リステリアの食品内成分による影響とその制御に関する研究

文献情報

文献番号
199700161A
報告書区分
総括
研究課題名
リステリアの食品内成分による影響とその制御に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 由美子(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 牧野壮一(帯広畜産大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
リステリア症の主要な感染経路はリステリア(Listeria monocytogenes)による汚染食品の摂取であると思われるが、本菌が自然界に広く分布しているため特に動物性食品の一次汚染の防止は困難である。一方本菌が高食塩濃度や低温などの食品中の環境要因に強い耐性能を持つことから保存中の食品内での増殖は容易であるが、それらの要因に対する本菌の耐性機構はほとんど明らかにされていない。本研究は食品内の高食塩濃度に対する本菌の耐性機構を調べることで、食品内での本菌の増殖を妨げうるような条件の設定のための基礎データとし、食品媒介リステリア症の発生防止に役立てることを目的として行った。
研究方法
[高食塩濃度感受性の遺伝子挿入変異株の解析]平成8年度厚生科学特別研究で作成した高食塩濃度感受性株の遺伝子挿入部位周辺のDNAを広範囲に解析するため、その 領域を含むと思われる7kbのDNAを切り出し、大腸菌にクローニングしてFITC化プライマー及びオートシークエンサーを用いて塩基配列解読を行った。得られた配列はデータベースを用いて相同性検索を行った。また、変異株と高食塩濃度の関係を明らかにするため、食塩添加及び無添加の条件下での増殖曲線を24時間に渡り、1~2時間毎の菌数計測により作成した。更に挿入部位の遺伝子を標識し、食塩添加及び無添加条件下でのリステリアのRNAを抽出し、膜上に固着したものと結合させて遺伝子転写産物(mRNA)の発現量の違いを見るノーザンハイブリダイゼーションを行った。[ディファレンシャルディスプレイ法の検討]ある条件下で特異的に発現する遺伝子の検出法としてこの数年盛んに行われているディファレンシャルディスプレイ法(DD法)を本研究に応用するため、条件の検討を行った。16種類のプライマーの組み合わせから本菌のmRNAの増幅に最も有用なものをRNA-PCRを行って選定し、それを用いて高食塩濃度下での発現量の多い遺伝子の検出に用いた。 
結果と考察
[高食塩濃度感受性の遺伝子挿入変異株の解析]平成8年度厚生科学特別研究で作成した耐塩性低下株のDNAの挿入部位周辺の塩基配列解読を継続して行った。現在までに約1500塩基の解読が終了し、その前後に各500塩基の未解読部分があると思われ現在も継続中である。これまでの結果より、大腸菌の緊縮調節に関与しているrelA及びspoT、連鎖球菌のrel等とアミノ酸レベルでの非常に高い相同性が見られ、中でも同じグラム陽性菌である連鎖球菌のrel遺伝子と共通に保存されている個所が見られた。また、本変異株について高食塩濃度との関連を明らかにするために、通常の培地及び3%食塩添加培地においてその増殖を24時間追跡し、元株と比較を行ったところ、本変異株が高食塩濃度下で著しく増殖が抑制される一方で、通常の培地においてもやや増殖能の低下が見られることが示された。これらの結果より挿入部位の遺伝子は大腸菌におけるspoTと同等のものである可能性が高いと思われた。更に挿入部位の遺伝子をPCR法により増幅したものを標識し、食塩5%添加及び無添加のリステリアから分離した遺伝子転写産物を固着させた膜上で結合させることによりその遺伝子の発現量を比較するノーザンハイブリダイゼーションを行ったところ、本遺伝子の発現量は食塩の有無にほとんど影響されないことが示された。[ディファレンシャルディスプレイ法の検討]対数増殖期の本菌20mlよりRNAを抽出し、DNAの混入を防ぐためにDNase処理をした後逆転写酵素と4種類の上流プライマーを用いてcDNAを合成した。更にそれをもとにPCRを、各上流プライマーに対し4種の下流プライマーを用いて行った。その産物を変性アクリルアミドゲルを用いて電気泳動し、銀染色を行って観察した。その結果、上流Ea4,下流Es
4及びEs7のプライマーの組み合わせで高食塩濃度下で特異的に発現する遺伝子の検出に利用可能な複数の増幅産物が得られた。現在は5%食塩添加条件下で特異的に発現する遺伝子の検出、解析をこの方法により行っている。リステリアは野生動物や家畜の腸管内、水等自然界に広く分布しており、フレッシュチーズ、生肉、魚介類の薫製などのさまざまな食品から分離が報告され、特に動物性食品の一次汚染を防ぐことは困難であると思われる。そのため、食品媒介リステリア症の発生を予防するには、原料の汚染を極力防止すると同時に食品内における本菌の増殖を防ぐことが大変重要である。しかし本菌は20%までの高食塩濃度耐性、0度でも増殖可能な低温増殖能、また、菌株によっては乳酸菌等で産生されるバクテリオシンという抗菌性物質への耐性を持つものもあり、保存中の食品内の増殖抑制は現在のところ大変困難である。本研究ではリステリアのもつ高食塩濃度等の食品内の要因に対応する遺伝子の解析を行うことで本菌の増殖を抑制するための保存条件設定の基礎データとすることを目的として行った。その結果、昨年度より継続して行った高食塩濃度感受性の遺伝子挿入変異株の変異部分はアミノ酸欠乏への応答遺伝子の一つと思われ、高食塩濃度耐性機能と直接の関連はないように思われたが、一方で現在ほとんど明らかにされていない本菌の環境変化への適応機構の一つである緊縮調節に関連した遺伝子が得られ、その解析を進めることで特にアミノ酸組成の変化するチーズ等の醗酵食品中における本菌の制御に役立てうると思われる。また、.ディファレンシャルディスプレイ法のための条件設定を行うことが出来たため、現在継続中の高食塩濃度下で特異的に発現する遺伝子の解析以外にも低温条件下、高温、化学物質への暴露等さまざまな要因に対する本菌の調節機構を調べることが出来るため、それらの情報から食品内における有効な本菌の増殖制御法の開発が可能になると思われる。
結論
一般的に食品内における微生物増殖抑制要因として用いられる食塩に対するリステリアの耐性機構について高食塩濃度感受性の遺伝子挿入変異株の解析と高食塩濃度下で特異的に発現する遺伝子を検出するディファレンシャルディスプレイ法の検討を行った。その結果、得られた高食塩濃度感受性株の遺伝子挿入部位の遺伝子はアミノ酸欠乏への応答遺伝子の一つであるspoTと同等のものである可能性が高いことが示された。その遺伝子とディファレンシャルディスプレイ法で得られる高食塩濃度耐性に関連した遺伝子の解析を行うことで本菌の食品内増殖の制御を可能にする食品保存条件の設定に役立てうる可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)