ソーシャル・インクルージョンの諸アプローチとその効果及び国内施策への適用可能性についての研究

文献情報

文献番号
200601031A
報告書区分
総括
研究課題名
ソーシャル・インクルージョンの諸アプローチとその効果及び国内施策への適用可能性についての研究
課題番号
H17-政策-一般-024
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
宮本 太郎(北海道大学公共政策学連携研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 芝田 文男(北海道大学公共政策学連携研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
3,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 ソーシャル・インクルージョン政策をめぐる諸外国の事例とわが国の動向についての基本的認識を形成した初年度の成果をふまえ、欧州の政策事例についてとくにそのパフォーマンスに関する比較検討をすすめる。併せて、「ソーシャル・インクルージョンのためのナショナル・プラン」形成に向けたEU委員会のイニシアティブが、各国のソーシャル・インクルージョン政策にいかなる影響をもたらしているかを分析する。また、わが国におけるソーシャル・インクルージョン政策の展開を、その先進事例にとどまらず、全国的にとらえて外国の事例とつきあわせてその課題を明らかにする。
研究方法
 各国のソーシャル・インクルージョン政策の特質(支援プログラムの内容やペナルティの強度など)ごとに、利用可能なデータに基づき、その政策効果について比較をおこなう。また、欧州におけるソーシャル・インクルージョン政策の一つのモデルとされてきたスウェ―デンの動向について包括的な現地調査をおこなう。さらに、わが国における政策展開に関しては、ハローワークと福祉事務所を対象として生活保護自立支援プログラムについての全国規模でのアンケート調査をおこない、プログラムの進捗状況や直面する課題について明らかにする。
結果と考察
 ハローワーク、福祉事務所を対象としたアンケート調査によれば、ナビゲーターの導入を中心とした支援サービスが強化され、支援開始者に関しては4割以上が少なくともいったんは就労している。しかし、支援対象者は限定されており、サービスの範囲や就労拒否へのペナルティはまだ限定的である。支援対象者を拡大しプログラムの効果をあげていくためには、サービスやペナルティを対象者の属性ごとに強めるなど、欧州の諸経験を摂取した統合的アプローチが必要と考えられる。
結論
 イギリスにおけるようなワークフェア型の政策は短期間に扶助プログラムの受給者を減少させているものの、その後の離職率や未就労者の割合も高い。北欧型の就労支援型プログラムは、コストがかかる他、定型化された職業訓練と企業の技能ニーズとのズレが目立つ場合がある。イタリアなどアソシエーションを主体としたアプローチには個々のグループごとでパフォーマンスの相違があまりに顕著である。日本の政策の現状はワークフェア型と支援型の分岐点にある。

公開日・更新日

公開日
2007-04-16
更新日
-

文献情報

文献番号
200601031B
報告書区分
総合
研究課題名
ソーシャル・インクルージョンの諸アプローチとその効果及び国内施策への適用可能性についての研究
課題番号
H17-政策-一般-024
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
宮本 太郎(北海道大学公共政策学連携研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 芝田 文男(北海道大学公共政策学連携研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
格差問題などへの能動的な対処方法としてソーシャル・インクルージョン政策が注目され、生活保護自立支援プログラムの実施に見られるように日本でもその導入が図られている。しかしながら、同政策には欧州各国でも多様なアプローチがあり、いずれの方法に依拠するかで今後の政策デザインは大きく異なってくる。本研究は、同政策の異なったアプローチを比較検討し、また日本における先進政策事例や生活保護自立支援プログラムの実施状況とも照らし合わせて、今後の指針を探ろうとするものである。
研究方法
 利用可能なデータからワークフェア型、北欧型、大陸欧州型の各アプローチの政策デザインとその効果について比較検討をおこない、とくに北欧型については現地調査をおこなう。またEUにおける「ソーシャル・インクルージョンのためのナショナルプラン」へのイニシアティブについても分析する。日本における展開については、実務家、研究者によるシンポジウム、ワークショップをおこない意見を集約する。また生活保護自立支援プログラムの実施状況については全国規模でのアンケート調査をおこなう。
結果と考察
 日本におけるソーシャル・インクルージョン政策は、その導入段階を経て、プログラム対象者の拡大やナビゲーションの本格化など、より踏み込んだ政策設計が求められる局面にある。他方で欧州では、各国における異なったアプローチの経験をふまえて、その長所を組み合わせるべく総合モデルとでもいうべきものが模索され、2000年以降はそのガイドライン化もおこなわれている。相互の政策学習を経たこの総合モデルのあり方は、わが国の今後の政策展開のためにも参照されるべきである。
結論
 総合モデルを目指すEUの政策ガイドラインでは、プログラムの対象を大きく広げてエクスクルージョンのリスクを予防するという「普遍化」、複数の政策領域が連携しながら目的を追求するという「ストリームライン化」、多様な民間団体の活用による「多元化」が目指されている。日本における展開では、「多元化」はすでに着手されつつあるが、インクルージョンの理念に基づき運用されている政策領域や対象となるケースはまだ限定されている。「ストリームライン化」や「普遍化」が今後の大きな課題となろう。

公開日・更新日

公開日
2007-04-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2007-10-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200601031C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ソーシャル・インクルージョン政策の意義を戦後福祉国家体制の歴史的展開のなかで位置づけ、欧州の先進事例を収集した。その上で同政策の異なったアプローチを整理し、ワークフェア型、北欧型、大陸欧州型それぞれの特質と効果について考察をおこなった。また、EUのリスボンプロセスにおいては異なったアプローチの特質をふまえた統合型のガイドラインが形成されつつあることに注目し、その方向を分析した。
臨床的観点からの成果
日本におけるソーシャル・インクルージョン政策の端緒的展開ともいうべき生活保護自立支援プログラムの実施状況について全国のハローワーク、福祉事務所を対象としたアンケート調査をおこない、就労支援の具体的展開やその効果、今後の課題について考察し、いくつかの提言をおこなった。また国、自治体の実務担当者を招いたシンポジウムで意見の集約や経験の交流をすすめた。
ガイドライン等の開発
 ソーシャル・インクルージョン政策の歴史的な意義とそのオプションについて整理をおこない(宮本「ポスト福祉国家のガバナンス」『思想』983号等)、さらに欧州を中心とした政策事例が示す指針を整理し(宮本「ソーシャル・アクティベーション」『NIRA政策研究』第18巻第4号等)、さらに生活保護自立支援プログラムの今後の方向性についての提言をおこなった(芝田「ハローワークとの連携による生活保護受給者の自立支援プログラムの状況と課題」『年報公共政策学』第一巻)。
その他行政的観点からの成果
「ハローワークとの連携による生活保護受給者の自立支援プログラムの状況と課題」は、厚生労働省保護課及び就労支援室の協力を得て2005年の当該事業の実施状況と課題について全国調査を行いその効果と問題点を分析する資料となった。また2005年1月17日に北大で日本のソーシャル・インクルージョン政策をめぐるワークショップを開催し、厚生労働省保護課、札幌市保護指導課、札幌東ハローワーク担当者の参加のもと、同事業の課題について論議を深めた。
その他のインパクト
平成18年3月には北欧のソーシャル・インクルージョン政策の新展開についての公開シンポジウムをデンマーク、スウェーデンの専門家を招いて開催した。同じく平成18年3月には行政担当者を中心に、また平成19年3月には研究者を招いて生活保護自立支援プログラムの実施状況についてのワークショップを開催した。マスコミでは、研究代表者が『週刊エコノミスト』誌(平成17年12月)や『月刊論座』誌(平成18年11月号、平成19年5月号)にソーシャル・インクルージョン政策の意義についての論考を執筆した。

発表件数

原著論文(和文)
10件
厚生労働科研の補助明記の論文は現在のところ2件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
「脱二極化の構想と社会的包摂」(日本家政学会生活経営部会、平成18年8月22日)
学会発表(国際学会等)
1件
November 24, 2006, Korea Development Institute, Seoul, KOREA
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
一般誌への執筆活動

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
芝田文男
ハローワークとの連携による生活保護受給者の自立支援プログラムの状況と課題
年報公共政策学 , 1 (1) , 58-78  (2007)
原著論文2
芝田文男
雇用対策と社会扶助の協働政策の有効性を実感 スウェーデン政権交代と労働市場政策への影響
週刊社会保障 , 60 (2411) , 60-61  (2006)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
-