医療費分析による保健医療の効率評価に関する実証研究

文献情報

文献番号
200601010A
報告書区分
総括
研究課題名
医療費分析による保健医療の効率評価に関する実証研究
課題番号
H16-政策-一般-023
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
辻 一郎(東北大学大学院医学系研究科社会医学講座公衆衛生学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
8,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
予防を基調とする保健医療システムの構築に向けて、そのエビデンスを示すことを目的として、生活習慣・健康づくり・歯科口腔状態が医療費に及ぼす影響を分析した。
研究方法
1) 大崎国保コホート研究:宮城県大崎保健所管内の40歳から79歳の国保加入者全員に平成6年秋に生活習慣アンケート調査を行った。有効回答者52,029人(対象の95%)について、医療費、死亡・転出を追跡している。本年度は、医療費総額のうちどの程度が喫煙・肥満・運動不足によるものであるか(過剰医療費割合)を解析した。
2) 福島県西会津町の健康づくり施策の効果評価:喫煙対策と高齢者の運動事業について、地域ぐるみで包括的な介入プログラムを実施して、その効果を評価した。
3) 残存歯数と医科医療費との関連に関する研究:宮城県内の歯科保険医療機関に対して、で平成17年5月に受診した50歳以上の国保加入者の残存歯数をレセプトに記入するよう依頼した。その情報が得られた31,548人(対象の44%)について、残存歯数と同月の医科医療費との関連を分析した。
4) 倫理上の配慮:上記の研究全てが東北大学医学部倫理委員会で承認されている。
結果と考察
1) 大崎国保コホート研究:喫煙による過剰医療費割合は、男性で7.4%、女性で1.2%であった。肥満では、男性2.4%、女性2.5%であった。運動不足では、男性9.0%、女性5.5%であった。リスクどうしの重複を考慮すると、この集団の医療費総額のうち13.4%が喫煙・肥満・運動不足によるものであった。
2) 福島県西会津町の健康づくり施策の効果評価:町全体での分煙化の進展、禁煙に対する関心の高まりを背景として、禁煙者が増えた。研修を受けた一般住民が高齢者に運動訓練を行う事業により、高齢者の運動機能や生活の質が有意に改善した。
3) 残存歯数と医科医療費との関連に関する研究:年齢・性・喫煙状況を調整した平均医科医療費は、残存歯数が0?4本、5?9本の群で20本以上の群よりも有意に高かった。医療費の差は、新生物、精神及び行動の障害、呼吸器系の疾患、消化器系の疾患で顕著であった。
結論
1次予防への投資を増やして疾病予防・健康増進の取り組みを強めることが、国民の健康増進と生活の質の改善、持続可能な社会保障システムの構築にとって重要である。

公開日・更新日

公開日
2007-04-06
更新日
-

文献情報

文献番号
200601010B
報告書区分
総合
研究課題名
医療費分析による保健医療の効率評価に関する実証研究
課題番号
H16-政策-一般-023
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
辻 一郎(東北大学大学院医学系研究科社会医学講座公衆衛生学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
予防を基調とする保健医療が医療経済に及ぼす効果を実証的に示すこと。その根拠に基づいて保健医療のあり方を提言すること。
研究方法
1)大崎国保コホート研究:宮城県大崎保健所管内の40歳から79歳の国保加入者全員に平成6年秋に生活習慣アンケート調査を行った。有効回答者52,029人(対象の95%)の医療費や死亡・転出を追跡している。循環器疾患リスク(高血圧・高血糖・肥満)や生活習慣(喫煙・肥満・運動不足)が医療費に及ぼす影響を解析した。
2)福島県西会津町の事例検討:町ぐるみで健康づくりを展開している同町について、その効果を検証した。
3) レセプト情報を活用した医療費分析:国保レセプトを用いて、糖尿病合併症の医療費に対する影響、統合失調症医療費の市町村格差の要因などを解析した。
4)倫理上の配慮:上記の研究全てが所属施設の倫理委員会で承認されている。
結果と考察
1)大崎国保コホート研究:高血圧・高血糖・肥満のいずれも該当しない者に比べて、3つ全て該当する者の医療費は約2倍であった。喫煙・肥満・運動不足のいずれも該当しない者に比べて、3つとも該当する者の医療費は43.7%増加した。総医療費の13.4%がこれら3つの生活習慣によるものであった。
2) 福島県西会津町の事例検討:西会津町では、町ぐるみで健康づくりを展開するなかで、栄養や運動習慣で大きな改善があり、この10年間で脳卒中既往歴の頻度が半減した。
3)レセプト情報を活用した医療費分析:糖尿病患者の医療費は、循環器疾患の合併で1.93倍、腎症の合併で1.74倍、網膜症の合併で1.68倍に増加した。統合失調症医療費の市町村格差の最大要因は入院割合であり、それが10%減少すれば同医療費が22.9%減少することが示唆された。
4)保健医療のあり方に関する提言:「医療制度改革のあり方に関する提言-予防を基調とする保健医療システムをめざして-」を発表した。そのなかで、 (1) 保険者が主体となって生活習慣病予防事業を実施すること、(2) 医療保険を通じて予防に向けたインセンティブを導入すること、(3) 医療保険に予防給付を導入することの必要性を強調した。
結論
生活習慣病の予防・管理は医療費に多大な影響を及ぼしている。予防を基調とする保健医療システムを構築することが、国民の健康増進と生活の質の改善、そして持続可能な社会保障システムに貢献するものと思われる。

公開日・更新日

公開日
2007-04-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200601010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
生活習慣などと医療費との関連に関する研究は広く行われているが、本研究(大崎国保加入者コホート研究)は、5万人という規模と12年間(現在も継続中)という調査期間、ベースライン調査データの総合性と妥当性・信頼性、医療費データの悉皆性という、いずれの点においても他の追随を許さないものであり、国内外から注目されている。その結果、評価の高い国際医学雑誌に論文を多数掲載した。
臨床的観点からの成果
本研究により、慢性疾患の適切な管理治療(糖尿病の合併症予防、統合失調症患者に対する外来治療の推進など)が医療経済に及ぼす影響を定量的に示すことができた。このような実証データは、今後の臨床治療とくに疾患管理のあり方に大きな影響を及ぼすものと思われる。
ガイドライン等の開発
本研究では「医療制度改革のあり方に関する提言-予防を基調とする保健医療システムをめざして-」とする提言をまとめた。
その他行政的観点からの成果
本研究の提言「医療制度改革のあり方に関する提言-予防を基調とする保健医療システムをめざして-」は、平成18年4月頃にマスコミで多数報道され、医療制度改革(予防の重視、特定健診・特定保健指導の保険者に対する義務付けなど)の方向性を示すものとして、政策立案や国会論議などで広く活用された。
その他のインパクト
上記のように、本研究の提言「医療制度改革のあり方に関する提言-予防を基調とする保健医療システムをめざして-」や本研究の成果(例:喫煙・肥満・運動不足で医療費は4割増)はマスコミで多数報道された。本研究の成果および専門誌に掲載された論文の要旨と一般向けの解説については、東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野のホームページ(http://www.pbhealth.med.tohoku.ac.jp)に公開している。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
辻は、厚生労働省「保険者による健診・保健指導の円滑な実施方策に関する検討会」座長や内閣府「新健康フロンティア戦略」を努めた際に、本研究事業の成果に基づいた政策提言を行った。
その他成果(普及・啓発活動)
1件
東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野HP(http://www.pbhealth.med.tohoku.ac.jp)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kuriyama S, Hozawa A, Tsuji I, et al.
Joint impact of health risks on health care charges:7-year follow-up of National Health Insurance beneficiaries in Japan (the Ohsaki Study).
Preventive Medicine , 39 , 1194-1199  (2004)
原著論文2
Anzai Y, Kuriyama S,Tsuji I, et al.
Impact of alcohol consumption upon medical care utilization and costs in men: 4-year observation of National Health Insurance beneficiaries in Japan.
Addiction , 100 , 19-27  (2005)
原著論文3
Ohmori K, Kuriyama S, Tsuji I, et al.
Modifiable factors for the length of life with disability before death: mortality retrospective study in Japan.
Gerontology , 51 , 186-191  (2005)
原著論文4
鈴木寿則,坪野吉孝,辻 一郎、他.
レセプト全傷病登録による糖尿病の合併症の医療費分析.
日本公衆衛生雑誌 , 52 (7) , 652-663  (2005)
原著論文5
Hozawa A, Shimazu T, Tsuji I, et al.
Benefit of home blood pressure measurement after a finding of high blood pressure at community screening.
Journal of Hypertension , 24 (7) , 1265-1271  (2006)
原著論文6
栗山進一,島津太一,辻 一郎、他.
適正減量を目指した糖尿病予防の個別健康教育における強力介入群と通常介入群の比較.
日本公衆衛生雑誌 , 53 (2) , 122-132  (2006)
原著論文7
Ohmori-Matsuda K, Kuriyama S,Tsuji I, et al.
The joint impact of cardiovascular risk factors upon medical costs.
Preventive Medicine(印刷中)  (2007)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
-