冠動脈疾患におけるインターベンション治療の適応と限界に関する研究(特に高齢者における予後、QOLおよびコストベネフィット)

文献情報

文献番号
199700160A
報告書区分
総括
研究課題名
冠動脈疾患におけるインターベンション治療の適応と限界に関する研究(特に高齢者における予後、QOLおよびコストベネフィット)
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
石田 義裕(国立明石病院循環器科)
研究分担者(所属機関)
  • 矢坂義則
  • 黒田祐一(公立豊岡病院循環器科)
  • 山川英之(県立柏原病院循環器科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年冠動脈疾患の治療に経皮的冠動脈形成術は世界的に普及し、本邦においても年間約5万例施行されている。さらにステントなど新しい治療器具が導入され、ますます冠動脈インターベンションの件数は増加している。しかし、30ー40%の再狭窄率や急性冠閉塞などの問題は解決されておらず高額な医療コストも問題となっている。高齢化社会を迎え、高齢冠動脈疾患患者は増加しているが、その治療戦略については明らかではない。一方我が国では狭窄病変に対しインターベンション治療を当然とする傾向にあり、患者の年齢や社会背景、長期予後とQOLなどをふまえてインターベンションの適応が論じられることは少ない。そこで冠動脈疾患特に高齢者における冠動脈インターベンションの適応と限界を明らかにするために、予後とQOLからみた薬物治療や冠動脈大動脈バイパス術との比較を他施設との共同研究で施行する。またこれらの治療戦略におけるコストベネフィットについても検討する。
研究方法
狭心症の診断にて冠動脈造影を施行した高齢者(70歳以上)の治療選択に際し、薬物治療群、インターベンション群、CABG(冠動脈大動脈バイパス術)群の3群にわけ、冠動脈病変の重症度、左心機能、合併症別に予後(心事故発生など)、QOL(萱場らの方法による評価)および医療コストを3年間追跡調査する。冠動脈病変部評価はコンピューター画像処理を用いて冠動脈造影の解析を行う。心筋虚血および心機能評価は心臓核医学検査と心エコーを用いて行う。
結果と考察
本研究は上記3施設(国立明石病院循環器科、公立豊岡病院循環器科、県立柏原病院循環器科)において添付した調査用紙にもとずいて、患者登録を行った。狭心症の診断にて冠動脈造影を施行した70歳以上の高齢者20例を本研究にエントリーした。冠動脈病変枝別には 薬物治療群 8例)(1枝病変2例、2枝病変4例、3枝病変2例)インターベンション群(8例)(1枝病変4例、2枝病変4例)CABG群(4例)(3枝病変2例、左冠動脈主幹部(LMT)病変2例)であった。左室駆出率(%)は薬物治療群48%、インターベンション群46%、CABG群43%と3群に差を認めなかった。左室駆出率40%以下の低左心機能例は薬物治療群1例、CABG群1例であった。合併症は高血圧、糖尿病、心筋梗塞、高脂血症において3群に差を認めなかった。QOLは薬物治療群(エントリー時 -4、6カ月後 -2)、インターベンション群(エントリー時 -7、6カ月後 -3)、 CABG群(エントリー時 -10、6カ月後 -2)であった。インターベンション群は従来の Balloon Angioplastyに加え、必要に応じてステント留置術を追加し全例良好な拡張を得た(インターベンション施行時の入院コストは平均185598点)。CABG群は(LMT病変2名、重症3枝病変2名)でいずれの症例も術後経過は良好でバイパスグラフトはすべて開存していた(CABG時の入院コストは平均32225点)。外来での月平均医療コストは薬物治療群1550点、インターベンション群2150点、CABG群1050点であった。インターベンション群で外来での月平均医療コストが高くなった理由としてインターベンション後約6カ月間は再狭窄予防のために投薬量が比較的多い点が挙げられる。CABG群はLMT病変、重症3枝病変などの重症患者であるが、術後は心筋虚血が解除され投薬量も減少し外来での月平均医療コストも1050点と他群に比し低下し、QOLも著明に改善した(-10→-2)。エントリー後6カ月では薬物治療群、CABG群共にcardiovascular eventは認められなかったが、インターベンション群では1例でステント再狭窄による狭心症の悪化で入院し、再度インターベンションを受
けた。
結論
CABG群はLMT病変、重症3枝病変などの重症患者であるが、術後は心筋虚血が解除されQOLの改善と投薬量の減少による医療コストの削減が期待される。インターベンション群は術後QOLの改善は認められるが、再狭窄予防のために投薬による医療コストが高い点や再度インターベンションが必要な症例がある点が問題である。薬物治療群は冠動脈病変枝数、左室駆出率、合併症にインターベンション群と差はないが、胸痛等の症状は軽度でエントリー時のQOL障害も-4とインターベンション群-7に比し軽度であった。このようなバイアスがあるが、薬物治療群において6カ月後QOLの改善が認められ、cardiovascular eventも認められなかった。また薬物治療群の外来での月平均医療コストはCABG群とインターベンション群の中間であった。高齢者冠動脈疾患の治療戦略において、冠動脈病変の重症度のみならず予後、QOLおよびコストベネフィットを考慮して薬物治療、インターベンション、CABGを選択すべきである。

公開日・更新日

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