげており、糖尿病治療の一つの分子標的であることを明らかにすると共に若年型と成人型の糖尿病の共通の分子基盤を決定した。また独自に遺伝子多型解析プログラムを開発し、多型データプロセッシングに要する時間を数日から数分へと大幅に短縮した。
臨床的観点からの成果
カルパイン10関連分子ID3424のプロモーター部位を用いてレポーターシステムを立ち上げ15個の2型糖尿病新規治療剤の候補化合物を獲得した。またID3424を過剰発現させ、糖尿病治療に有効であることを糖尿病肥満モデルマウスの治療により実証した。さらに本研究で開発した遺伝統計解析ソフトウェアを用いてカルパイン10関連分子の遺伝子多型を用いた高感度2型糖尿病感受性アリルの組み合わせを獲得した。
ガイドライン等の開発
ポストゲノム研究の大規模・絨毯爆撃的なゲノムワイドな疾患関連遺伝子の探索が行われている。しかし、その進捗ははかばかしくなく、大規模で高コストな戦略が果たして有効であるかという議論がある。仮に新規疾患関連遺伝子が同定されたとしても、その遺伝子と疾患の発症メカニズム解明への明確な戦略がないことも新たな問題として浮かび上がってきたが、本研究開発では主働原因遺伝子の発見後、その遺伝子の産物であるタンパク質の相互作用ネットワークを捉えることを主目とし進展したことによってポストゲノム研究の模範となった。
その他行政的観点からの成果
本研究は基礎研究であり、直接行政効果をもつというものではないかもしれないが、獲得した高感度2型糖尿病感受性アリルの組み合わせを用いた早期診断や、15個獲得された2型糖尿病の新規治療剤候補化合物は、糖尿病肥満モデルマウスのID3424過剰発現による治療の成功から判断しても実現性の高いものと考えられる。
その他のインパクト
カルパインはアルツハイマー病などとの関連が示され、その詳細な機能解析に世界中の研究施設がしのぎを削ってきた。しかし、カルパインファミリーはタンパク質として非常に取り扱いにくく、基質特異性、制御メカニズムなどの研究進展ははかばかしくない。しかし、今回の蛋白質ネットワーク解析の結果、世界に先駆け、カルパイン10が糖代謝に関わるシグナル伝達分子群の複合体として働いていることを明らかするとともに、その制御はインスリンの代謝にも依存しており、血糖値の恒常性に関与する重要分子であることを明らかにできた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
35件
その他論文(和文)
30件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
80件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
29件
学会ではなく本研究課題で用いたタンパク相互作用解析、あるいはそれに関連した糖尿病遺伝子解析の成績公表から糖尿病病識の啓発に関するものまで包含 (80件に含む)。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shihara N, Horikawa Y, Onishi T, et al.
Identification of a de novo case of hepatocyte nuclear factor-1_ deficiency with highly varied phenotypes
Diabetologia , 47 , 1128-1129  (2004)
原著論文2
Kawamoto T, Horikawa Y, Tanaka T, et al.
Genetic variations in the WFS1 gene in Japanese with type 2 diabetes and bipolar disorder
Mol Genet Metab , 82 , 238-245  (2004)
原著論文3
Tanaka T, Horikawa Y, Kawamoto T, et al.
Expression profile of mRNAs from rat hippocampus and it’s application to microarray
Mol Brain Res , 129 , 20-32  (2004)
原著論文4
Nishimura M, Miki T, Yokoi N, et al.
Construction of a multi-functional cDNA library specific for normal mouse pancreatic islets and its application to microarray
DNA Res , 11 , 315-323  (2004)
原著論文5
Johnson JD, HanZ, Otani K, et al.
RyR2 and calpain-10 delineate a novel apoptosis pathway in pancreatic islets
J Biol Chem , 279 , 24794-24802  (2004)
原著論文6
Otani K, Han DH, Ford EL, et al.
Calpain system regulates muscle mass and glucose transporter GLUT4 turnover
J Biol Chem , 279 , 20915-20920  (2004)
原著論文7
Iwasaki N, Horikawa Y, Tsuchiya T, et al.
Genetic variants in the calpain-10 gene and the development of type2 diabetes in the Japanese population
J Hum Genet , 50 , 92-98  (2005)
原著論文8
Wang H, Horikawa Y, Jin L, et al.
Gene expression profile in rat pancreatic islet and RINm5F cells
J Mol Endocrinol , 35 , 1-12  (2005)
原著論文9
Yamada N, Horikawa Y, Oda N, et al.
Genetic variation in the HIF-1α gene is associated with type 2 diabetes in Japanese
J Clin Endocrinol Metab , 90 , 5841-5847  (2005)
原著論文10
Nakano Y, Furuta H, Doi A, et al.
A functional variant in the human betacellulin gene promoter is associated with type 2 diabetes
Diabetes , 54 , 3560-3566  (2005)
原著論文11
Yokoi N, Kanamori M, Horikawa Y, et al.
Association Studies of Variants in the Genes Involved in Pancreatic β-Cell Function in Type 2 Diabetes in Japanese
Diabetes , 55 , 2379-2386  (2006)
原著論文12
Horikawa Y
Type 2 diabetes susceptibility gene-calpain 10
Endoc J , 53 , 567-576  (2006)
原著論文13
Komatsu M, Chiba T, Tatsumi K, et al.
A novel protein-conjugating system for Ufm1, a ubiquitin-fold modifier
Embo J , 23 , 1977-1986  (2004)
原著論文14
Oyama M, Itagaki C, Hata H, et al.
Analysis of small human proteins reveals the translation of upstream open reading frames of mRNAs
Genome Res , 14 , 2048-2052  (2004)
原著論文15
Hirano Y, Hendeil KB, Yashiroda H, et al.
A heterodimeric complex that promotes the assembly of mammalian 20S proteasomes
Nature , 437 , 1381-1385  (2005)
原著論文16
Yoshida K, Yamaguchi T, Natsume T, et al.
JNK phosphorylation of 14-3-3 proteins regulates nuclear targeting of c-Abl in the apoptotic response to DNA damage
Nat Cell Biol , 7 , 278-285  (2005)
原著論文17
Hishiya A, Iemura S, Natsume T, et al.
A novel ubiquitin-binding protein ZNF216 functioning in muscle atrophy
EMBO J , 25 , 554-564  (2005)
原著論文18
Hamazaki J, Iemura S, Natsume T, et al.
A novel proteasome interacting protein recruits the deubiquitinating enzyme UCH37 to 26S proteasomes
EMBO J , 25 , 4524-4536  (2006)
原著論文19
Sato S, Furusawa M, Yamakawa Y, et al.
Proteomic profiling of lipid droplet proteins in hepatoma cell lines expressing hepatitis C virus core protein
J Biochem (Tokyo). , 139 , 921-930  (2006)
原著論文20
Terasawa K, Yoshimitsu K, Iemura S, et al.
Cdc37 interacts with the glycine-rich loop of Hsp90 client kinases
Mol Cell Biol , 26 , 3378-3389  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-