寄生虫の宿主適応機構の分子情報解明に基づく新しい治療戦略開発及びその寄生虫対策への応用に関する研究

文献情報

文献番号
200604003A
報告書区分
総括
研究課題名
寄生虫の宿主適応機構の分子情報解明に基づく新しい治療戦略開発及びその寄生虫対策への応用に関する研究
課題番号
H18-医国-指定-004
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
太田 伸生(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 北 潔(東京大学大学院医学研究科)
  • 鳥居 本美(愛媛大学医学部)
  • 平山 謙二(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 有薗 直樹(京都府立医科大学大学院医学研究科)
  • 木村 英作(愛知医科大学医学部)
  • 辻 尚利(農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所)
  • 川中 正憲(国立感染症研究所寄生動物部)
  • 金澤 保(産業医科大学医学部)
  • 門司 和彦(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 狩野 繁之(国立国際医療センター研究所)
  • 田辺 和裄(大阪大学微生物病研究所)
  • 中西 憲司(兵庫医科大学医学部)
  • 松岡 裕之(自治医科大学医学部)
  • 青木 孝(順天堂大学医学部)
  • 片倉 賢(北海道大学大学院獣医学研究科)
  • 五十嵐 郁男(帯広畜産大学原虫病研究センター)
  • 遠藤 卓郎(国立感染症研究所寄生動物部)
  • 野崎 智義(群馬大学大学院医学研究科)
  • 小林 睦生(国立感染症研究所昆虫医科学部)
  • 坪井 敬文(愛媛大学無細胞生命科学工学研究センター)
  • 久枝 一(九州大学大学院医学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 国際医学協力研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
14,827,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アジアに蔓延する寄生虫症流行制圧はわが国にとっても重要な保健行政課題である。寄生虫症制圧には医学生物学的及び社会医学的アプローチが必要である。本課題ではアジアの寄生虫症を対象としてその宿主適応機構に関わる分子機序の情報を整備して,国際協力下に流行現場での制圧プログラムに応用活用することを目的とした。
研究方法
以下の5つの方法をとった。(1) 寄生適応の分子機構探索:マラリア原虫,赤痢アメーバ、住血吸虫などの宿主への寄生適応に必須の分子を解析した。同様の検討を媒介節足動物についても進めた。(2)病態発現の分子論:蠕虫感染による宿主の病態発現や易罹病性に関わる分子を検討した。腸管寄生線虫寄生による宿主粘膜上皮の免疫応答やマラリア原虫の遺伝子多型と疾患伝播能の関係などを検討した。(3) ワクチン標的分子の解析:マラリアワクチン標的分子の機能解析を行なうとともに小麦胚芽による無細胞系での組替えタンパク合成を試みた。(4) 新規治療標的分子の探索:トリパノソーマ症、バベシア症やエキノコックス症の新規治療薬開発を目指して検討した。(5) 流行制圧の新技術:蠕虫感染症の制圧に応用する新規診断法開発,集団駆虫の実行と評価法およびベクターの生態を検討した。
結果と考察
(1)マラリア及び住血吸虫の酸化ストレス回避機構を解明した他、赤痢アメーバやT. cruziの栄養要求や宿主細胞死回避機構を明らかにした。(2)マラリア原虫の遺伝子多型と流行濃度の相関を検討したが流行地により状況は異なっていた。腸管寄生線虫刺激による粘膜局所のサイトカイン産生が粘液関連遺伝子発現を亢進させた。(3)マラリアワクチン分子であるロプトリータンパクの性状解明や宿主免疫抑制機構の情報解析が進展した。小麦胚芽の無細胞タンパク合成系はほとんどの赤内型原虫発現タンパクを安定的に作製した。(4)ミトコンドリア関連分子がマラリア,エキノコックス症等の新規寄生虫症治療薬の候補標的であることを示した。(5)簡便な免疫診断法,感染濃度評価法,住民行動の評価法,疾病媒介昆虫の生態学的情報などを明らかにした。上記の各情報は虫の側の寄生生物学的解明とそれに基づく治療薬とワクチンの標的の解明に繋がり,さらにその武器を有効に活用して流行現場に即した戦術の確立に結びつくと考えられた。
結論
日本を中心に米国,アジアの研究者との協力体制を構築してアジアの寄生虫対策を推進するための技術的および情報関連の整備が進んだ。

公開日・更新日

公開日
2007-04-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2007-10-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200604003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
寄生虫症制圧に必要な宿主―寄生虫相互作用に関する分子論的な新規情報を明らかにした。それに基づく症候論,治療薬剤開発、ワクチン開発等に結びつく今後の研究の進展の途をつけた。ワクチン開発の障害にもなっている寄生虫抗原組替えタンパクの大量かつ安定的産生の成功も学術的な進展であった。治療薬開発に伴って、寄生虫と宿主の代謝系の差異を分子レベルで明らかにし,その寄生虫症治療にとどまらない応用価値を示した点も大きな成果である。
臨床的観点からの成果
従来治療が困難であったトリパノソーマ症の安全で効果的な治療薬開発に進展があったことは大きな成果であり、その薬効機構解明を通じて新たな治療標的分子が明らかになって来た。さらに寄生虫感染宿主における生体防御機能の改変が各種自己免疫疾患発症と関連することが実験的に示され,臨床疫学に有用な情報となることが考えられる。病態発現機序についての分子情報が腸管寄生線虫症やアメーバ症について明らかになり,今後の新しい治療戦略に応用が図られる。
ガイドライン等の開発
本研究を通じたガイドライン作製については現時点では特別なものはない。
その他行政的観点からの成果
本研究はアジアの寄生虫症制圧を念頭に置いた日本・米国・アジアの三極共同研究推進が目的の一つであり,いくつかの研究課題において有効な共同研究が実施された。東南アジアの三日熱マラリアのワクチン開発,赤痢アメーバの地理分布と分子多型の関係など得られた情報は国際寄生虫感染症制圧に活用される一方で,日米のみならず、東南アジアの研究者との連携強化を推進し,わが国の輸入感染症防疫においての対応強化に資することが期待される。
その他のインパクト
本研究で実施された小麦胚芽を用いた無細胞系タンパク合成システムはあらゆるコドン使用系にも対応が可能と思われ,寄生虫のみならず,多くの生物系の組替えタンパク合成に活用できる有核細胞のタンパク合成系であることが確認された。国内外より多くの注目が寄せられ,本研究班による米国側研究者との共同セミナーでも多くの関心が寄せられた。

発表件数

原著論文(和文)
47件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
57件
学会発表(国際学会等)
32件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-