医療用ゴム製品等に対するアナフィラキシー反応の調査と予防に関する研究

文献情報

文献番号
199700158A
報告書区分
総括
研究課題名
医療用ゴム製品等に対するアナフィラキシー反応の調査と予防に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
赤澤 晃(国立小児病院小児医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 矢部恵子(東京慈恵会医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ラテックス(latex)は、天然ゴム製品の原料でありゴムの木から採取される樹液である。天然ゴム製品は一般日用品を始め医療分野でもゴム手袋、尿道カテーテル、マスク、テープ等あらゆるものに使用されている。これまでゴム手袋等による接触性皮膚炎は遅延型(?型)アレルギー反応であり報告されていたが、近年問題となっているのはラテックス中に含まれる蛋白質に対するラテックス特異IgE抗体が関与する即時型(?型)アレルギー反応であり、ラテックスに感作された患者では、特に手術時、歯科処置時にラテックス製手袋の使用、接触によってアナフィラキシーショック、蕁麻疹、呼吸困難を起こすことがある。こうした患者は、医療従事者、二分脊椎症患者に多いことが欧米で報告されており、日本でも報告されるようになってきた。今後国内での患者数増加を予防するために、ラテックス中に含まれる原因蛋白質の同定、ラテックスアレルギーの診断方法、予防方法の確立が必要である。
研究方法
(1)医療従事者におけるラテックスアレルギーの頻度調査:
医療従事者として、市立総合病院の医療従事者652名の職員健康診断時に、ラテックス特異IgE抗体の測定をおこなった。
(2)二分脊椎症患者でのラテックスアレルギーのアンケート調査:
全国二分脊椎症児者を守る会の会報にアンケート用紙を添付して、1500名に配布し、返信用はがきで回答を回収した。
(3)ラテックスアレルゲンと食物アレルゲンの交又抗原性に関する検討:
患者血清
患者は6歳0カ月男児、二分脊椎症があり、生後よりラテックス製カテーテルで導尿を続けている。ラテックス製ゴム手袋で接触蕁麻疹、点滴ルートでアナフィラキシーショックの既往がある。
抗原液の作製
アボガド、クリは重量の3倍のCoca液を加えすりつぶした。キウィフルーツは果肉をすりつぶし果汁とした。蛋白濃度を1mg/mlに調整したものを抗原液とした。ラテックスはC - serumを0.45?mのミリポアフィルターを通し蛋白濃度定量後、蛋白濃度を1mg/mlに調整したものを抗原液とした。
Inhibition ELISA assay
10倍に希釈した抗原液でプレート(Coster #3590) のコーティングを行った後、ブロッキィングを行った。あらかじめ蛋白濃度を 0.2、2、20、200?g/ml に段階希釈した抗原液をinhibitorとし10倍希釈した同量の患児血清と4℃にて一晩反応させた吸収血清をプレートに加えincubationを行った。二次抗体としてペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgE抗体を用いincubationを行った後、発色させ450nmで吸光度を測定した。
Inhibition immunoblot
SDS-PAGEにより抗原液の蛋白分画を行い、ゲル上の蛋白をPVDF膜に転写し、転写したPVDF膜を3mm幅にカットしブロッキングを行った。
あらかじめ蛋白濃度を0.2, 2, 20, 200, 1000?g/ml に段階希釈した抗原液をinhibitorとし10倍希釈した同量の患児血清と一晩incubationを行った。二次抗体としてフォスファターゼ標識ヤギ抗ヒトIgE抗体を用いincubationを行った後、発色を行った。
(4)アレルギー疾患児におけるゼラチン特異IgE抗体の陽性頻度の検討:
国立小児病院アレルギー科外来受診中の喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーのいずれかを有する538名、平均4.3歳の患児を対象とした。
ゼラチン特異IgE抗体の測定は、牛ゼラチンをELISA(Enzyme linked immunosorbent assay) プレートに固相化し、患者血清を加えて、peroxidase labeled antihuman IgE antibodyを用いて検出し、発色させた。
結果と考察
(1)医療従事者におけるラテックスアレルギーの頻度調査: 652名中、4.3%にあたる28名がラテックス特異IgE抗体が陽性であった。
(2)二分脊椎症患者でのラテックスアレルギーのアンケート調査:
376名から回答があった。
15歳未満が230名、15歳以上が148名で、男性166名、女性210名。?これまでに『ラテックスアレルギー』という言葉を聞いたことがありますか?全くない84%、聞いたことはある11%、どんなものかだいたい知っている5%。?日常のゴム製品(手袋、ゴム風船)や医療用ゴム製品(手袋、カテーテル)で皮膚の痒み、発赤、腫れを経験したことがありますか? ない86%、ある13%。?上記?で『ある』と答えた方、どのような製品でそうなりましたか?家庭用ゴム手袋11名、ゴム風船12名、その他おもちゃ0名、医療用手袋7名、尿道カテーテル5名、その他7名。 ?現在医療用の手袋を毎日お使いですか?使っていない74%、使っている25%。?現在医療用の尿道カテーテルを毎日お使いですか?使っていない36%、使っている64%であった。
(3)ラテックスアレルゲンと食物アレルゲンの交又抗原性に関する検討:
ラテックスに対するIgE inhibition assay:
ELISA inhibition assayにおいて、inhibitorとしたラテックスは、50%以上のinhibition を示したが、アボガド、クリ、キウィフルーツは13から24%のinhibitionを示すにとどまった。ラテックス、アボガド、クリ、キウィフルーツをinhibitorとしてInhibition immunoblotを行ったところ、10KDのバンドはラテックスにおいてのみinhibitor濃度1,000?g/ml、200?g/ml で消失しinhibitionを示したが、他のinhibitorでは全ての濃度において消失せず、inhibitionを示さなかった。30KDのバンドはキウィフルーツにおいてのみ濃度依存的にinhibitionを示した。
アボガドに対するIgE inhibition assay:
ELISA inhibition assayにおいてinhibitorとしたラテックス、アボガド、クリは50%以上のinhibitionを示したが、キウィフルーツは弱いinhibitionを示すにとどまった。 これらのバンドはラテックス、アボガド、クリ、キウィフルーツをinhibitorとしたInhibition immunoblotにおいて、濃度依存的にinhibitionを示した。ELISA inhibition assayにおいて弱いinhibitionを示したキウィフルーツは1,000?g/mlの濃度のみでinhibitionを示した。
クリに対するIgE inhibition assay:
ELISA inhibition assayにおいてinhibitiorとしたラテックス、アボガド、クリは50%以上のinhibitionを示した。キウィフルーツは48%のinhibitionを示した。
Immunoblotにおいては28、45、70KDに鮮明なバンドが、20KDに弱いバンドが見られた。28、45、70KDのバンドはラテックス、アボガド、クリ、キウィフルーツをinhibitorとしたInhibition immunoblotにおいて、濃度依存的にinhibitionを示した。
キウィフルーツに対するIgE inhibition assay:
ELISA inhibition assayにおいてinhibitorとしてもちいたアボガド、クリ、キウィフルーツは50%以上のinhibitionを示したが、ラテックスはinhibitionを示さなかった。Immunoblotにおいては35、38KDに鮮明なバンドが18、28KDに弱いバンドが見られた。このうち28、 35、 38KDのバンドはアボカド、クリ、キウィフルーツをinhibitorとしたInhibition immunoblot において、濃度依存的にinhibitionを示したが、ラテックスではinhibitionは示さなかった。
(4)アレルギー疾患児におけるゼラチン特異IgE抗体の陽性頻度の検討:
3.0%の患児でゼラチン特異IgE抗体が陽性であった。
欧米で医療従事者のラテックスアレルギーが増加した背景には、エイズ等の感染症予防策としてラテックス製手袋の使用機会が増えたことが指摘されている。日本国内では、医療従事者の手袋の使用頻度は低く、医療従事者の中でも手術室従事者、外科医等に限られている。しかし、国内でもラテックスアレルギーの症例が報告されるようになってきた。これら患者は、欧米でいわれているハイリスクグループである医療従事者、二分脊椎症患者だけではなく、小児の重症食物アレルギー患者、頻回に手術や医療処置を繰り返している患者に多いことがわかってきた。今年度、医療従事者のラテックス特異IgE抗体陽性率を検討し、4.3%と決して少なくない頻度であり、また二分脊椎症患者でもアナフィラキシーショック等の重篤な症状を呈する患者は少ないものの、ラテックス製医療用具、日用品で症状を呈するものが13%いたという事実がわかった。これらの患者血清中のラテックス特異IgE抗体は、ある種の食物抗原と交又抗原性を示すことがわかった。
結論
国内でのラテックス特異IgE抗体陽性頻度が高いことから、今後患者が増えるものと考えられ、その対応策、特に感作されてしまった患者の医療処置を受ける際の注意等の指導方法、予防方法が必要である。

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