日本の社会保障制度における社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)効果の研究

文献情報

文献番号
200601001A
報告書区分
総括
研究課題名
日本の社会保障制度における社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)効果の研究
課題番号
H16-政策-一般-013
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 彩(国立社会保障・人口問題研究所国際関係部)
研究分担者(所属機関)
  • 大石亜希子(千葉大学 法経学部)
  • 後藤玲子(立命館大学 先端総合学術研究科)
  • 西村幸満(国立社会保障・人口問題研究所社会保障応用分析研究部)
  • 菊地英明(国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
5,040,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、日本における社会的包摂(排除)の事象を計量的に把握し、その指標を構築することである。
研究方法
平成18年度は、①平成17、18年度に行われた『社会生活に関する実態調査』の分析、②『所得再分配調査』などを用いた貧困・所得格差の研究、および、③『母子世帯の生活の変化調査』の実施と分析、ホームレスの包摂過程の分析が行われた。
結果と考察
社会的排除のリスクが高いグループとして、男性、50歳代、単身男性、仕事がない人々(主婦と退職者を除く)、男性の非正規就業者が確認された。また、ライフコースにおける様々な過去の不利(解雇経験、離婚経験、病気・怪我の経験など)が、現在の社会的排除に結びつく可能性が高く、特に、成育環境(15歳時の経済状況や家族構成)という極めて人生の初期の段階における不利も現在の社会的排除に影響していることがわかった。さらに、低所得は、社会的排除のメルクマールとしては機能しないが、就業形態と社会的排除(政治参加や社会関係)の関係は深いことなどの知見がえられた。
第二に、税や社会保障制度の再分配効果は、高齢層では高いものの、現役層では小幅にとどまっていること、とくに税の再分配効果は、高齢層で大幅に低下している上に、稼働所得の高い中年層でも低下していることなどが確認された。
第三に、母子世帯の母親の勤労所得は、雇用形態や勤続年数によって左右される部分が大きく、「母子世帯となってからの期間」による影響は、年数をおうごとに徐々に増加していくことは確認できたものの、これが説明する所得の変動部分は少ない。また、子どもにかかる支出の増加が家計を苦しくしている。
結論
社会的排除は、所得というmediumを通さずに、過去からの不利が蓄積された結果として起こりうる。それは、早くは、15歳時、高等教育に達する前から蓄積されている。このことは、現在の日本社会が、現政権がキャッチフレーズとする「再チャレンジ」ができる社会とは、ほど遠いことをしめしていよう。これら社会的排除の包括的な知見から具体的な政策提言を導き出すのは難しいが、母子世帯など、具体的な被排除者に対する政策については以下の考察が得られた。母子世帯の母親の勤労所得を引き上げるためには、パートから正社員に変更するなど雇用形態を改善する必要があり、それをなくしては勤労所得の上昇は望めない。

公開日・更新日

公開日
2007-04-02
更新日
-

文献情報

文献番号
200601001B
報告書区分
総合
研究課題名
日本の社会保障制度における社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)効果の研究
課題番号
H16-政策-一般-013
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 彩(国立社会保障・人口問題研究所国際関係部)
研究分担者(所属機関)
  • 大石亜希子(千葉大学法経学部)
  • 後藤玲子(立命館大学)
  • 西村幸満(国立社会保障・人口問題研究所社会保障応用分析研究部)
  • 菊地英明(国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、日本の実状に合った「社会的排除・包摂」の概念を確立し、それを定量的に表す指標を作成・計測することである。
研究方法
国内外における社会的排除概念の整理および既存調査のレビューを基に、大規模社会調査を実施し、社会的排除についての基礎的データの蓄積およびその計量分析を行った。
結果と考察
第一に、社会的排除という、従来の所得ベースの貧困とは異なる事象が実際の日本の現代社会に存在し、計量可能な形で存在することである。3年間をかけて設計・実施された「社会生活に関する実態調査」は、改善の余地はあるものの、社会的排除を実際に計測したという点で本分野の研究の貴重な第一歩である。調査から浮き彫りにされた被排除者像は、必ずしも、ホームレス、母子世帯といった従来の弱者像と重なっておらず、新たな「被排除者」の発見となった。次に、ライフコースにおける様々な過去の不利が、現在の社会的排除に結びつく可能性が高い。過去の不利とは、解雇経験、離婚経験、病気・怪我の経験などであるが、成育環境(15歳時の経済状況や家族構成)という極めて人生の初期の段階における不利も現在の職業や低学歴のみならず、現在の社会的排除に影響している。また、低所得であることは、社会的排除のメルクマールとしては機能しないことや、就業形態と社会的排除(政治参加や社会関係)の関係が示唆された。
既存の格差(不平等)・貧困概念を用いた研究からは、格差拡大のかなりの部分が人口動態的・社会的要因によって説明され、またそれが年齢階層間の所得移転でかなり是正されているものの、高齢層内部あるいは同一世代内の格差是正や貧困削減に対して現行制度は十分に機能していないことがわかった。
被排除者の典型としての母子世帯を対象とする調査からは、母子世帯の経済状況は母子世帯となってからの期間がたつにつれて必ずしもよくなるとは限らず、社会保障制度からも労働市場からも取り残されている人々の存在が確認された。
結論
本研究によって、従来の貧困概念とは異なる被排除者の存在、また、母子世帯やホームレスなど特定の属性のグループの人々が制度的にも社会的にも包摂されにくくなっている状態であることが確認された。これらの人々を社会および制度に包摂するためには、幅広いセーフティネットがもちろんのこと、意図的な包摂政策が必要であることが示唆される。

公開日・更新日

公開日
2007-04-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200601001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
多くの諸外国にては測定されている社会的排除の現象を、日本の社会的背景にて捉え直した上で、その指標化を試みた。我が国においては初めてである社会的排除の測定を目標とする社会調査の設計・実施を行い計量分析を行った。また相対的剥奪・相対的貧困など様々な概念を用いて貧困の諸側面を計量的に分析し、所得や消費といった従来の貧困概念を拡充させた生活水準の計測方法および被排除者が特定された
臨床的観点からの成果
本研究は、経済学・社会学の手法をもちいた基礎研究であるため、臨床的な成果はない。
ガイドライン等の開発
諸外国およびEUなどの国際機関においてすでに行われている社会的排除指標の開発および計測を参考に、日本における社会的排除指標が開発され、その有効性が検証された。
その他行政的観点からの成果
本研究の成果は、生活保護制度基準など制度に直結するものではないものの、社会保障制度における負担のあり方を論ずる上での貴重な資料となる。母子世帯、ホームレスなどの被排除者については、具体的な政策提言がなされた。本研究の成果の一部は、厚生労働省の研究会で発表され、OECDのワーキングペーパーの基礎データとして提供され、活用されている。
その他のインパクト
本研究で行われた母子世帯に関する調査結果は、当事者団体主催による参議院院内集会にて発表された。また、社会的排除、相対的剥奪に関する研究結果は、社会政策学会などにて報告され多くの反響を得た。

発表件数

原著論文(和文)
13件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
阿部彩
日本における社会的排除指標の構築と計測の試み
日本ソーシャルインクルージョン推進会議編『ソーシャル・インクルージョン:格差社会の処方箋』中央法規出版会 , 203-224  (2007)
原著論文2
阿部彩
相対的剥奪の実態と分析:日本のマイクロデータを用いた実証研究
社会政策学会編『社会政策における福祉と就労(社会政策学会誌第16号)』法律文化社 ,  (16) , 251-275  (2006)
原著論文3
阿部彩
第5章 貧困の現状とその要因:1980?2000年代の貧困率上昇の要因分析
小塩隆士・田近栄治・府川哲夫編著『日本の所得分配:格差拡大と政策の役割』東京大学出版会 , 111-137  (2006)
原著論文4
阿部彩
日本における貧困の現状-06年OECD対日経済報告を読んで-
『世界の労働』日本ILO協会 , 56 (11) , 8-13  (2006)
原著論文5
阿部彩
日本における相対的剥奪指標と貧困の実証研究
国立社会保障・人口問題研究所ディスカッション・ペーパー ,  (7)  (2005)
原著論文6
稲田七海
生活保護受給者の地域生活と自立支援-釜ヶ崎におけるサポーティブハウスの取り組み-
『Shelter-less』 ,  (27) , 82-102  (2006)
原著論文7
稲田七海
定住地としての釜ヶ崎-「寄せ場」転換期における野宿生活者支援-
『人間文化論叢』 ,  (7) , 169-183  (2005)
原著論文8
大石亜希子
所得格差の動向とその問題点
貝塚啓明・財務省財務総合政策研究所編『経済格差の研究』中央経済社 , 19-36  (2006)
原著論文9
菊地英明
『社会的排除と包摂』とは何か―概念整理の試み
日本ソーシャルインクルージョン推進会議編『ソーシャル・インクルージョン:格差社会の処方箋』中央法規出版会 , 182-202  (2007)
原著論文10
菊地英明
ヨーロッパにおけるベーシック・インカム構想の展開
『海外社会保障研究』 ,  (157) , 4-15  (2006)
原著論文11
菊地英明・金子能宏
社会保障における住宅政策の位置づけ-福祉国家論からのアプローチ
『海外社会保障研究』 ,  (152) , 3-17  (2005)
原著論文12
後藤玲子
ミニマムの豊かさと就労インセンティブ―公的扶助制度再考―
貝塚啓明・財務省財務総合政策研究所編著『経済格差の研究』中央経済社 , 145-174  (2006)
原著論文13
後藤玲子
ミニマム生活保障と福祉国家
「現代福祉国家への新しい道――日本における総合戦略」研究委員会講演,連合総研 月刊レポートDIO ,  (205) , 7-15  (2006)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
-