糖尿病発症遺伝子WFS1の機能解明と新規治療法の開発

文献情報

文献番号
200607002A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病発症遺伝子WFS1の機能解明と新規治療法の開発
課題番号
H16-ゲノム-一般-003
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
岡 芳知(東北大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 片桐 秀樹(東北大学大学院医学系研究科)
  • 谷澤 幸生(山口大学大学院医学系研究科)
  • 浅野 知一郎(広島大学大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
29,070,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現代の飽食・肥満・運動不足は膵β細胞にインスリン分泌の増加を強要する。糖尿病発症遺伝子WFS1は小胞体ストレス状況下での膵β細胞の維持機構に関わることから、最近の膵β細胞負荷(小胞体ストレス)の状況下で糖尿病増加を解く鍵と考え、WFS1の機能解明を進めた。
研究方法
WFS1ノックアウトマウスとWFS1欠損膵ラ島を用いて、WFS1機能をDNA マイクロアレイなどにより解析する。また、膵ラ島や培養細胞に小胞体ストレスを負荷し、WFS1を含めた小胞体ストレス反応を解析する。また、WFS1と共沈する蛋白を質量分析にて解析し、WFS1結合分子を同定する。さらに、臓器間代謝情報ネットワークが個体の糖・脂質代謝にどのような影響を及ぼすか、高脂肪食負荷により肥満・糖尿病を発症させたマウスで検討する。患者解析では、遺伝因子が濃厚な35歳以下発症2型糖尿病患者を臨床データも含めて収集し患者遺伝子解析から候補遺伝子・SNPを同定する。
結果と考察
WFS1欠損マウスの膵β細胞では翻訳抑制因子4E-BP1の発現が著増しており、これが小胞体ストレスへの反応であること、この発現増加は転写因子ATF4の下にあることを見出した。また、WFS1結合蛋白としてTFII-Iを同定した。臓器間代謝情報ネットワークの研究を進めるなかで、我々は肝臓から直接膵β細胞を増加させるシグナルが発せられていることを見出し、このシグナルを利用することで、WFS1欠損マウスの膵β細胞減少を改善する結果を得ており、膵β細胞の減少に基づく糖尿病に対し全く新しい視点からの治療開発が期待できる。また、易糖尿病発症者スクリーニングのための候補遺伝子として、4EBP1, p21cip1, TFII-I , APEが候補として加えられた。
結論
WFS1蛋白は、小胞体ストレスに対する防御機構を担っており、この機能欠如により糖尿病を発症する。したがって、WFS1の機能解明のなかで今年度見出した4EBP1, TFII-I、APEは、有力な糖尿病候補遺伝子であるとともに、膵β細胞維持という新たなコンセプトの創薬につながる点できわめて重要である。また、肝臓から直接膵β細胞を増加させるシグナルが発せられていることを見出しており、膵β細胞の減少に基づく糖尿病に対し全く新しい視点からの治療開発が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2007-04-09
更新日
-

文献情報

文献番号
200607002B
報告書区分
総合
研究課題名
糖尿病発症遺伝子WFS1の機能解明と新規治療法の開発
課題番号
H16-ゲノム-一般-003
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
岡 芳知(東北大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 片桐 秀樹(東北大学大学院医学系研究科)
  • 谷澤 幸生(山口大学大学院医学系研究科)
  • 浅野 知一郎(広島大学大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現代の飽食・肥満・運動不足は膵β細胞にインスリン分泌の増加を強要する。このような膵β細胞負荷(小胞体ストレス)状況下において、膵β細胞の維持・生存機構が遺伝的に脆弱な者では膵β細胞が徐々に減少し、年余の後に糖尿病を発症する可能性は高い。そこで、我々が世界に先駆けてクローニングした糖尿病をきたすウオルフラム症候群原因遺伝子WFS1を切り口にして、糖尿病発症予備軍を効率よく拾い上げ、さらに、新しいコンセプトの糖尿病治療薬のシーズを得る。
研究方法
WFS1ノックアウトマウスやWFS1欠損膵ラ島を用いて、WFS1の機能を解明する。さらに、臓器間代謝情報ネットワークが個体の糖・脂質代謝にどのような影響を及ぼすか、高脂肪食負荷により肥満・糖尿病を発症させたマウスで検討する。また、WFS1と小胞体ストレス反応に関連する遺伝子群に焦点をあて、それらの遺伝子変異・多型を検索し、患者遺伝子解析により糖尿病発症ならびにインスリン分泌能との関連を明らかにする。
結果と考察
我々が作製に成功したWFS1ノックアウトマウスは膵β細胞の進行性減少により糖尿病を発症し、ウオルフラム症候群のよいモデルであった。その膵島では、小胞体ストレス応答の3つの経路が活性化していた。さらに、WFS1欠損によりβ細胞の増殖障害が生じ、WFS1は小胞体カルシウムの恒常性維持に重要な役割を果たしていることを明らかにした。また、WFS1欠損マウスの膵β細胞では、翻訳抑制因子4EBP1の発現が著増しており、これが小胞体ストレスへの反応であることを見出した。また、転写因子TFII-IがWFS1に結合しており、小胞体ストレス下でWFS1から乖離することも見出した。さらには、臓器間代謝情報ネットワークとして肝臓から直接膵β細胞を増加させるシグナルが発せられていることを見出した。WFS1に加え、これら、4EBP1, TFII-Iは新たな糖尿病発症関連遺伝子候補である。
結論
WFS1蛋白は、小胞体ストレスに対する防御機構を担っており、この機能欠如により糖尿病を発症する。したがって、WFS1の機能解明は膵β細胞維持という新たなコンセプトの創薬につながる点できわめて重要である。また、肝臓から直接膵β細胞を増加させるシグナルが発せられていることを見出しており、膵β細胞の減少に基づく糖尿病に対し全く新しい視点からの治療開発につながる成果である。

公開日・更新日

公開日
2007-04-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2007-10-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200607002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ウオルフラム症候群原因遺伝子WFS1がコードする蛋白は、小胞体カルシウムの恒常性の維持に重要な役割を果たしており、ウオルフラム症候群では、WFS1蛋白の欠損が小胞体の機能異常を来し、小胞体ストレスによるβ細胞のアポトーシスの亢進によってβ細胞量の低下に至る結果、糖尿病を発症する。
臨床的観点からの成果
WFS1の機能解明は膵β細胞維持という新たなコンセプトの創薬につながる点できわめて重要であり、また、WFS1関わる遺伝子(群)は膵β細胞を守るという観点からの有力な治療ターゲットになりうる。すでに有力な候補を見出しており、また、臓器間代謝情報ネットワークを利用した膵β細胞数の増加にも成功し、全く新しい視点からの治療開発に応用できるものと考えている。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
2006年3月8日朝刊 新聞報道
毎日新聞 「内臓脂肪に食欲ブレーキ内蔵-東北大グループ」
朝日新聞 「内臓脂肪、神経介し「食欲抑制」-東北大発見」
読売新聞「内臓脂肪からやせる信号-東北大グループ」
2006年3月8日テレビ報道
NHKニュース 「内臓脂肪の神経信号が食欲調節」など
2006年6月16日朝刊 新聞報道
朝日新聞 肥満に「体内警告」 東北大教授ら解明肝臓から脳へ信号 
2006年6月16日テレビ報道
ニュース NHK(全国) など

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
36件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
160件
学会発表(国際学会等)
22件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takahashi R, Ishihara H, Tamura A,et al.
Cell-type specific activation of metabolism reveals that β-cell secretion suppresses glucagon release from α-cells in rat pancreatic islets.
Am J Physiol Endocrinol Metab. , 290 , 308-316  (2006)
原著論文2
Yamada T, Katagiri H, Ishigaki Y,et al.
Signals from Intra-Abdominal Fat Modulate Insulin and Leptin Sensitivity through Different Mechanisms: Neuronal Involvement in Food Intake Regulation.
Cell Metabolism , 3 , 223-229  (2006)
原著論文3
Imai J, Katagiri H, Yamada T,et al.
Cold exposure suppresses serum adiponectin levels via sympathetic nerve activation in mice.
Obesity , 14 , 1132-1141  (2006)
原著論文4
Uno K, Katagiri H, Yamada T,et al.
Neuronal pathway from the liver modulates energy expenditure and systemic insulin sensitivity.
Science , 312 , 1656-1659  (2006)
原著論文5
Gao J, Katagiri H, Ishigaki,et al.
Involvement of apolipoprotein e in excess fat accumulation and insulin resistance.
Diabetes , 56 , 24-33  (2007)
原著論文6
Takahashi R, Ishihara H, Takahashi K,et al.
Efficient and controlled gene expression in mouse pancreatic islets by arterial delivery of tetracycline-inducible adenoviral vectors.
J Mol Endocrinol , 38 , 127-136  (2007)
原著論文7
Hasegawa Y, Ogihara T, Yamada T,
Bone Marrow (BM) Transplantation Promotes {beta} Cell Regeneration after Acute Injury through BM Cell Mobilization.
Endocrinology , 148 , 2006-2015  (2007)
原著論文8
Okimoto H, Ishigaki Y, Koiwa Y,
A novel method for evaluating human carotid artery elasticity: possible detection of early stage atherosclerosis in subjects with type 2 diabetes.
Atherosclerosis Epub ahead of print  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-