文献情報
文献番号
199700154A
報告書区分
総括
研究課題名
医療用高磁場(MRI)のリンパ球・免疫機能への影響に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
松尾 秀徳(国立療養所川棚病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
磁場や電磁波が健康に及ぼす影響をめぐっては、欧米では、すでに、一般人を対象にした防護指針が検討されており、大規模な調査研究も進行している。日本でも、1997年1月に極低周波の電磁波をヒト末梢血リンパ球に照射したところ、リンパ球からのTNF-a産生が低下し、免疫機能が低下するとの実験結果が報道された。しかし磁場や電磁波の健康に与える影響について、現在まで十分な検討はなされていない。MRIをはじめとする医療機器は高磁場を発生させるので、磁場や電磁波が生体、とくに増殖細胞に及ぼす影響を検討することは重要である。本研究では、リンパ球のサイトカイン産生能と細胞増殖能を指標として、実際に稼働しているMRI装置が放出している電磁波および磁場のリンパ球機能への影響を検討した。
研究方法
(1)研究目的を説明し同意を得た、脳血管障害患者(免疫異常を認めず、免疫抑制剤を用いた治療を行っていない)及び健常者計8名の末梢血より、Ficoll比重遠沈法にて末梢血単核球を分離後、培養液中に入れ浮遊液を作成した。得られた末梢血単核球浮遊液を2群に分け、稼働しているMRI内(A群)と磁場のない室温条件下(B群)にそれぞれ3時間放置した。その後96穴マイクロタイタープレート上で(1x106個/ml)に調整し37度、5%CO2の条件下で培養した。培養条件は、刺激なし(対照)、PPD(精製ツベルクリン) 10mg /ml、PHA (フィトヘマグルチニン)10ml/ml とした。
(2)24時間後に培養上清中のIFN-g、 TNF-a及びIL-4をELISA法にて測定し、 72時間後に5-bromo-2'-deoxyuridine (BrdU)を用いたcell proliferation ELISAキットを用いて細胞増殖能を検討した。 それぞれの結果をA群とB群で比較検討した。
(3)磁場および電磁波が、分裂・増殖している細胞により強い影響を与える可能性を検討した。すなわち、末梢血単核球浮遊液をPPDまたはPHAで刺激し37度、5%CO2で3時間培養し、次にMRI内および磁場のない室温条件下に3時間放置した。その後37度、5%CO2の条件下で培養し、(2)と同様にサイトカイン産生能および細胞増殖能の検討を行った。
(2)24時間後に培養上清中のIFN-g、 TNF-a及びIL-4をELISA法にて測定し、 72時間後に5-bromo-2'-deoxyuridine (BrdU)を用いたcell proliferation ELISAキットを用いて細胞増殖能を検討した。 それぞれの結果をA群とB群で比較検討した。
(3)磁場および電磁波が、分裂・増殖している細胞により強い影響を与える可能性を検討した。すなわち、末梢血単核球浮遊液をPPDまたはPHAで刺激し37度、5%CO2で3時間培養し、次にMRI内および磁場のない室温条件下に3時間放置した。その後37度、5%CO2の条件下で培養し、(2)と同様にサイトカイン産生能および細胞増殖能の検討を行った。
結果と考察
1)培養24時間後培養上清中サイトカイン濃度
a) MRIの高磁場に曝露後リンパ球を刺激した場合(mean±SD、n=8)
(1)IFN-g(U/ml)、 A群:PPD刺激;2.60±1.59、PHA刺激;12.85±3.64、B群:PPD刺激;2.43±1.61、PHA刺激;11.68±3.31。
(2)TNF-a(pg/ml)、A群:PPD刺激;177.8±70.5、PHA刺激;70.8±89.2、B群:PPD刺激;153.9±30.3、PHA刺激;166.1±77.7。
(3)IL-4(pg/ml)、A群:PPD刺激;測定感度以下、PHA刺激;32.91±13.0、B群:PPD刺激; 測定感度以下、PHA刺激;37.47±15.9。
いずれもA群とB群の間に統計学的に有意差を認めなかった(Wilcoxonの符号付順位検定)。
b)リンパ球を刺激後MRIの高磁場に曝露した場合 (mean±SD、n=8)
(1)IFN-g(U/ml)、 A群:PPD刺激;0.86±0.65、PHA刺激;8.37±2.81、B群:PPD刺激;0.93±0.89、PHA刺激;8.61±3.14。
(2)TNF-a(pg/ml)、A群:PPD刺激;367.3±134.7、PHA刺激;976.9±173.4。B群:PPD刺激;372.3±121.1 、PHA刺激;934.9±152.4。
(3)IL-4(pg/ml)、A群:PPD刺激; 測定感度以下、PHA刺激;35.21±89.2、B群:PPD刺激; 測定感度以下、PHA刺激;35.04±11.64。
いずれもA群とB群の間に統計学的に有意差を認めなかった(Wilcoxonの符号付順位検定)。
2)培養72時間後細胞増殖能吸光度(mean±SD、n=8)
a)MRIの高磁場に曝露後リンパ球を刺激した場合 A群:対照;0.101±0.066、PPD刺激;0.196±0.154、PHA刺激;1.455±0.284。B群:対照;0.101±0.056、PPD刺激; 0.219±0.201、PHA刺激; 1.436±0.250。
いずれもA群とB群の間に統計学的に有意差を認めなかった(Wilcoxonの符号付順位検定)。
b)リンパ球を刺激後MRIの高磁場に曝露した場合 A群:PPD刺激;0.131±0.20、PHA刺激;0.340±0.061。B群:PPD刺激;0.130±0.017、PHA刺激;0.289±0.043。
PPD刺激では差がなかったが、PHA刺激によるリンパ球増殖能は、MRIによる高磁場環境への曝露で、軽度ではあるが、有意に抑制されていた(Wilcoxonの符号付順位検定、p<0.02)。
末梢血中のリンパ球は大部分が休止期にある。この休止期のリンパ球をMRI装置が発生する高磁場環境に置き、その後抗原や分裂誘因物質で刺激しても、サイトカイン産生能や細胞増殖能には影響は認めなかった。従ってMRI装置が発生する高磁場が、健常人の免疫能に影響を及ぼす可能性は極めて低いと考えられる。一方、分裂誘因物質で刺激しG1期に誘導したリンパ球で検討では、高磁場がサイトカイン産生能に対する影響は認めなかったが、細胞増殖能を抑制する可能性が示唆された。しかし、細胞増殖の抑制の程度は軽微であり、また、リコール抗原であるPPDでの刺激では抑制がみられないこと、サイトカイン産生能には差がないこと、一回のMRI撮影時間がほとんどの場合1時間以内であることなどを考慮すると、このことが人体の生殖能や免疫能に及ぼす影響はほとんどないものと推測される。しかし、妊婦や重症感染者に対し安易にMRI撮影を繰り返すことは避けるべきかもしれない。今後、長時間の高磁場曝露が細胞に及ぼす影響についても、検討する必要がある。
a) MRIの高磁場に曝露後リンパ球を刺激した場合(mean±SD、n=8)
(1)IFN-g(U/ml)、 A群:PPD刺激;2.60±1.59、PHA刺激;12.85±3.64、B群:PPD刺激;2.43±1.61、PHA刺激;11.68±3.31。
(2)TNF-a(pg/ml)、A群:PPD刺激;177.8±70.5、PHA刺激;70.8±89.2、B群:PPD刺激;153.9±30.3、PHA刺激;166.1±77.7。
(3)IL-4(pg/ml)、A群:PPD刺激;測定感度以下、PHA刺激;32.91±13.0、B群:PPD刺激; 測定感度以下、PHA刺激;37.47±15.9。
いずれもA群とB群の間に統計学的に有意差を認めなかった(Wilcoxonの符号付順位検定)。
b)リンパ球を刺激後MRIの高磁場に曝露した場合 (mean±SD、n=8)
(1)IFN-g(U/ml)、 A群:PPD刺激;0.86±0.65、PHA刺激;8.37±2.81、B群:PPD刺激;0.93±0.89、PHA刺激;8.61±3.14。
(2)TNF-a(pg/ml)、A群:PPD刺激;367.3±134.7、PHA刺激;976.9±173.4。B群:PPD刺激;372.3±121.1 、PHA刺激;934.9±152.4。
(3)IL-4(pg/ml)、A群:PPD刺激; 測定感度以下、PHA刺激;35.21±89.2、B群:PPD刺激; 測定感度以下、PHA刺激;35.04±11.64。
いずれもA群とB群の間に統計学的に有意差を認めなかった(Wilcoxonの符号付順位検定)。
2)培養72時間後細胞増殖能吸光度(mean±SD、n=8)
a)MRIの高磁場に曝露後リンパ球を刺激した場合 A群:対照;0.101±0.066、PPD刺激;0.196±0.154、PHA刺激;1.455±0.284。B群:対照;0.101±0.056、PPD刺激; 0.219±0.201、PHA刺激; 1.436±0.250。
いずれもA群とB群の間に統計学的に有意差を認めなかった(Wilcoxonの符号付順位検定)。
b)リンパ球を刺激後MRIの高磁場に曝露した場合 A群:PPD刺激;0.131±0.20、PHA刺激;0.340±0.061。B群:PPD刺激;0.130±0.017、PHA刺激;0.289±0.043。
PPD刺激では差がなかったが、PHA刺激によるリンパ球増殖能は、MRIによる高磁場環境への曝露で、軽度ではあるが、有意に抑制されていた(Wilcoxonの符号付順位検定、p<0.02)。
末梢血中のリンパ球は大部分が休止期にある。この休止期のリンパ球をMRI装置が発生する高磁場環境に置き、その後抗原や分裂誘因物質で刺激しても、サイトカイン産生能や細胞増殖能には影響は認めなかった。従ってMRI装置が発生する高磁場が、健常人の免疫能に影響を及ぼす可能性は極めて低いと考えられる。一方、分裂誘因物質で刺激しG1期に誘導したリンパ球で検討では、高磁場がサイトカイン産生能に対する影響は認めなかったが、細胞増殖能を抑制する可能性が示唆された。しかし、細胞増殖の抑制の程度は軽微であり、また、リコール抗原であるPPDでの刺激では抑制がみられないこと、サイトカイン産生能には差がないこと、一回のMRI撮影時間がほとんどの場合1時間以内であることなどを考慮すると、このことが人体の生殖能や免疫能に及ぼす影響はほとんどないものと推測される。しかし、妊婦や重症感染者に対し安易にMRI撮影を繰り返すことは避けるべきかもしれない。今後、長時間の高磁場曝露が細胞に及ぼす影響についても、検討する必要がある。
結論
MRI撮影装置が発生する高磁場は、休止期リンパ球のサイトカイン産生と細胞増殖能に対して影響を及ぼさない。分裂誘因物質刺激によりG1期に誘導されたリンパ球の細胞増殖能は、高磁場によってわずかに抑制されるが、ヒトの免疫能に及ぼす影響はほとんどないものと推測される。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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