Epstein-Barrウイルス関連胃癌におけるHelicobacter pylori感染の意義に関する臨床病理学的研究

文献情報

文献番号
199700164A
報告書区分
総括
研究課題名
Epstein-Barrウイルス関連胃癌におけるHelicobacter pylori感染の意義に関する臨床病理学的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
栗原 直人(国立大蔵病院)
研究分担者(所属機関)
  • 朝戸裕(国立大蔵病院)
  • 下山豊(国立大蔵病院)
  • 向井美和子(国立大蔵病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本人胃癌の約10%弱をしめるEpstein-Barr virus(EBV)関連胃癌は,1990年にBrukeらにより胃癌病巣にEBウイルスが初めて証明されて以来,胃癌の一つの発癌機構として注目されてきている.一方,Helicobacter pylori (H.pylori)は1983年Warren Marshallらにより胃内に生息するグラム陰性らせん状桿菌として分離培養されて以来,慢性胃炎の主たる原因,胃・十二指腸潰瘍の再発因子,さらに胃癌・低悪性度胃MALTリンパ腫の発症など、種々の胃・十二指腸疾患発症との関係が指摘されている.H.pylori感染は日本人には高率に認められ,年齢とともに感染率は上昇し,50歳を越えると約60-80%に感染が認められるとの報告もある.疫学的調査ではH.pylori感染と胃癌の強い関連性が示唆され,世界保健機構は1994年6月にcarcinogen group 1 (defenite) に本菌を位置づけたが,発癌の機序については明らかにされていないのが現状である.
胃粘膜はH.pylori,EBVの感染がおこると,宿主反応の場として種々の炎症反応が生じる.胃癌発症過程においてこれらの感染症がどのような役割を果たしているのかを解明することは,胃癌発症の予防,胃癌のhigh risk groupの設定,早期胃癌の治療法・術後のフォローアップを考える上で重要である.本研究では,1,胃癌におけるEBVの感染の感染の有無,およびH.pylori感染の有無,これら両者の関係,宿主反応である炎症所見を病理組織学的に検討すること 2,H.pylori,EBVおよび宿主を考慮した疾患モデル(in vitro)の作成を目的とする.これらの検討により,胃におけるH.pylori,EBウイルスの感染症学的位置づけをおこない,また,ウイルスと細菌の共同作用について新しい疾患概念の確立が期待される.
研究方法
1.胃癌と診断した場合,手術前の上部消化管内視鏡検査により,胃幽門前庭部および胃体部から胃粘膜を生検し,分離培養検査,病理組織学的検査,炎症の程度の示標として胃粘膜の活性酸素含量検査を行ってきた.H.pylori分離培養はスキロー培地を用いて行い,ウレアーゼ,カタラーゼ,オキシダーゼ陽性,グラム陰性螺旋状杆菌,鞭毛を有する遊走能,病原因子としてcagA遺伝子の有無などの特徴により同定を行っている.菌株は-80度にて凍結保存した. H.pylori分離の細菌学的特徴については,半流動培地をもちいた運動能,ウサギ腎細胞株RK-13細胞を用いた空胞化毒素産生能(VT(vacuolating toxin)活性),PCR法を用いたcagA遺伝子の有無,ヒト胃癌細胞株MKN-45に対するIL-8誘導能などについて検討を行っている.
2.切除胃における胃癌病巣・非胃癌病巣におけるH.pylori感染の有無を検討した.今後,同一標本におけるEBVの感染の有無をin situ hybridization によるEBER-1陽性細胞を同定し検討する.さらに,宿主反応である炎症所見(急性胃炎、腸上皮化生や萎縮性胃炎を伴った慢性胃炎,リンパ濾胞の有無など)を検討し,H.pylori, EBVの感染部位との関係を調べる.
結果と考察
本院,臨床研究部では種々の胃疾患からH.pyloriの分離培養を行い,新鮮分離株として保存してきた.疾患別分離株における細菌学的検討では,H.pyloriの運動性,cagAの有無,細胞毒性,IL-8分泌能などについて疾患別特異性は認められなかった.一方,細胞付着性に注目すると付着性の強い菌株は運動性が高く,強い IL-8分泌誘導能を有することが示唆された.さらに,H.pylori感染においては宿主反応は重要であることが予測される.そこで,ヒト胃粘膜上皮細胞の分離を行い,H.pyloriと宿主反応の系を作成し,フローサイトメトリをもちいて分離胃上皮細胞とH.pyloriの付着性の検討を行っている.
胃癌患者の術前上部消化管内視鏡検査において胃幽門部及び胃体部の胃粘膜を生検し,H.pyloriの分離培養による感染の有無を調べるとともに,粘膜の炎症の程度を客観化するために,胃粘膜における活性酸素含有量の測定を行った. H.pyloriの感染胃粘膜の活性酸素含有量は非感染胃粘膜と比較して有意に高値を示しており,炎症の程度と相関が認められたが, H.pyloriの感染の有無により胃癌病巣の病理組織学的特徴は認められず,胃癌におけるH.pyloriの感染の意義については今後更なる検討が必要であると考えられた.現在,過去約3年間(1995-1998年)に胃癌による胃切除症例のうち100例について,EBVの存在,局在を明らかにし,癌部および非癌部の組織像の検討, H.pyloriの感染の有無による差違を検討している.
結論
H.pyloriの感染は胃粘膜に炎症を想起することが示されたが, H.pylori感染による胃癌病巣の特徴的な病理組織学的所見は得られなかった.さらに,胃癌分離株の検討においても胃癌に対する疾患誘導性を示すような細菌側因子は認められなかった.現段階では胃癌の発病因子として H.pyloriの感染を位置づけるには更なる検討が必要であると思われた.現在, EBVの感染について検討を進めている.

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